カレワラ物語―フィンランドの神々 (岩波少年文庫 587)

著者 :
制作 : 小泉 保 
  • 岩波書店
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本棚登録 : 134
感想 : 22
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  • Amazon.co.jp ・本 (190ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784001145878

感想・レビュー・書評

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  •  シベリウスの交響詩には「レンミンカイネン」「タピオラ」「クッレルヴォ」などフィンランドの神話を題材にしたものが多いです、それらが登場するのが、フィンランドの民族叙事詩「カレワラ」です。
     フィンランドは西暦1000年頃からスウェーデンに占領され、1809年からはロシアの支配下になっていました。そんな中、医師のエリアス・リョンロートが、フィンランドの東にあるカレリア地方の農村を訪ね歩いて、優れた伝承詩人から叙事詩を直接聞き取り、まとめたのが「カレワラ」です。「カレワラ」とは「カレワという部族の勇士たちの国」という意味だそうです。この「カレワラ」の出版がフィンランド人の間に自分たちの国の文化遺産への意識を高め、独立の機運が高まり、ついに1917年にロシアからの自主独立を勝ち取ったのだそうです。
     フィンランド語はスラブ系のロシア語ともゲルマン系のスウェーデン語とも全然異なるウラル語系の言葉だそうです。カレワラ、ポポヨラ、ヨーカハイネン、イルマリネン、ワイナミョイネン、ウッコ、レンミンカイネン…など、柔らかな響きの(カタカナで見るのとは違うかもしれませんが)固有名詞がでてきます。
     一番中心的に活躍するのは永遠の賢人で呪術の大家で歌の名手で水の主と考えられるワイナミョイネンでしょうか。彼はあらゆる事物を「歌い出し」、呪術によって変形させることが出来るのです。海で仕留めた魚の“かます”の骨で“カンテレ”という楽器を作り、それで音楽を奏でると自分の命を狙う敵までうっとりと酔わせて眠らせてしまいました。
     もう一人の重要人物はイルマリネンという鍛冶の名人で、天空を鍛造した宇宙神として尊敬されています。彼はポポヨラの乙女と結婚させてもらうために、“サンポ”という富の源泉となる凄い装置を作ってポポヨラの女主人に捧げます。実際にはそれだけでは結婚させてもらえず、ワイナミョイネンとイルマリネンが争奪戦をしてイルマリネンが勝って、ポポヨラの乙女を妻にします。(後に妻はクッレルヴォの殺されます
    )
     ポポヨラという国の名前はきれいですが、暗黒の国です。後に、ワイナミョイネンとイルマリネンは協力してポポヨラから“サンポ”取り返したのでポポヨラは貧乏になりました。けれどポポヨラの兵士に追いかけられ、結局サンポを海に落とし、破片が海に砕け散ったので、アハトラ(海の主のすみか)の人の宝となりました。
     森と海と太陽の出ない冬と白夜の夏とオーロラの国で出来た国らしい神話だと思いました。

  • 岩波少年文庫の『夏のサンタクロース』のレビューに書いた通り、本書を借りた。

    昨年だいぶ読んでみたギリシャ神話やシェイクスピア作品以上に、本書は何でもあり・しっちゃかめっちゃか・意味不明であった。
    ただ、「こういうもの」と割り切って読めば、それなりに読み進められはした。
    本物の『カレワラ』から適宜抜粋・縮小して、上手く翻訳されているので、やはり岩波少年文庫で読んで正解だったし充分だった。
    (翻訳者は本書発行の翌年お亡くなりになっている。全『カレワラ』の翻訳もなさっている大家でいらっしゃるようだ)

    ただ、本書は中学以上となっているが、とにかく内容が意味不明なので、読書初心者はやめておいた方がいいかなと思う。
    これは遥か大昔、中学生だった頃の自分自身への戒めである。
    読書に苦手意識を持ってしまいそう。
    (私が今のように活字中毒になったのは、大人になってからだ)

    大昔、私の中学生時代(公立)に、週一だったか月一だったか、図書室で各自が読む「読書」の時間があった。
    『車輪の下』や『罪と罰』を、毎回最初の数ページ以降どうしても読み進むことができなかった、悪しき思い出。
    それ以来、いわゆる「名作」や「翻訳物」が苦手、トラウマになってしまった。
    あの頃の公立中学の図書室なんて、そういうものしか置いていなかった。
    きっと現在の中学校には、中学生にとって読みやすくて面白い本が沢山置いてあるんじゃないかな?
    そうであって欲しいな。

