目で見ることばで話をさせて

  • 岩波書店
4.02
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本棚登録 : 229
感想 : 27
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  • Amazon.co.jp ・本 (310ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784001160321

作品紹介・あらすじ

わたしは物語を作るのが好き。11歳の少女メアリーは、島のだれとでも手話で話し、いきいきと暮らしています。一方馬車の事故で死んだ兄さんのことが頭を離れません。ある日傲慢な科学者に誘拐され、ことばと自由を奪われて……。手話やろう文化への扉を開く、マーサズ・ヴィンヤード島を舞台にした歴史フィクション。

感想・レビュー・書評

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  • マサチューセッツ州のマーサズ・ヴィンヤード島に住む聴覚障害者で11歳のメアリー・ランバートの体験する障害者や先住民に対する偏見と人種差別を描いた物語。著者自身が聴覚障害者故の繊細な心理描写に多様性の認識の大切さに気付かされる。

    耳が聞こえる人と会話をするとき、自分の考えを伝えるのがむずかしいと感じるときがある。ふだんは通訳しながら話すけれど、何人かで話していると耳が聞こえる人同士だけで会話が進むこともあるから。いじわるをするわけじゃなくて無意識に起こる。耳が聞こえる人たちは話す速度を落としてわたしを仲間に入れるのを忘れてしまうんだ。

  • 聴者とろう者が分け隔てなく、ごく当たり前に手話を使って会話していた島がアメリカ北東部にあったことを、初めて知った。

    舞台になった島には、聴者とろう者だけでなく、自由黒人、アイルランド移民、先住民、混血人がいて、島の中で多様な人々が(差別や偏見の中で)存在しているのが面白かった。特に、西洋の考えである「所有」と、ワンパノアグ族の「共有」が対立して、お互いの共存は厳しいところ。そんな中でも、ろう者人口の割合が高いことで、彼らが劣等感を持たずに生活していた事実が興味深い。

    数年前はコロナ感染者なんて罪人のように扱われていたが、誰でも感染して当然になった現在では受容されている。感染が当たり前というのは医療上良くないが、あの当時の異常さ(感染者が何時にどの電車に乗っていたという報道とか)に比べると、人権的にマシになったのでは。的外れな例えかもしれないが、身近さというのは重要ではないか。

    そんな島の社会に、ろう者の人口割合が低いアメリカ本土から来た人物によって、主人公と家族の人生が揺さぶられる。優生学的な考えや、無知による扱いによって苦境に立たされる主人公のサバイバル劇。児童書だけど、大人が読んでも読み応えのある良書で、子供の時に読んでいたかった一冊。

  • ろう者も聴者も手話で会話する島、マーサズ・ヴィンヤード島。そこに住むろう者のメアリーは、事故で兄を亡くし、その死に責任を感じていた。あるとき、島に若い男の研究者がやってきて、メアリーは島での生活が当たり前ではないことに気づき始める……。

    マーサズ・ヴィンヤード島が実在するということも興味深かったし、この作品にはほかにもたくさんのことが描かれている。島の先住民族との土地の所有をめぐる争い。奴隷制度が廃止された直後で、自由黒人に対する扱い。家族の死、母親との微妙な関係。学業についての男女差別。
    先住民族ワンパノアグ族については初めて知った。『白鯨』にこの民族の登場人物がいると書かれていたけれど、全然覚えてなかった。
    舞台がボストンに移る辺りからは、もう展開にドキドキだった。アンドリュー、ホントにサイテー!!
    メアリーの父親は本当に偉大。メアリーは黒人であろうが先住民族であろうが、差別や偏見を持っていないが、身近な人たちが自分とちがう考え方を持つことに戸惑いを覚えている。そのメアリーに父親がかける言葉がいい。人の批判をせず、自分の内面を見つめ、手本になるように。
    アメリカ本土でろう者は知能も低いとされていたけれど、これは手話という言語がなかったせいなのだろうか。あらためて、耳がきこえないということ、そのような障がい、様々なことに目を開かされる作品だった。

  • ☆4.5
    かつてろう者と聴者がわけへだてなく、皆が手話で話をした島があるという。
    名前はマーサズ・ヴィンヤード島。
    なんと『この海を越えれば、わたしは』のカティハンク島にとても近い。

    前半は、ろう者である主人公メアリーや島の人々の生活がいきいきと描かれている。驚いたのは、小型望遠鏡を使って手話で話をしていたこと。耳が聞こえる相手にはラッパを吹いて知らせ、聞こえない相手とは前もって話す時間を決めておく。よく考えられているし、楽しそうだ。
    島ではろう者に対する差別意識はないが、先住民と島の住人との確執、自由黒人への差別や偏見がある。兄ジョージの突然の死を受け止められず苦しむ家族の思いも丁寧に描かれている。

    物語が急展開する後半は目が離せない。
    メアリーは科学者アンドリューに誘拐され、無理やりボストンに連れてこられた。島から一歩出た世界では、ろう者は劣った存在と見なされ、自分の言葉まで奪われてしまう。メアリーは〈ちがいのある人がどのような扱いを受けているか〉を初めて知った。〈偏見はどうしたらなくせるのか?〉を考え始めた瞬間だと思う。
    以前の生活を取り戻したメアリーに父親が言った言葉が印象的。「人を批判せず自分の内面を見つめなさい。最良の人間になるよう努力すれば、それがほかの人の手本となるのだから」

