科学と科学者のはなし: 寺田寅彦エッセイ集 (岩波少年文庫 510)

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  • 岩波書店
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  • Amazon.co.jp ・本 (280ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784001145106

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  • 池内了氏編集による寺田寅彦のエッセイ集。
    岩波少年文庫なので対象の読者は青少年だろうと思うが、もともとは一般読者向けに書かれたエッセイを編集したものであるので、誰が読んでも面白い。

    著名な物理学者である編者・池内了氏もまた、寅彦のエッセイを読んで育ち、間違いなく影響を受けて日本を代表する物理学者となった。その影響を与えた側の寅彦もまた、第五高等学校時代に数学と物理学を教える田丸卓郎先生との出会いで、進路を物理学に変更したようである。

    そしてまた第五高等学校といえば、かの夏目漱石(金之助)先生との出会いもあり、文学(特に俳句)について語り合う仲となったとのこと。漱石の「吾輩は猫である」に登場する水島寒月は、寺田寅彦がモデルだということなので、それを意識しながら「猫」を読んでみるのもよいかもしれない。

    本書のまえがき部で池内氏が書いているように、寅彦のエッセイの特徴は「見る、聞く、匂う、触る、のような人間の五感を大事にしている。日常生活での体験を材料に、科学の方法でそれらを考えてようという態度が一貫している」のである。従って、本書も全くその通りの内容だ。

    本書は5つのパートに分かれているがその区分の理由は理解できなかった。ただ、その扉に寅彦の描いた絵が載せてあり、これが心和ませてくれる。本書の表紙の絵も同様、自然との接点を感じさせてくれる絵だ。

    本書トップのエッセイは、「瀬戸内海の潮と潮流」ということで、瀬戸内海の干潮・満潮時間が非常に複雑であるという話だった。これを読んで、最近の地震の頻発や南海トラフ地震の発生確率などから、この地方の防災は大丈夫なのだろうかという不安がよぎった。

    というのも寺田寅彦氏は地震研究でも権威であり、本書にも収められている「津浪と人間」にも、地震学者としての鋭い視点を記している。

    「昭和八年三月三日の早朝に、東北日本の太平洋岸に津波が襲来して、沿岸の小都市村落を片はしからなぎ倒し洗い流し、そうして多数の人命と多額の財物を奪い去った。明治二十九年六月十五日の同地方に起こったいわゆる「三陸大津浪」とはほぼ同様の自然現象が、約満三十七年後の今日再び繰り返されたのである。」(=昭和八年五月執筆)

    この随筆に記されている「人間の忘却の愚」が、また先般の東日本大震災で繰り返されてしまった。このような寅彦の冷静な指摘と警鐘の文言が残されていたにも関わらず。

    寅彦氏なら、瀬戸内海の潮の干満との関係から南海トラフ地震をどのようにとらえるのだろうか?

    このように生活に密着する大きな視点の事柄から、簡単には見過ごしてしまうような身の回りの小さな現象にまで、寅彦氏の視点は鋭い。

    お茶の湯気から、モンスーンの偏西風に発想が展開する。昆虫や植物など、自然観察から様々なことを考える好奇心も、もともと科学者の資質を備えていたようにも思える。

    みのむし。自身も子どものころはよく見かけたが、最近では見かけなくなった。この随筆執筆の昭和一桁のころは、庭先には必ずみのむしがぶら下がっていたのだろう。

    みのむしの漢字表記に「木螺(ぼくら)」というのがあって、木の田螺(タニシ)」と発想を飛ばす。そして漱石に鍛えられた俳句に「蓑虫鳴く」という季語があることを思い出し、さらにはその語源を「歳時記」で調べ清少納言にまで行きつく。

    あるいは蓑虫をたくさん取って袋を割いてみたり、袋を観察して穴があることを発見し、天敵の蜘蛛が穴をあけて蓑虫の体液を吸い取るとことを観察してみたり、その蜘蛛もまた点滴の蜂の幼虫に食われたりと食物連鎖や自然の摂理の成り立ちへとぐるぐる発想が飛んでいくのである。

    「自然は無尽蔵というが、これは物がたくさんあるというだけの意味ではない。一本の草、一塊の石でも細かに観察し研究すれば、数限りない知識の泉になる」という。自然に学ぼうという意識が無尽蔵のように思える。

    また、自然に対して謙虚でもある。寅彦曰く。
    「人間の頭の力の限界を自覚して大自然の前におろかなる赤裸の自分を投げ出し、そうしてただ大自然の直接の教えにのみ傾聴する覚悟があって初めて科学者にはなれるのである。」

