ドラゴンフライ ゲド戦記 5 アースシーの五つの物語 (岩波少年文庫 592)

  • 岩波書店 (2009年3月17日発売)
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Amazon.co.jp ・本 (560ページ) / ISBN・EAN: 9784001145922

みんなの感想まとめ

物語は、ファンタジーの中に潜む真実や矛盾を鋭く描き出し、読者に深い思索を促します。現実と空想の境界を行き来しながら、登場人物たちが勇気を持って自らの正義を貫く姿が描かれ、特に「勇気」というテーマが全編...

感想・レビュー・書評

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  • 「私たちは揺るがない確かなもの、遠い昔からある真実、変わることのない単純さを、ファンタジーの領域に求める。ー
    するとそこに多額の金が注ぎ込まれる。模倣と矮小化された“商品化されたファンタジー”は、かわいく安全なものとなり、ステレオタイプ化されてガッポガッポと金を儲けていく。ー
    私たちは長い間、現実と空想の両方の世界で暮らしてきた。しかし、その暮らし方は、どちらの場合も、私たちの両親やもっと前の先祖たちのそれとはちがう。
    人が楽しめるものは年齢とともに、かつまた時代とともに変化していくものなのだ。-
    物事は変化する。
    作家や魔法使いは必ずしも信用できる人たちではない。
    竜がなにものであるかなど、誰にも説明できない。」
    再びアースシー世界に足を踏み入れるにあたってアーシュラ・K. ル=グウィンが記した警句である。

    それは自らが創りあげた美しい世界に目を凝らし、そこに潜むひび割れを鋭く批判する作業である。
    賢人の島ロークの権威が孕む矛盾と欺瞞が語られるとき、ファンタジーの魔法は解けるのか?
    いや、『カワウソ』そして『ドラゴンフライ』はアースシーとリアルな世界を共鳴させることで、物語をより重層的にそして切実に感じさせてくれる。ファンタジーのテーマは剣と魔法だけじゃない。

  • ゲド戦記シリーズの5巻だが、外伝という立ち位置にある作品集。
    収められている作品は5作品。
    作品は短編くらいの短さのものから中編、なかには長編レベルと言ってもいい長さの作品もある。それもあって600ページ近い分厚さ。
    また、描かれている作品世界は、アースシーの歴史のなかでも年代はバラバラ。ほぼその世界の神話や伝説のような扱いとされるものもあるし、4巻の『帰還』と6巻の『アースシーの風』とをブリッジする作品世界内でも新しい位置付けにあるものもある。

    『カワウソ』
    ゲド戦記世界で魔法使いを育成する要所として存在するローク学院。そのローク学院誕生について語られる長編。
    ゲドが活躍していた時代ほど魔法が世界に受け入れられてない時代、魔法の才能を持って生まれてきてしまった人たちは魔法を使えることを隠して生きていた。見つかれば、村を追い出されるか、奴隷として捕まり力を利用されるかだった。
    そんな時代に才能ある一人の魔法使いの少年カワウソが、奴隷として捕まってしまう。カワウソはその才能から、辰砂探しの奴隷として使われるようになる。そこで同じく奴隷として捕まっている少女と出会うが、カワウソは少女に助けてもらい、逃走することが出来た。
    逃げ延びたカワウソは、魔法使いだけが訪れることが出来る場所を作ることに協力し、手の者と呼ばれる地下組織を巡っていく。

    『ダークローズとダイヤモンド』
    ダイヤモンドと呼ばれる有力商人の息子が、魔法の力を持って生まれてきた。その才能から魔法使いの弟子となり、魔法の勉強を始める。
    魔法使いもダイヤモンドの才能を認め、ローク学院へ入ることを勧める。
    しかし、魔法使いの道を選ぶならダイヤモンドはこの先、愛する相手を作ることなく一人で生きていかなければならない。彼には愛する相手がいた。子どもの頃から一緒に育ち、ずっと近くにいてくれた村の女性ローズだ。ローズとの人生を選ぶか、魔法使いとしての人生を取るかダイヤモンドは悩む。

    『地の骨』
    ゲド戦記第1巻『影との戦い』でゲドが仕えるゴントの魔法使いオジオン。彼はゴントで起きようとしていた大地震を沈めた逸話がある。
    オジオンがまだダンマリと呼ばれていた頃、彼と、彼の師匠ダルスがゴントで起きる大地震を沈めるまでを描く。

