- Amazon.co.jp ・本 (285ページ)
- / ISBN・EAN: 9784001145557
作品紹介・あらすじ
760
感想・レビュー・書評
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エッセイ集なので、軽く読めるかと思いきや、専門的な内容。筆者自身が体得されている「科学の愉しさ」が文章から滲み出ている。科学的な物の見方の入門書として最適。
特に「立春の卵」での「少なくてもコロンブス以前の時代から今日まで、世界中の人が間違って卵は
ただ無いものと思っていただけのこと」で「今日にでもすぐに試してみることが大切である。」から、筆者の科学に対する姿勢がわかる。
また「イグアノドンの唄」での子どもに伝説の怪物がどこかで、ひそかに棲息しているのかもしれないと語りかける姿から、科学者としてのロマンを感じました。
とても人間味のあるエッセイでした。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
池内了さん選による中谷宇吉郎さんのエッセイ集。池内さんの選書が素晴らしい。
雪の結晶の研究の話から、師匠の寺田寅彦さんの話、日常の中の科学についての話と多岐に及ぶ。宇吉郎さんが自身の3人の子どもたちにドイルの探検記を読み聞かせるところに、父としての愛情をみた。自分の研究も家族も、とても愛した人だったのだな。「研究者として一番大切なものは純粋な興味を持つこと」「知識や打算に邪魔されずに思いついたことを即試すこと」とある。思っているだけで満足するのではなくて、恐れずに一歩踏み出しなさいと作中で優しく語りかけてくれる。寺田寅彦さんも中谷宇吉郎さんも、日常生活の中に科学を見つけることが出来る人だったのだ。
「地球の丸い話」で、「宇宙兄弟」を思い出した。エベレストの高さと、一番深い海溝の高低差を図にすると、この地球に見立てた絵の線の幅に収まる。この話が漫画に出てきたよなと思いながらエッセイを読み終えた。どちらの本も情熱と純粋な好奇心があって好きだ。
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図書館の10代向けコーナーに並べてあったけど、おばちゃんには難しかったよ…理系な話が頭に入らない。でも重要なのはそこじゃなかったと思う。
もっと雪に関する話が収録されてると思ったら、それは冒頭だけ。他多岐にわたる中谷宇吉郎の思考や経験が綴られている。
コロナ禍とワクチン接種、オリンピックなど現在の浮ついた(作中の言葉を借りるなら「人心の焦燥」と「不当な欲求」が集積した)世情を鑑みると、考えさせられる。
理系だとか文系だとかそういう問題ではなく、科学的思考をできる人間でありたいと思った。
最後のエッセイ「イグアノドンの唄」に出てくる『失われた世界』は幼少期に読んだことをこれを読みながら思い出した。私もこの子供たちのように夢中になって読んだ。過酷な状況の中の家族での読み聞かせの情景が目に浮かび、あたたかく切ない気持ちになった。 -
・文章がうまい…本を開いてすぐに「文章が信じられないほどうまい」と感嘆し、次々と読んでいたのですが、最後に収録されている『イグアノドンの唄』が極め付きに素晴らしく、ただその素晴らしさの裏の悲哀に愕然としています。『「ほらここに印をつけてあるだろう。ここで初めてプテロダクティルを見たんだよ。プテロダクティルって、翼のある竜なんだ。戦闘機くらいもあるかな」。ここらあたりで、下の子供はもうすっかり興奮してしまって、すうすうと寝息のような息をしている。そして眼を光らせながら、身動きもしない。」という、この素晴らしい描写をされた子供の行く方を知ってしまうと本当に辛い。どのような思いでこれを記したのかと思いを馳せています。『それでよいのだ、生きる者はどんどん育つ方がよいのだと、私は目をつぶって寝入ることにした。」この末文もそうですが、それぞれの締めくくりの文章が抜群に良いのもあります。「そしてこれだけの大事件があっても、後になってそれがあとをひくというようなことがほとんどなかった。日本の学界のためには、慶賀すべきことであった。」「曙町の狸爺、一人でニヤニヤしている姿を御想像被下度候。」寺田寅彦氏も文章の名手ではありますが、私は文章の締め方から中谷氏に軍配を上げたいと思いました
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女子栄養大学図書館OPAC▼ https://opac.eiyo.ac.jp/detail?bbid=2000055627
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茶碗の湯気から物理全体へ話を広げる。「ろうそくの科学」を思わせる。そのほか軽妙洒脱なエッセイ。今の中学生には難しいかな。
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▼福島大学附属図書館の貸出状況
https://www.lib.fukushima-u.ac.jp/opac/opac_link/bibid/TB90301890
