君が戦争を欲しないならば (岩波ブックレット)

著者 :
  • 岩波書店
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本棚登録 : 218
感想 : 26
  • Amazon.co.jp ・本 (64ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784002709420

感想・レビュー・書評

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  • 高畑勲さんは冒頭からこう言う。「火垂るの墓は反戦映画ではありません。」
    さらに高畑さんは、国民学校(今の小学校)4年の6月29日に岡山市内で受けた空襲体験をもとにこうも言う。「戦争末期の負け戦の果てに、自分たちが受けた悲惨な体験を語っても、これから突入していくかもしれない戦争を防止することにはならないだろう。」
    でも高畑さんは一貫した憲法9条改正反対、戦争反対論者だ。
    一見、さっきあげた引用の内容と矛盾するとも思われるけど、通読して改めて高畑さんの思いについて深く考えてみると、次のような、ちょっとビックリする考えに突き当たった。
    ――高畑さんは、実はこう言いたかったのではないだろうか?『14歳の清太と4歳の節子を死に至らしめた直接の原因は、アメリカ人じゃなくて日本人にあるのだ』と。

    たしかに戦争の相手国はアメリカで、空襲したのもアメリカ。
    でも冷静に考えてみればわかる。アメリカと戦争するように「理性を失って」「突っ走った」のは他ならない日本人である。
    この本を読めば、火垂るの墓に出てくる意地悪い親戚のおばさんや、仕方なく野菜を盗んだ清太を殴る大人を持ち出すまでもなく、幼い兄妹を追いつめたのは、当時の日本全体の世相であり、そういう「全員一致」の方向に(無意識であっても)突き進んだ日本人全員にあると直視せざるを得なくなる。

    もう一方で高畑さんは、「全員一致」の暗雲が別に戦時中の話だけではなく、戦後70年を経てまだ日本や日本人を覆い続けているのではと表明する。その証拠として、表現者として、火垂るの墓の評価が1つのところに“落ち着いている”ことに一種の警戒感を持っているようだ。
    さらに高畑さんは、戦中の「撃ちてし止(や)まむ」「進め一億火の玉だ」というフレーズに、戦後民主主義教育を受けた日本人にとって誰もが違和感を持つのだというのは今更否定できないはずなのに、オリンピックやワールドカップなどの際に、それらと似ているとしか思えないフレーズを平気で日本人の誰もが口にすることに素直な目で疑問を持っている。
    いや、そのこと自体に疑問を持つというよりもむしろ、その雰囲気からはみ出る考えや意見を、日本人全体で封じ込めたり消そうとする傾向が今も厳然と残っていることに大きな疑問を持っているという方がより近いのかもしれない。

    1つの国の国民が一つの方向に全体的に進む、というのは日本に限った話でもないのは私もわかっている。しかしそういう雰囲気になった時に、そこからはみ出る弱い立場の者(まさに節子など)や異なる考えを持つ者を、有無を言わさず隅に押しやる傾向が特に日本人は強いというのを、高畑さんと同様に、もうそろそろ日本人は自覚すべきではないだろうか。
    高畑さんはそれを日本人の「体質」と表現している。体質は容易には変えられないので、高畑さんは日本人が戦争をしない状態を今は保ち続けているものの、ちゃんと考えていかないと、いつか戦争やむなしという雰囲気が大勢となる日が再び来てしまうのでは、と予言している。(そしてそれを防ぐ唯一の方法が憲法9条を改正させないことと高畑さんは言及している。)

    良いところだけでなく悪いところも同じように描き込むことで事象の真実に迫るいう高畑流のリアリズムは、火垂るの墓でもいい面で出ていたと私は思うけど、この本での戦争や日本人に対する考え方にもそのリアリズムが顕著に表れているように感じて、好感をもった。

  • 4.5/177
    『 ■編集部からのメッセージ
     『火垂るの墓』『かぐや姫の物語』で知られるジブリの高畑勲監督が,戦後70年の初夏,初めてご自身の空襲体験を語りました.「自分の子どもにも語ったことがない」という監督の戦争体験.なぜ,いま語ることを決意したのか? 何を伝えたいのか? その秘めてきた思いについて,岡山市でおこなわれた講演記録をもとに執筆されたのがこのブックレットです.
     凄絶な空襲の体験,新鮮な民主主義のもと伸びやかに育った戦後の暮らし,忘れてはならない70年間の平和の代償,安保法制と日本人の同調気質に対する強い危機感――.本当に戦争を防ぐものとは何でしょうか? 本当の民主主義とはどのようなものなのでしょうか?
     アニメーションの世界的カリスマが問い掛ける「君が戦争を欲しないならば」,何ができるのか,何をやるべきなのか――.いま,ここで,きちんと考えることが,私たち一人ひとりに求められています.』
    (「岩波書店」サイトより▽)
    https://www.iwanami.co.jp/book/b254479.html


    冒頭
    『まず、一九四五年六月二九日未明の岡山空襲で命を落とされた、公式には一七三七名いらっしゃいます方々のご冥福を、謹んでお祈りいたします。
    私はいま七九歳、ずいぶん長いこと生きてきましたが、それでもこの岡山空襲は、いまなお私の人生で最大の出来事です。』


    『君が戦争を欲しないならば』
    (岩波ブックレット942)
    著者:高畑 勲(たかはた いさお)
    出版社 ‏: ‎岩波書店
    単行本‏ : ‎64ページ
    発売日 ‏: ‎2015/12/4

  • 高畑勲展─日本のアニメーションに遺したもの | 東京国立近代美術館
    https://www.momat.go.jp/am/exhibition/takahata-ten/

    岩波書店のPR
    「ここで負けるわけにはいきません!」絶叫は,オリンピックの試合でも,戦争中でも,日本にこだまする.一致団結を求める日本人の同調気質こそ,もっとも恐るべきもの.この日本気質への最後の歯止めが憲法九条である.今,漫画映画の世界的カリスマが語る,平和の重さとそのリアリズム.ナンセンスなことを「ナンセンス」と言うために.

