灰色の地平線のかなたに

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  • Amazon.co.jp ・本 (400ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784001156515

作品紹介・あらすじ

第二次世界大戦中のリトアニア-画家をめざしていた十五歳のリナは、ある晩ソ連の秘密警察に捕まり、シベリアの強制労働収容所へ送られる。極寒の地で、過酷な労働と飢え、仲間の死に耐えながら、リナは、離ればなれになった大好きな父親のため、そして、いつか自由になれる日を信じて、絵を描きためていく。不幸な時代を懸命に生きぬいた、少女と家族の物語。

感想・レビュー・書評

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  • この衝撃的な話を読みながら何度も考えたのが、極限状態の中でリナは「なぜ、生きのびることができたのか」ということだった。

    ひとつの言葉や情景を引き金に、リナが過去を回想するシーンが繰り返される。過去が美しいだけにその対比はとてもつらい。
    けれど想い出はつらい現実をひと時忘れさせ、離れ離れになった大切な人たちを今に引き寄せリナを支えたのかもしれない。

    著者のルータ・セペティスは、「この小説全体がラブストーリー。彼らは愛によって生きのびた。自分なりに選んだ愛を貫き、それによって生き続けることができた」とある。

    愛する対象を強く想う、その強さが自身の生命をも支えるのだろうか。
    リナを支えたのは、家族への愛、絵を描くことへの愛、未来を信じ愛する気持ち・・・。理不尽に全てのものを奪われる中で、愛も想い出も決して奪われることはない。「決して奪われないもの」を持ち続けることが、生きのびる上で重要だったのではないか。

    また、リナが生きのびられたのは、母親の存在無くしてはあり得ない。全ての人に愛を与える母の姿から、リナは生き方を学んでいく。母親が亡くなった後もリナと幼い弟が生き残れたのは、母親がまわりの人たちに与えた愛によって、守られていたのだろう。

    エピローグで、リナとヨーナスが解放されたのは13年後、そしてこの話が明らかにされるのが41年後だったことに衝撃を受ける。それが歴史の真実だということに改めて愕然とする。

    13年間、子ども時代の全てを収容所で過ごしたヨーナスやヤニナのような子どもたちは、その後をどう生きたのだろう。想い出に支えられるとは逆に、想い出に囚われることもあるだろう。

    これほどの過酷な状況に想像すら追いつかず、リナたちの気持ちを理解できたとはとても言えない。
    けれど、思い出が今の私を支えてくれるということを、この年齢になってわかるような気がする。  

  • 第二次大戦中のリトアニア──画家をめざしていた15歳のリナは、ある晩突然、ソ連の秘密警察に捕まり、シベリアの強制労働収容所へ送られます。母親と弟、仲間とともに、極寒の地で過酷な労働と飢えに耐えながら、リナは離ればなれになった大好きな父親のため、そして、いつか自由になれる日を信じて、絵を描きためていきます。人間の真の強さを描いた話題作。

    リトアニアで大学教授の父コスタスと優しくて聡明な母エレーナ、弟のヨーナスと楽しく暮らしていたリナ・ヴィルカス。絵を描くことが好きで、そういう学校を目指し、合格の報も受け取っていたにもかかわらず、彼女がそこで学ぶことはできなかった。

    ある夜突然奪われた日常。理由も分からないまま、人権、尊厳をを無視した扱いに耐える日々。
    読み進めることが辛くて、何度も本を閉じてしまった。
    そして、ホロコーストや満州からの引き上げの物語などを思い出しながら、リトアニアなどバルト三国の辛い思いを知らずにいたことを本当に申し訳なく思った。
    存在していることを知らないということでなかったことのようにしてしまっている自分を恥じた。
    よくぞ書いてくださったというべき作品だと思う。
    人がこんなふうに扱われる時代や国があってはいけない、と強く思った。


    カウナス
    ヴィリニュス
    ミンスク ベレルーシ
    オルシャ
    スモレンスク ロシア
    ウラル山脈
    オムスク シベリア
    アルタイ強制労働収容所
    ビースク シベリア
    マカロフ収容所~~クラスノヤルスク収容所
    アンガラ川
    ウスチ=クート
    ヤクーツク
    北極圏
    トロフィモフスク

    アンドリュス
    アルヴィダ夫人

  • 『灰色の地平線のかなたに』 著者 ルータ・セペティスさん来日講演会
    日程:2014年3月3日(月) 午後18時~19時半
    会場:教文館6階 ナルニア国店内 
    定員:50名
    参加費:1,000円  ※当日受付でお支払いください。
    http://www.kyobunkwan.co.jp/narnia/archives/info/10273

