ムーンレディの記憶

  • 岩波書店
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  • Amazon.co.jp ・本 (270ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784001156249

作品紹介・あらすじ

転校生のアメディオは、ウィリアムといっしょに、風変わりなゼンダー夫人の大邸宅で家財処分の仕事を手伝ううちに、モディリアーニのヌード画を発見する。ところがその絵には、過去から現在にわたる驚くべき真実が隠されていた。

感想・レビュー・書評

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  • 2013年4月に、83歳で亡くなられたカニグズバーグの遺作。
    一作読むごとに前作を上回る感動をくれる作家で、今回も圧巻。
    息を詰めるようにして読み終え、しばらくは言葉も出なかった。
    心の中に「クローディア」や「ジェニファ」や「キャロライン」が棲み付いているひと、これは読まねばですよ。

    ニューヨークからフロリダに越してきた12歳の少年・アメディオ。
    ふとした縁で知り合った同級生のウィリアムズと、隣の大邸宅・ゼンダー家の家財を処分する仕事を手伝うことになる。
    一風変わったゼンダー夫人は、かつてヨーロッパで活躍したオペラ歌手。
    ウィリアムの母親は家財を売りさばくプロで、アメディオの願いは何かを発見すること。
    時が止まったようなゼンダー家で見つけたのは、一枚のモディリアーニの絵だ。
    その絵には、言い知れぬ秘密が隠されていた。。。

    タイトルの「ムーンレディ」とは、この絵のタイトル。
    三分の二ほど読んだところで満を持したように現れ、ここから痺れるような疾走感をもってラストまで持っていかれる。

    アメディオの名付け親・ピーターは腕利きのキュレーター。
    ここにピーターの父親の物語もあり母親も加わる。
    ミステリーの要素を含みながら、何層もの伏線を絡めて過去と現代を往復しては展開する。
    複雑な構成だがいつものように一切妥協のない、読者に歩み寄らない潔さだ。
    成長期の子どもの抱える細かな心の動きと複雑な感受性のひだ。
    この辺りの描き方はカニグズバーグの真骨頂。唸るほどの上手さだ。

    大人たちはみな、子どもたちの話をしっかり聞き、子どもの自尊心を損ねることなくサポートする。時には彼らの言葉にしにくい感情の表現方法を教えてもくれる。
    一見病んだような大人が登場しても、そうせずには生きていけないものがあり、むしろ純粋で芯が通っている。
    今回はゼンダー夫人がその役で、アメディオは夫人を終始応援し続ける立場だ。
    子どもだって、大人と同じ感性は持っている。上手く言葉に出来ないだけだ。

    ユダヤ人の血を持つカニグズバーグは、本書でカミングアウトする。
    ナチスドイツが行った「退廃芸術排斥運動」が生み出した悲劇がそれだ。
    事実が明るみに出た時、大人も子どもも一緒に涙を流す。
    柔らかく繊細な心をつつみ込む筆致に、私も思わず涙した。
    大切なものを守ろうとする少年ふたりの情熱に、拍手!拍手!となる。

    「人の90%は目に見えない。
    人間というものはもっと見えているつもりなのかもしれないけれど、10%しか見えていないの。」

    ナチスドイツの没収した絵を持ち続けたゼンダー夫人。
    苦い真実を抱えて生きざるを得なかった長い日々が、物語に深い陰影を与えている。
    全ては「ユダヤ人」「同性愛者」「障がい者」という人間の一面だけで切り捨てようとした歴史の過ちから始まっている。過去から何を学ぶか。
    真実を見きわめる勇気と人を理解することの難しさを、少年たちの眼を通して学ぶ傑作。
    19日の命日には、もう一冊カニグズバーグを読もう。

