マルセロ・イン・ザ・リアルワールド (STAMP BOOKS)

  • 岩波書店
4.14
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  • Amazon.co.jp ・本 (384ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784001164039

作品紹介・あらすじ

マルセロは発達障害をもつ17歳。「リアルな世界」を経験してほしいという父親の望みに応え、ひと夏を、彼の法律事務所で働くことに。新しい出会いに仕事に戸惑いながらも、試練の毎日を乗りこえていくが、一枚の写真から、事務所の秘密を知ってしまい…。だれもが経験する不安や成長を、発達障害をもつ少年の内面からえがく、さわやかな青春小説。

感想・レビュー・書評

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  • アスペルガーに近い症状を持つマルセロが、父の要望で、夏の間法律事務所でアルバイトをすることになる。知性は高いけれど物事へのこだわりが強く、コミュニケーションが苦手なマルセロにとって、これまで通ってきた養護学校の温かな環境から出てリアルワールドに飛びこむのは大きなストレスだ。
    じっさい、行ってみると、アクの強い弁護士秘書たちやら、いけすかない弁護士のいけすかないどら息子やらがいたりして、摩擦のたえない日々。それでも同じ部署で仕事を教えてくれるジャスミンという少し年上の女性は、思ったことをずばずば言うけれど、包み隠すところがなく、マルセロにとっていちばん理解しやすい、気を遣わなくてすむ存在になる。
    そうこうするうちに、事務所のゴミ箱から拾った1枚の写真をもとに、マルセロは事務所が闇に葬ろうとしている大きな問題があることに気づく。それを解決することは、自分の父親を危うい立場に追いこむことにつながる。人生ではじめて大きな板挟みにおちいったマルセロは、はたしてどうするのか……。

    ゆるやかなミステリ仕立てのストーリー自体でもさることながら、マルセロが言葉の表の意味と裏の意味を深く考えながら、物事の真の意味を知ろうとする、その誠実な語り口調がとてもいい。わたしたちはふだん、とてもざっくりと、いいかげんに周囲のことをわかったつもりになって、適当に流しているのだけど、なにひとつゆるがせにしないようにすると、とても大変で、でも同時にほかでは味わえないおかしみや、正面突破ならではの痛快さが生まれてくる。

    ストーリーには関係ないところにも美しいやりとりや場面がたくさんつまった、すばらしい作品だった。

  • マルセロの言葉が素晴らしかった。
    いつもきちんと考えて言葉にしている。
    そして正直である。

    この物語の中の特別な事件や嫌な奴らよりも、マルセロのIMに身を委ねるのがいいと思った。

    イステルに「あなたにもあるの?醜いところが」と聞かれ、
    「自分に醜い部分が見つからないこと、他人の醜い部分を許したくないことがぼくの醜い部分なんじゃないかな」と、自己分析するマルセロが大好きだ。

    「正しい音は正しくきこえるし、まちがった音はまちがってきこえる」
    これはジャスミンの言葉。

    美しいバーモントの丘や湖の描写も素敵だった。

  • 認知障害をもつマルセロが、夏休みの間だけ父親の弁護士事務所で働くことを通じて、「リアルな世界」で生きることを学んでいくお話。
    「リアルな世界」では当たり前にみんなが使う、表情や、皮肉や、暗黙のルール。マルセロはそう言ったことを理解することができません。なので、1つ1つを「なぜ?」と問うていく、その様子にはっと気づかされることが多い。
    なぜ心が正しいと思うことをしてはいけないのか?自分の家族や立場を守るためなら、正しいことを無視してもいいのか?
    リアルな世界に生きる身としては、何かを守るために正義を曲げることだってあるという言い分に、共感することは容易です。それでも、マルセロの「なぜ?」という問いかけは、忘れてはいけないもののように感じました。
    自分が生きる「リアルな世界」を客観的に見るおもしろさ、そしてマルセロの成長を見守る面白さがつまった1冊。

  • 発達障害を持つ主人公が、普段通う施設を離れて、実社会へ踏み出し、いろんな経験の中で自分と向き合い成長するお話。
    主人公マルセロの頭には音楽が鳴っている。クラシックだ。その曲が小説のところどころに出てきて、バッハなど、曲の雰囲気が小説の良さを引き立てる印象。
    守られた施設を離れて、マルセロは社会の嫌な部分や、どうしようもない部分を垣間見る。それをマルセロなりに咀嚼し、成長につながっていく。
    私にはマルセロの日々が、とてもしっかりとした足取りのように思えた。目を逸らさず、自分を見失わずに現実と向き合っていくマルセロは、果たして私の人生はどうか?と問われるものでもあるような気がした。
    作品の全体的な印象が好き。