本書は、北大で教鞭をとられ世界で初めて人工雪の製造に成功したことでも知られる物理学者中谷宇吉郎先生の科学エッセイ集です。表題作では東北地方に居住する我々にはとても身近で、とかく厄介な存在になりがちな雪を通して科学の奥深さに触れることができます。その他にも身近な科学が、平易な文章でつづられており、初学者にも理解しやすい内容ですが、それゆえに私たちが日々見過ごしていることがいかに多いかに、否が応でも気づかされます。また本書では、著者の師寺田寅彦や湯川秀樹をはじめとする錚々たる研究仲間とのエピソードも魅力の一つですが、著者自身が一流の科学者であるにもかかわらず、著者の師や仲間への尊敬の念と謙虚な姿勢が随所から伝わってきます。実は私も自身の恩師から本書を紹介いただきました。良い先達との出会いは人生に大きな影響を及ぼします。学生の皆さんが、本学で人生の師、良い友に出会われることを願っています。
(推薦者:食農学類 石川 大太郎 先生) -
冬の岩波少年文庫シリーズ。
雪の結晶の研究で有名な物理学者・中谷宇吉郎のエッセイ集。
科学の話といってもひとつも難しいところはなく、誰にでもわかるような言葉で研究のおもしろさを語っている。
線香花火を「松葉」や「散り菊」と描写するなど、観察ですら文学的な文章。
地球の形が、凹凸があったり、楕円形であっても、鉛筆の線の幅に収まってしまう円になることを数式をまったく使わず説明してみせるあたりも見事。
雪の結晶、落雷、線香花火、霜柱、日常生活にある不思議を研究を通して解明できることをわかりやすく説明していてすばらしい。
以下、引用。
これは少したくさん刷りすぎたので、なかなか売り切れなようである。驚いたことは、五千部刷ったそうである。聞いてみたら、昔でたベントレイの雪の本は、現在一冊も残っていない、この本も、二十年間には売り切るつもりだというのである。
一つの落雷電光が、数本の電光から成っていることは、今世紀の初め頃からすでにわかっていた。しかし初めに火の玉が雲から落ちて来ることは、この研究で初めてわかったので、世界中のこの方面の学者たちをいたく驚かしたのであった。
初めてこの論文を読みながら、すぐ連想されたものは、子供の頃から聞かされていた雷獣の話であった。雷獣の話も民俗学的に調べてみたら、ずいぶん種類と変化とが多いことであろう。しかしそのうちで、火の玉のようなものが雲から落ちて来て、それが地面に達すると、落雷が天に駆け上るという形式の話がかなりの部分を占めているように思われる。
ションランドの得た結果を、少し稚拙な文学的表現で言いあらわすとしたら、この雷獣の伝説と非常に似たものになることはいちおう考えてみてもよいだろう。
アルタミラの洞窟に描かれた野牛たちの姿が、その疾走(ギャロップ)の脚の形をよくとらえていることはあまりにも有名である。獣たちの疾走の時の脚の運び方は、現代人には高速度活動写真の援けを借らずには知られないが、原始人類の眼には見えたのである。
しかし皆が心得ておくべきことは、湯川さんはノーベル賞をもらったから偉い学者なのではなく、偉い学者だったからノーベル賞をもらったのだということである。
水産講習所の兼任講師に寺田先生を推薦されたことがあった。その時長岡先生が「絹ハンカチで鼻をかむようなものだが」といわれたという伝説が残っている。
まず線香花火を一本取り出して火をつけてその燃え方を観察してみる。初め硝石と硫黄との燃焼する特有の香がして、さかんに小さい焔を出しながら燃えあがり、しばらくして火薬の部分が赤熱された溶融状態の小さい火球となる。その火球はジリジリ小さい音を立ててさかんに沸騰しながら、間歇的に松葉を放射し始める。そして華麗で幻惑的な火花の顕示(ディスプレイ)の短い期間を経ると、松葉はだんだん短くなり、その代りに数が増してきて、やがて散り菊の章に移って静かに消失するのである。
この日本紙のこよりというのも重要な意味があるのであって、沸騰している火球を宙づりにして保つには紙がなかなか大切なのである。薄い西洋紙で線香花火を作ってみたが、火球が出来ると同時に紙が焼け切れてどうしてもだめであった。このことなどもこの花火が西洋にない理由の一つかも知れない。
そうしたら先生が「そうか、それはよい経験をしたものだ。落第をしたことのない人間には、落第の価値は分らない」とほめられてちょっと驚いた。それから先生は「僕も落第したことがある。中学校の入学試験に落第をしたんだが、あれはいい経験だった。夏目(漱石)先生も、たしか小学校で一度落第されたはずだ。人生というものは非常に深いもので、何が本当の勉強になるかなかなか簡単には分らないものだ」という話をされた。
「不思議を解決するばかりが科学ではなく、平凡な世界の中に不思議を感ずることも重要な要素であろう。」(「簪を挿した蛇」より)
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雪は天からの手紙なのです
こんなこと言われてしまったら
もう、
地球に五体投地してしまいたくなってしまいます
何回読んでも
読むたびに
新しい発見がでてくる一冊です
著者プロフィール
中谷宇吉郎の作品






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