都市ヴェネツィア―歴史紀行 (同時代ライブラリー)

制作 : 岩崎 力 
  • 岩波書店 (1990年3月9日発売)
3.40
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  • レビュー :3
  • Amazon.co.jp ・本 (237ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784002600208

作品紹介

豊かな過去を持つ美しい都ヴェネツィア。823年、町の象徴となった聖マルコと獅子の挿話、遠方交易の隆盛の日々、華ひらいた18世紀文化、仮面劇・祝祭-。アナール派の重鎮の手によって、海洋都市の歴史が語られ、その豪奢な魅力が浮き彫りにされて行く。イタリア第1線映像作家のカラー写真90点を収載。

都市ヴェネツィア―歴史紀行 (同時代ライブラリー)の感想・レビュー・書評

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  • 「個人的な気持をいえば、私は敗者というか、棒で殴られる人たちの味方になりたい。たとえ彼らが--ビザンチン帝国の場合、まさにそう言わざるをえないのだがーーそういう結果になるようなことばかりやっていたとしても。しかし歴史は裁くためではなく、説明するために書かれるものなのだ。そもそも<1984年>の世界という、この不条理きわまりない世界の市民である私たちに、審判者を気取る権利があるだろうか?私たちの時代は、ザーラやコンスタンチノープルの物悲しい勝利者たちと同じようなことを--同じような悪事を働いているのだ。」(p.69)

    ブローデルによるヴェネツィアについての随筆と、クイーリチによる写真を組み合わせた一冊。ヴェネツィア、すなわち「全世界の愛の交差点で、つねに燃え続ける炎にほかならぬヴェネツィア」(p.157)について、もちろんブローデルはその歴史を語るが、何よりも自分がヴェネツィアに行った際の個人的記録が多く出てくる。その文章が味わいがあってなかなかよい。クイーリチの写真もいいタイミングで本文に挟まれている。

    ヴェネツィアの魅力とは何かといえば、過去が生きていることだ(p.49f)。ヴェネツィアは過去に満ちていて、そこかしこに歴史があふれている。時間の流れが他の都市とは異なっている。ヴェネツィアはビザンチン帝国を最初は経済的に搾取し、最後は政治的に支配することによって成長した都市である(p.66-69)。しかしこの本でのブローデルの視点は、そうした東方との関わりの中で海洋国家として隆盛を誇ったヴェネツィアだけに向けられるのではない。18世紀のヴェネツィア、享楽の楽園たるヴェネツィアについて語るのが興味深い。

    18世紀のヴェネツィアはほぼ注目されないが、第二の偉大な時期である。その享楽的、自由奔放な姿は頻発するカーニバルに見られる(p.108f)。リオのカーニバルはその一時の爆発的美しさだが、ヴェネツィアのカーニバルは軽やかに繰り返される、一年の長い期間続く連続的な出来事である(p.118f)。ヴェネツィア自体の勢力は16世紀から衰退していく。18世紀はヴェネツィアの秋だが、秋が一番美しいのかもしれない(p.120)。

    こうしてヴェネツィアは祝祭空間として域外の多くの人間を集める。世界中がヴェネツィアが観光地であることを欲し、ヴェネツィアもそれを受け入れた(p.148f)。ますますヴェネツィアには観光客が増大していく。それらがもたらす様々な危惧もある。騒々しい観光客から離れて、もっともヴェネツィアらしいものを見いだせるのは、大運河の右岸、リアルトのカンポだ。ヴェネツィアの庶民はこの市場にいまなお見られる(p.20)。ヴェネツィアを劫かす観光客以外のものは、イタリア本土対岸に位置するマルゲーラ=メストレ地区だ。ここにはコンビナートが急速に発展している。その立ち並んだ工場の排煙と、地下水の汲み上げはヴェネツィアを確実に蝕んでいる(p.153f)。

    ヴェネツィアの未来について、ブローデルはこの都市があらゆる文化の交差点になるべきだと書く(p.159-161)。「人間的基盤とも言うべき庶民を緊急に再創造すること」(p.160)が必要であり、さらにジョルジョ・チーニ財団を活用してここに国際大学、全世界に開かれた大学を創立することを記している。