    『湿原で』
    セメルと呼ばれる島では家畜の病気が流行っていた。
    ある日、家畜の病気を治すために魔法使いのオタクがやって来る。オタクは治療のあいだ、メグミと呼ばれる村外れの女性のところに厄介になる。彼は変わったところがあったため村人に疎まれるが、実力は本物だったため、治療している間は渋々ながら村人たちも彼の滞在を許していた。
    そんなオタクの前に、それまで村のお抱えまじない師だったアイエスが来る。アイエスはオタクに突っかかり諍いになるのだが、それがきっかけとなってか魔法の力が発動してオタクはアイエスに強力な魔法をかけてしまう。
    そんなセメルに大賢人になったばかりのゲドがやって来る。

    『ドラゴンフライ』
    4巻の『帰還』と、6巻の『アースシーの風』を繋ぐ位置にある作品らしい。
    ウェイ島の領主の娘ドラゴンフライは、自分の存在に疑問を抱いている。親しい魔女のバラからもドラゴンフライには力がある、と言われるが、その力とは何なのかはっきりしないでいた。
    そんなときに領主のお抱え魔法使いとして雇われてゾウゲと呼ばれる青年が来る。ゾウゲはローク学院で学んだ魔法使いの見習いなのだと言う。
    ドラゴンフライは、そんなゾウゲに女人禁制とされるローク学院に姿変えの術を使って入り込もうと唆される。ドラゴンフライも乗り気になり、ローク学院へと船を向かい、そしてローク島伝統の魔法の風を抜けることに成功する。
    そしてついにローク学院の扉を叩き、招かれることになる。
    そこでドラゴンフライは自らの出自の真実を知ることになる。


    これまでゲド戦記シリーズを順番に読んできて、3巻までは物語はシンプルだがある種の昔話や伝説、神話などにも比肩できるような強度のある物語世界を作ってきているように感じていた。それが4巻の『帰還』からはそのシンプルさやビルドゥングス的ストーリーを脇に置いたことで、アースシー世界が我々の現実世界の混迷さを映し出すような複雑さと豊かさを併せ持ったように感じた。
    だからこそ『帰還』以降は、ゲド戦記の世界に広がりが、ぐっと増した印象を受けた。所詮はファンタジーと切り捨てることのできないリアリティがある。
    本作はその広がりを更に拡大するような作品集で、アースシーの成り立ちに、その時間、歴史に思いを馳せてしまうようでかなり好きな巻だった。

  • ゲド戦記、読み終えた。どこかで読んだような。と思ったら、西のはての年代記と似た作り……いや。作者さんが同じだから似てて当たり前なのだけど、ゲド戦記から魔法と竜をぬいたら西のはての年代記になるのねと思った。

    本編を終えてから、伝外を読んでよかった。『アースシーの風』を先に読むか、伝外を先なのか……迷った。結果。私は伝外を後にしてよかったと思った。
    迷うのはこの伝外に帰還とアースシーの風の間の物語が入ってるから。時系列順に読みたいというこだわりがあるなら、伝外が先の方がいいのかも。……私、時系列よりもメイン重視。脇道の話は後からじっくり読みたい。

    物語は5つ。
    「カワウソ」
    魔法の島、ロークの学院がどうやってできたのかという物語。最初のゲド戦記のようにあちこちに移動するのは楽しかった。そして、最初の成り立ちには女性たちの力が必須だった……というのを読みながら、でも権威が確立したら女たちを追い出してしまうのはえぐいなぁと思う。

    「ダークローズとダイヤモンド」
    魔法使い見習いと魔女の恋愛の物語。うーん。恋愛? 書かれてない部分が多すぎて、正直いまいちわかりづらい。

    「地の骨」
    地震を食い止めた魔法使いの物語。
    地面の中の骨の描写が好き。この雰囲気すごく好き。魔法は結局よくわからないけど、こういう描写が好きだなぁ。

    「湿原で」
    最初の「影との戦い」を思い出してしまった。影との戦いは思いあがったゲドが影に追われる物語だったけど、これは思いあがった男がそれに破れ自分の愚かさに気が付く物語。追いかけてくるのがゲドだけど、結局ゲドは一人でロークに戻る。

    「トンボ」
    帰還とアースシーの風の間のアイリアンの物語。アイリアンがロークの学院に行き、ロークの学院でどのように過ごしていたのかが描かれてる。これはこれで面白いんだろうな。

    「アースシー解説」
    アースシーの世界の事があれこれ書かれてる。
    今までの物語の設定を、アースシーの歴史に沿って説明してあるので、わかりやすかった。


    これ、ゲドの物語だと思ってたけど違うのね。『アースシーの物語』だったのね……と思った。『ゲド戦記』というタイトルが紛らわしい。
    世界設定が緻密だけど、あちこちの文化を入れてるなぁとわかるのが楽しいな。


