マルコヴァルドさんの四季 (岩波少年文庫)

制作 : セルジオ・トーファノ  関口 英子 
  • 岩波書店
3.80
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本棚登録 : 157
レビュー : 20
  • Amazon.co.jp ・本 (282ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784001141580

作品紹介・あらすじ

都会のまんなかに暮らしながらも、心うばわれるのは、季節のおとずれや生きものの気配。大家族を養うため、家と会社のあいだを行き来するマルコヴァルドさんのとっぴな行動とユーモラスな空想の世界が、現代社会のありようを映しだします。小学5・6年以上。

感想・レビュー・書評

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  • おお、こういう書き方もあるのね!!(←この感嘆符が大事)
    イタロ・カルヴィーノならこちら、というお薦めの声で読んでみたのだが、お好きだと言うブク友さんの気持ちがとても良く分かる。
    温かいかと思えば軽く突き放され、笑わせるようでいて何やら哀しくなってくる。
    遂に教訓を垂れる場面が来たかと思うと、さらりとかわされて煙に巻かれる。
    寓意を探そうとすれば、こじつけになってしまう。
    そして全編に現れる自然描写は圧倒的に美しい。
    それはもう、時にファンタジックだったりモノクロの映画のようだったり。
    繊細で心に染みる描写に、しばしばうっとりとする。
    一体この作者の真骨頂はどこに?と思いを巡らせ、カルヴィーノの世界に迷い込んでしまう。

    これは、大都会の真ん中に住むマルコヴァルドさんとその家族にスポットを当てた短編集。
    春・夏・秋・冬の四季が5回繰り返され、4×5=20編のお話がおさまっている。
    岩波少年文庫から出ているが、主人公はおじさんだ。
    挿絵も多く、ちょっとお洒落なコミック風の作品。
    SBAV社の倉庫で働いているらしいが、何の会社かは明らかにされない。
    タフな奥さんと4人のやんちゃな子が家にいる。
    そして暮らし向きは決して豊かとは言えない。
    そんなマルコヴァルドさんの市民生活の点描とも言えるし、都市の四季を語った話とも言える。

    「作者による解説」がとびきり面白くて、ここであっさりと20編の共通項が明かされている。
    「大都会の真ん中で、マルコヴァルドさんは、
    1 身の回りの出来事や、動物や植物など生き物のかすかな気配に、季節の訪れを感じ取る。
    2 自然のままの姿にもどることを夢見る。
    3 最後には、決まってがっかりさせられる。」
    ということらしい。

    何度失敗しても、子供のような好奇心でチャレンジしていくマルコヴァルドさん。
    子どもの頃に読んだら、そのドタバタぶりを笑っただろう。
    大人になった今は一概に笑えないものがある。マルコヴァルドさんの貧しさは悲哀の域で、怠惰が招いた結果なら笑えるが、そうではないからだ。
    また、都会に住みながら自然を上手く取り入れるというのは、案外難しいものだ。
    とは言え、むき出しの自然の中でマルコヴァルドさんが暮らせるとはとても思えない。
    アンビバレンツな思いを抱えたまま生きているという意味では、ごく普通のひとだとも言える。

    ところでもう一度言うが、この作品の自然描写は特筆もの。
    最終章のラスト20行の叙情では、あっという間に別世界へといざなわれる。
    こんな終わり方をするお話は読んだことが無い。
    カルヴィーノさん、もしやここが真骨頂?
    ということで、楽しい読書時間を過ごせたので、他の紹介作品も追い追いに。

    • nejidonさん
      アテナイエさん、こんばんは(^^♪
      コメントありがとうございます!
      おかげでとても楽しい読書でした。
      追記したのですが、エンディングは...
      アテナイエさん、こんばんは(^^♪
      コメントありがとうございます!
      おかげでとても楽しい読書でした。
      追記したのですが、エンディングはまことに斬新で美しく、ここまで読んできて良かったと思いました。
      カルヴィーノさんというのは、巧い書き手さんですね。
      私は特に「牛とすごした夏休み」のオープニング部分22行の描写が好きです。