    • nejidonさん
      夜型さん♪
      田中美知太郎さんは他にもおすすめがあったのですよね。
      そのタイトルもいいですよねぇ。いたく惹かれます。
      はい、リストに入れ...
      夜型さん♪
      田中美知太郎さんは他にもおすすめがあったのですよね。
      そのタイトルもいいですよねぇ。いたく惹かれます。
      はい、リストに入れさせていただきます!!
      2021/04/02
    • 猫丸(nyancomaru)さん
      nejidonさん
      ご無沙汰しております
      少年文庫化希望の一冊。
      大人になる少し前の子ども達に投げ掛けつつ、大人に鋭く問う、、、
      さて次は...
      nejidonさん
      ご無沙汰しております
      少年文庫化希望の一冊。
      大人になる少し前の子ども達に投げ掛けつつ、大人に鋭く問う、、、
      さて次は何を挙げてくださるなかな?愉しみにしておりますnejidonさん
      2021/04/06
    • 猫丸(nyancomaru)さん
      夜型さん nejidonさん
      猫は気に入らない!
      まぁ平川祐弘の言ってるコトだから、都合の良いように切り取られている可能性もありますが、、、...
      夜型さん nejidonさん
      猫は気に入らない!
      まぁ平川祐弘の言ってるコトだから、都合の良いように切り取られている可能性もありますが、、、

      【正論】「台風を放棄する」と憲法に書けば台風が来なくなるのか? 危惧抱く教養主義の衰退 平川祐弘(東大名誉教授) - 産経ニュース
      https://www.sankei.com/smp/column/news/151102/clm1511020001-s.html
      2021/04/11
  • 古物鑑定、骨董屋、フランス、モディリアーニ。
    古いお屋敷の図書室。ほこりの匂い。風変わりな老女。ひも解いていかれる、亡くなった家族の歴史。
    個人的に関わりの深いキーワードだらけで、胸がいっぱいになった。
    散りばめられた伏線、伏線、また伏線、そして後半で物語は一気にスパークしてラストまで。ページをめくる指が止められなかった。

    孤独を抱えながら、決して人に当たったりせず、誇り高く生きている登場人物たち全員が魅力的で、主人公が複数いるような物語だった。

    こんなスリリングなおはなしを、齢80で書き上げるカニグズバーグさん、かっこいい。

    最大の謎はこの素晴らしい本が絶版であるということです。

  • 転校生アメディオは「透明人間」であることをやめるために「発見」をすることを望んでいた。
    ある日アメディオは、隣家のゼンダー夫人「アイーダ・リリー・タル」の大邸宅で家財処分の仕事をするウィリアムとその母親の手伝いをすることになる。

    アメディオの父親とアメディオの名付け親ピーターは、「あの」スカイラー通り19番地の三つの塔を守る運動をしていた!という設定にしびれる。

  • アメリカのサンマロという町に転校生としてやってきたアメディオ。
    そこでできた親友ウィリアムとその母親の仕事(家財の鑑定&処分)
    を手伝うようになる。そのとき請け負っていた仕事はアメディオの隣
    に住む、元オペラ歌手で裕福な(だった?)ゼンダーさんの家財処分。
    このゼンダーさんが風変わりな人で、振り回されながらもいろいろと
    考えさせられたりもして毎日を過ごす。
    そんなある日、本棚の奥に隠されたように置いてある一枚の額絵を
    見つける。その絵に不思議と惹きつけられるアメディオ。
    その絵について考えていくうちに、名付け親のピーターやその両親
    をめぐる過去が絡んでいるのではないかと気づく。
    最後にはその謎、秘密が解き明かされていくのだけれど、それが
    とても切ない、悲しい。第二次世界大戦の負の部分。
    たくさんの複線が張られているみたいで、きっとたくさん見落としてる
    から、これ以上書けないのだけど…。
    でも、今でもたまに「○○の行方不明だった絵が△△年振りに発見!」
    なんていうニュースがあるけれど、そういった絵には、この話と同じ
    ような過去が秘められているのではないかしら?と思ったのでした。

  • とってもよかったです

  •  主な登場人物は、転校生のアメディオ、同じミドルスクールに通うウィリアム、隣人でウィリアムの母に家財の処分を依頼しているゼンダーさん、名付け親でシボイガン・アートセンターの館長・ピーター。
     ナチスドイツの時代、近代芸術作品が“退廃的である”と押収された過去があった。ピーターは、それらの作品を集めた展示会・「禁じられた過去」展を企画していた。ウィリアム母子の家財処分の仕事を手伝っていたアメディオは、モディリアーニの絵を発見する。この絵に隠された秘密とは…!?