    ■編集部からのメッセージ
     『火垂るの墓』『かぐや姫の物語』で知られるジブリの高畑勲監督が,戦後70年の初夏,初めてご自身の空襲体験を語りました.「自分の子どもにも語ったことがない」という監督の戦争体験.なぜ,いま語ることを決意したのか? 何を伝えたいのか? その秘めてきた思いについて,岡山市でおこなわれた講演記録をもとに執筆されたのがこのブックレットです.
     凄絶な空襲の体験,新鮮な民主主義のもと伸びやかに育った戦後の暮らし,忘れてはならない70年間の平和の代償,安保法制と日本人の同調気質に対する強い危機感――.本当に戦争を防ぐものとは何でしょうか? 本当の民主主義とはどのようなものなのでしょうか?
     アニメーションの世界的カリスマが問い掛ける「君が戦争を欲しないならば」,何ができるのか,何をやるべきなのか――.いま,ここで,きちんと考えることが,私たち一人ひとりに求められています.
    https://www.iwanami.co.jp/book/b254479.html

  • 戦争ものがわたしは悲しくなりすぎる為
    読むのが苦手だが、薄い本だし高畑勲さんだし、読んでみた。

    人とは簡単に
    朱に交われば赤くなる
    生き物だということを
    高畑勲さんが仰っているのかなと感じた。

    いま、読んで欲しい本です。

  • 政治や戦争の歴史に対して、取っ付き難い印象を抱いている若者などに読んで欲しい本。この本がきっかけで、無知な自分に対して危機感を感じることができるようになった。

  • ジブリ映画でも有名な高畑勲氏の岡山市での講演会をもとにした本です。
    映画『火垂るの墓』を「反戦映画」ではない、と考えている監督の想い・考えには大きな衝撃を受けました。
    たしかに、戦争末期の悲惨な兄弟の様子を描き、「戦争ではこれほどまでにつらい出来事があったのだ」ということを語り継ぐことそのことは重要です。しかし、「戦争=悲惨」ということをいくら伝えたとしても、将来の戦争を防ぐことにはつながらない、と筆者は言います。

    戦争が「悲惨な出来事だ」ということは世界中の人々が認識しているはずですが、今日また戦火が開かれようとしています。そのときに私たちはどのようにふるまうべきなのでしょうか。

    「ナンセンス」なことに対して「ナンセンスである」と発言できなくなる、その理由とは何か、ということについても筆者の体験を踏まえて分析されていて説得力がありました。
    あえて欲を言うとすれば、「どのように行動・思考を新ためればよい(と筆者は考えている)か」というところについても、もう少し具体的な言及があればよりよかったと思います。

    日常生活の中で「空気を読む」「和を以て貴しとなす」ということはもちろん大切な要素・能力だと思います。一方で、「平和」を維持するためには「大勢に流される」ことを避けねばならない場面も出てきます。このバランスをどのようにとるのか、その判断を誤らないためにも正しい情報を集めることや、自分なりの言葉でしっかりと考えることが必要になるのだろうと思います。

  • 「ずるずる体質」「責任を取らない体質」の絶対的な歯止めが、憲法九条。体質を変えるか、憲法を守るか。どちらが簡単だろう?

  • 高畑勲氏の戦争論。自身の体験に基づく話は説得力がある。いまだからこそ、ひとりでも多くの人に読んでもらいたい本。

  • 戦後もうすぐ80年にならなんとしている。その間日本は憲法9条に護られ市民の戦死者を一人として出すことなく過ごすことが出来た。ありがたいことである。高畑さんの本でもこのことは書かれている。憲法9条を護持し外交を研ぎ澄ますこと。それはその通りであると思うが、今のこの情勢の中でそれだけで日本が戦争を遠ざけることが可能だろうか?その答えは誰も知らない。現在に生きる我々が考えていくべきことだと思う。日本は元来、多民族が作ってきた国家である(このことはゲノム分析で近年明らかになってきた)。これが人さますなわち世間との同調性が強い特殊な民族性と関係があるように思える。したがって、高畑氏の唱える欧米的な声のあげ方、ナンセンスと叫ぶ気質を持ち合わせていないと残念ながら思う。もっと違う方法で平和を維持する努力をしないと力による現状変更を考えている国家と対峙することは適わない。この違う方法は今を生きる我々個人は一人一人が考えなければならないのである。

  • 「君が戦争を欲しないならば、繕え、平和を」
    理想なくして対処はできない、それを忘れた政治家は第一にも第二にも利権のために国民を扇動しているだけで、それを政治と呼んでいる現状が悲しい

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著者プロフィール

アニメーション映画監督。1935年、三重県生まれ。作品にTVシリーズ「アルプスの少女ハイジ」「赤毛のアン」など、劇場用長編「火垂るの墓」「おもひでぽろぽろ」「平成狸合戦ぽんぽこ」「ホーホケキョとなりの山田くん」「かぐや姫の物語」など。

「2014年 『かぐや姫の物語 徳間アニメ絵本34』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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