君が戦争を欲しないならば (岩波ブックレット)

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  • 岩波書店
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レビュー : 16
  • Amazon.co.jp ・本 (64ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784002709420

感想・レビュー・書評

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  • 高畑勲さんは冒頭からこう言う。「火垂るの墓は反戦映画ではありません。」
    さらに高畑さんは、国民学校(今の小学校)4年生の6月29日に岡山市内で空襲の体験をもとにこうも言う。「戦争末期の負け戦の果てに、自分たちが受けた悲惨な体験を語っても、これから突入していくかもしれない戦争を防止することにはならないだろう。」
    でも高畑さんは一貫した憲法9条改正反対、戦争反対論者だ。
    一見、さっきあげた引用の内容と矛盾するとも思われるけど、通読して改めて高畑さんの思いについて深く考えてみると、次のような、ちょっとビックリする考えに突き当たった。
    ――高畑さんは、実はこう言いたかったのではないだろうか?『14歳の清太と4歳の節子を死に至らしめた直接の原因は、アメリカ人じゃなくて日本人にあるのだ』と。

    たしかに戦争の相手国はアメリカで、空襲したのもアメリカ。
    でも冷静に考えてみればわかる。アメリカと戦争するように「理性を失って」「突っ走った」のは他ならない日本人である。
    この本を読めば、火垂るの墓に出てくる意地悪い親戚のおばさんや、仕方なく野菜を盗んだ清太を殴る大人を持ち出すまでもなく、幼い兄妹を追いつめたのは、当時の日本全体の世相であり、そういう「全員一致」の方向に(無意識であっても)突き進んだ日本人全員にあると直視せざるを得なくなる。

    もう一方で高畑さんは、「全員一致」の暗雲が別に戦時中の話だけではなく、戦後70年を経てまだ日本や日本人を覆い続けているのではと表明する。その証拠として、表現者として、火垂るの墓の評価が1つのところに“落ち着いている”ことに一種の警戒感を持っているようだ。
    さらに高畑さんは、戦中の「撃ちてし止(や)まむ」「進め一億火の玉だ」というフレーズに、戦後民主主義教育を受けた日本人にとって誰もが違和感を持つのだというのは今更否定できないはずなのに、オリンピックやワールドカップなどの際に、それらと似ているとしか思えないフレーズを平気で日本人の誰もが口にすることに素直な目で疑問を持っている。
    いや、そのこと自体に疑問を持つというよりもむしろ、その雰囲気からはみ出る考えや意見を、日本人全体で封じ込めたり消そうとする傾向が今も厳然と残っていることに大きな疑問を持っているという方がより近いのかもしれない。

    1つの国の国民が一つの方向に全体的に進む、というのは日本に限った話でもないのは私もわかっている。しかしそういう雰囲気になった時に、そこからはみ出る弱い立場の者(まさに節子など)や異なる考えを持つ者を、有無を言わさず隅に押しやる傾向が特に日本人は強いというのを、高畑さんと同様に、もうそろそろ日本人は自覚すべきではないだろうか。
    高畑さんはそれを日本人の「体質」と表現している。体質は容易には変えられないので、高畑さんは日本人が戦争をしない状態を今は保ち続けているものの、ちゃんと考えていかないと、いつか戦争やむなしという雰囲気が大勢となる日が再び来てしまうのでは、と予言している。(そしてそれを防ぐ唯一の方法が憲法9条を改正させないことと高畑さんは言及している。)

    良いところだけでなく悪いところも同じように描き込むことで事象の真実に迫るいう高畑流のリアリズムは、火垂るの墓でもいい面で出ていたと私は思うけど、この本での戦争や日本人に対する考え方にもそのリアリズムが顕著に表れているように感じて、好感をもった。

  • 高畑勲展─日本のアニメーションに遺したもの | 東京国立近代美術館
    https://www.momat.go.jp/am/exhibition/takahata-ten/

    岩波書店のPR
    「ここで負けるわけにはいきません!」絶叫は,オリンピックの試合でも,戦争中でも,日本にこだまする.一致団結を求める日本人の同調気質こそ,もっとも恐るべきもの.この日本気質への最後の歯止めが憲法九条である.今,漫画映画の世界的カリスマが語る,平和の重さとそのリアリズム.ナンセンスなことを「ナンセンス」と言うために.

    ■編集部からのメッセージ
     『火垂るの墓』『かぐや姫の物語』で知られるジブリの高畑勲監督が,戦後70年の初夏,初めてご自身の空襲体験を語りました.「自分の子どもにも語ったことがない」という監督の戦争体験.なぜ,いま語ることを決意したのか? 何を伝えたいのか? その秘めてきた思いについて,岡山市でおこなわれた講演記録をもとに執筆されたのがこのブックレットです.
     凄絶な空襲の体験,新鮮な民主主義のもと伸びやかに育った戦後の暮らし,忘れてはならない70年間の平和の代償,安保法制と日本人の同調気質に対する強い危機感――.本当に戦争を防ぐものとは何でしょうか? 本当の民主主義とはどのようなものなのでしょうか?
     アニメーションの世界的カリスマが問い掛ける「君が戦争を欲しないならば」,何ができるのか,何をやるべきなのか――.いま,ここで,きちんと考えることが,私たち一人ひとりに求められています.
    https://www.iwanami.co.jp/book/b254479.html

