岩波少年文庫のあゆみ 1950-2020 (岩波少年文庫, 別冊2)

著者 :
制作 : 若菜 晃子 
  • 岩波書店
4.09
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本棚登録 : 235
感想 : 21
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  • Amazon.co.jp ・本 (302ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784001149029

作品紹介・あらすじ

岩波少年文庫は1950年のクリスマスの創刊以来、途切れることなく続いてきた。過去の資料を駆使し、70年のあゆみを振り返るとともに、代表作と作家の解説、挿絵画家の逸話、翻訳者の仕事にも光をあてた初めての保存版。各時代に書かれた著名人の文章も多数再録する。カラー口絵4頁、刊行から現在までの総目録付き。

感想・レビュー・書評

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  • 子どもの頃だったら、出版社がつくる文庫の歴史などに興味はなかった。
    ただ気に入ったお話ばかりを読んでいた。
    装丁のことや、挿絵画家や翻訳家など考えたことさえない。
    しかし大人になって事情は変わった。
    今度は届ける側にまわったからだ。
    子どもたちの心に届く本とは、どんな本だろう。
    良い本とはなんだろう。
    装丁と挿絵と翻訳と内容と、それらのハーモニーが奏でる良質な世界をどうしたら的確に選べるだろう。

    70年間たえることなく、作品を世におくり出してきた岩波少年文庫。
    おさめられた465冊は、作家・画家・翻訳家・編集者、どの人も自分の人生の時間を使ってひたむきに成し遂げてきた仕事の結果であることが、この本を読むとよく分かる。
    過去の資料と解説、各年代の代表作の紹介、挿絵画家のエピソードや翻訳者の仕事にもスポットをあてる。
    カラー口絵には、装丁の変遷が載せられている。

    1950年12月25日の創刊日、たった5冊でスタートしたことをご存じだろうか。
    「宝島」「あしながおじさん」「クリスマス・キャロル」「小さい牛追い」
    「ふたりのロッテ」。
    中心的な役割を果たしたのは編集者であり翻訳家・児童文学作家でもあった石井桃子さん。

    「岩波ではいい本をつくればその結果はどうであれ、とやかく言われません」
    いえいえ、とやかく言われないお仕事をしたのだ、石井桃子さんは。
    日本語の表現さえ模索していた時代。
    その苦労はさっするに余りある。
    子どもの本をつくるのは、大人の本をつくるよりはるかに難しい。
    どの作品の巻末にも必ず載っているのが「発刊に際して」のことば。
    創刊時の吉野源三郎さんの渾身の一文を、はじめて読むことができた。

    総目録は、巻末から順になっている。
    懐かしい、読んだ本も、読まなかった本もみな懐かしい。
    読んで読んで、自分の中に小さな国をつくっていた頃。
    弱くて小さい自分を、少しずつ育てる国。 
    迷いが生じた時、こっちだよと自分に教えられる自分を育てていく。
    小さな国は、豊かな国に成長しただろうか。
    子どもの頃には目にも入らなかった風景が、分からなかった心のひだが、見えてくるだろうか。
    再読してひたりたい物語が、どんどん登場する。

    宮崎駿さんによれば、児童文学というものは「生まれてきて良かったんだ」というもの。
    生きてて良かったんだ、生きていいんだというふうなことを、子どもたちにエールとして送ろうというのが、児童文学が生まれた基本的なきっかけだと言われる。
    私もまさにそう思う。
    宝の山をさぐって、次の一冊にめぐり会いたい。
    出来れば皆さんもぜひご一緒にどうぞ。

    • 猫丸(nyancomaru)さん
      nejidonさん
      口絵だけじゃなく、もっとカラーページが欲しいかった、、、
      今は違うのですが、昔はファミリーネームだけで表記されているコト...
      nejidonさん
      口絵だけじゃなく、もっとカラーページが欲しいかった、、、
      今は違うのですが、昔はファミリーネームだけで表記されているコトが多かった。文字数を減らしたかったのかな?
      挿絵画家については、サイトでは不完全。気に入らない!