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    「第二次大戦中のリトアニア──画家をめざしていた15歳のリナは、ある晩突然、ソ連の秘密警察に捕まり、シベリアの強制労働収容所へ送られます。母親と弟、仲間とともに、極寒の地で過酷な労働と飢えに耐えながら、リナは離ればなれになった大好きな父親のため、そして、いつか自由になれる日を信じて、絵を描きためていきます。人間の真の強さを描いた話題作。」
    編集部だより
    http://www.iwanami.co.jp/hensyu/jidou/j1201/115651.html

  • 凍てつく海の向こうにを読んで、同じ作家さんでこの作品を知りました。この作家さんは、天の声心の声のようなものが入るのが特徴かと思います。凍てつく海の向こうにはドイツとの物語、灰色の地平線のかなたにはロシアとの物語。どちらも第二次世界大戦の過酷な状況下でもまっすぐ生きた人々のリアルな風景が読み取れます。ナチスやヒトラーについてのものは多く存在しますが、ロシアスターリンのものはあまり見られなかったのでとても興味深いものでした。
    二つの作品が似た風景であり何かあると思いましたら、この時代を生きた親族がいらっしゃる方と知りました。この作家さんの他の作品も探してみたいと思います。

  • 第二次大戦中にソ連に併合されたリトアニア。そこで家族と幸せに暮らしていたリナの一家はソ連の強制収容所に送られ、死がすぐ間近にある過酷な生活を強いられる。リナの家族を始め一緒に捕らわれた人々の様子が丁寧に描写されていて、彼らの戸惑いや絶望、過酷な日々に少しの希望を見つけようとする強さ等が伝わってくる。リナの視点で物語られるので、全体像がよく分からないのも逆にリアルだ。ラストはもう少し考えて欲しかったな。

  • 第二世界大戦中のリトアニア。画家を目指していた15歳の少女・リナは、ある晩、ソ連の秘密警察に捕まり、シベリアの強制労働収容所へ送られます。スターリン政権下におかれた15歳の少女の過酷な運命を描きます。スターリンによる独裁政治をテーマにした10代向けの作品は少なく、長編ですが中学生からぜひ挑戦してほしい1冊です。

  • 第二次世界大戦中のリトアニアで、大学教授の娘リナは、父がおじ一家の逃亡を助けたためにソ連軍に逮捕され、15歳にして母と弟とともに強制労働収容所を転々とする生活を送ることになります。
    最初の列車で乗り合わせた人々と団結し、収容所での過酷な日々に耐えて生きます。
    いつか解放されることを夢見つつ、得意の絵に現状を描き、ソ連軍に見つからないよう、どこかの収容所にいるはずの父に届くことを祈って人づてに運んでもらいます。
    人を人と思わないような扱い、壊血病にかかるほどの飢え、最終的に送られたシベリアで続出する凍死者たち……それでもリナはただ絶望するのではなく、母を支え、弟を守り、隣人たちと助け合って生き抜こうとします。
    仲間も次々に欠けていき、ラストはただ幸せというだけでは終わりませんが、悲惨な内容のわりに読後感は清々しく感じました。
    第二次世界大戦というと、ナチスによるユダヤ人迫害があまりに有名ですが、ドイツ以外の国も、これだけひどいことを行っていたのだと知ることができました。

  • 1941年6月、リトアニアに住む画家志望の少女リナはソ連の秘密警察に母、弟と一緒に連行される。家畜用の列車で連れていかれた場所は、強制労働収容所だった。過酷な労働と飢えが襲う生活の中で、リナは絵を描き溜めていく。

    第二次世界大戦中、ソ連がバルト三国に対して行った追放。過酷な労働と飢餓による虐殺の中、力強く生きた少女が主人公の物語。
    学校の先生が「児童書ですみませんが……」と言って貸してくれた本で、先生のすすめがなかったら、読むことはなかったであろう本。
    第二次世界大戦・虐殺といえば、ナチスドイツによるユダヤ人の大量虐殺しか知らなかった私にとって、衝撃的なお話でした。

  • 第二次世界大戦中、リトアニアの大学教授の家族がソ連の秘密警察につかまりシベリアで想像を絶する強制労働に追いやられる。別れて捕まっている父親の言葉を信じ、再会を信じて生き抜く母親と画家志望の主人公・リナと弟。遠いどこかに生きているはずの父親の所在を密かに探し、父親が解るようにと、絵で連絡を取ろうとするリナ。

