帰還

  • 岩波書店
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  • Amazon.co.jp ・本 (348ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784001155297

感想・レビュー・書評

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  • ゲド戦記第4部。時系列で言うと「第3部 最果ての島へ」の直後だが、書かれたのは3部から18年後で、第2部の主人公テナーが、本書の主人公になっている。

    テナーは第2部で墓所から出た後は、ゲドの師であるオジオンのところにしばらく留まったけれど、普通の農夫と結婚して娘と息子を授かり、魔法とも王とも縁のないごくごく普通の農家のおかみさんになったらしい。もう40歳で、夫は亡くなり、二人の子供も家を出ている。
    ともに暮らしているのは、両親とその仲間から酷い虐待を受けて酷い火傷を負う少女、テルー。

     えーっとですね、まずこの「テルー」と「テナー」がごっちゃになりまして(^_^;)
     英語だと区別つくの?日本語だと油断するとどっちがどっちかわからなくなるんだが(-_-;)

    そんなテナーのもとに「オジオンが死にそうだ」という知らせが来て、オジオンのもとに向かう。
    オジオンはテルーを見て「教えてやってくれ」と言い残す。
    しかしテナーは魔法はほとんど仕えず、何をどうして良いのか戸惑う日々。

    そこへ弱りきったゲドを背中に乗せて竜がやってくる。
    なお、竜と人間とが元は同じ種族だったけれど、空を飛ぶことを選んだ竜と、地上の生活を選んだ人間に分かれて、それでも竜に近い人間もいる、ということが示される。


    ゲドとテナー25年ぶりの再会。
    ゲドは第三部の黄泉の世界で魔法の力を全て使い果たして、世間を全く知らないただの初老の男になって放り出された状態。面倒なのは、しかし周りの人間はゲドに大魔法使いであるべきだと思っていること。

    そしてゲドが共に黄泉の国に導き世界を救った若き王のレバンネンは、ゲドが戻ってくれることを望み、そして予言のあった「女の大賢人」も探していた。

    この第4部「帰還」は、全体的に男と女のことが全面に出ていて今までと雰囲気が違った。
    テナーは亡夫とゲドを比べて、農夫で妻と娘にかしずかれるのを当たり前として食器を流しに持ってゆくくとしかしない一般的な男(夫や息子)と、一人暮らしだから一緒に家事ができるゲドとの違いに思いを馳せる。
    またテナーとゲドとで、男と女の違いを論じもする。大魔法使いや大賢人は男ばかりで女はせいぜいがまじない師しかいない。男と女の性質のどこに違いがあるのだろう?
    性的なことも書かれていて、それは暴力的なものだったり、暴力に怯えたり、または愛のある行為だったり初体験だったり…。たしかに人間の自然の行為ではあるんだが、いままでの3部でまったく触れられていなかった性にかんすることをはっきり書かれてちょっと戸惑った。

    女性の立場が窮屈な世界のためか、本書も閉塞感に満ちていた。
    主要人物も、テナーは「腕輪をもたらした闇の巫女」という肩書はついて回るんだがいまはただの普通のおかみさんだ。
    テルーは幼いときに父とその仲間から性暴力を受け、その後火に投げ込まれて顔の半分と片手は酷い火傷をおってしまい、周りの人たちから好奇の目で見られたり「あんな怪我をするのは本人の業が悪い」と言われる始末で、内相的な性質になっている。
    ゲドは3巻の出来事により、子供の頃からもっていた魔法を無くしてしまった。
    そこへ、周りの人間や、対立する領主の魔法使いだとか、テルーを虐待した男とかが彼らを狙ってくる。終盤では実際にテナーとゲドが彼らに魔法で酷い屈辱を合わされたりするのでかなり辛い。

    一応ラストでは、テルーが魔法の片鱗を見せて悪漢たちを撃退する。そして事実上の夫婦となったテルーとゲド、養女のテルーで新たな生活を始める。
    きっと次の巻ではテルーが魔法使いになる話だな。
    しかし全体的に息苦しい詠み心地だったなーー

    冒頭で、テナーがテルーを助ける場面は力強かった。
    <「わたしはやつらに仕えたが、やがてやつらのもとを去った。やつらの手におまえを渡すなんて、誰がするものか」子供はじっとゴハを見つめ、 ーいや、何も見えてはいなかったかもしれないが ー 息をしようとした。何度も何度も、繰り返し繰り返し、息をしようとした。P17>