  • カニグズバーグは好きで全部読んでいるけど、この本は読みすすむのに時間がかかった。相変わらず理屈っぽいといえばそれまでなのだけど……。物語というよりも、人間関係の微妙な機微とか、空気とか、自分の立ち位置のようなものがすごく大きなウエイトを占めていて、だから「ここ原文ではなんて書いてあるんだろう」といちいち気になってしまうのかもしれない。やな読者。

  • ここにレビューを書きました。

    http://blog.goo.ne.jp/luar_28/e/0be4036335dfd0ae50847394a86840be

  • 原著発行年2007年

  • 思っていたよりも奥行きのあるストーリーでした。
    読み終わった後、「ほぅっ」と満足のため息。

    主人公・アメディオは夢を持っていました。
    その夢とは、ラスコーの洞窟壁画を発見した少年たちのように、誰もが気づいていないすごいものを自分の手で発見すること。
    ある日アメディオは、友人のウィリアムと一緒に、元オペラ歌手のゼンダー夫人の家財処分を手伝う中で、1枚のヌード画を見つけます…。

    物語の背景には、第二次世界大戦時、ナチスドイツによる芸術の迫害があります。
    ナチスの認めたもの以外は、「退廃芸術」とされたのです。
    物語の背景が明らかになるにつれ、ぐいぐいストーリーに引き込まれていきます。

    著者は執筆時、80歳間近だったはずなのに、このみずみずしさとパワーはすごい。

  • 相変わらず難しい、にもかかわらず、なぜか、この人の作品は好き。
    児童書に分類されているけど、これが理解できる子供って、怖い。
    この人、芸術とかは美術にものすごく詳しいのかしら?

  • 『エリコの丘で』でもそうだったけど、
    老女がかっこいい。
    作者が老年であることとも関係あるのか。

    断然、そうかな?

  • 中学生高学年向けかな。

    欧州の芸術と戦争という関係を理解できます。

    アメリカの小説です。

  • 転校生のアメディオは、ウィリアムといっしょに、風変わりなゼンダー夫人の大邸宅で家財処分の仕事を手伝ううちに、モディリアーニのヌード画を発見する。ところがその絵には、過去から現在にわたる驚くべき真実が隠されていた

  • アメディオが引っ越してきた家の隣の大邸宅には、もとオペラ歌手のゼンダーさんというおばあさんが一人で住んでいた。
    ゼンダーさんが高齢者向けのマンションに引っ越すことになり、家財道具を整理するために専門家が来た。
    世紀の大発見を夢見るアメディオは、その手伝いをしたいと申し出た。

    アメディオが図書室で見つけた1枚の絵は、モディリアーニ。
    アメディオに見つけてくれと言いたげに、その絵は隠されていた。
    実は、その絵には過去の大戦にまつわる物語があったのだ。

    ”ロザ・ヴィンケル”
    ナチスは、あらゆる偏見で人々を差別していました。
    でもそれは、まだ現代でも人々の心の奥底にあるものなのかもしれません。

  • 面白かった。この薄い本に含まれているものの多いことに驚く。 ただ11か12くらいの男の子が母親のことを「かあちゃん」と言うだろうか?