    膨大な歴史的知識と、ヴェネツィアへの深い理解に基づいたブローデルの美しい文章だ。ヴェネツィアという都市について理解を深めてくれる。

  • (2011.10.20読了)(1990.11.27購入)
    江戸東京博物館で「世界遺産 ヴェネツィア展」を見たついでに、積読のこの本を読んでしまうことにしました。多くのカラー写真が挟みこんでありますのですぐ読めると思ったのですが、思った以上に読み応えがありました。
    著者は、以下のようなことを書くといっています。
    「近づく者の目に驚くべきものとして映るこの町がどんな町なのか、次に、ヴェネツィアがかつてどんな町だったのか、そして現在の生活に何が執拗に付け加えられるかを語る。最後に、今日あるがままのヴェネツィアを示すことに勤めよう。」
    写真を撮影したのは、フォルコ・クイーリチです。

    章立ては、以下の通りです。
    約束の土地ヴェネツィア
    生きている過去
    ヴェネツィア―今日・明日
    ヴェネツィアを写す フォルコ・クイーリチ

    ●ジャン・コクトーが言った(6頁)
    ヴェネツィアでは、鳩が歩き、栄えある都の象徴たる獅子は飛ぶ!
    ●6つの街(7頁)
    ヴェネツィアは、少なくとも六つの違った町からなっている。「セスティエーレ」(地区)がそれぞれにひとつの町なのだ。大運河の一方の側に三つの「セスティエーレ」、すなわちカステッロ、サン・マルコ、カンナレージョ。反対側に他の三つ、すなわちサン・ポーロ、ドルソドゥーロ、サンタ・クローチェ。実はこれらの「セスティエーレ」が、さらに約六十の教区にわかれる。
    ●サン・マルコ広場(9頁)
    徐々に満たされていった手狭な町では、言うまでもなく空き地はない。昔からの大広場といえばサン・マルコだけである。
    ●水(21頁)
    ラグーナのまっただなかで、ヴェネツィアは呪いに他ならぬ塩水に取り巻かれ、閉じ込められている―人はそのことを想像するだろうか? 水はいたるところにある。しかしそれは、日々の生活に絶対に欠かせない淡水ではないのだ。
    ●守護聖人(65頁)
    823年、エジプトのアレクサンドリアから、福音書作者聖マルコの貴重な遺骸がヴェネツィアにもたらされ、彼とその象徴としての獅子が、この町の守護聖人となった。
    ●カナレット(117頁)
    パリでほんのちょっと時間に余裕のある人は、ルーヴルへ出かけてカナレットの絵を眺めるとよい。楽しいこと請合いである。
    ●ピエトロ・ロンギ(117頁)
    ヴェネツィアの街角に、仮面をつけた人々の群れと一緒に、あるいは「リドット」の賭博台に、さらにまた、演台の上の占星術師を群衆が取り囲んでいる時の「ピアッツェッタ」にあなた自身を見出すのに、ヴェネツィア風俗を楽しげに眺めた画家ピエトロ・ロンギにまさる案内人はいない。
    ●ヴェネツィア国家の破滅(121頁)
    19世紀が始まってさえいないうちに、フランス軍がやってくる(1797年)、次いでオーストリア軍が、次いで再びフランス軍が、そして1814年にはまたしてもオーストリア軍が。ヴェネツィアが彼らを追放したがっているのは言うまでもない。1848年にはいったん成功するのだが、彼らはまたまた戻ってくる。1866年になってやっとオーストリア軍は追い出される。[静謐このうえなき共和国]を併合した新国家イタリアは、二度とヴェネツィアに国家存在を与えない。ドーシェも十人会議も、数々の官職も消滅してしまう。
    ●コッレール博物館(156頁)
    サン・マルコ広場に面した「ムセオ・コッレール」は、古文書館であると同時に美術館でもある。探索に手間を惜しまない限り、そこでは何でも見つかる。