    竜とテナーの出会いも印象的。
    <まもなく竜は頭を上げた。翼の金属音をたてて半分ほど上がった。流派それから足をゲドとは反対のほうにむけ、崖っぷちの方向に二、三歩その足を運んだ。それからギザギザの一列に並ぶ首をひねってテナーの方を振り返り、いま一度まっすぐ彼女を見つめると「テッセ カレシン」と釜の火を思わせるかわいた大音声を上げた。
    海風が竜の半開きの翼に当たって、ヒューヒューと音を立てた。
    「テッセ テナー」女も震える。けれど、はっきりした声で答えた。P64>

    • マヤ@文学淑女さん
      最近全6巻を再読しました。内容をけっこう忘れていたのですが、今回読んだら4巻はガッカリ感が強かったです…。「全体的に息苦しい読み心地」という...
      最近全6巻を再読しました。内容をけっこう忘れていたのですが、今回読んだら4巻はガッカリ感が強かったです…。「全体的に息苦しい読み心地」というの、わかる気がします。
      カレシンが登場するところはハッとしますね。
      2022/04/01
    • 淳水堂さん
      マヤさんこんにちは。
      4巻は、3巻までと雰囲気が違いますよね。
      そりゃーこのゲド戦記の世界の人々の暮らし方を読めば、力があるものが強い社...
      マヤさんこんにちは。
      4巻は、3巻までと雰囲気が違いますよね。
      そりゃーこのゲド戦記の世界の人々の暮らし方を読めば、力があるものが強い社会だということは感じるけれど、女性の生きづらさだとか、性暴力や虐待、相手を馬鹿にしたり貶めたりしようとする描写が続くと読んでいてつらい。。
      6巻の最後に、ゲド戦記全体の世界の説明がありますが、作者は歴史や宗教や言語や民族を細かく考えていことが分かってすごいなーーとは思いました。
      2022/04/01
    • マヤ@文学淑女さん
      淳水堂さん、こんにちは。ブクログはしばらくご無沙汰しており、久しぶりに開きました。
      海外文学のおすすめを情報収集したく、淳水堂さんのTwit...
      淳水堂さん、こんにちは。ブクログはしばらくご無沙汰しており、久しぶりに開きました。
      海外文学のおすすめを情報収集したく、淳水堂さんのTwitterをフォローさせてもらいました(あちらでは「まやなか」という名前です)。こちらでご挨拶失礼いたします。どうぞよろしくお願いします。
      2022/04/01
  • 小学6年生と中学生から対象となっているけど、果たして理解出来るのか? 性暴力や性行為について、ぼかしたりはっきり書いたりしている。何を書いてあるのか読解力のある児童なら分かると思う。でもその向こうにある意味は? いつか大人になってから読み返してくれれば良いと作者は考えているのかな? それとも親と話して欲しいと?

    訳者あとがきにある、ル=グウィンのスピーチ、読んでみたい。

    男と女の、支配しされるという問題。男が当然のように力で女を捩じ伏せる。夫が妻を、息子が母を。村の男が得体の知れない女を。30年前の本だけど今もそんなには変わってない。
    いつかこういう内容の本を読んで、「昔はそうだったんだ、今とは違うね」って思える時代がくるのだろうか?

  •  前の3冊のどれよりも闇が深かった。これまで作者の性別を意識せずに読んでたけどこれは女性にしか書けないよな。世界を支配する男尊女卑に対する静かな怒りを感じた。
     それからテルーの外見で人々がひどい言葉を浴びせたり離れていったりするのに対してテナーがこの子が何をしたの?と怒りを顕にするのには、同調すると同時に自分も偏見でものを言ったり判断したりしてないかと見つめ直すきっかけになった。
     私は第2巻が終わった時点でテナーが自由をつかみとったのかと思っていた。けれどその時はまだ自由の本当意味が分かっていなくて、魔法使い、女、妻、母親といった既存の器を選んでそれに自分を押し込んで生きていたのかもしれない。もちろん以前のように隷従していたわけではないけれど。真の自由、自分らしく生きるってなんなんだろう。自問自答してしまう。
     途中、ゲドとテナーが魔法、男、女について対話する場面は難しくて言いたいことが分からなかった。ファンタジーなのに、ほんと大人向け。