    手話の説明がある箇所では、知らず知らずのうちに手を動かしていた。続編も翻訳されたら是非読んでみたい。


  • かつて、ろう者が多く暮らすアメリカの小さな島で、聴者もろう者も当たり前に手話でコミュニケーションをとっていた頃の話。事実を基にしたフィクションとのことです。
    その平和な生活の中に、「聞こえないことは病気」「その原因を究明する」と科学者(アンドリュー)が訪れ、主人公の少女メアリーを連れ去る。そこで彼女が受けた扱い、偏見と傲慢に満ちたアンドリューの考えに憤りを感じながらも、いわゆる「少数者」に対して私の中にも偏見の感情が自覚せずともあるのではと自らを省みました。
    現在、手話は言語として認められています。自分とは違う存在を全て受け入れることは難しくとも、差別をなくすためにも、知る、認識するということがまず第一歩ではないかと思いました。本書は児童書の扱いですが、大人が読んでも読み応えがあるし、こういう本こそ学校図書館に置いて欲しいと思いました。 

  • 19世紀初頭、アメリカ・ボストン南東部にあるマザーズヴィンヤード島は住民の25人に一人が遺伝性難聴による聾者だった。
    聴者も手話を使い、聾者だからと差別されることも全くなかった。
    これだけ知るとパラダイスのようだが、差別がなかったわけではない。イギリス系住民は、原住民であるワンパノアグ族、黒人、アイルランド人(映画「コミットメンツ』でアイルランド人の若者が「俺たちはヨーロッパの黒人だ」と言ってたのを思い出した)を同じ人間として扱わず、土地の所有をめぐって、そもそも「所有」の概念がないワンパノアグ族と争っている。(もちろん白人に有利な社会構造である。)
    主人公と父は友人として付き合うが、母や親友は明らかに下に見ている。
    人は差別をせずにはいられない、というか、多分差別をしている人たちも差別しているという意識はなく、単に「私たちとは違う人」と思っているのかもしれない。が、実はそれこそが差別であることには気付いていない。
    後半の展開より前半の様々な意識の差を描く部分が興味深かった。
    かつて脳性麻痺の人たちが知的能力が低いと思い込まれて差別されていたという物語(『ピーティ』)を読んだが、聾者や盲者は書いたり話したりできるからそんな偏見はないものと思っていたが、そうではなかったのだなと思った。多数派の人は少数派の人に鈍感なのだろう。興味がない、よく知らないというのも差別に結び付くということがわかる物語だった。

  • メアリーの将来がとても気になります。
    続きが読みたい❣️

  • ろう者と聴者が手話を共通言語として使う島が舞台。主人公メアリーの、島では耳が聞こえないことを気にすることはなかったのに、ボストンから若い科学者が調査といって島に来たことで偏見を感じるようになり、その後ある事件で更に外の世界の残酷さにさらされる場面にハラハラしました。またそもそも島でも、部族や人種への差別意識を持つ人がいたり、それへの疑問をメアリーは友達や母親と共感できないわだかまりがあったりして、知らないうちに持ち疑ったことのない偏見は厄介で人を傷つけるのだと思った。
    手話が共通言語の地域がありそこでの暮らしやコミュニケーションの仕方が描かれていたのも興味深かかったけど、自分の罪悪感や困難に立ち向かう一人の女の子の成長していく姿により惹き込まれました。

  • マーサズ・ヴィンヤード島、という島をご存知でしょうか?
    アメリカの小さな島なのですが、遺伝性難聴で25人のうち一人が難聴だったため、島民全員が、聴こえる人も聴こえない人も独自に発達した手話を使っていたことが19世紀に発見され、世界的に有名になりました。
    この本はその島を舞台に、耳の聞こえない一人の女の子を主人公にした、歴史フィクションです。
    ということは、でてくる場所や出来事はおおむね本当にあったことだ、ということですね。
    島にいる時はごく普通の暮らしをしていたのに、ボストンに連れて行かれた彼女は耳が聞こえないイコール知的に遅れている扱いをされ、ひどい目にあいます。
    アメリカですら、手話が認められたのは1980年代ですから(なんとかして口話をさせようとしたため、手話が禁じられていた時代もあったようです)その無知と偏見と差別と戦うのは大変なことだったでしょう。
    彼女が少し大きくなって自分からボストンに出ていく続編もあるそうで(未訳)どんな大人になったのか知りたいので、この本も売れると良いな、と思います。
    (^o^)
    一巻が売れないと2巻は出ないからね。

    もっとマーサズ・ヴィンヤード島について知りたければ
    「みんなが手話で話した島」
    という一般書(というのは図書館用語で、大人の本、という意味です)があります。
    一緒に
    「僕らには僕らの言葉がある」
    というマンガもどうぞ。
    これを読むと、これは昔の話じゃなくて、今だに日本でも戦わなきゃいけない問題のままなんだなぁ、と思います。
    自分が加害者側に加担しないためにも知識は必要です。

    2024/01/05  更新

  • 地元の図書館でおすすめされていたので読んでみました。実際にあった島をモデルにした本です。物語としても面白く、ハラハラドキドキする場面もありました。19世紀のアメリカが舞台でもあり、黒人や原住民への偏見も含まれています。自分も含めて人間は偏見に満ちた存在である一方で希望もあることを感じながら読みました。すべての人に読んでほしいと思います。

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