      「イワンとふしぎなこうま」のようにヴィーヘルトの作品もタイトル変えて復刊されないかな?
      ケストナー「子どもと子どもの本のために」も早く池田香代子訳で復刊希望、、、
      あっまた関係無いコトを書いてしまった。
      2021/03/21
    • 猫丸(nyancomaru)さん
      nejidonさん
      ボチボチ読み始めています。読み返したい本が一杯です、、、

      それとは別に
      「児童図書選書のための総合ブックカタログ Lu...
      nejidonさん
      ボチボチ読み始めています。読み返したい本が一杯です、、、

      それとは別に
      「児童図書選書のための総合ブックカタログ Luppy(るっぴぃ)2021年版」刊行 | ニュースリリース | 株式会社トーハン
      https://www.tohan.jp/news/20210407_1720.html
      2021/04/11
    • 猫丸(nyancomaru)さん
      nejidonさん
      はぁ〜ため息
      「石井桃子のみつ豆」 - グレーテルのかまど - NHK
      https://www.nhk.jp/p/ka...
      nejidonさん
      はぁ〜ため息
      「石井桃子のみつ豆」 - グレーテルのかまど - NHK
      https://www.nhk.jp/p/kamado/ts/VNWVWYKX3Q/episode/te/6V93XQGKK8/
      2021/08/27
  • 若菜晃子さん講演会“岩波少年文庫のいま、むかし そしてこれから” | 教文館ナルニア国
    https://www.kyobunkwan.co.jp/narnia/archives/info/d0f7c190

    murren
    http://www.murren612.com/

    岩波少年文庫のあゆみ 1950-2020 - 岩波書店
    https://www.iwanami.co.jp/book/b559570.html

  • 2020年に創刊70周年を迎えた岩波少年文庫の創刊から現在に至るあゆみを振り返る。
    これまでに刊行されたすべての本の総目録付き。

    子どものころからお世話になった岩波少年文庫が戦後間もない1950年に創刊されていたとは驚きだったが、創刊の計画は戦前からあったらしい。
    戦争が激しくなるにつれ、「日本の将来を暗く考え、子供を大切にする以外に道はないと思った」担当者が外国の優れた児童文学を提供するために奔走したが、出版統制により挫折したという。
    私たちが当たり前のように良質な海外の児童文学を読むことができるのは、このように子どもの未来を考えてくれた人たちの熱い想いによるものなのだ、と感謝しかない。

    本書は、第一章で岩波少年文庫のたどってきた歴史を振り返り、第二章で代表作15作を紹介する。第三章では挿絵、第四章は翻訳に焦点を当てる。そして最後の第五章では、子供を取り巻く社会や環境の変化の中で、児童文学の役割について考える。
    各章の途中では、岩波少年文庫を読んで育った名だたる著名人たちが思い出の本について語っており、自分の好きな本が選ばれていたりするとなんだかうれしくなったりする。

    私にとって岩波少年文庫といえば、ローラ・インガルス・ワイルダーの「ローラ物語」シリーズ。『大草原の小さな家』などローラの少女期は福音館書店から大判の本で刊行されているが、青春期は岩波少年文庫から刊行されていた。
    『長い冬』だったと思うが、ローラが教師にいじめられている妹のために教師に反発して学校を追い出されるエピソードがあって、私にはそんなことできないなあ、と憧れを持って読んだことを覚えている。

    大人になってからは、かつて読んだ名作を持ち運びしやすい文庫で買って再読することがあり、『ゲド戦記』や『モモ』『ホビットの冒険』などは今でも家で読み返している。

    本書を読むと、優れた児童文学を誰もが安心して読むことのできるありがたさをひしひしと感じる。政情が不安定な現代であるが、これからも、どこの国でもその幸せを享受できるような社会であることを改めて願う。

  • 岩波少年文庫の装丁の変遷、取り上げられた作品の背景など少年文庫好きの私には嬉し過ぎる本。

  • なりたちに込めた希望と、あゆみと。
    創刊70周年の記念の一冊。
    既刊本のカタログでもあるなぁ。

    リアルに児童だった頃、数冊かじっただけで
    ミステリ系へ移行してしまったので
    大人になってからポツポツと
    気になったものを読んでいますが
    本当はやっぱり子供時代に
    楽しんでおけば良かったな〜
    という気持ちが捨てきれません。

