聊斎志異 (岩波少年文庫 507)

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  • Amazon.co.jp ・本 (282ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784001145076

感想・レビュー・書評

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  • 黒澤明の「夢」を彷彿とさせると感じた。
    狐や美しい女性の精霊が現実世界に自然な感じで現れる話や、紙一重で一方は生者となりもう一方は亡者となってその出会いの喜びと別れの悲しみを運命的に映し出す話など、黒澤はこの本を読んで「夢」を着想したのか?とも思わずにはいられないくらい、近いものを感じる。

    この本では、英知を授けられた人間といえども避けられず逆らえない運命や厄災や死やいわゆる超自然的現象などが、霊界や冥界や精霊界などの異界と現実世界との交わりとなって物語化され、さまざまな意匠をこらした悲喜劇へと転化されている。
    ただ「夢」と異なり、ハッピーエンドと感じられる作品が多いのは、当時の中国(清(しん))における、現実世界の紛争や飢餓や自然災害などが、私たちの想像以上に苛烈だったことの裏返しか、とも思える。

    私が気に入った話は、次のもの。
    ①「小さな猟犬」=
    世間の喧騒を避けてしばらくお寺を借りて住んでいた科挙の受験生が、のみや南京虫に毎夜悩まされていた。ある夜寝台に横になっていると、身の丈二寸ほどの武士がバッタほどの大きさの馬にまたがりアリほどの大きさの猟犬を連れて続々と現れ、猟犬が瞬く間に南京虫を食い尽くしていった。
    →「小人の靴屋」のように、自分が寝ている間に悩みがすべて解決されたら…という、万国共通の願望。

    ②首のすげかえ=
    あるきっかけで冥界の判官と酒飲み友達のようになった朱さんは、酔っぱらって寝ている間に判官に脇腹をちくっとやられる。朱は殺されると思ったが、判官によると、おなかを裂いて腸を取り出し、きれいな腸と取り替えて元に戻そうとしていたという。
    人間の内臓を自在に良いものに取り替えられると聞いて感心した朱は「実は、」と話を切り出し、自分の女房の「顔が感心できない」ので、判官の力を借りて取り替えたいと持ち掛ける。
    →結局、女房の顔は判官の力で取り替えられて「画にかいたような美人になっていた」となるんだけど、オイオイ、多くの妻帯者がもつ素の願望をそこまで露骨に書かなくても…

    集められた話の1つひとつは多くても20ページくらい。短いのだと1ページちょっとで、ちょっと時間のあいたときに力を抜いて読めるので、私は夜寝る前のちょっとした時間に1話ずつ読んでいき、31話あるので1か月くらいで読み終えられた。

  • 詳細は、『あとりえ「パ・そ・ぼ」の本棚とノート』をご覧ください。
    http://pasobo2010.blog.fc2.com/blog-entry-1844.html

    内容は、様々。
    たった数ページ、ニュースを読むような話もあれば、短編小説もあります。
    話は奇想天外で面白いけど、さすがは中国。 感覚的にはなじまない神仙の世界。
    主人公や他の登場人物が、きっちりどこの誰と明記されているものが多く、不思議な物語にリアルさを添えます。
    また、著者と境遇が似ている受験生(科挙、予備試験)が多いのも興味深い。

  • 仙人、道士、亡者、狐や烏、虫たちもいる不思議な世界。

    読んでいると雰囲気は国語の授業で習った漢文。でも教訓めいたものではなく、時には理不尽でもある。昔々で始まる昔話、おとぎ話。出てくるアイテムは中国らしいけれど、日本や他の外国でもありそうな、恩返しや危機一髪の物語。

  • どこかで聞いたことのある中国の不思議な話

    全494話のうち31話の抄訳本。
    太宰治の小説や芥川龍之介の小説の元ネタも載っている。

  • 「雲が湧く石(石清虚)」の、みんな石に夢中なのがやけに面白かった。主人公の邢(けい)が、高官やら泥棒やらに奪われて必死で取り戻しても、最後まで特に実益はなにもない(しかし満足している)というのがなんか好き。
    「酒の精(酒虫)」は、いくら酒を飲んでも酔わない劉が、僧に「どこか具合の悪いところがありますな」、いくら酒を飲んでも酔わないのは酒虫のせいです、と言われ、酒でおびき寄せて体内から追い出してもらった、ところまでは良かったものの、「以来、劉は酒を仇のように憎むようになったが、そのうち次第にやせ細り、家も日ごとに貧しくなって、三度の飯にも事欠くようなありさまになってしまった。」という結末にはびっくりした。まさかのバッドエンド。
    礼金を受け取らず、ただその虫をもらいたいと言った僧。「これは酒の精で、これを水をいれた甕に入れてかき回せば、うまい酒になるのです」…もしやこれは僧に騙された話だったのだろうか。
    聊斎志異というと、「かわいい幽鬼たち(小謝)」のような話ばかり、というイメージだったけれど、「大地震(地震)」のような普通のお話もあったりして面白かった。いつか全訳本も読んでみたい。