  • ル=グウィンもそうだけれど、子どもの頃から読み続けている作家の新作が、いまだに読めるということは、つくづく凄いことだなと思う。
    カニグズバーグらしいドライなユーモアと気の利いた簡潔な表現は健在。ちょっと大人びた子どもたちの姿を生き生きと描き出しているのも、魅力的な大人のバイプレーヤーの存在もいつも通りだが、今回は特に、少年たちの影が薄く感じられるほど、彼らを取り巻く大人たちが圧倒的な存在感をもって描かれている。
    アメディオの名付け親で、アートセンター館長のピーター・ヴァンダーワール。自らのスタイルを嬉々として作り上げ、いかにも人生楽しんでいます、という感じが素敵。ナチスにより退廃“芸術”とされた作品に関して彼が書いたパンフレットの解説文は、端的でユーモラスで、政治が芸術を規制することの愚かしさがストレートに伝わってくる。
    彼の母親、不幸な結婚生活を経験したように思われるウィリアムの母親の存在感もなかなかのものだが、何といってもゼンダー夫人。過去に生きているようで、現実との接点も見失っていない。命令好きだけれど暴君ではない。自分でガソリンは入れられないけれど、車の運転はワイルド。腹立たしい時もあるけれど憎めない。“いつもおもしろく”て、“友だちでいるのは大変だけど、特別な気持ちにさせてくれる”、そんなゼンダー夫人が魅力的。
    このゼンダー夫人とピーターの母が、モディリアーニの絵をめぐって対峙する場面がこの作品のハイライトとも言えると思うのだが、腑に落ちない点がいくつか・・・
    まずは、人を怒らせることを良しとしない、気配り・機転のきく人であるはずのピーターの母親の、ゼンダー夫人に対するのっけからの敵対的な態度・・・・。隠れた90パーセントの一部が出た?あくまで芝居じみた態度をとり続けるゼンダー夫人への反感から?私たちが想像する以上にアメリカ人のナチズムに対する嫌悪は根深いから?
    真実を知りながら何も行動を起こさなかったゼンダー夫人に対する糾弾はわからないでもないけれど、「アイゼンフートやゼンダーを英雄と呼ぶなんて」という非難。どこを読んでもそのようなゼンダー夫人の発言は見当たらない。原文にはあるのだろうか。絵と引き換えに出国ビザが出されたという事実を、したり顔で述べたゼンダー夫人の態度を受けての発言なのか?
    あるいは、正義を振りかざしての他者への糾弾は(近隣住居監視組合みたいな)、ごくわずかしか見えないものに対してレッテルを貼るのと同じで、かたくななものになりがちだ・・というカニグズバーグの危惧が込められているのだろうか。このあたりのわからなさは、カニグズバーグからの読者への課題なんだろうか。う〜ん、やっぱりカニグズバーグは一筋縄ではいかない。

    昔、来日した時のインタビューでカニグズバーグが、曖昧なものを曖昧なままにしておくのは嫌い・・と述べていたのを思い出す。それもあって、どちらかというと理に勝った作家というイメージがあったのだが、それだけにラストでのアメディオの“境界はつねにあいまいだ。断然”というセリフが、感慨深い。
    ――The Mysterious Edge of the Heroic World by E.L.Konigsburg

  • カニグズバーグ、気になってここ最近何冊かを連続で読む。5冊くらい読んだと思うが、なんとなくそこまではまれない。

  • ムーンレディの絵が登場するまでが長いかな。ドイツの小説ではよく出でくる話。でも登場人物の見事な繋がり。歴史、美術がらまりの話は好き。

  • お隣にすむ女性が療養施設に引っ越すために家財を整理することになった。それを請け負った業者の息子と仲良くなり、処分を手伝うことになった主人公。元はオペラ歌手だったという女性の家は、常に音楽とともにあり、高価そうな骨董品もたくさんある。一方で、主人公の名づけ親が館長を勤める美術館で、ナチスに強奪された美術品を集めた退廃芸術展が開催される。二つの話が縒り合わされて、第二次世界大戦の当時のできごとが明らかになる。原題は"The Mysterious Edge of the Heroic World"だが、邦題の「ムーンレディの記憶」の方が、物語の中にでてくる絵画の名前と、それについて語る元オペラ歌手の女性の両方にかかっているようで洒落ていると思う。ただ、原題にこめた作者の思い、Heroic Worldの意味についても、色々と考えさせられる。

  • 訳者の金原さんが言う通り、至高の作品。サスペンスのようで、戦争犯罪者とは、という微妙な問題を見事に扱っている。カニグズバーグは絵画や歴史にも詳しい。

  •  とても壮大で楽しい物語だった。「クローディアの秘密」を書いたカニグズバーグの作品だ。
     主人公の少年、アメディオが引っ越してきた家の隣には、ゼンダー夫人が一人で暮らしている。地元ではとても変わり者で有名なのだ。友人になったウィリアムと共にゼンダー家の家財処分を手伝うことになるのだが、そこで一枚の絵を発見する。その絵には悲しい歴史が隠されているのだが、それが明かされるとき、時代とはいえ悲しみがあふれてくる。一個人では到底太刀打ちできない、強大な力が実在したのだ。

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