      子供向けにしては、そうですね、確かにクール過ぎて解釈に戸惑うかもしれません。
      私は「クール」という単語さえ知らない小学生でしたから(笑)問題外ですが、いまどきのお子たちは「なんじゃこりゃ」って笑うかもです。
      これは、昔子どもだった大人向けの少年文庫なのでしょうね。

      ははは(^^♪確かに「変身」は怖かったですね。
      明日目覚めたらどうなっているんだろう?って恐怖でいっぱいになりました。
      不思議なことに、そんな恐怖心さえも懐かしくなってくる今日この頃です。
      ありがとうございました。
      2018/11/06
    • アテナイエさん
      こちらこそ素敵なレビューに心温まりました。いま書架からこの本を引っ張り出してきて久しぶりに眺めているところでした。

      「最終章のラスト2...
      こちらこそ素敵なレビューに心温まりました。いま書架からこの本を引っ張り出してきて久しぶりに眺めているところでした。

      「最終章のラスト20行の叙情」や「牛とすごした夏休み」のオープニング部分22行あたりの描写がお好きということで、なるほど、nejidonさんは瑞々しい自然(と異世界の戸口)や幻想的な都会の描写がお好みなのですね。思えばカルヴィーノはリアリズムを描写しているのかと思いきや、ふと気づくといつの間にやら(物語の)異世界に誘われていて、それがなんとも心地いいのですよね。本作も舞台は確かに都会なのですが、どこかファンタジーで幻想的な都会が広がっています。マルコヴァルドさんもわんぱくな子どもたちも現代的で活き活きとリアルで、この二つが何の違和感もなく同居しているのが魔法のような不思議さと魅力なのですよね。
      私は「お弁当箱」「雨と葉っぱ」「サンタクロースの子どもたち」がとくにお気に入りです(^^♪
      2018/11/06
    • nejidonさん
      アテナイエさん、こんばんは(^^♪
      再訪してくださり、ありがとうございます!
      そうなのです、カルヴィーノの筆致は異世界と現実とのボーダー...
      アテナイエさん、こんばんは(^^♪
      再訪してくださり、ありがとうございます!
      そうなのです、カルヴィーノの筆致は異世界と現実とのボーダーがかなり曖昧で、
      目まいがしてくるような快感があります。
      自然描写は、まるで読み手もそこにいるかのような臨場感で迫るのに、
      ひとの描写となると途端にクールですよね。
      マルコヴァルドさんのことも、最期まで外側からの語り方で決して対象に迫りませんでしたし。
      機会をとらえて、ぜひ他の作品も読んでみたいものです。

      ああ、「お弁当箱」もいいですね。
      「雨と葉っぱ」も「サンタクロースの子どもたち」も好きです。
      なかなかこれぞというひとつを選択するのも難しいものです。
      「まちがった停留所」も私は好きです。ラストで愕然としますが・笑

      実は最近ブクログをやめようかと思い始めてまして。
      タイムラインが、私にはとても負担なのです。
      他の媒介に登録もしたのですが、ちょうどアテナイエさんの温かいコメントが入ったことで、もう少し続けてみようという気持ちになりました。
      もう一度、ありがとうございます!
      2018/11/07
  • 「まっぷたつの子爵」で紹介したイタロ・カルヴィーノを引き続きレビューしてみようと思い、彼が精魂込めた「イタリア民話集」にしようかと迷いつつ、まずはなんとも愛らしい高貴な野蛮人! マルコヴァルドさんということになりました。

    50年ほど前に書かれたとは思えない色鮮やかな作品で、タイトルどおりマルコヴァルドさんの四季×5年=20話の短編集。じつは「小学校5~6年生以上」の読み物になっていて、「岩波少年文庫」から出ているのですが、いやいやどうして、どの話も奥深くてちょっぴりほろ苦いオチがついて、人生経験を積んだ「大人」が読んでも(読んでこそ)感動できる作品になっています。

    高度産業社会の都会に暮らす中年男とちょっぴり口うるさい妻とわんぱくな4人の子どもたち。低賃金に重労働で社会の歯車のようなマルコヴァルドさんの悲哀と郷愁が漂っています。でも決して暗い作品ではありません。ユーモアがそこかしこに溢れていて、素朴で決して飾りすぎないカルヴィーノの詩情がなんとも素晴らしい。