    どこまでも、どこまでも過酷な仕打ちに、言葉が出ない。誰にでもお勧めと言うわけではないけれど、問題意識を持っている子どもには、薦められるかも。

  • フィクションとはいえ、ここまでドラマチックに、第二次世界大戦時の捕虜を描いた作品は、初めて出会った。大戦で起ったさまざまなことが想像を超えているので、ルポであれ物語風であれ、ノンフィクションに大きな衝撃を受けることは多いが、この本は(こういう題材に対して、言葉は悪いが)エンターテイメントとして読ませる力がある。

    著者が徹底した取材・研究をした結果、史実を踏襲した上で生まれた、リナを始めとする数人のメインキャラと、彼らとの関係性に、史実の悲惨さ残忍さが相まって、よりひき込まれ、感情移入していた。
    題名にあるように、始終灰色がかったどんより重く厳しい空気に包まれてはいるが、ところどころに突然、キラキラとした美しい何かが見える瞬間があって、それが皮肉であり、希望でもあった。

  • 灰色の地平線のかなたに ルータ・セペティス/作 岩波書店

    アメリカ、ミシガン州に住む音楽プロデューサーである著者の祖父や父はリトアニアからの難民であった
    この本ははじめての著作でソ連によるリトアニアでの知識階級とその家族の逮捕、移送の旅、強制労働収容所の様子を描いている
    ナチスドイツによる強制収容所と比べてあまり知られてこなかったソ連の蛮行が、主人公である15歳の少女リナによって語られてゆく

    1940年リトアニアはソ連よって侵攻され、併合される
    1941年秘密警察NKVD(この後身がKGP)によって人々が逮捕され、シベリアの強制労働収容所(ラーゲリ)に送られる
    このなかには乳児、幼児、妊婦までたくさん含まれている
    食べ物の乏しい、長い過酷な移送の旅やラーゲリでの労働、酷寒の地であること、
    によって病気も多く、乳児やこども、老人から亡くなってゆく

    監視兵たちはリトアニア人たちを「国家反逆罪、強制労働25年に同意しろ」と同意書へのサインを強制、断ると眠らせない
    それでも次の日は労働である。「ファシストの豚ども」として扱い、即座に射殺することもある

    (1942年から1952年にかけて、スターリン政権下でリトアニア人のシベリア追放政策が再開される。
    スターリンによる恐怖政治によってこの時期バルト三国は、人口の三分の一を失ったという
    1953年スターリンの死後、政策が変わって、それまで生き延びた人々がやっと故郷に帰ることが出来たが、
    家屋、資産はすべて奪われており、また犯罪者として監視され、ラーゲリのことはいっさい語ることを禁じられていた)

    1991年にようやくリトアニアは独立を取り戻した

    家族の記憶、リトアニア人の記憶をもとに、リトアニアを二度訪問し、よく調べて描いている
    著者自身のt体験ではないが、過酷な日々にあって、そのなかで助け合い、生きてゆく人々がいとおしい

    p96 「深い絶望の縁に追いやられたと思ったとたん、振り子が逆に揺れて、ささやかだけどいいことが起こる」
    p109「あのさ、空を見ていると家の芝生に寝ころんでいるみたいでまだリトアニアにいるような気がするね」ヨーナスがいった。
       それは、ママがいいそうな、白黒の写真に明るい色をそえるような一言だった。
    p189「深呼吸をして心の中に何かを思い描ければ、そこにゆくことも出来るし、それを見たり感じたりすることも出来ると、
       心の中の静かな世界に逃げ込み、新たな力を見いだせていた」

  • 第2次大戦中のリトアニア。画家を目指しながら幸せに暮らしていた15歳の少女リナは、ある夜家族とともに連行され、家畜のように貨物列車に押し込まれて強制収容所に送られる。過酷な旅の間に多くの人が亡くなったが、それは始まりに過ぎなかった。
    不屈の魂を持つリナ、誰に対してもあふれんばかりの愛情を注ぐ母、幼いながらも家族を守ろうとする弟。自分たちの状況をいつか誰かに伝えるため、リナは絵を描き続ける…。
    ホロコーストや、日系人の強制収容はよく知られているが、長く共産主義の壁の中に閉ざされたソ連で隠されてきた事実に愕然とする。人口の1/3が失われたという悲劇。彼らは故郷に帰った後も自分たちの身に起こったことを誰にも伝えられなかったのだ。

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