銀のシギ (ファージョン作品集 6)

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  • Amazon.co.jp ・本 (291ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784001150865

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  • 英国の昔話『トム・ティット・トット』を読んだときは軽い衝撃を受けた。
    ぐうたらで怠け者の主人公の女の子。
    その見事なダメっぷりはそのままで、何故か難事を切り抜けて幸せになる。
    それでいいの?という展開に、笑ったり呆れたり嫌気がさしたり(笑)。
    思えば、他国の昔話にはこの類が相当多い。
    手段など一切問わず、ただのし上がった者勝ち。
    まぁ、古来から日本はそれで外交に苦労してきたんだよね、なんてことも考えたり。

    ところがそんな英国の昔話も、ファージョンの手にかかるとこんなに面白くなる。
    主人公の女の子はやはり食いしん坊のままだけど(笑)、こちらは憎めない純粋さと優しさを持ち合わせている。
    そんな女の子の名前は「ドル」。
    「ボル」と言う名の妹がいて、こちらはとても好奇心旺盛で勇気凛々、行動力抜群。
    昔話では偶然「小鬼」の名前を知ることになっているが、こちらでは妹の「ボル」の勇気ある行動でそれをつきとめる。

    姉の方の「ドル」も、ただタナボタを待つぼんやりした性格ではない。
    ふたり姉妹の生き生きとしたお話になっていて、そこに姉妹の男のきょうだいたちや王様の乳母や召使、特に王様の際立った性格が本当に面白くて飽きさせない。
    小さなエピソードをいくつも重ね、それらがみんなユーモラスでテンポが良く、とても楽しい。
    そして「ボル」の冒険部分ではやはりワクワクさせられる。
    たとえお話の中で、勇気のある賢い女の子は思わず応援してしまう。

    ところで、タイトルになっている「銀のシギ」は?
    これがなんとも不思議な登場の仕方で、別れの場面もそうなのだ。
    タイトルになるくらいだから、人間の言葉を喋ったり、ここぞというときに姉妹を助けて、事と次第によってはふたりを乗せて飛んだりもするかと思いきや、そんなことは起こらない。
    たぶん、何かしら理解してはいるのだろうな、という存在でシギはシギのまま。
    しかしその使い方が非常にうまくて、何となく「ボル」の心を支え続けるのだ。
    しかも、このシギの登場するところは詩情豊かで美しい。

    もともとは戯曲としてファージョンは書いたものらしい。
    日本でアニメにしてもじゅうぶん面白さが伝わると思うが、どうだろう。
    ごちゃ混ぜチャンプルーのような魅力があるが、底に流れるものは力を合わせて難局を乗り切る姉妹の話。
    あ、でもアニメにしたら石井桃子さんの美しい日本語が伝わらないか。
    じゃ、このままでいいのかな。

  • 近くの図書館においてあって、10年以上誰も借りていないけど、祖母が買ってくれた思い出の本。勇気を出して借りてきた。

    幻想的で美しいシギと月の世界、どたばたと騒がしい王様や家臣たち、こざかしい悪魔の存在感、末の妹の行動力、美しいハーモニーになって、生きてることへの喜びが伝わってくる気がする。

  • 物語もいいけど挿絵が好き。

  • ファージョンというと、本の小べや1、2とサブタイトルのついた岩波少年文庫の『ムギと王さま』、『天国を出ていく』が浮かぶ。「銀のシギ」は、こないだ読んでいた柚木麻子の『オール・ノット』で出てきて、ファージョンの本かと図書館で借りてみた。

    ▼「ダンプリングって美味しいんですね。初めて食べました」
     四葉さんにおすすめしてもらったファージョン「銀のシギ」という児童小説で知って以来、どんな味がするんだろうとずっと気になっていたのだ。(p.46、『オール・ノット』)
    古い本だからか、持ち帰るときに(重っっっ)と思うほど、ずっしり腕にきた。返却期限まぎわに、読みはじめたら面白くて、そのまま読んでしまう。石井桃子の訳文がいい。絵のシェパードは、くまのプーさんの挿絵の人か。