  • よくある障害者の目線で世界を見ると、というものではなく、ミステリーの要素もあって、約400ページを一気読み。

  • SL 2022.2.24-2022.2.27
    発達障害を持つ主人公の視点から語られる、ひと夏の大きな成長の話。

    父親はマルセロに「わたしを信頼できなかったのか」と聞いたが、父親がマルセロを信じていなかった。マルセロがまさかこんなことを見つけて、正確に状況を把握するとは思っていなかったんだと思う。その後のマルセロの行動の前に、マルセロが起こっていることを理解するとは思いもしなかったのではないだろうか。
    この作品を親の視点で読んでしまうことに気がついて、ひそかに愕然とする。

    マルセロが、自分のことをアスペルガーだというと本当にその症状を持つ人たちに迷惑をかけると感じているというくだり。素晴らしいと思った。
    昨今、何でもかんでも発達障害で片付けて、本当にその症状で苦しんでいる人のことをもっと真剣に考えたら、とよく思っていたから。

  • アスペルガーの少年のひと夏のリアルワールド(法律事務所での就労)の話。評価は高いので期待してたけど、ストンと落ちてこなかった。

  • 心が洗われる良い本日だった。

  • 933-S
    閲覧

  • 自閉症スペクトラムのマルセロが、守られた養護学校を出て、父親が経営する法律事務所で夏のバイトに。様々な人々と触れ合いながら、健常者の社会で力強く生きてゆく。

  • 二つ目のスタンプブックス。質がよくて素晴らしい。
    かつての福武のベストチョイスに思春期感を足したようなシリーズだ。

    こちらは発達凹凸の高校生(微妙な年齢です)の成長譚。
    マルセロは音楽と宗教が好きで真面目な発達凹凸青年。
    教科書通り、くらいの発達さんで、adhd色は弱め。
    普段は支援学校というか養護学校に通っていた。ここがもう素晴らしい学校なので、まずはそれが羨ましくてたまらない。日本にもここまでの学校があれば。。。

    作中でマルセロの父親が彼を認知障害だというけど、本人はそれは違うと思う、と。
    たしかにマルセロの言う通り、彼は周囲の人の表情や動きからかなりの情報を読み取れている。
    反応はうまくできないのかもしれないけど、ここまで相手を読めているのはかなり高度なことだ。
    マルセロは、他人からはパッと見て、変わった喋りかたをする子、くらいの印象だと思う。自己分析も非常に優秀だ。

    裸一貫からサクセスストーリーになった弁護士の父が、リアルな世界を見せようと、自分の事務所での雑用を夏休みの間だけやれ、という。
    ジャスミンという女性のもと、少しずつ仕事をして信頼関係を作っていく。
    ウェンデルというクズ野郎のために、ジャスミンとの関係が悪くなるんでは、と心配したけど、マルセロは頑張りました。偉い。
    相談できる大人が彼にはたくさんいる。なおかつ、母親との関係が付かず離れずでいいのも、マルセロがキッパリとウェンデルを断ることができた一因にも見える。

    マルセロは事務所である少女の写真を見てしまったことから、父の仕事の裏を見てしまうし、大きな迷いを抱える。
    ジャスミンはそれに真摯に応えて、自分の故郷でストレートな感情のまま第一次産業で生きる世界を見せる。
    この旅行がこの作品の大きな転換点。夜の湖のシーンはとても素敵だった。マルセロにも読者にも、ジャスミンは大きなものを見せてくれる。

    写真の少女に会いに行くシーンが中心にならないところが、この小説のすごいところ。

    人間みんなに醜い部分があるんだ、というメッセージにも愛と力強さを感じる。

    マルセロと父親の和解までには、写真の少女の問題以上にジャスミンとの関係ですごくビックリさせられたのだけど、、、日本の小説では残念ながらここまでの描写はまず無さそう。
    ジャスミンとマルセロの母親のあいだの空気まで、ちらっと言及されているのが凄い。
    でもさあ、ジャスミンからしたら、あんな雇用者が自分の息子を職場でバイトで自分の下に持ってきたら、嫌だよねー。
    ベリンダじゃなくて、という点ではなく、あの人の子供なんて、それを自分に頼んでくるなんて、すごく嫌だろうね。ジャスミンは偉いなあ。
    当初、ジャスミンの様子から、優秀だったというベリンダになにか事情があったのか、と深読みしていたけど、普通に最後に登場していて驚いた。