    ☆関連書籍(既読)
    「ヴェニスの商人」シェイクスピア著・福田恒存訳、新潮文庫、1967.10.30
    「ヴェニス 光と影」吉行淳之介文・篠山紀信写真、新潮文庫、1990.08.25
    「ヴェネツィアの宿」須賀敦子著、文春文庫、1998.08.10
    「海の都の物語 上」塩野七生著、中公文庫、1989.08.10
    「海の都の物語 下」塩野七生著、中公文庫、1989.08.10
    「コンスタンテイノープルの陥落」塩野七生著、新潮文庫、1991.04.25
    「ロードス島攻防記」塩野七生著、新潮文庫、1991.05.25
    「レパントの海戦」塩野七生著、新潮文庫、1991.06.25
    「緋色のヴェネツィア」塩野七生著、朝日文芸文庫、1993.07.01
    (2011年11月15日・記)
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    【展覧会】
    世界遺産 ヴェネツィア展
    主催:東映、TBS
    会場:江戸東京博物館
    会期:2011年9月23日(金)~12月11日(日)
    観覧料:一般 1,400円
    観覧日:2011年10月10日(月)

    「1987年に世界文化遺産に登録された ヴェネツィアは、ますます世界中の人々を魅了し続け、年間2000万人もの観光客が訪れます。本展では、輝くような色彩と光のニュアンス、そして雅やかな詩情を重視するヴェネツィア派のベッリーニ、カルパッチョ、ティントレット、ティエポロなどの絵画をはじめ、ゴンドラ、ガレー船にイメージされる、ヴェネツィア共和国に富をもたらした「海」、選挙で選出された総督や共和制について、また華麗なる貴族の暮らしなどを余すところなく紹介いたします。約140件に及ぶ作品を通して、ヴェネツィアという都市がいかに文化的な成熟度が高く、栄耀(えいよう)栄華を誇っていたのかを検証いたします。」(ホームページより)

    イタリアで行ってみたい都市のベスト3は、ローマ、フィレンツェ、ヴェネツィアではないだろうか。今回は、そのうちのヴェネツィアについての展覧会です。
    やはり人気は高いようで、結構な人が見に来ていた。従って、低い位置に展示してある工芸品は、粘ってみるか、見るのを諦めるか、ということになります。
    というわけで、幾つかの工芸品は見るのを諦めました。
    入ってすぐのところでは、聖マルコのライオンが出迎えてくれます。ライオンに翼がついており、頭に丸い光背がついているので、神の使いなのでしょう。ヴェネツィアの象徴です。大きな立体の彫刻です。もうちょっと奥へ進むと絵画作品もあります。
    ヴェネツィアの鳥瞰図も二枚並んでいます。
    「レパントの海戦」の絵画、ガレー船の模型、船の航海で使用するコンパス、等も展示してあります。交易で生きたヴェネツィアならではの展示です。
    「真実の口(密告用投書箱)」、投票用壺、井戸の井筒、等という珍しいものも展示してあります。ヴェネツィアの建物模型は、外観、内部の様子、広場などわかりやすく作ってあります。
    コーヒー沸かし器、水盤、燭台、などは、アラビアの模様が施してありますので、イスラム圏からの輸入品でしょう。
    ムラーノ島のガラス製品、男性用の礼服、靴、マント、婦人用ドレス、婦人用靴、婦人用の小物入れ、靴下、扇、等色んな生活用品も展示してあります。
    ピエトロ・ロンギの描いた多数の風俗画によってもヴェネツィアの生活の様子がわかります。
    ヴェネツィア・ルネサンス絵画といえば、ティツィアーノだと思うのですが、今回はありませんでした。
    目玉は、福岡伸一さんが紹介した「二人の貴婦人」でしょう。会場でご確認ください。
    (2011年10月10日・記)

  • 出版社/著者からの内容紹介
    豊かな過去を持つ美しい都ヴェネツィア.フランスの歴史学・アナール派の重鎮の手によって,海洋都市の歴史が語られ,その豪奢な魅力が浮き彫りにされて行く.イタリア第一線映像作家のカラー写真90点を収載.
    内容(「BOOK」データベースより)
    豊かな過去を持つ美しい都ヴェネツィア。823年、町の象徴となった聖マルコと獅子の挿話、遠方交易の隆盛の日々、華ひらいた18世紀文化、仮面劇・祝祭―。アナール派の重鎮の手によって、海洋都市の歴史が語られ、その豪奢な魅力が浮き彫りにされて行く。イタリア第1線映像作家のカラー写真90点を収載。

    目次
    約束の土地ヴェネツィア
    生きている過去
    ヴェネツィア―今日・明日
    ヴェネツィアを写す(フォルコ・クイーリチ)

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