時の旅人 (岩波少年文庫)

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レビュー : 61
  • Amazon.co.jp ・本 (452ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784001145311

作品紹介・あらすじ

病気療養のため、母方の古い農場にやってきたペネロピーは、ふとしたことから16世紀の荘園に迷い込む。王位継承権をめぐる歴史上の大事件にまきこまれた少女の、時をこえた冒険。中学以上。

感想・レビュー・書評

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  • イギリス児童文学の豊かさを存分に味わえる名作。
    多分1940年位のロンドンで暮らすペネロピーは、転地療養で、姉兄と共に、ダービーシャーにある母の実家のサッカーズ屋敷で大叔母、大おじとしばらく暮らすことになる。ペネロピーは、母方の祖母の血を強く受け継ぎ、過去の人物を見ることがあったが、サッカーズ屋敷に暮らすうち、屋敷の持つ歴史の記憶に感応して、1528年、領主アンソニー・バビントンがメアリー・スチュアートを救出する策を練っていた時代を行き来するようになる。
    ポイントは、メアリー・スチュアートがどうなるかは(アンソニー・バビントンのことは、私の記憶にはなかったのだが)皆知っていること。もちろん、ペネロピーだって知っている。
    歴史的事実から言えば、アンソニーはエリザベス一世の王位を転覆させようとした罪で処刑され、メアリー・スチュアートも処刑される。
    例えば、男の作家だったら、もっとガチガチのSFファンタジー、あるいは歴史ものにしたのではないかと思うが、アトリーは、あくまでペネロピーの感じたこと考えたことを丁寧に描いている。
    ストーリーは十分に面白いが読みどころはそこだけではない。
    岩波少年文庫にしては厚いが、この厚さは例えばタイムパラドックスなどの理論や、歴史上の人物やその人間関係の描写に充てられてはいない。
    日常のディテールが描かれているのだ。1940年代と1582年、1584年のサッカーズ屋敷がどんなところであったか、目に見えるように描かれている。台所で女達がどんな風に食事の支度をしていたか。庭師達がどんな思いで花や草木の手入れをしていたか。農夫がどんな風に働いていたのか。領主一家が何を身に着け何を食べ、何を楽しみにしていたか、苦しんでいたか。ここが、基本のストーリーと絡みながら(なぜならペネロピーはサッカーズ屋敷の家事を担っていた女性の子孫であり、家事や手仕事の繊細さ奥深さ、魅力を知っていたから)進むので、サクサクッと筋が知りたい人には向くまい。むしろこのディテールを楽しめる人が、本当にこの本を堪能できる読者であろう。そして、それはやっぱり女性の方が多いんじゃないかと思う。
    少年文庫で中学生以上とあるが、イマドキの中学生がこのディテールを楽しめるかというと、難しいんじゃないかと思う。むしろ、人生半分過ぎたくらいの大人の方が楽しめるのではないか。
    初めてタイムトラベルする時のペネロピーは、おそらく12歳くらい。まだ子どもっぽいところもある。しかし、2回目は14歳くらいで、大人の世界の入口に立ち、恋も知る年頃。この設定がとても上手い。もっと幼けれぱここまで人間関係に入れないし、ハイティーンでは16世紀にはもう大人。14歳くらいだと、16世紀ならもうすぐ大人、という扱いで、ちょうどいい。
    それにしても、暮らしの描写、本当に素晴らしい。焼きジャガイモをオーブンで焼いて、二つに割って、塩をふりかけ、バターとクリームを入れてスプーンで食べる。「茶色く焼けたぱりぱりの皮まで食べました。」(p54)
    クルマバソウとヨモギギクで香りをつけたリネン、食料部屋、ハーブガーデン、何もかもうっとりする。
    もちろん、物語も素晴らしいし、終わり方がまた良い。
    口はきけないが、特殊な能力を持つジュードという少年は、自閉症のような気がする。
    至福の読書時間。

  • とてもよいお話だった。舞台はイギリスで、療養のために、母方の田舎の農場サッカースに滞在することになったペネロピーが、16世紀当時のサッカースと現在とを行き来する「時の旅人」になるお話。歴史上の大事件も絡んできて、なかなか読みごたえがあった。美味しそうな食べ物や、ドレスや室内装飾、豊かな自然の描写は「大きな森の小さな家」シリーズを彷彿させるが、あちらはフロンティア精神満載で、こちらは時を隔てた同じ場所で、大きく変化したものもあれば、変わらないものも確かにあると噛みしめれられるような感触を受けた。どちらもよいと思う。