    『銀のシギ』は、昔話の「トム・ティット・トット」がベースになっている。(この話は、巻末の訳者あとがきで紹介されている。) こんな話だ。

    食いしんぼうで、なまけもの(そして見目うるわしい)娘が、母の焼いたパイをひとりで5つも食べてしまう。そのパイは焼きすぎて固くなってしまったので、しばらく置いておくと「もどる」からと母は言い、娘は(パイが戻ってくるなら、自分が食べてしまってもだいじょうぶ)と思って、ぱくぱくと全部食べてしまった。

    母は、置いておくと水分がまわってパイが(柔らかく)もどると言ったのだが、娘は、目の前から無くなったパイがしばらくしたら戻ってくると思いこんだのだ。

    うちの子が5つもパイを食べた、5つも、5つも、5つも!と母が歌っていると、その歌を耳にした王さまが「楽しそうな歌だ、もういちど」と所望。娘がひとりで5つもパイを食べたとは恥ずかしくて歌えず、ことばを変えて「うちの子が糸を5枷もつむいだ、5枷も、5枷も、5枷も」と歌う。

    1日に5枷も糸をつむげるとは、ぜひお妃になってほしい、1年のうち11ヶ月は好きに遊んで暮らしていい。残りの1ヶ月は、毎日5枷の糸をつむいでもらう。それができなかったら、娘の首をはねる!それでいいかと問われた母は、1年後にはどうにかなるだろうと、それでかまわないと肯い、娘はお妃に。

    楽しく遊んで暮らした11ヶ月のあと、娘は麻とともに糸車の部屋に。毎日5枷をつむぐようにと言われ、パイを5つ食べられても、糸をつむげるわけのない娘はしくしくと泣く。そこへ現れた小鬼が、糸をつむいでやる代わりに、自分の名を当てよと言う。1ヶ月の間に小鬼の名を当てられなければ、娘はじぶんのもの!

    娘は小鬼から毎日5枷の糸をうけとるが、名前はまったく当てられない。もうあと1日という夜に、王さまとの会話から小鬼の名がわかり、めでたしめでたし。

    ファージョンは、この「トム・ティット・トット」の登場人物をもっと増やす。夫亡きあと、粉挽きの仕事に励むコドリングかあちゃんに6人の子ども。4人は息子、2人は娘。18歳の娘ドルは、器量よしだが、ものぐさで怠け者。12歳のポルは何でも知りたがる好奇心旺盛な娘。漁師のチャーリーにいろんなことを教わり、怪我をした銀のシギのケアをするのはこの妹のポル。王さまの乳母や使用人たちのそれぞれの性格もじつにおもしろく描かれる。

    5つのパイは、昼ごはん用の12個のダンプリングになり、ドルは半時間のあいだに1ダースのダンプリングを食べてしまう。そのぶん、紡ぐ糸の量もスケールが大きくなって、「半時間のあいだに1ダースの麻糸をつむいだ」となる。王さまに嫁いだドルには、うつくしい赤ん坊ができ、小鬼は「自分の名が当てられなければ、おまえと赤ん坊をもらう」と。あれやこれやとあげてみるも、名前はぜんぜん当たらない。

    ここで活躍するのが、妹のポル。チャーリーや銀のシギにも助けられ、ぎりぎりのところで姉の窮地を救う!

    ファージョンの本は、ものによっては品切れのまま。岩波のファージョン作品集も全て品切れで、図書館で借り出すことになるのだが、昔の造本がえらい重いので、岩波少年文庫あたりで揃うといいなーと思う。その少年文庫も、『ムギと王さま』のほかは品切れなので、再版してほしい。とりあえず、図書館から消えないように、順に借りようと思う。重いけど。

    (2023年8月13日了)

    ※過去ログの「ファージョン」
    『ムギと王さま 本の小べや 1』
    http://we23randoku.blog.fc2.com/blog-entry-954.html
    『町かどのジム』
    http://we23randoku.blog.fc2.com/blog-entry-4469.html
    『マローンおばさん』
    http://we23randoku.blog.fc2.com/blog-entry-4485.html
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