  • 「ヴィヒタ」って知ってます?
    この本を読むまで私は知らなかったのです。

    その昔「アンナ・カレーニナ」のクラシック版を観た時のこと。
    サウナに入った男子たちが、小枝を束ねたもので身体をバシバシと打つ場面があった。
    あれは何?丸っこい葉っぱがユーカリのように見えるけど、何をしているの?
    …そんな疑問を持ったことさえ、すっかり忘れていた。
    ところがこのフィンランドの叙事詩の中に、サウナが実にカジュアルに登場する。そして「湯あみに使う白樺の小枝を取りに森へ入っていく」と言う描写があって、突如思い出したというわけ。
    白樺(ロシアではユーカリが多いらしい)を束ねたものを「ヴィヒタ」と呼び、サウナの後、健康のためそれで身体をバシバシ打つという習慣があるという。
    頭の中の釘にひっかけたままだった古い疑問が、思いがけない方向から来た答えに釘ごとボロッと落ちたような感動があった。

    もうひとつ。「カンテレ」の音色がとても好きで、このお話に登場するのが世界最古のカンテレかと思うとこれまた嬉しい発見だった。
    主人公の老ワイナミョンネンは、賢者であり「カンテレ」の演奏者でもあるのだが、お話の中では魚の骨からこの弦楽器を作りあげ、その妙なる音色ですべての生きものたちを魅了する。更に詩を詠み、必要なものを魔法から生み出していく。
    表紙絵の左にいる髭のおじいさんがそれで、膝の上でカンテレを演奏している場面だ。

    さてさてこの本、岩波少年文庫なので大変読みやすくなっている。
    世界三大叙事詩のひとつだというフィンランドの「カレワラ」について、読みやすく編集したもの。神話でもあり、壮大なファンタジーでもあり、原詩がところどころに入っているのも楽しい。
    ちなみに、神様と呼べる存在は「ウッコ」という雷神だけ。
    あとは皆、とても人間臭くて生々しいと言えるほど。
    でも、三大叙事詩のひとつという割には成立年が比較的若く、1835年だ。
    この文化的財産がまとめられたおかげで、フィンランドの国民に自主独立の気運が高まり、1917年にロシアから独立出来たという。
    民族の誇りを取り戻すだけの強大な力がこの叙事詩にはあったということ。良いお話だなぁ。

    全編頭韻を踏んでいるらしいが、原語ではないのでそこまでは分からない。
    雰囲気を伝える邦訳もかなり難しい作業だったことだろう。
    欲望に忠実な登場人物たちはギリシア神話のようだし、挿絵もロマンチック。
    主要人物は賢者・老ワイナミョンネンと律儀な鍛冶屋のイルマリネン、そして好色でむら気なレイミンカンネン。
    3人が行動を共にする章ではドラクエのパーティを連想し、悲劇の主人公・クッレルボの章では、シベリウスのほの暗い「クレルボォ交響曲」を思い出した。
    イマジネーションが非常に刺激されるお話で、様々な作品のヒントになったことだろう。

    「ヴィヒタ」や「カンテレ」「魔法の呪文」、そして最後まで実体が不明だった「サンポ」とは何か?細かな部分まで興味が尽きない話だ。岩波文庫で読み返すことになりそう。
    ブク友さんのレビューに惹かれて読んだものだが、ご紹介いただいたことに感謝です。

  • カレワラはこの本で初めて触れましたが、興味深く読むことができました。

    この世界の登場人物は自然の擬人化であったり、大きな力を持っていても人間的な弱さを持っていたり、人間社会の善悪というものとは少し距離感のある存在という点で、東西問わず多くの神話とも通じており、すんなり読み進めることができました。
    鍛造を司るイルマリネンの創世にも関わる重要な位置づけは、欧州文化圏における鍛冶神の特徴なのかもしれませんね。
    最高神のウッコが雷神であるという点など、キリスト教以前の神々との共通点もみられ面白く感じました。

    全体としてどことなくひんやりとした空気は同じフィンランドの作品のムーミンや、メランコリックメタルといった音楽と通じる世界観かもしれませんね。

    フィンランドのメタルバンドAmorphisのこのジャケがカレワラの大カマスということが分かったのも収穫でした。

    http://www.amazon.co.jp/dp/B003XF1062/ref=cm_sw_r_tw_dp_h7Jjsb15326Q1

    このバンドはカレワラをモチーフにした作品をいくつか出しており、それらのモチーフがこの本で知ることができました。

    児童向けながら読み応えがあり、挿絵も雰囲気があってよかったですね。

    • nejidonさん
      ぴよこさん、こんにちは(^^♪
      コメントが遅くなりましたが、とても良い本を紹介していただいて、ありがとうございました。
      すごく面白くて、...
      ぴよこさん、こんにちは(^^♪
      コメントが遅くなりましたが、とても良い本を紹介していただいて、ありがとうございました。
      すごく面白くて、私にしては珍しくあっという間に読んでしまいました。

