音・ことば・人間 (同時代ライブラリー)

  • 岩波書店
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レビュー : 3
  • Amazon.co.jp ・本 (267ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784002601281

作品紹介・あらすじ

音のうつろいに「自然」を観る作曲家武満徹と、文字をもたぬ民族のことばと音感に「文明」の意味を問う文化人類学者川田順造。アフリカ、ヨーロッパ、アメリカ、日本での鮮烈な「音」体験を語り合い、人間・文化・風土の本質を洞察する。二人の瑞々しい感性と濶達な精神が光る、魂に響く往復書簡集。

感想・レビュー・書評

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  • 武満徹と川田順造の1979年におこなれた公開往復書簡が本になった形である。私にとって本書は、モシ族で見られるメディアとしての肉体感覚に関する指摘、日本文化論への振り返りという2点で興味を引いた。

    まず、モシ族の情報伝達における肉体感覚の重要性を示した、打楽器で「ことば」を伝える文化。モシ族のなかでも、ベンドレという選ばれた人たちは、王からのメッセージを太鼓で打ち鳴らし、同時に大衆に向け言葉で翻訳する。訓練を受けたベンドレならば、太鼓のリズムに乗せられたメッセージの意味が理解できる。しかし、これを意図的に太鼓の音だけを聞いて言葉に翻訳しようとすると難しいようで、太鼓を同時に鳴らすことで翻訳がしやすくなる。これは幼いうちから太鼓を見よう見まねで打ち続けることで自然と覚えてしまうものだそうだ。こうした、モシ族に伝わる肉体に刻まれた感覚で覚える表現というのは、実は我々の身近なところにもあるように感じる。例えば、デジタルネイティブではない私にとっても、すでにPCのキーボードをタイプする行為は言語表現を思索する上で、既に肉体感覚になっているのである。

    人間の情報伝達では言語や文字が「特有の先進的な」手段として取り上げられがちであるが、メッセージの「メディア」をどう定義するか、よくよく考えてみる上で、メディアとしての肉体感覚は重要なのだと思う。よもすれば「原始的」と捉えられるかもしれないこうした肉体感覚は、SF的にはサイボーグ化したときの人間の認知や心理で再び顔を出すのではないかと思ってはいたのだが、自分で感じていた肉体感覚の重要性を、現代に生きるアフリカのある民族の文化によって明文化されたので、とても嬉しくなったのだった。

    また、冒頭から語られるモシ族における言葉の考察と、日本文化の比較はいろいろ考えさせられた。例えば、日本語と同様にモシ語では数多くの擬態語が存在する。こうした擬態語は、西洋文化の文脈では「幼稚さ」や「原始さ」として捉えられるようだ。日本人たる我が身を振り返ってみると、擬態語の多用は幼稚な表現である、というように習った覚えがある。こうした教育はいつからなされるようになったのだろうか。もしも明治以降の西洋化の枠組みのなかでそう定められたとしたら悲しいのだが(少なくとも明治の文豪の方向性は、西洋の文学のあり方に大きく影響されている)、日本語(教育)の歴史を知らないので何とも言えないところである。

    モシ族と日本を繋げてみることで川田氏が気づいたように、川田氏が若い頃体験した、アフリカ→西洋→日本、というように文化を翻訳しなくてはいけない時代は、21世紀において終焉を迎えたと考えたいのだがこれ如何に。

    その点、西洋音楽と日本文化の対比に葛藤し、新しい世界を模索しているのだと思われる武満氏には、少々閉塞感を感じた。そこには、明治以降築かれた、日本と西洋の対立軸、いつまでも異なる風土の西洋に形ばかり追いすがろうとする日本の姿が、描かれている。もはや議論され尽くしたものではなかったのか。奇しくも本書簡はJapan as Number Oneが出版された同じ年にあたる。それ故に、日本に拠点を置く氏は、当時、日本人論旋風に苛まれていたのかもしれない。

    こういう動きを見ていると、現代の我々はいい加減、近代西洋の枠組みから抜け出すことができているのだろうか、という悲観的で内向きな問いを発してしまう。楽観的な見方をするとしたら、日本から見た西洋への葛藤、という姿は、1990年代になって遠藤周作が発表した「沈黙」が大筋で終息している気がする。遠藤も、西洋のキリスト教と日本土着のキリスト教の思想の間で葛藤し、最後にインドという、この対立軸から外れた第3のカードを切ることで、決着をつけることができたのだから。

    本書を通じて日本人論に巻き込まれていたら、いささか古い議論にもかかわらず、日本人たる私は、一生涯、生まれ育った日本文化の風土からしか、他文化を理解できない悲しみに襲われた。それがどの民族であれ、それはごくごく一般的なことではあるけれど、文化を「理解」することの難しさを突きつけられた。

  • 川田氏の話には彼が実際見聞きしてきたことについての興味深い洞察が多い。武満の話も魅力的で、彼の思想を覗くのは興味がつきない。

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