  • これはもう児童書でもファンタジーでもない。ゲドやテナーは老いと向き合わざるを得なくなり、ゲドは情けないほど弱さをさらけ出す。さらに児童虐待、外見からの不条理な差別、女性差別問題に対峙するテナーの怒りが全編にみちている。共感しながらも、ちょっと疲れた。じっくり読む本。

  •  いやぁ〜〜!!
     ものすごいいろんなことを考えさせられた一冊。
     とっても長く感じた。読み終わってから、思い出していたらずっと昔のことのように思える程だった。

     私がゲド戦記1を読んだのは中学生の時で、以来15年近くたってからやっと、その続きを読んだのだが(もちろん、1を再読してからね)、この4巻、当時読んでいたらはたして楽しめたかどうか。
     竜と魔法、歌に英雄……中学生だった当時、そういったものを読んでは心を躍らせてた、ファンタジーは大好きな分野で、他の友達といろんな想像世界を作ったりもした、だけどこの4巻は、ちょっと毛色が違う。
     今の私が、作中のテナーに近い位置にいるから、こんなにインパクトがあるように思う。
     中学生だった私。
     それから今まで、それなりの年月でそれなりにいろいろあったのと同様に、テナー(とゲド)の若い頃の出会いから25年の月日が流れる間にあったことが、うまいこと重なって見えているのかな。
     はっきりいって、視点はテナーで、ゲドはフツーの人になってしまって、今回起こることで派手な魔法は出てこない、終盤の、一気に消されるww 館の魔法使いの件くらいなもんか。
     ほとんどが、子育てを終えた主婦がその先の生活を考えてるエッセイみたいな感じでありw
     

     読み始めていってまず、テナーが普通の農夫と結婚して、二人も子供を育て上げたというのにビックリした。
     けけけけけ、けけ、けっこんん!? みたいなw
     テナーはオジオンから真実の言葉を学ぶより、普通の暮らしを選んだ。女として、妻として、母として、その役割をこなし、"終えた"と言う。
     時代は違うけど、終えた、というのはちょっとないよなぁ、と思った。
     女同士の会話の中で、女達は漠然と、だけど日々こまこまと積み重なる不満などから、男女の違い(体の構造から考え方から社会における地位や役割からすべてにおいて)についての話をする。この辺りは、いつの時代も変わらないのかもね。
     男女が社会的に公平に…とか女性の社会進出とかむつかしいことはよくわからないし、私にとっては今のところ、家の中でこなさなければならない家事と育児と日々のこまごましたことで精一杯だ。
     たぶん、時代をさかのぼればさかのぼるほど、家事育児は今よりずっと大変だったわけで、そうすると、今の私なんかよりずっと社会進出とか言ってるヒマはなく、家族の食べ物を用意したりするうちに一生を終えていってたんだろう。

     2巻でもそうだった、3巻でも同じだった、4巻でもやっぱり、だめだった。
     私、弱くなったゲド、みてられないww
     普通の人に戻ったゲドならいいんだけど、精神的に弱って独りヤギ飼いとして時間をくれ、と去って行くとことか……みていられなかった。
     だけどやっぱり、自分のすべてであったものがまったくなくなってしまうって、そういうことなのかな。今まですべてだったアチュアンの墓を出たテナーと同じように。何も知らない新しい世界にでていく時と同じように?
     でもゲドの苦悩には、あんまり、喜ばしい予感というものはなくて、ただ疲れ果てて目的がなくなった男、にしか見えない。
     
     男は力。力がなくなれば、男もなくなる。
     では、女は?
     私は女で、母で、妻なので、むしろそっちの方の答えが知りたかったけど、書いていなかった。今の私たちは、別に女だから家事したり育児したりするわけではないと思うのね。少なくとも私は違うよ。自分と、子供と、夫と、みんなで普通に生活していこうと思って、家を掃除したり洗濯したりしているだけだもの。
     若かった頃は、正直自分が女であることって何の利点もないと感じてた、だけど今ははっきり言えるんだ、女の方が、複雑で、面白いって。

     魔法使いの処女と童貞(のことを言ってたんだと思うけど)の話は、どーも意味がわからなかった。ゲドが15のままだというの、そういう意味なのかな。原文で見てみたいな、なんとなく訳が抽象的すぎてイマイチ、ピンとこなかったです。男の魔法使いは童貞だ、と言っているのか? 自分にも魔法をかけてしまう、というコケばばの説はどういう意味でいってるんだかちょっとわからなかったのが残念。 男は違うのに、女は処女でないと高貴な魔法使いにはなれないといっているのにテナーが怒っていたのかな、所詮女はそういう役割もになっているんだから、どちらにせよ高貴な"知"とかいうモンは女にはムリだとか、そういうことなんだろうか?

