- 本 ・本 (64ページ)
- / ISBN・EAN: 9784002709420
感想・レビュー・書評
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15冊目『君が戦争を欲しないならば』(高畑勲 著、2015年12月、岩波書店)
2015年6月に著者の故郷である岡山市で行われた戦没者追悼式・平和講演会の講演記録。黙してきた空襲体験を赤裸々に告白した上で、憲法9条の必要性を説く。
日本人の「空気を読む」という国民的体質を痛烈に批判。「いいね!」を求める現代人にこそこの主張は響く。
〈抽象的であいまいな言葉でどんなまやかしの限定をつけようとも、一旦戦争のできる国になれば、どういう運命をたどることになるのか、私たちは歴史に学ばなければなりません〉詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
2015年6月29日、岡山市戦没者追悼式・平和講演会での講演記録を収録したもの。60ページほどの本で、すぐ読み終わります。
9歳のとき岡山で焼夷弾による空襲を経験した高畑勲による、平和への提言。大変真面目で、まっすぐで、わかりやすい言葉でした。重みがあります。
高畑勲は、いままで戦争の体験を語ってこなかったという。その理由は簡単で、悲惨な戦争を語り継いだところで、
①「あんな悲惨な戦争を繰り返さないために、武器を捨て平和憲法を守ろう」
②「あんな悲惨な戦争を繰り返さないために、武器を持ち戦える準備をしよう」
これら両方の意見が出てくるからだと。とくに為政者は②を支持するだろうと。なるほど確かにその通りだ。
そして、日本の「責任を取らないずるずる気質」、「空気を読む」国民性が、70年前からいままで何も変わっていないという。どれだけ戦争に反対している人でも、いざ始まってしまえば、「始まったからには勝つしかない」と反転してしまう。偉大な詩人や芸術家も同じ、市民も同じだった。そして自分もきっと同じ。それが一番怖いという。
読みながら、まったくその通りだと思った。平和憲法を守り抜くしかないという結論は、現代においてはあまり響かない主張かもしれませんが、しかし、それしかないと私も思います。
緊張が高まっているから軍拡して備えなければいけない、というのが最近の流行りですが、その道はどれだけ不安定だろうと思う。
戦闘機やミサイルをたくさん持って多少強くなったとして、中国やアメリカの軍事力に対抗できるのか。それこそ桁が違う戦闘力の国に対して、同じように武器を持って準備して、誰も殺さず殺されない道をずっと歩めるか。できそうにない。ちょっとバランスを崩しただけで、戦争に転がり込むだろう。
では仮に世界一の軍隊を手に入れたところで、果たしてそれはいつまで続くか。盛者必衰は歴史を見れば明らかで、そんな不安定な道のりに進んではいけない。その不安定さがはっきり想像できるから、私は軍拡には賛成できない。
唯一の被爆国である日本だからこそできる、平和への歩みがあると思う。平和憲法などお花畑だという人は多いが、お花畑を目指さずして、平和な世界を作れるというのか。
笑顔で握手をしながら裏では銃を突きつけあうのが大人の世界の平和だ、という言説を何度か見かけたことがある。互いに武力を持ち緊張状態を保つことが平和だと。そんなわけあるかと思う。そういうことをずっとやってきて、失敗し続けているのが人間ではないか。武力による緊張状態を保ち続ける、という思想こそが、お花畑ではないか。
武器のない世界をどうやって作れるか、戦争をけしかけた方が損をする仕組みはどうやって成立できるか。それを考え続け、世界にも発信し続ける。それしか本当の平和への道はないのではないか、と私は思います。
半分以上、自分の思いを書いてしまった。しかし、そういう思いを抱かせる本でありました。 -
高畑勲さんは冒頭からこう言う。「火垂るの墓は反戦映画ではありません。」
さらに高畑さんは、国民学校(今の小学校)4年の6月29日に岡山市内で受けた空襲体験をもとにこうも言う。「戦争末期の負け戦の果てに、自分たちが受けた悲惨な体験を語っても、これから突入していくかもしれない戦争を防止することにはならないだろう。」
でも高畑さんは一貫した憲法9条改正反対、戦争反対論者だ。
一見、さっきあげた引用の内容と矛盾するとも思われるけど、通読して改めて高畑さんの思いについて深く考えてみると、次のような、ちょっとビックリする考えに突き当たった。
――高畑さんは、実はこう言いたかったのではないだろうか?『14歳の清太と4歳の節子を死に至らしめた直接の原因は、アメリカ人じゃなくて日本人にあるのだ』と。
たしかに戦争の相手国はアメリカで、空襲したのもアメリカ。
でも冷静に考えてみればわかる。アメリカと戦争するように「理性を失って」「突っ走った」のは他ならない日本人である。
この本を読めば、火垂るの墓に出てくる意地悪い親戚のおばさんや、仕方なく野菜を盗んだ清太を殴る大人を持ち出すまでもなく、幼い兄妹を追いつめたのは、当時の日本全体の世相であり、そういう「全員一致」の方向に(無意識であっても)突き進んだ日本人全員にあると直視せざるを得なくなる。
もう一方で高畑さんは、「全員一致」の暗雲が別に戦時中の話だけではなく、戦後70年を経てまだ日本や日本人を覆い続けているのではと表明する。その証拠として、表現者として、火垂るの墓の評価が1つのところに“落ち着いている”ことに一種の警戒感を持っているようだ。
さらに高畑さんは、戦中の「撃ちてし止(や)まむ」「進め一億火の玉だ」というフレーズに、戦後民主主義教育を受けた日本人にとって誰もが違和感を持つのだというのは今更否定できないはずなのに、オリンピックやワールドカップなどの際に、それらと似ているとしか思えないフレーズを平気で日本人の誰もが口にすることに素直な目で疑問を持っている。