    後半は読みながらずっと涙目になってしまった。
    構成には一分の隙もなく、日本のYA小説はまだまだ甘いな、と思わされた。こんな良作に会えて嬉しい。

  • アスペルガー症候群(に近い)17歳のマルセロのひと夏の成長を描いた小説。
    生き馬の目を抜くアメリカの弁護士の世界で、メキシコ系ながら高い能力でのし上がって来たマルセロの父は、マルセロには「お前は障害者ではない」、もっと勉強し、社会で成功出来るようになれと言っているが、職場では「息子には認知障害がある」と言っており、職場の人はそれを「知恵おくれ」だと受け取っている。この辺をマルセロ自身が気づくところが、読んでいて辛い。
    昔知能検査というのがあった。一定時間内に次々と問題(計算、図形、記憶力を試すものなど)を解いていくものだった。たくさん解けて、正解ばかりなら知能が高く、そうでなければ低いという結果が出るのだが、つくづく、人の能力を測るのに不適切な検査だったと思う。例えばこのマルセロのような少年なら、やれと言われたことをさっさと、次々とやる、ということはできないだろう。だから昔は自閉症(スペクトラム、という言葉も認識もなかった)は、「知恵おくれ」と判断された。しかし、マルセロは認知障害と言われてこう返す。
    「『認知障害』は、マルセロの頭のなかで起こっている現象を、正確にはとらえていません。『認知の際の過度な反応』というほうが近いです」
    こう返せる人が、知恵おくれ?
    さらに「それって病気なの?」と訊かれて、「それによって、正常な人間が社会のなかではたすべきと考えられる役割をこなせないとき、社会はそれを病気と呼びます」(P68~69)と答えている。ここまで自己と社会を客観視できる人を知恵おくれと呼ぶなら、呼んでる人はどれだけ知恵があるのか?
    また、マルセロは、仕事を猛スピードでこなすことはできないが、「自分の最適スピードで」なら集中してこなし、間違わない。最初猛スピードでこなしてだんだん処理が遅くなり、ミスが発生する所謂普通の人より、ずっと良くないか?
    これを読んでると、自分を普通、あるいは健常と認識している人間の愚かさと奢りが、痛々しいとすら思える。
    自分がマルセロの気持ちになって、「健常者」の理不尽に付き合わされる苦悩を感じた。そんなふうに書ける作者の力に脱帽。
    ハーバード大学生で、(親が)金持ちで、エリートコース間違いなしで、かつ人間としてクズ中のクズであるウェンデルのような人間が世の中を牛耳っていることが、この本で言えばフロントガラスの事故で顔の半分を奪われた少女のような人たちを苦しめているようなことは、日本でもある。
    マルセロがウェンデルに利用されていることに気づかず、利用されるシーンではムカムカした。
    マルセロを一人の人間として対等に扱うジャスミンも、弁護士事務所では、単純作業しか任せられない、ルックス以外は取るに足りない女の子だと思われている。
    本当はウェンデルになりそうな若者に読んで欲しい本。自分は間違ってる、と気づいて欲しい。

    キース・ジャレットもグレン・グールドも好きなので、ジャスミンとマルセロのことをますます応援したくなった。インプロビゼーションに重きを置くジャスミンと、バッハの対位法の旋律をきちんと表現するグールドが好きなマルセロ、というのも、二人の性格を表しているようで面白い。
    爽やかで、前を向く気持ちになれる、いい青春小説だった。

  • マルセロが大好き。きっと実際に一緒にいると、イライラしたり、傷つけたり、傷つけられたりすることが多い人なのはわかるけど、でも好き。訳者のあとがきにあるとおり、「さまざまな彩りを放つ」虹のようなスペクトルを眩しく思います。
    大きく自閉症スペクトラムとしてくくられる子と接する機会は多い方だと思うんですが、彼らは、少し理解できたかも!と思っても次の瞬間裏切られ、驚かされる。いい意味でも悪い意味でも。
    ただ、この特性を持った大人と一緒に働くと、どうしてもイライラの方が多くなってしまって後で反省することがよくあります。ジャスミンのようでありたいと、切実に思う。

    あくまで本なので、マルセロの思いや考えを理解した上で、彼の言動を追いかけることができるのは面白く、同時に歯痒い。
    マルセロスペクトル並みにカラフルで強烈なキャラクターたちそれぞれが魅力的だし、喧騒、競争、私利私欲が溢れる法律事務所と、星や風や湖や動物たちの音に溢れ、「独立した旋律を演奏する場所」になり得るバーモントの対比も素敵です。
    表紙に惹かれて手に取った本ですが、読み終わって改めて見ると、なるほどと思うデザインです。