    ごちそうさまでした。

  • スピンオフ作品って感じの。ゲドさんは今、くらいに、ああそういう人もいたわね、って感じに前に出てきた人も出てくるけど、ぶっちゃけあんまり覚えてないよ。名前がね、覚えにくいというか、真の名前がとか言っちゃうからもうね、しょうがない。
    でね、もうゲドさんのことは忘れて読むにね、いや悪くないかも。じんわりくる恋愛モノとか、償いの旅に出る年寄りみたいな話とか。最後の話も唐突ではあるけど、それもまたファンタジーやねぇ、ってなって、不思議な読後感。
    これが本場のファンタジーってことか。

  • 実際に手にしている本は、単行本<ゲド戦記外伝>。
    最後のアースシー解説は少々読むのがしんどかった。

  • 5作目読了です。ゲドがほぼ出てこないのでゲド戦記シリーズとは呼べないと思うけど、アースシーの世界の物語でどれも面白かった。冒頭のカワウソの話は一番読み応えがあって、カワウソが出会う闇(ゲラックと水銀)と闘っていくところとか、ロークの学院をどう立ち上げたかとか、深い物語になっています。ロークの学院や魔法の世界自体、女性禁止だけれど、ロークの立ち上げには「手の女」たちが深い携わりをしていることが分かったし、なんで女性禁止になってしまったのかなあ。昔から、どこの世でも男性が政をし強い権力を持ち、女性はそれを支えるための存在であり続けたわけだけど、禁欲こそ自分を高め守り抜くことであり、女はそれの邪魔をするという発想なわけですよね。宗教の世界でもそういうことは聞くから、そういうところとも話は繋がっているのだろうか。ゲド戦記1〜3ではストーリーが面白く世界観が良かったけれど、4と5での1番のテーマは、「女性とその立ち位置」になっていると思う。才能があっても虐げられたり、居場所がなかったりと。作家さんが女性の方なので、やはりそういうメッセージなのかなあと思った。

  • ゲド戦記全6部作の内の5作目。
     
    これまでの4巻に比べて、
    ゲドの出番がほとんどありません。
     
    副題にある通り、5つの短編が語られています。
     
     
    今回の5つの作品には共通したテーマがある。
    読んでいて私はそう感じました。
     
    それは『勇気』。
     
    楽な方に流れるのではなく、
    自分の正義を貫く『勇気』。
     
    自分のやりたいことをする『勇気』。
     
    伝統を壊す『勇気』。
     
     
    あなたは『都合のいい言い訳』をして
    結局何もやらずに、後で後悔した、
    なんて経験はありませんか?
     
    もし思い当たることがあるなら、
    この作品を読んで、自分の『勇気』を
    奮い立たせてください。
     
    『勇気』を出したい大人にこそ
    読んで欲しい作品です。

  • アースシーの世界のエピソード集です。「帰還」より生活する人間たちがさらにリアルに語られています。「手の女」たちの結社が、ロークで学院として発展するにつれて、魔法の場が男性に独占され、女性のまじないの営みは俗のものとして貶められていく…。ファンタジーとは思えなくなってきました。
    「ゲド戦記」から冒頭にアースシーの詳細な地図が載っていて、物語世界の設定の緻密さに感嘆しましたが、歴史まで綿密に組み立てられていたのですね。すごい…。

  • 年代順に並ぶ短編集
    まえがきにある作者の物語へのスタンスが面白い
    アーキペラゴへ行き、収集してきた話を書きつけているという
    実際書いている感覚はそんな感じなのかなと想像してみるも、アースシー解説の記述の詳細さにくらくらする

  • 1.2巻は面白くて一気に読めたのですが、3.4.5巻は話しがトントンとは進まず、ちょっと苦手でした。

  • まえがきもなかなか印象的だ ファンタジーの商品化

  • 外伝の位置らしい短編集。

    「ドラゴンフライ」はいよいよ最終巻へ、という感じがしてわくわくした。
    「湿地で」もとてもよかったな。
    大賢人のゲドの話、安心する。

    4巻から急に「男と女」の色が濃くなってきて、そこだけは戸惑う。これを児童書の位置にしておくのはきついのでは。

  • ゲド戦記外伝、短編集。独自の世界観のなかでのファンタジー。

  • まったく実在したことのない、つまり一から十まで完全な虚構の世界を構築、あういは再構築するときは、そのための調査研究は実在の世界のそれとは順序がいくぶんことなる。けれど、根底にある衝動や基本的な技法に大差はない。まず、どんな事が起こるか、観る。そして、なぜ起こるのか、考える。その世界の住人がこちらに向かって話すことに耳を傾け、彼らがなにをするか観察する。次にそれについて真剣に考え、誠実にそれを語ろうと務める。そうすれば物語はちゃんと重力を持ち、読むものを納得させるものになっていく。