いや、そのこと自体に疑問を持つというよりもむしろ、その雰囲気からはみ出る考えや意見を、日本人全体で封じ込めたり消そうとする傾向が今も厳然と残っていることに大きな疑問を持っているという方がより近いのかもしれない。
1つの国の国民が一つの方向に全体的に進む、というのは日本に限った話でもないのは私もわかっている。しかしそういう雰囲気になった時に、そこからはみ出る弱い立場の者(まさに節子など)や異なる考えを持つ者を、有無を言わさず隅に押しやる傾向が特に日本人は強いというのを、高畑さんと同様に、もうそろそろ日本人は自覚すべきではないだろうか。
高畑さんはそれを日本人の「体質」と表現している。体質は容易には変えられないので、高畑さんは日本人が戦争をしない状態を今は保ち続けているものの、ちゃんと考えていかないと、いつか戦争やむなしという雰囲気が大勢となる日が再び来てしまうのでは、と予言している。(そしてそれを防ぐ唯一の方法が憲法9条を改正させないことと高畑さんは言及している。)
良いところだけでなく悪いところも同じように描き込むことで事象の真実に迫るいう高畑流のリアリズムは、火垂るの墓でもいい面で出ていたと私は思うけど、この本での戦争や日本人に対する考え方にもそのリアリズムが顕著に表れているように感じて、好感をもった。 -
63ページしかない短い本だったけど、すごく整理されており、読みやすくわかりやすい。
岡山は隣の県で駅周辺はよく見知った場所だったので、高畑勲の空襲で辿った経路をなんとなく想像できた。
整備された美しい小川だと思っていた西川緑道が、防火帯のための強制疎開で開かれた道なのは初めて知った。
街には歴史があり、私たちは歴史の上に生きていると思った、歴史を生かさなければと思う。
この本で高畑勲は、悲惨な戦争の体験を語っても戦争を防止することはできない、そうなる前のこと、どうして戦争が始まったか、為政者、国民がどう振る舞ったかを学び、ではどうしたら防げたのかを考えることが戦争防止になると主張する。
最後にまとめられているが、私たち日本人の同調し責任追求ができず、押し流され空気を読む気質のせいで、本当の民主主義はまだ身に付けられていないと非難している。異を唱えるものは排除される村社会であり、多数派に流され、上部の議論で全てが進んでいく。(最近の国会の様子を見ていても野党が弱く、閣議決定されたものでほとんどの法案が決められてしまっているのも危機感を感じる)
この体質を変えるのは簡単ではないし時間のかかること、これを変える努力をするのはもちろん、こう言った日本人の性質から戦争への道を閉ざす最後の砦はやはり憲法9条なのだと。
安倍政権時から改憲を目指す動きが徐々に顕になってきているが、本当に恐ろしいことだと思う。
憲法9条に守られてきたことを誇りに思い、アメリカに頼らず、沖縄に依存しない外交は何かよく考えるべきだと思う。
私は日本の文化的財産を世界に発信すること、強い経済で世界に通用するインフラ基盤を持つこと、輸出産業を守ることが、防衛以外の安全保障として役割をもつ大事な抑止力になると思う。
経済を推進するにも、少子化に歯止めをかけるのも、人権が守られ戦争をしない国にするためにも今の政治(とも呼べない茶番劇)を今すぐ変える必要があると思う。
裏金問題が露呈しても、責任を取らず居座り続ける議員にはすぐに全員辞めてもらわなければ、と強く思う。
高畑勲みたいな頭が良く心がある人を亡くしてしまったのは本当に惜しく思うし、この本で言う「頭で食う」人間が多くなっていて危機感を感じる。東大をはじめとする有名大学出身のエリート層はもうどうしたら稼げるかしか考えておらず、社会の見えない弱者には関心もなく自己責任と自助努力で糾弾し、社会全体の利益を考えてるような志はないような人が多く見られる。そしてこの国の全体もそんな感じでみんな自己中心的で物事を考えている。
どうやったら同調することに寄らない民主主義、功利主義をみんなが身につけられるようになれるのだろう。
自分で考えて意見できるようになりたいから、私ももっと勉強しなきゃいけないと反省する。 -
最高に冷静で、真摯に、私たちの弱い心に、指を突きつける。
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「ここで負けるわけにはいきません!」絶叫は、オリンピックの試合でも戦争中でも日本にこだまする。と高畑さんは言う。63ページと短いので「君が戦争を欲しないならば」読んで欲しい一冊。ずるずると押し流され、空気をすぐ読もうとする同調気質には疑問を抱いていきたい。
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久しぶりに岩波ブックレットを読んだ。
高畑勲は単なるアニメーション監督としか認識していなかったけど、なかなか素晴らしい人物だったのだと今になって気づく。
日本がずっとやってきた「ずるずる体質」や「責任を取らない体質」は、これからも続いていく危険性がある。そのための歯止めとして憲法九条が必要なのだと高畑勲は訴える。
この考えを全て受け入れるかどうかは別として、改憲が叫ばれている世の流れの中で、護憲の主張を訴える岩波らしい本を久しぶりに読んだ感じ。
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政治や戦争の歴史に対して、取っ付き難い印象を抱いている若者などに読んで欲しい本。この本がきっかけで、無知な自分に対して危機感を感じることができるようになった。
著者プロフィール
高畑勲の作品