  • 夏目漱石を師と仰いだ寺田寅彦のエッセイ集。
    図書館で借りた。
    少年少女向けの本なので字が大きく読みやすかった。
    本業は物理学者であったから、科学に関するエッセイが主。満員電車に関する考察や蓑虫に関する考察など、身近なものごとを科学的に考えたエッセイで面白かったが、やはり夏目漱石にまつわるエッセイが一番興味を引かれた。

  • 大好きな本です。岩波少年文庫の一冊ですが、私の愛読書のひとつです。科学が身近なもので、科学的なものの見方を易しく語るように紡ぐ、寺田寅彦氏の文章は俊逸です。
    目の前の湯呑茶碗から上がる湯気の話が、気候や自然現象へと導く『茶碗の湯』。「天災は忘れたころにやってくる」は寺田氏の言葉だといわれているらしいが、その由来とも思われる『津波と人間』は、災害国家・日本に忘れてはならない警鐘の一文です。
    特に大好きなのは、『夏目漱石先生の追憶』です。漱石がまだ教師だったころの生徒として出会った寺田氏が、漱石との思い出を綴ります。
    夏目漱石という人の人柄が偲ばれる作品ですが、なにより文人・夏目漱石と科学者・寺田寅彦の教師と生徒の関係が生涯に及び、そこにあるほのぼのとした関係に、毎度、目尻に涙が浮かびちょっと優しい気持ちにさせてくれます。
    そして、この本を読むたびにこんな随筆が書けたら・・と思うのです。

  • 電車の話、面白かった

  • 1世紀前に書かれた科学者のエッセイとしては親しみやすくも、現代に置いても老若男女に響く種々の命題を見つめている。
    満員電車の話などウィットに富んだ考察は面白く、津波への警鐘は、人々の意識が危機に対して依然として識者からは弛緩したものに写っているのか。

  • 「科学者とあたま」は、覚えておこう。

    それにしても、『先生と僕』のおもしろい寺田寅彦イメージがあるので、読んでる最中あのキャラクターが出てきて困った...

    3.5

  • ◎信州大学附属図書館OPACのリンクはこちら:
    https://www-lib.shinshu-u.ac.jp/opc/recordID/catalog.bib/BA47367909

  • 正直苦手なタイプの本。
    あまり専門的なところはふんふんと読んでスルーしたけど、夏目漱石先生とのエピソードはとても楽しく読めた。
    夏目先生のことがホントに好きなんだなあって感じられる。
    明治時代のザ・エリートの人たちの日常ってどんなんでしょうねえ。
    でも寺田さんの好奇心てホントに日常生活にあるから今も読まれているんだよね。この本が100年ぐらい前のことを書いているとは思えない。
    三陸地方の地震の話は胸がいたい。これからも地震は起こるんだろうね・・・日本のどこでも。

  • 「身近なできごとに”科学”をみつける

    電車の混雑には法則があるか? 虫たちはいったい何を考えているのか? 身近な自然や世の中の出来事を,細やかに観察しながら書きつづった明治の物理学者による科学エッセイ.」

    もくじ


    瀬戸内海の潮と潮流
    茶碗の湯
    夏の小半日

    蓑  虫
    新  星
    電車の混雑について


    塵埃と光
    言語と道具
    解かれた象
    花  火
    線香花火
    金 米 糖
    雅  楽
    化け物の進化


    風呂の寒暖計
    こわいものの征服
    夏目漱石先生の追憶
    思い出草
    金 曜 日
    藤 の 実
    身長と寿命


    津浪と人間
    涼味数題
    科学者とあたま
    音の世界
    匂いの追憶
    草をのぞく
    人魂の一つの場合
    昼  顔
    のうぜんかずら


    蓑虫と蜘蛛
    蜂が団子をこしらえる話
    鳶と油揚
    冬夜の田園詩
    蛆の効用
    と ん ぼ
    ほととぎすの鳴き声

    解  説……池内 了

  • 【貸出状況・配架場所はこちらから確認できます】
    https://lib-opac.bunri-u.ac.jp/opac/volume/722659

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著者プロフィール

1878–1935
東京に生まれ、高知県にて育つ。
東京帝国大学物理学科卒業。同大学教授を務め、理化学研究所の研究員としても活躍する。
「どんぐり」に登場する夏子と1897年に結婚。
物理学の研究者でありながら、随筆や俳句に秀でた文学者でもあり、「枯れ菊の影」「ラジオ雑感」など多くの名筆を残している。

「2021年 『どんぐり』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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