     テナーがゲドに「結婚したことを、怒ると思った」と言った、その意味も、テナーの意図が汲み取りきれなかった。テナーは出会った時からゲドのことが好きで、多分、ゲドもそうで、だからゲドが旅している間に別の男の人と幸せな結婚をしたことを、怒るかな、という意味だったのかなぁ。

     それにしても長い間をおいて、結ばれる二人は、読んでいて感慨深かった。
     むむん。

     ル・アルビの魔法使いのかけた呪い…あれは怖かった。
     このシリーズに出て来る呪いや邪なもののつけこみかたってチョー怖い。
     じわじわって、少しずつすこしずつ浸食してくるの。
     魔法使いとケンカした後で、夜にテナーにかけられた呪いも怖ければ、一旦違う街に逃げたテナーたちを、わざわざ呪いで呼び戻すのもこわい。テナーから言葉や思考を奪い、混乱させ、地面を這って移動させたりとか、きもちわるすぎる。。
     あっというまに焼けちゃったけどww いい気味だ。
     
     魔法を失ったゲドがなぜテナーの家に悪さをしに来たごろつきに偶然出会えたのか。
     その二人の論議もおもしろいなぁと思った。
     力は、なくなってしまったけど、もともとあった素質みたいなのがそうさせた、っていうやつね。大きなながれみたいなものに、何か役割をまかされる素質、みたいなかんじかな? 魔法使いがすることは、なすべきことをしているだけだ。かっこいい。

     5冊目は、訳の関係でゲド戦記5 アースシーの風 が物語の続きのようだけど、私はあえて、外伝としてでている 6巻を先に読もうと思う。
     ホントは、なんでテルーが竜と古代の言葉をしゃべってたのかとか、あとがきにもあったけど、テルーはどうも竜に連れられてどっかに行くことになるようだとか、気になることだらけなんだけどねw

     魔法を使えなくなったゲドは、ラスト一冊で、どんなことをするのか?
     お楽しみ。

  • 児童書へ分類するのは異議あり。ファンタジーの衣を被っているけれど、内容は泥臭い人間のあり様を綿密な心理とともに描いた作品。さらに「最後の書」ではない!

  • ゲド戦記4、最後の書。最後じゃなかったけど。

    テハヌー(テルー)の登場と、ゲドとテナーの再会。
    新たな家族のかたち。

    哲学、生きる上でのあり方、新たな問いを目の前に引き出してくれる。それがこれまでのゲド戦記に対する印象だった。
    しかし、さすがに今回の最後のアスペンが仕掛けた一連の流れにはビビった。これ本当に児童文学?

  • 大人になってから読んでシリーズの中で一番面白く感じ、かつ好きになった作品。
    ファンタジーといわれるカテゴリーの中で壮年期も過ぎた女性にここまで視点をあてた作品は少ないと思う。
    幼い頃ゲドに助けられた後、彼とは別の人生を歩み子供を産み、さらには未亡人になった後のテナー。
    その彼女とゲドとの間に交わされる愛情は決して派手なものではない。けれど、それまでの互いの人生を過ごし抜いてきた2人だからこその関係性が響いた。
    多分間違いなくこれを子供の頃に読んでも理解は出来なかった。

  • この前ゲドやオジオンに会った時には、ゲド戦記はまだ三部作だった。考えてみたら十年ぶり以上。<BR>
    私の理想の魔法使いは今でも、ガンダルフでもハリーでもハウルでもなくこのアーキペラゴの魔法使いたちだ。知と力の持つ様々な意味を体現するロークの賢人たち。変わったなと感じさせる部分もあったけれど、この世界の空気は心地よいままだった。<BR>
    [05.10.08]<t市

  • テナーとテルーの物語。男尊女卑、性暴力など、現代の社会問題にも読者に問いかける作品。テーマは相変わらず深いけれど、地位や名誉もすべて取り払われた時、本当の愛に気づくという点で、シリーズの中では一番明るい面を持っていて、よみやすかった。

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