波紋 (岩波少年文庫 512)

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  • Amazon.co.jp ・本 (299ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784001145120

感想・レビュー・書評

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  • 可愛らしく、美しく細やかでみずみずしい表現と世界観、そして耽美な雰囲気。岩波少年文庫の作品なので気楽に読もうと思ったら、いつのまにかどこか美しくも懐かしい文学の世界に、誘い込まれたような感覚になりました。

    戦争のため町から離れ、静かな僧院へ移ってきた少女。様々な出会いと別れを繰り返し、成長していく少女の姿が描かれます。。

    美しい花に魅入られたかと思いきや、突然すべてを壊したくなり、堅苦しい生活から自由になりたいともがきつつ、この世界に留まらなければいけないとどこかで悟っていて、自分の自由を侵す親や寮生活に徹底的に反抗し、この世界に居場所はないと、どこか遠いここでない世界をロマンチックに夢見る。

    赤裸々でどこか痛々しくもあり、一方で可愛らしさやあけどなさを感じるみずみずしい心理描写。子どものころ、そして思春期ならではの不安定な感情であったり、周りへの反抗心であったり、美しいものに魅せられ感動する感情であったり、そうした心理の細やかさや文章の繊細が強く印象に残ります。

    少女が心惹かれる周りの人たちの描写も抜群に良かった。誰に対しても寛大な心を見せる少女の叔母。近所の農園の快活な年上のお姉さん。僧院から離れ孤独を深めていた少女の前に突然現れ、心の救いとなった少女の祖父。

    年を重ねるとなかなか理性や立場、損得勘定抜きに、尊敬できる人に出会えることが少なくなってくるような気がします。だからこそ、心の底から大人を好きになれる素直さがとにかくまぶしく、そしてどこか懐かしさをもって、感じられました。

    成長し学生となり寮生活を送ることになったものの、周りになじめない少女。そんな彼女の唯一の親友となるコルネリアと、心から慕うことのできる女性教師のエリナ。この出会いが描かれる章も印象的。

    友情や尊敬の枠を超えて、二人への想いを募らせる少女の心理描写は甘美で、そしてどこか危うい美しさを感じました。別にやましいことをやっているわけでもないはずなのに、読んでいるこちらが、彼女たちの世界をのぞき込んでしまう申し訳なさをどこか感じてしまうような……。そして彼女たちの美しく無垢なのに、濃密で甘やかな世界に、いつの間にか囚われるような感覚に陥ります。

    情景描写も美しい。泉に石を投げその波紋が広がっていく描写と、それを見つめる少女の心理なんかは、一級品の文学の美しさが漂っていたと思います。他にも僧院や礼拝堂の描写であったり、花の美しさであったり、心理描写以外も卓越している。

    そして訪れる少女時代の終わりの予感。彼女の最後に発した問いは切なさを伴いながらも、美しくも静かな余韻をもって閉じられていく。

    『波紋』というタイトルにあるとおり、小説の文学的な美しい描写と語り口は、静かにゆっくりと心の中に波紋を広げていき、そして物語を読み終えたときに静かに穏やかに、消えていってしまうよう。その儚さがもう戻れない、子供のころの輝きや心情を懐かしく蘇らせる。

    文学的な静かな語り口で、派手な展開もあるわけではないので、読み手は選びそうな気もするけど、これが岩波少年文庫に収録されているというのも、なんだかすごいなと感じました。

    変な妄想をさせてもらうならば、例えばアイドルや若手女優で「中学生のころ『波紋』を読んで、それがずっと印象に残っています」なんて話をする子がいたら、自分はその子のことを一生推せる自信がある。間違いなく、その子は鋭くて細やかな感性の持ち主だと思えるし、何か彼女の心に刺さったのか、気になってしょうがなくなると思う。
    まあ、妄想だけど。

    少女小説の隠れた(?)名作でした。これはもっと語られてもいい作品に違いありません。

  • これを少年文庫に入れるってのがすごいよね。あとがきにあったけどドイツでは出版されるや否や売れに売れたそうだ。時代的なことをかんがえてもドイツ人ってこんなにザ文学なものを受け入れる素地があるのだろうか。

  • ツイッターの岩波少年文庫タグで大人気だったので、気になって読んでみた。

    こんな表現で申し訳ないけど、中二病少女の必読書、だと思った。

    ちょっと自意識過剰な少女の多感すぎる文章。

    ヴィッキーの安定感に救われる。
    あぶなっかしい話が多いので。

    それにしても、この世界の美しさ、儚さ、孤独はすべて、すばらしい上田さんの日本語によって、ホログラムのように浮き上がって目の前に立ち現れる。

    思春期に読むと、心が持っていかれそう。

    激しい。まぎれもない名作。

  • 岩波少年文庫だけあって、読みやすい
    思春期の少女の青春の記録・・・
    一度よんだら終わりにできない何かがある

  • ドイツの僧院を主な舞台とした、一人の少女の物語。
    風景が浮かんできやすく、個人的には読みやすかったけど、全体の印象としてあまり明るい作品とはいえない。というか暗い。
    憧れ、反発、友情、幻滅など、思春期の少女をこれだけ緻密に描けるのはすごいと思う。そういう意味では衝撃的な作品。
    これを読んで、フランスの児童文学を思い出したんだけど、タイトルが出てこなくてとっても気持ち悪い・・・ネコのサイモンと家出をする女の子の話(サイモンは最後に死んじゃう)で、タイトルにチョコレートとか入ってた気がするんだけど・・・うー、気になる。ちなみに内容はぜんぜん似てません。どっちも思春期の女の子が主人公(どっちも思いつめるタイプ)というところは一緒だけど。

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著者プロフィール

Luise Rinser (ルイーゼ・リンザー)
1911年にドイツ・バイエルン州で生まれ、2002年に没。カトリック信仰をバックボーンにした作家であるが、『ダライ・ラマ平和を語る』(人文書院)にも表われているように、仏教、グノーシス、神秘主義など他の宗教にも積極的に取り組んだ。環境保護運動にも参画し、一九八四年の大統領選挙では、「緑の党」から大統領候補に担ぎ出された。児童書『なしの木の精スカーレル』(福武書店)には環境派としての面目がうかがえる。彼女の作品は世界二十数ヶ国で翻訳・出版され、ドイツ国内だけでなく、海外でも多くの文学賞を受賞している。
その他の邦訳書:『人生の半ば』(三修社)、『美徳の遍歴』(朝日出版社)、『噴水のひみつ』(佑学社)、『傷ついた龍』(未来社)、『波紋』(岩波書店)など。

「2023年 『ルイーゼ・リンザーの宗教問答』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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