無文字社会の歴史―西アフリカ・モシ族の事例を中心に (同時代ライブラリー)

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  • 岩波書店
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  • Amazon.co.jp ・本 (344ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784002600161

作品紹介・あらすじ

文字と文明の発達の密接な関係から見て、今日なお多く存在する"無文字社会"の歴史的性格を究明することは、人類文化における文字社会の位置付けの再検討に通ずる。本書は、西アフリカ・モシ族の現地調査の成果に基づいて無文字社会の性格を見事に分析したものであり、わが国における文化人類学の記念すべき達成といえよう。

感想・レビュー・書評

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  • 具体的な資料の見当に入る前に、無文字社会の史料の一般的な性格を考えてみたい。非文字資料を大別して、道具の遺物や建造物の遺跡、人骨など、形象化されて固定化したものと、口頭伝承、記号化された楽器の音、儀礼などの、継承化して固定化されず、生きた人間によってうけつがれてゆく資料とにわけて、それぞれの性質を対比してみると、前者はかかなりの程度まで、過去のある時代の証拠としての性質をもっているのに対して、後者はつねに、現在に集約され、解釈された歴史

    形象化されていないしるしや記号のうち、歴史に最も関連のふかいものは、言語伝承をのぞけば、楽器、とくに太鼓の、記号化された音であろう

    わたしはようやく意味が飲み込めたが、太鼓の音だけで、歴代の王とそれぞれの王への賛美を表すということが、その後いろいろな機会に解るようになった

    ある種の儀礼もまた、社会の歴史意識を、成員のあいだにくりかえしよびおこしたり、つよめたりするはたらきをすることは、かずかずの例をひいてのべるまでもないであろう

    歴史は、自然の景観の中にさえ点在する。王朝の始祖がはじめて居をさだめた場所を岩が示し、バオバブの大樹は、しばしば王の墓を表している。

    文字を、土器の破片や太鼓の音から風景にいたるまでの、歴史を表す意味の世界の一部分として、他のしるし記号と連続した関係で位置付けることに、重点をおいてきた。過去の時点を、それと同じ時点で表す性能ということを基準にして、二つの対置をつくれば、文字は、土器のかけらと口頭伝承の中間に位置付けられているかもしれない

    伝達の内容が理解される範囲がかぎられている点で、ある種類の文字と、ある種類の口頭伝承が共通しているとはいえ、文字には時間・空間を通じての不変性が、口頭伝承にくらべて格段に高いという性質がある。空間を通じての不変性が、文字を物質化するときの材質やそれを運ぶ技術に依存することはあきらかだが、空間上の伝達力の質と伝達距離は、とくに、、

    口頭伝承による王朝の年代記では、たとえあどれだけくわしく過去が語られていても、過去のある一点に個別にたちかえって、その周辺の吟味をするということが、絶対にできない。十代前の王のことも、五代前の王の王のことも、すべて、それ以後現在までの時代に生きた人々の記憶をとおして、ろ過された姿でしか知る事ができない。

    文字記録の個別参照性は、その記録を参照する者が個別でありうるということでもある、口頭の歴史伝承は、多くは儀礼などの機会に、会衆の前で、つまり複数の人々に向かって同時に朗誦され、複数の人々は、止らずに流れては消えてゆく言葉を、同時にたどるのである、録音の技術がないとそれば、同一の朗誦を、複数の人々が、個別に、異なった状況で、あるいは好きなだけくりかえして参照することはできない。

    文字記録の参照性は、集合の中での個の覚醒ということと無関係ではない

    文字社会と無文字社会が、断絶した関係にはない。

    口碑と文字記録も、道後に変換されうるものであり、あるときには口碑が文字化され、逆に文字記録が口承化されて、生きた人間の中に伝えられてゆくこともあることは、あらためて指摘するまでもあるまい。

    文字、および文字にくらべらる機能をもつ揮毫を、発生器の状態で概観すると、そこには二つの性質が、しばしば重なり合いながら、異なった指向性を帯びて存在している。一方を秘儀性、一方を規約性と呼ぶ。

    ほとんどの初期文字にみられる墓碑銘、記念碑文は、神聖な領域にかかわりをもちながらも、人間から人間への、時代をこえた証拠の伝達を基本目的にしている

    レヴィストロースは、文字というものは、人類の知識の蓄積に貢献したのではなく、権力による人間の支配の強化に役立った

    文盲をなくす運動は、権力による市民の統制の強化と不可分の関係にある

    文字の機能に、秘儀性と規約性とを認めるとしても、その両者を貫く基本的な機能として文字がもっているのは、時間および空間上の遠隔伝達性であろう。


    だが、同時に私は文字のもつ高い価値にも尊敬を払わずにはいられない

    文字を用いることは、物理的にも人間の意識の流れの上でも、立ち止まることである。言語は思考にとって必要な道具であるが、思考によってのある停滞ともみなさなければならない。

    文字を用いて、ことばを下記、あるいは読むことは、思考にとって、さらにいちじるしい停滞であおる。ただ、その立ちどまりがあるからこそ、そしてその立ちどまりは、文字にかあkれたものが、個々の読者によって能動的に参照されうるという特質によって一層貴重な意味を持つのだがー他のあらゆるメディアの発達にも関わらず、文字による表現の領域は、他のメディアがとって代わることのできないものとして、しかも人間の精神にとって大切な領域として存在し続けるだろう

    文化のそうした無意識的、集合的な部分は、それを直接生きている人々びよっては、意識してとらえられないことが多い、文化人類学においても異なる文化に身を置き、その文化が自分のものとい異なるちゃめに生ずる驚き、苦しみ、いらだち、おかしさなどをまざまざと体験ししながら、研究者はその文化について、そこに生まれた人った地には見えなかったものにまで目を見開いてゆくことが可能になる

  • (2010:渡辺正人先生推薦)

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