    特に印象に残ったのが、昔のサッカースの領主の母親が、ペネロピーに本を見せながら、つづりは人それぞれ、好きな文字を選ぶ、と説明しているところ。これは当時当たり前のことだったのだろうか。だとしたら、とても自由で豊かだなあ。皆同じ文字で同じつづりで書けば、確かに分かりやすいけれど、例えば自分の名前もその時々で好きな漢字を使ったり、少しぐらい音を変えて書いてみることができるとしたら、楽しいだろうなあ、とワクワクした。

  • けっこうな厚さで、何度も休憩しながらやっと読了。
    もう四年くらい、面白いと評判をきいて、読もう読もうとしていたこの本をやっと読み終えて、まずはホッとしたところ。

    実際にイギリスでは田舎のほうだと、100年前の絵とほとんど変わっていない家屋敷や街並がある。
    地震のない国で、石造りの建造物の寿命はとても長い。
    こういう、永く使われる屋敷は本当にロマンがあるし、こんな夢を見てしまうだろうなと思った。

    一方で、ストーリーがゆったりしていて、大事件が起こらないので、どうも掴み所が無かった。
    私が要所を把握しきれないまま、惰性で読んでしまったところもあり、本来の風を味わっていないかんじもした。

    読後に、アンソニー バビントンのことをggってしまい、残酷な世界でショックをうけた。
    ああいう処刑法は本当にあったんだ。。。内臓。。。
    7人のシェイクスピアで見たときもギョエーと思い、ささっとページをめくったけど。
    怖い怖い。やだやだ。

  • 再読。じっくり読んだので時間がかかった。
    スコットランド女王メアリにまつわる歴史的な事件の悲劇的な結末が分かっていながら、現にその事件の渦中にいる親しい人たちのなかで過ごす辛さとか、とうとう別れの時がやってきて、現在の世界のことが煩わしく思える場面とか、ぐーっと引き込まれた。

  • ふとしたことから、16世紀の荘園に迷い込んだ主人公ペネロピー。彼女はそこで繰り広げられる王位継承権にまつわる事件に巻き込まれることになる。
    ペネロピ―と共に自分も時を越えているような気がしてくる。そして・・・過ぎてしまった時を変えることが出来ないとわかってはいるのに、それでも変えたいと願ってしまう。会えないとわかっているのに、また会いたいと願ってしまう・・・。
    美しい風景が余計に切なくなった。

  • 久しぶりにすごくよかった。過去は変えられないという事実の残酷さと、主人公がその過去をどれだけ思っているかと、田舎の風景が合わさって、静かに悲しく胸にしみいる。

  • 迷い込んだ過去の歴史の事実を変えることのできない少女の切なさが伝わってくる物語。P・.ピアス著『トムは真夜中の庭で』L・M・ボストン著『グリーン・ノウの子供たち』より背景は哀しい。

  • 中学の時に音楽の授業で歌った合唱曲と同じ名前だったので読んでみた。

  • すてきな物語だった。主人公の時の旅が,自分の大切な思い出のように感じられる。

  • 児童文学としては切ない内容のものです。
    病弱で夢見がちな少女が見る
    数百年前の時代の物語です。

    もう起きてしまった歴史は、変えることができません。
    できちゃあいけないのです。
    ほらほら、ある映画でもタブーがあったでしょ?
    「その時代のものを持って行ってはいけない」
    それと同じようなものです。

    実際に変えようとはしたけれども
    彼女にはできなかったのです。
    ストッパーがかかるんですよね。

    そして、現実では姉の言葉が刺さるのです。
    そう、いくら体が弱くても
    これからは自分でいろいろと決めないと
    いけないのですよ。
    残酷だけれどもね。

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著者プロフィール

アリソン・アトリー 1884年、イギリスのダービシャー州の古い農場に生まれる。広い野原や森で小動物とともにすごした少女時代の体験をもとに、多くの物語やエッセーを書いた。日本語に翻訳された作品に『グレイ・ラビットのおはなし』『時の旅人』(以上岩波書店)、『チム・ラビットのおはなし』(童心社)、「おめでたこぶた」シリーズ、『むぎばたけ』『クリスマスのちいさなおくりもの』『ちゃいろいつつみがみのはなし』(以上福音館書店)など多数。1976年没。

「2020年 『はりねずみともぐらのふうせんりょこう』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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