  •  岩波少年文庫の良き読者とは言えない読書生活であった。
     小学校高学年から背伸びをして、芥川や賢治は普通の文庫本で読み始めたし、『星の王子さま』や『モモ』は函入りの単行本で読み、トールキンの『指輪物語』は別の版元で読んだものの、『ホビットの冒険』まではとうとう手を出さなかった。思い起こすと、そもそも子ども時代の自分の周囲に、少年文庫がなかったかもしれない。
     本書で少年文庫70年のあゆみを読んで、少年文庫に関わった編集者や、作家、訳者、挿画家たちの、子どものために良い本を届けたいとの思いが理解できたし、本がある環境のありがたさをしみじみと感じた。

     巻末の総目録に掲載されている書目には、別の形で既に読んだものもあるが、初めて知ったものも数多い。はるか遠い子ども時代に思いを馳せつつ、先ずは一冊手に取って読むことにしよう、物語に没頭できることを望みながら。

  • 私を作った物語たちよ。

    岩波少年文庫の歴史を紐解く。戦前・戦中から戦後、子どものために物語を、と情熱を注いだ人たちに感謝する。しかし、岩波少年文庫は昔から堅物扱いだったんですね。世代的には1985年からのカラー新装版期に慣れ親しんでいたので、カニグズバーグやモファット兄弟が懐かしい。裏の「発刊に際して」が2000年で変わっていたとは知らなかった。どちらも素敵な文章です。

    外国の美味しいものも、路地裏や屋根裏の楽しみも、岩波少年文庫から教わった。エーミールもふたりのロッテもクローディアもやかまし村の子どもたちもみんな友だち。

    190ページからの「本のある一生を」は、思わず涙が出た。本が手に取れるところにあった子ども時代を過ごせた幸せを思う。生きることの幸福、人間のすばらしさを知り、自分だけの世界を持った。久しく訪れていないその場所は、それでもまだ私の心の片隅で、辛さや寂しさ、悲しさに流されないようにしっかりと私を支えてくれているに違いない。

    懐かしい友達に総目録で再会できたことが嬉しすぎて、あれもこれも読み返したい。

  • 少年文庫創刊20周年記念本。創刊当時の話しとか、カバー、翻訳、挿絵などなど。懐かしい表紙が次々と、今の子どもたちにも受け継がれて行くのだろうか。

  • 岩波少年文庫のよってきたるところが、よく伝わり、とても、面白かったです。

  • 自分の小学生時代はどちらかというと青い鳥文庫ユーザーだったなーと思いつつ手に取ってみたが、そういえばあれやこれは岩波少年文庫で読んだかも、と思い出した。自分が好きで買ってもらったドリトル先生とケストナー(文庫ではなかったけど)のほか、古典系数冊も岩波で持っていた気がする。最近他社からもは子供向け文庫シリーズで新しいものが出てきているようだが、引き続きがんばってほしいと思った。
    これまでの変遷も、出版作品の紹介も興味深く、巻末の総目録では、わくわくハッピーエンドではない児童向け戦争文学のようなのもあるのを知った。大人になってしまったけれど色々読んでみたく思った。
    石井桃子さんの名前は何となく本棚の中で見て頭に残っていたが、この文庫の設立の立役者とは知らなかった。

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著者プロフィール

1968年兵庫県神戸市生まれ。編集者、文筆家。学習院大学文学部国文学科卒業後、山と溪谷社入社。『wandel』編集長、『山と溪谷』副編集長を経て独立。山や自然、旅に関する雑誌、書籍を編集、執筆。著書に『東京近郊ミニハイク』(小学館)、『東京周辺ヒルトップ散歩』(河出書房新社)、『徒歩旅行』(暮しの手帖社)、『地元菓子』、『石井桃子のことば』(新潮社)、『東京甘味食堂』(講談社文庫)、『岩波少年文庫のあゆみ』など多数。「街と山のあいだ」をテーマにした小冊子『murren』編集・発行人。随筆集『街と山のあいだ』は増刷を重ね、旅の随筆集第一集『旅の断片』は2020年に第5回斎藤茂太賞を受賞した。

「2021年 『途上の旅』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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