      ところで、本棚を非公開に設定しました。
      タイムラインというものに、どうにもこうにも疲れてしまいました。
      かなり悩んだのですが、ひとりコツコツと記録する方を選びました。
      せっかく仲良くして下さったのに、申し訳ありません。
      でも、時折こちらにものぞきに来させていただきますね。
      これまでありがとうございました。
      2018/12/07
    • ぴよこさん
      >nejidonさん

      こんばんは!
      お返事遅くなって申し訳ありません。
      nejidonさんのレビューを拝見して、とても気に入ってく...
      >nejidonさん

      こんばんは!
      お返事遅くなって申し訳ありません。
      nejidonさんのレビューを拝見して、とても気に入ってくださったことが伝わってきて、うれしかったです。

      本棚、非公開設定にされたのですね(´・ω・`)
      確かに、タイムラインを追うのに忙しい感じはあるかもですね。
      nejidonさんのレビューを拝見できないのはさびしいですが、それもよいのかもしれません。
      こちらこそ、こうしてコメントまでくだすって、ありがとうございます。
      2018/12/13
  • フィンランドの民族的叙事詩、つまりは神話。
    世界の創世からキリスト教の伝来まで(多分)。
    この神話とても面白い、すばらし。

  • 北欧神話やギリシア神話、日本神話と違い、神が「至高の神ウッコ」一人だけというところが面白い。
    その代わり、詩歌の神として崇められている呪術師のワイナミョウエンや、宇宙を創った鍛冶屋のイルマリネンなどが登場した。
    話の主体は、ワイナミョウエンやイルマリネン、レンミンカイネンなどの冒険という感じだった。

  • 大阪樟蔭女子大学図書館OPACへのリンク
    https://library.osaka-shoin.ac.jp/opac/volume/412711

  • カレワラ物語―フィンランドの神々 ってどんなのかしら?

    4月のN響定期コンサートで、ヤルヴィ指揮のシベリウスの2番を聞きました。
    ⇒ URLはこちら http://sea.ap.teacup.com/pasobo/1756.html 『2014/4/19 「4月N響定期、ヤルヴィ得意の北欧音楽」』 :  〜 Myブログ「パそぼとベルルのあれこれフリーク」

    シベリウスが、多くの素晴らしい曲を創作したフィンランドの英雄伝説。
    フィンランドの民族的叙事詩「カレワラ」を読んでみたい!

    ギリシャ・ローマの神話や日本の神話とは全く違った話に、驚くことばかり。
    『民族的叙事詩』ですから 本来はすべてが詩で綴られていたわけです。

    この本は、こども用書かれていて、読みやすいし 挿絵も内容がよく分かるすてきなものです。
    馴染みのない異文化の話を最初に読むには、よい本です。

    2014/04/30  予約 5/6 借りる。5/7 読み始める。5/11 読み終わる。

    内容と著者は

    内容 :
    詩を歌って事物を自由に変形させる呪術が信じられていた、遠い昔の時代。
    英雄たちが、魔法を使い、美女を求めて活躍する。
    フィンランドの民族的叙事詩「カレワラ」をもとにした物語。

    歌をうたい事物を自由に変形させる呪術(じゅじゅつ)の力で、永遠の賢人ワイナミョイネンら多くの英雄たちが活躍する神話の世界-。
    フィンランドの民族的叙事詩「カレワラ」の筋書きを、美しい原詩をところどころに挿入しながら、読みやすい物語風に書き下ろしたもの。

    著者 : 小泉/保
    1926年静岡県生まれ。東京大学文学部言語学科卒業。文学博士。
    国際フィン・ウゴル学者会議理事。日本言語学会顧問、日本音声学会顧問。
    著書に「カレワラ神話と日本神話」など。

  • フィンランドの民族的叙事詩を読みやすいように物語として構成された作品。
    神話とも、ファンタジーとも読める不思議な読み応えを感じた。また北欧独特の澄んだ空気のような表現は、理屈抜きに美しく味わえました。
    今度、文庫から出版されている「カレリア」にも挑戦したい。

  • フィンランドに行くにあたって勉強のために読んでおこうと思って手にとった、フィンランドの神話というか伝承。
    生まれながらにおじいちゃんで高度な魔法を使いこなすワイナミョイネンはじめ、個性的なキャラが割りと好き勝手に行動する。
    「歌い出す」という表現が特徴的・・・足りないものを歌って生み出したりする。
    あとラストでキリスト出てきてすげえなこれ。

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