    ストーリーとしてはイステルの一件が大きなポイントなのだと思いますが、マルセロが表現するように、あくまでそれは火をつけるためのマッチに過ぎません。
    殻を破り成長してゆくマルセロの通過点。ある意味では出発地点。
    ジャスミンに手を引かれてツリーハウスを降りたマルセロは、リアルな世界で生きてゆくために1度はその手を離すんだろうけど、きっとまたあの星空の下で、離れた手は繋がるんだろうと期待します。

  • 発達障害があるマルセロ。ピュアで信頼できる少年だ。正直すぎてまっすぐすぎるマルセロはリアルワールドでは障害がある、と括られてしまうのかもですが、わたしには障害には見えなかった。マルセロをマルセロのまま、受け入れ、理解し、一緒に生きていく、そんな人たちがいることがホッとしました。リアルワールドでも、そうあってほしいな。
    障害のある子の話、というより、社会派ドラマの要素もあり、読み応えあります。

  • 発達障害をもつマルセロが、リアルな世界を経験して欲しいという父の望みから、ひと夏の間、法律事務所で働くという話。ジャスミンと言う仕事仲間がいい人に出会った感じ。この選択は親心があったのか?なかったのか?後半は急展開する事件があるが、物語全体でもすごく優しい目線。こうした多様化を受け入れると言う事を脳で理解するのではなく肌感覚で理解できるかどうかは、これからの時代大切な事なんだろうなあ。

  • 発達障害の17歳マルセロが,「リアルな社会」を知るために法律事務所でインターンシップをする.

    不安を覚え,トラブルを乗り越え,成長していくお話.

  • 「リアルな世界」を経験してほしいという父親の望みに応え,ひと夏の間,法律事務所で働くことになった,マルセロ.心を揺さぶられる日々のなかで,次第に自らの進むべき道を見いだしていきます.社会に出ていく若者が経験する不安や成長を,発達障害(アスペルガー症候群)をもつ17歳の少年の内面から描いた,さわやかな青春小説.

  • 発達障害のマルセロは弁護士の父親から夏休みに自分の弁護士事務所で働き、世の中を経験し迎える高校3年生を普通学級の高校へ行くように言われる。
    リアルな世界を体験し、最後には自分で決めるように言われる。その弁護士事務所でマルセロは、事故で傷ついた少女の写真を見て父親の隠すある事実を知り、父親に向かっていく。

    発達障害の少年の成長の記録は、厳しいものだった。
    それでも、マルセロは強くたくましく成長していく。

    こういう障害についてよく知らないけれど、こんな作品をとおして理解が進むといいな。
    いろいろ、良かったなあ。

  • マルセロ・サンドバルは、発達障害(アスペルガー)の17歳。
    宗教的なことに強い興味(こだわり)を覚える。
    母オーロラ
    姉ヨランダ
    マローン先生 女性のラビ

    法律事務所を経営する父に、ひとなつ、そこで働くことを提案される。
    父アルトゥーロはマルセロにパターソン(施設)の外の世界を知ってほしいのだ。

    メール係に送られるマルセロ。そこの責任者ジャスミンはマルセロを歓迎しない。
    事務所には、共同経営者の息子スティーブン・ホームズも働いていて、ジャスミンを手に入れるためにマルセロに協力させようとする。
    そこでマルセロは一枚の写真に出会ってしまう。

    一枚の写真
    一枚の手紙がマルセロを大きく動かす

  • 151027読了。
    千葉さんの訳は好き。『ひねり屋』で惚れて、『HOOT』『スターガール』けっこう読んだ。今回、たぶん15年ぶりくらい。
    主人公マルセロは内なる音楽や「回顧」と呼ぶ瞑想が好きな17歳の、アスペルガー症候群もどきの少年。今まで守られた、安全で規則的な世界でのびのびと生活していたけど、法律事務所を共同経営している父から、この夏を法律事務所で働かないかと提案される。仕事ぶりが評価できれば、父の薦める一般の公立学校と、今まで通っている養護学校とどちらに行くか選べるという条件付き(もちろん、マルセロは養護学校に残りたい)。
    働けマルセロのとまどいや苦労が自分のことのように感じられて、もっとゆっくり考えたいのに、もっと予想通りに生活したいのにという気持ちを常に感じさせられる。その中で、メールルームでの上司ジャスミンはマルセロの意識の歩調に合わさっている感じがして、最後まで最良の理解者だった。
    マルセロは、法学生のウェンデルに言いつけられた仕事の途中、半分顔を失った少女の写真を見つける。マルセロの父やウェンデルの父が弁護している、フロントガラス会社の商品により傷ついたものだろう。この写真はどこで撮られたのか、誰なら知っているのか…。調べていくうちに、マルセロは内なる音楽や「回顧」を失っていきながら、自分で決意した正義を実行する。例えそれが、父を裏切ることになっても。
    この話はインターネットや携帯電話が使える時代で、私たちの生活に近いけれど、どこか少しのどかだ。それが、マルセロがまとうオーラなのかしらとあとになって思った。マルセロが、リアルな世界に順応していくのに背中を押したい反面、なにかを失っていく悲しさも感じた。
    マルセロが父を裏切っても正しいと思うことを全うできたのは、きっとアスペルガーや他のなにか特別なものを持った人々の才能なのかもしれない。
    最後、彼が新学期からもリアルな世界で行き続けることを決めたときに、お腹にぐっと力が入った。