    自然を愛するマルコヴァルドさんは、自然人として、はたまた高貴な野蛮人として日々を過ごしています。まるで都会の中のロビンソン・クルーソー♪ 高級レストランの生けすにそろ~っと糸を垂らして釣り上げた魚をライバルの野良猫と取り合ってみたり、アパートの屋上にしかけたとりもちにかかったハトをゲットしたのも束の間、公共のハトを捕獲しているという通報で警察が押しかけてきたり(^^♪

    「マルコヴァルドさんは、あまり都会の暮らしにふさわしくない目をしていました。道路の標識や信号、ショーウィンドーやネオンサイン、ポスターなどは、どんなに人の注意をひくように工夫されたものであっても、決してマルコヴァルドさんの目にとまることはありません。砂漠の砂の上をすべるかのように、とおりすぎてしまうのです。ところが、木の枝で黄色くなった葉っぱや、屋根瓦に引っ掛かっている鳥の羽根といったものは見逃しません……そこからいろんな考えが広がっていき、季節の移りかわりや……自分がどんなにちっぽけな存在かといったことに思いをはせるのでした」

    たしかに住宅街にも自然はいっぱいですね。人さまの家のブロック塀から顔を出した白とピンクのマーブル模様の椿。じっと見つめていると、とても美味しそうです。職人が作りあげた美しいチョコレート菓子のようで。やれやれ自然は芸術を模倣するかな…笑? 雪景色になった小さな公園に、一羽の少年カラス。エサを探している様子もなく、ただひたすらよちよちと歩きまわっています。彼(彼女かも)は一体何をしているのか? 久しぶりに積もった雪の感触を踏みしめながら遊んでいる? いやいや何か大事な哲学をしているのかも? さては彼女にフラれたか? 晴天のとある場所の中空にふと目をやると、ひょろ長い足をした大きなクモが風に揺られて凧のように浮かんでいます。つい先日までなかったのに……そこにはひときわ立派なクモの家が突貫工事の末に完成しています。う~ん、キリがありません(-_-;)

    さて話を戻すと、この本の魅力は、マルコヴァルドさんの物語もさることながら、なんといっても「作者による解説」です。大人向けの小説ではなかなかお目にかかれないもので、これを読んでみると、自然や生き物や人間の生を慈しむカルヴィーノの想いや、子どもたちに向けた優しい眼差しを感じることができます。

    「……この本に一貫しているのは、けっしてあきらめず、どこまでもねばる姿勢なのです。ここまでみてくれば、わたしたちをとりまく世界と向き合うときのこの本の立ち位置が見えてくるでしょう。……世の中のできごとや状況にたいしては、ものすごく批判的なまなざしを向けながら、人情にあふれた人々や、あらゆる生命のきざしに対しては好意に満ちたまなざしをむける……そんな身の回りの世界をながめるときのマルコヴァルドさんのまなざしこそ、この本の教訓があるといえるのかもしれません」

    鬼才カルヴィーノという大きな彼の中には、いつまでも消えることなく息づいている繊細で遊び好きな小さいカルヴィーノ少年が宿っています。子ども心溢れる寓話のような物語を創造しながら、なんとも移り気で気難しい迷宮のような現実世界を大人の目で厳しく見つめます。そこに生きる私たちに物語をとおして様々な想いや思索を投げかけながら、カルヴィーノは決して結論めいたことは言いません。それぞれの読者がそれぞれ気づき感じるままに……そしてふと気づけば、いつのまにか作者の姿は物語の森の中に消えてしまいます。そんな彼の「物語」に託す想いと選び抜かれた美しい言葉の数々。いつもながら見事なものだな~♪

    「もしかすると、ごくシンプルな物語の構造を利用して、作者が世の中と自分自身の、とほうにくれるほど不可解なかかわりを描こうとしたのかもしれません。おそらくそうとも言えるでしょう」

  • 子だくさんで、半地階に住み、会社と家との往復で生活に疲れきっているようなマルコヴァルドさん。そんなくたびれた中年男にも自然の四季折々はいくばくかの潤いをもたらしてくれる。真面目な気持ちで読んでいると、ずっこけてしまう。それはないだろうというオチが待っている。しかし・・・これって子どもの読む本かなぁ、首を傾げたくなる。大人の私にはそこそこ楽しめるけれど。