    想像力は他のあらゆる生命体と同じように現在この瞬間生きて活動している。それは本当の変化をともなって活動し、本当の変化から生じて活動し、本当の変化から養分をもらって活動する。私達の行為や持ち物と同じように、想像力も時には予定外のものに勝手に用いられたり、弱まってしまうこともあるが、それでも金儲けの道具に使われようと、説教の道具に使われようと、きっと生き延びる。

    想像力という意味では、優れた本だと思う。ただし、エンターテイメントとしては、あまり面白くはない。ゲド戦記のファンのための概念であり、本編を補完する以上のものではない。
    ルグィンは、円熟した文章を書くようになったが、何かを探求するという、物語としての面白みは欠けてしまった。

  • ゲド戦記の世界に広がりを持たせるような短編5篇。
    オジオンの過去を知れる地の骨が一番のお気に入り。

    4から、「男と女」の問題に対しての言及が多いと感じる。

  • 「ゲド戦記」の原作、シリーズ第5巻

    テルーが自身の力を知るために動き出す

  • ゲド戦記、アースシーを舞台にした短編集だが、これは4と6と同時進行で読むか、4、5、6と順番に読むのがいいかもしれない。
    作者がどうしてフェミニスト作家と呼ばれるのか、よくわかった。フェミニストといっても、エコロジカルフェミニストという範疇にはいるのではないだろうか。
    女をどう描くかというのは常に挑戦のようなものではないかと思う。女の描き方は画一化されていたり、変に理想的だったり、添え物のようだったり、ヒロイン、登場人物として魅力的、オリジナリティがある人物像を描くのは難しいと思う。
    しかし、ル・グウィンの描く女たちはどうだ。ファンタジーなのにリアル。等身大なのに奥底に何かとても価値があるものが秘められているような感じがする。どの女もそうだ。

    「ドラゴンフライ」のアエリアンもそうだが、女は待ち、受け入れ、導き、そして自分だけで完結することもできれば、仲間とつながることもできる。根のように大地に広がり、揺るがない。支配ではなく連帯、男とでさえもそういうことができる。男は有史以来、女の支配しか頭になかったのに。
    そういう不条理とそこからの脱出、解放を書いたのが、女の側から見たゲド戦記かなと思う。ゲドという英雄の物語ではあるものの、その英雄さえ魔法の力を失ってただのおじさんになり、力があると思われていた知の拠り所ローク学院が、実は女によって作られて女によって救われるっていうのが、象徴的である。現実の世界でままならないことをファンタジーの世界でやってのけ、かつそれが実現することを夢として描き出すというのは、まさに文学的だと思った。

  • 短編集。表題作を含め、既存の価値観を覆すことによって、世界の均衡を取り戻そうと試みる人々が描かれており、楽しんで読み進めました。
    ただ、キーパーソンとして「女性」が強調されることや、運命論?的な価値観にもやもやっとしました。
    男性が束縛されている禁欲と力(この世界でいう魔法)の関係から解放するのがいつも女性っていうのもどうなんだ。
    結局女性は「選ばれしヒロイン」で、堅苦しいこと言っといてナイト的男性が必ず登場するし。
    ラブロマンスが書きたいなら素直に書いたらいいのに。
    って思ってしまいました。

  • 五つの短編小説で、ロークの成り立ちや長編では詳しく書いていなかったエピソード、また、『帰還』を踏まえての物語など。アースシーの世界が広がった。「地の骨」が一番気に入ったかな。フェミニズムが云々と言われるけれど、男だから女だからどうあるべきという考え方はやっばり不自然。

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著者プロフィール

1941年、北朝鮮に生まれる。児童文学者・翻訳家。2010年3月まで青山学院女子短期大学専任教員。主な訳書に、アーシュラ・K・ル=グウィン『ゲド戦記』全6巻(岩波書店)など。最近の著書に、『あいまいさを引きうけて』『不器用な日々』『本の虫ではないのだけれど』(かもがわ出版)、『大人になるっておもしろい?』(岩波ジュニア新書)、『そして、ねずみ女房は星を見た』(テン・ブックス)、『青春の終わった日――ひとつの自伝』(洋泉社)など。

「2019年 『子どもの本のもつ力』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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