  • 大阪樟蔭女子大学図書館OPACへのリンク
    https://library.osaka-shoin.ac.jp/opac/volume/636772

  • 火垂るの墓は反戦映画ではないと高畑は言う。
    日本人の同町体質。憲法9条がなければ日本人はずるずる体質で戦争に突き進む民族であることを喝破している。空気を読む体質、反対勢力を排除する体質。高畑は読み取っている。

  • 私は、サッカーやフィギュアスケート、テニスをテレビで観るのが好きだ。サッカなどチームプレーは、選手は日本代表で日の丸背負っているのだろうと思う。観客が大きな日の丸を掲げるのも理解出来る。でも、フィギュアスケートやテニスの個人競技の時にも大きな日の丸を掲げるのは、違和感を覚える。昔はあんなにしていなかったと思うが。
    こんな気持ちを持っている人は、他にも多いのかもしれないと、本書を読んで感じた。
    自分の国を誇りに思う事は大事だ。でも、自分の国だけ良ければという考え方は、時に悪い方向に政治を向かわせる。

    一度、戦争を始めてしまったら、戦争に反対していた人たちも、家族を失わないように勝つ方向に進んでいく、という高畑の考えに、目から鱗、共感を覚えた。

  • 【由来】
    ・図書館の岩波アラート

    【期待したもの】
    ・高畑勲、というのが最初の理由。ブックレットなら読みやすそうだし、amazonでの評価も高かった。

    【要約】


    【ノート】


    【目次】

  • 岩波ブックレットという今まで手を伸ばしたことのない形態の書籍。

    今年4月の高畑勲氏の訃報を受けてブクログが特集した記事の中で引っかかり、読みたい書籍としてボタンを押していたのがきっかけであったのだが、今回の帰省を機にジュンク堂の店内で検索をかけてみたらそこにあった。予想もしないこじんまりとした棚に押し込められた数百冊のそのコーナーは、自分ひとりでは決して迷い込むような場所にはなかっただけに、ああこんな風にしていい活字に出会えることは今後ももっとあっていいと感じた次第。折しも帰省時期は終戦記念日をはさむ時期であったため、滞在中に一気に読み切ってみた。

    内容は2015年の初夏に高畑氏が幼少期を過ごされた岡山市において、市が主催する戦没者追悼式・平和講演会で述べられたことを収録、加筆したものだとのことで思いもよらずつい最近のこと。ほんの3年前だ。

    彼自身が体験した岡山市内での空襲の有り様を、その土地勘のある人達の前でたどることから始まるその公演は、次第に氏の思うところの核心に触れてゆく。しかしながら冒頭部に彼はまず以下のような宣言をぶちまけてくれる。

    「『火垂るの墓』を反戦映画だと分類する人がいるが、私はそれに異を唱えてきた。いくら戦争の悲惨さを描いてもそれでも戦争は起きるのです。戦争を防止するために重要なのはどうして戦争を始めてしまったのか、どうしたら始めないで済むのか、そしていったん始まってしまったら為政者、国民はどう振る舞ったのか、そのあたりを学ぶことなのです。」

    そして2015年の世相に感じる危険な「空気」とその「空気を読む世代」の危険性についてズバリとメスを入れてくれている。自分にとってはつい最近「ニッポン国VS泉南石綿村 」(2018) の上映の場において原一男監督自身の口から聞いた「近頃の映画学校にくる世代の思考回路」の話と同期するような内容だっただけに「ああ、やはり本当にそんな事になっているんだ…」と感じると同時に、そのようにいい切ってくれた高畑氏の表現力に対し、「それです!自分がモヤモヤと表現できなかった不安要素は‼!」と内心感嘆の声を上げてしまった。

    毎年8月に読むだけじゃもったいない。月に一度ぐらい手にしてみてもよいのではないか。

    来週はもう9月。よし、まずはそこから。

  • 戦争体験者の話をとして良い。

  • 【追悼 高畑勲監督】

    戦争体験を語られなかったとのことだが、こうしてブックレットという形になって残り、読むことができることに感謝したい。淡々と語られる空襲体験(再会が感動なんて嘘、ハグしない、の指摘はごもっとも。世の中そんなにドラマチックではない)、戦後民主主義第1期生として手探りだった様子が、声高ではないのにリアルに感じられる。日本人は「ずるずる体質」との指摘には、日本だけではないのではと思う。WWII前のドイツもずるずるとナチに引っ張られた。英国では「The Independent」紙がイラク戦争前に開戦反対の論陣を張っていたのにいざ開戦すると「始まったからには…」の論調に変わった(ただし「The Guardian」紙は開戦後も反対のままだった)。とはいえこの講演会が行われた2015年に議論されていたことや当時の雰囲気を(そういえばこんなだった)とハッと思い、忘れかけていた自分の情けなさに気づいたこと、氏が指摘する「倚りかかる」恐ろしさは心に刻んでおかねばと思う。引用されたプレヴェールの言葉とともに。

  • 「ずるずる体質」「責任を取らない体質」の絶対的な歯止めが、憲法九条。体質を変えるか、憲法を守るか。どちらが簡単だろう?

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著者プロフィール

アニメーション映画監督。1935年、三重県生まれ。作品にTVシリーズ「アルプスの少女ハイジ」「赤毛のアン」など、劇場用長編「火垂るの墓」「おもひでぽろぽろ」「平成狸合戦ぽんぽこ」「ホーホケキョとなりの山田くん」「かぐや姫の物語」など。

「2014年 『かぐや姫の物語 徳間アニメ絵本34』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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