    • 猫丸(nyancomaru)さん
      「これって子どもの読む本かなぁ」ですよね。初めて読んだ時、何とも言えない気持ちになりました、大人だからシミジミ思うって感じですねぇ~
      「これって子どもの読む本かなぁ」ですよね。初めて読んだ時、何とも言えない気持ちになりました、大人だからシミジミ思うって感じですねぇ~
      2012/03/01
  • 思っていたのと違って、すごく考えさせられる内容だった。
    小さい頃読んでいたら、純粋に楽しい話で、裏の世界は見えなかったと思うけど、色々考えてしまうあたり、自分が大人になってしまったんだなーと思って、少し寂しくもあり・・・
    でも、いい作家を知れてよかった!

  • ファンタジー以外の児童書は滅多に読まないのだけれど、
    児童文学作家の先生が描写がすごい本として挙げていて、読んでみた。
    裏表紙の解説を読んで、抒情的なもっとウェットな内容を想像していたけれどとんでもない。
    都会の中の自然や、季節のうつろいや音・色・香りなどに対する描写は確かに素晴らしい。
    でもそれ以上に現代社会への皮肉が壮絶にこめられていて、読んでいて始終にやにやしてしまう。
    子供と大人で楽しみ方が全く変わる作品だと思う。
    マルコヴァルドさんやその一家が結構悪いことをするので
    (それらもコミカルにユーモアたっぷりに描かれていて大変面白いが)
    なかなか日本では出せない作品だなあと感じる。
    他の方も書かれていたけど、これを少年文庫にいれる岩波はすごいと思った。その内容の普遍性と言い、描写の美しさと言い、実はかなり文学性の高い作品だと思う。
    表紙・挿絵もとても合っていて素敵な本。

  • 馴染んでいたせいか、前に出されたときの訳者によるものの再版でなくて、少しがっかりしましたが、マルコヴァルドさんを通して見る少し不思議な世界……おすすめです。

    • 猫丸(nyancomaru)さん
      私が読んだのは安藤美紀夫訳でした。何となく不思議だななぁと思いながら読んだ記憶があります。
      久々に新訳で読んでみようかな・・・
      私が読んだのは安藤美紀夫訳でした。何となく不思議だななぁと思いながら読んだ記憶があります。
      久々に新訳で読んでみようかな・・・
      2012/05/15
  • カルヴィーノを読みなおそうと、一番楽なのから。楽しい。だんだん面白くなる。

  • 不在の騎士は私にはまだ少し難しかったのだけど、マルコヴァルドさんを読んで、イタロ・カルヴィーノがぐっと好きになった。

  • 都会のまんなかに暮らしながらも、心うばわれるのは、季節のおとずれや生きものの気配。大家族を養うため、家と会社のあいだを行き来するマルコヴァルドさんのとっぴな行動とユーモラスな空想の世界が、現代社会のありようを映しだします。

  • ごくありきたりな食べ物にも危険や偽装や悪意が潜んでいる・・・という一文を見てもわかるように、何十年前に書かれた作品なのに、現代に通じる話が多くあって考えさせられる。
    とぼけたかんじのイラストがかわいい。

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著者プロフィール

1923年キューバ生まれ。両親とともにイタリアに戻り、トリノ大学農学部に入学。43年、反ファシズム運動に参加、パルチザンとなる。47年、その体験を元に長篇『くもの巣の小道』を発表、ネオ・リアリズモ文学の傑作と称される。その前後から雑誌・機関誌に短篇を執筆し、49年短篇集『最後に鴉がやってくる』を刊行。エイナウディ社で編集に携わりつつ作品を発表、一作ごとに主題と方法を変えながら現代イタリア文学の最前線に立ち続ける。主な長篇に『まっぷたつの子爵』(52年)『木のぼり男爵』(57年)『不在の騎士』(59年)『見えない都市』(72年)『冬の夜ひとりの旅人が』(79年)などがある。85年没。

「2018年 『最後に鴉がやってくる』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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