  • 面白かった。
    正しいことは怖ろしい。そう感じてしまうところがどこかあって、あるいはそれが主人公の言う「ぼくの醜い部分」なのかもしれない。「正しさ」は時としてそこにある「普通」や「秩序」を乱してしまうからだ。「普通」の人々は、この「リアルワールド」を生き抜く上で必要なことをしている。別に悪いことじゃない。それは決して正しいことではないけれど。

  • 主人公を「守られた環境」「快適な範囲」から出そうとする父親の試みが、結果的に主人公が自分の手で自分の世界を見つけるきっかけとなる。

    「ぼくはアスペルガーですというとに、自分は嘘つきだと感じてしまう。というのも、アスペルガーや自閉症に苦しむほかの子どもたちと比べると、ぼくの症状からくる困難な点はごくわずかだからだ。この医学用語を使うとき、ぼくはいつも、ほんとうその症状を持つ人たちに迷惑をかけていると思ってしまう。なぜなら、ぼくを見て「あら、そう。そんなにたいしたことないんじゃない。その病気のとこが問題なの?」と思わせてしまからだ。」

  • マルセロのものの受け止め方に親近感を覚えた。

  • 心が震える。
    知らない世界への扉が開く音。

    自分との対話。
    他者との関係性。
    そして異性との関係性。

    正直、わかったふりして流してきたことがあんまりにも多すぎるし、それを見て見ぬふりし過ぎだよね。
    もっと感覚を開いて生きていきたい。

  • アスペルガー症候群に一番近い主人公のマルセロと私は似てる部分が多いので彼に接する人たちの一挙一動に動揺していて、いつもよりも特定の登場人物たちに対して嫌悪感と憎しみを抑えることにかなり苦労しましたが同時に感謝と喜びも一入でした。日本の小説でも漫画でももっと見えない障がいの発達障害について取り上げるのが増えればいいのに。そうすれば自分との共通点と差異を知り理解して心ない言葉も思いも少しは減ってくれると私は信じています。

  • 主人公は発達障害(アスペルガー)
    養護学校で牧歌的な日々を送るが、夏だけ父の法律事務所で働くことになった。

    主人公視点で物語が進行するため、主人公の思考や感情が明確に文章化されている。
    発達障害者の人々がこんなにも自分の感情を明確に感じ、言語化できるようにも読み取れ、違和感があった。が、主人公視点だから仕方なし。

    そして、まさかのラスボス。
    最低な奴め。
    主人公よ、よくがんばった。
    まだまだ発達途中。
    まだまだ成長するさ。

    2014.6.6

  • 人生で最も多感な時期の一夏の経験の物語。

    パターソンという特殊な学校に通い続けることを望み、家の中でもツリーハウスの中で生活しと、マルセロはいわば温室育ちだ。それが、夏休みの職業体験で「リアルワールド」を体験する。

    マルセロは普通とはちょっと違う17歳ではある。どこがどのように違うのかが、自然な話の展開の中に織り込まれている。内なる音楽(インターナル・ミュージック)が聞こえるということ、脳の各部の働き方から、始まって、スケジュールを決めて、そのとおりに行動することを好むこと、人の目を見て話そうとしないことや、一度にたくさんの情報が入ってくると混乱することなど。

    発達煩悩盛りの通常の17歳と異なり、マルセロの心の中は澄み切っている。すべてのことに真摯な態度で向き合う。「たりーから、シカト」といった考えはマルセロにはない。このひたむきさを応援せずにはいられない。マルセロに降りかかる問題に正面から向き合って、どうやって解決していくのか。そうして、マルセロがパターソンで身に付けたソーシャル・スキルを駆使して、リアルワールドを冒険するのを一緒になって体験することになった。

  • p190 「急坂」にわざわざ「きゅうざか」とルビが振ってある。一応「大辞泉」を引いたら、やはりこれは「きゅうはん」

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