  • この岩波少年文庫版には全部で31編の短編(これが本当に短いの!)が収められています。  全編は12巻、494編もあるらしいのですが、我が日本国で比較的入手しやすい岩波文庫の本作であってさえも92編しか収められていないようです。  アジアン・テイストのショートショートといった雰囲気でなかなか楽しめる物語集だと思いました。

    でも生まれて初めてこの本のことを知った時は、タイトルが読めなくてねぇ・・・・・。  今でこそ何のためらいも迷いもなく「りょうさいしい」と読めるようになったけれど、中学生ぐらいまでは「ああ、あの柳みたいな字で始まる中国の物語集ね」な~んていう風に記憶していたことが思い出されます。

    登場するのは必ずしも人間ばかりとは限らず、幽霊だの妖精だの動物たちが人間とほとんど変わることない「この世に生きとし生けるもの」として登場し、登場する人物と一緒に酒を酌み交わして仲良くなっちゃったりします。  そんなホノボノ感と、死体の首をすげかえるだの遺体を盗むだのというホラーチックな話がゴタマゼになっていて(でも不思議とおどろおどろしさはない 笑)、まあハチャメチャと言えばハチャメチャな話が多いんだけど、例えば風邪をひいて高熱にうなされながら読むには最適なんじゃないかという「夢うつつ読書」向きの本だと感じました。  何せ、KiKi はこれを読みながら夏目漱石の「夢十夜」を思い出したぐらいですから・・・・・(笑)



    作者の蒲松齢は科挙の予備試験である県試・府試・院試と呼ばれる3段階の試験を全て首席で突破したにも関わらず、何故か本試験には落ち続けるという経歴の人物だったのだそうですが、そんな経験を反映してか物語に登場するほとんどの人物は科挙の受験生とか作者本人を彷彿とさせる科挙の落第生だったりするあたりがちょっと笑えるのと同時に皮肉みたいなものも感じます。

    何の本だったか忘れちゃったけれど科挙を受験するための学問に没頭するあまり精神的に病んじゃった人の話とか、科挙の試験の最中におかしくなっちゃった人の話なんかも読んだことがあるので、何となくその世界に近いような印象もあれば、科挙ってあまり実際的な試験ではなかったため科挙合格者は必ずしも「実務能力」には長けていなかったという話も思い出され、まあこういう空想世界の物語をかき集めるあたり、さもありなん・・・・・という印象もあります。

    こういう民間伝承をベースにした古い物語を読むと常に感じるのは、古い時代の夜の暗さです。  暗くて視界が効かない中で聞こえてくる物音、風に揺れるろうそくの火が描き出す揺れ動く影というような舞台背景があってこそ立ちのぼってくる魑魅魍魎の世界。  その中にポツネンと1人置かれたか弱い存在である自分を意識すると、その孤立感・隔絶感が次第に社会における自分の存在感の希薄さとないまぜになっていく感覚。  そういうものが感じられるような気がするんですよね~。  で、そうこうしているうちに幽鬼とであってさえもお友達になれちゃうという摩訶不思議な連帯感とも呼べるような感覚まで生まれてきたりもする・・・・。  もちろん幽鬼とお友達になるためには酒の力も借りなければならなければ、一旦死域に入ったりすることも必要だったりするわけですが・・・・・(苦笑)



    さて、最後に・・・・  この本の宮崎駿さんの推薦文は以下のとおりです。



    たくさんのお話がのっていて、どれもふしぎでおもしろいのですが、中でも「酒の精」という、ごく短いお話だけでも、この本を読む値打ちがあります。  このお話は、ぼくのものの考え方にとても大きな影響を残しました。  ぼくはいまだに煙草をすいます。  もう50年近くすっていますが、やめようと思ったことはありません。  「酒の精」のお話の、酒のかわりに煙草と入れ替えてみてください。  ぼくの気持ちが判ってくれましたか(笑)。


    は?  この本を推薦したのは喫煙癖の言い訳のためですか??  しかもこの「酒の精」を何回読み返しても宮崎さんの気持ちはよくわかんないんですけど・・・・・・ ^^;  

  • 中国の怪異・伝承を集めた短編集。幽鬼や妖婆、仙人・仙女などが登場し、摩訶不思議で妖怪好きにはたまらない一冊。

  • 「かわいい幽鬼たち」が好き

  • 中国・清代に書かれた幻想短編集。特段教訓もない話も多く、ただただ奇妙に美しい不思議な31篇。起承転結のある物語に慣れていると拍子抜けしてしまう感覚はあるけれど、そういった部分も含めて「異なるもの」の味わいがある気がする。受験の古典文など、独特の取り留めのなさに慣れるという意味でもオススメ。

  • 中国の不思議で奇妙で怖いお話を詰め込んだ一冊。さらっと書かれてるんだけれど、よく考えたら怖くて結構残酷なお話である事に気づく。2018.02.25.読了。

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