関東大震災と流言 水島爾保布 発禁版体験記を読む (岩波ブックレット 1083)

  • 岩波書店 (2023年8月29日発売)
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Amazon.co.jp ・本 (96ページ) / ISBN・EAN: 9784002710839

作品紹介・あらすじ

一九二三年九月一日午前一一時五八分、関東大震災が発生。おさまらない揺れと迫り来る火災、そして朝鮮人襲撃のデマ……。画家、文筆家であった水島爾保布は地震発生直後から、人々がしだいに分別を取り戻していくまでの様子を書き記すが体験記「愚漫大人見聞録」は発禁処分で世に出せなかった。幻の体験記は何を語るのか。

みんなの感想まとめ

関東大震災を背景に、人々の恐怖と混乱、そして流言の広がりを生々しく描写した作品は、まさにドキュメンタリーとしての価値を持っています。著者は、震災直後の下町の様子や、流言がどのように人々の行動に影響を与...

感想・レビュー・書評

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  • 勘違いしていたけど、「関東大震災と流言」全般を論じた本ではない。副題にある通り、当時の画家にして文筆家・「水島爾保布(みずしまにおう)発禁版体験記を読む」本だった。ところが、これがすこぶる面白い。一級のノンフィクションだった。それが何故今まで埋もれていたのか?それは、発行即発禁本になって、問題のノンフィクション丸ごと一切世の中に出ていなかったからである。前田恭二さんは、インターネット検索によって、国会図書館に改訂版が出る前の検閲本があるのを発見した。生々しい検閲官の赤線まである。

    「図書」9月号「こぼればなし」にこの様に紹介されている。
    「(略)本書は、検閲により葬られた水島の被災体験記「愚漫大人見聞録」を翻刻し全文収録しました。丁寧な注と解説も付き、日本近現代美術史を専門とする前田恭二さん(武蔵野美術大学教授)渾身の編著です。
    〇 水島の自宅は下町・根岸にありました。本書のなかでも、朝鮮人暴動のデマをめぐる近所の庶民の会話が、迫真性をもった重要な記録となっています。
    〇 「『…朝鮮人だの主義者だの位で納まりやまアいゝ方ですぜ。…朝鮮人と日本人とでさへいゝ加減間違へて、大工だの金魚屋の爺さんなんか迄殺つちまふんだから、対手が毛唐だとなつたら、さアどれがロシアでどれがアメリカだか薩張(さっぱり)見当がつきやしません。…』と、運送屋の親方がいつた。」「『一体鮮人や主義者だつていつてるが、そいつ等が何かしたのを見たつてものは一人もねぇぢやねぇか』と、西瓜を嚙かじつてゐた車屋のカツさんがいつた。『ねぇ親方、幽霊話と同じやうに……。』」(同書六四頁)。
    (略)
    〇 『関東大震災と流言』「おわりに」で前田さんが書かれているように、「同質的な意見が増幅される情報環境が広がり、陰謀論などの温床となっている」現在、「そこに災害などで社会が混乱に陥る事態が出来した場合、何が起こるのか」、恐ろしくなります。」(同書91頁)

    あまり付け足すことはないけど、つらつらと思うことは多かった。

    友人の幡恒春という画家もあらぬ疑いをかけられて上野公園で襲撃された。画家だからスケッチをしに公園に行くと、「17、8ばかりの少年と25、6の青年が、竹槍と鉄棒を持って」「何してる」という。「絵図面取ることが焼き打ちの準備だろう」野次馬が次々とやっちまえ、という。巡査がやってきても、止まらない。けしかける巡査までいた。幡さんは大怪我をする。(9月4日)。

    社会主義者の虐殺は警察の甘粕殺害、朝鮮人に対しては亀戸の地名が有名ではあるが、本書を読むと、そんな特殊的に起きたことではなかったのだとわかる。「井戸に毒薬」などの不穏な噂は数日経った根岸などの片田舎にあっという間に伝播しているのが、空恐ろしい。その中で、水島氏や、安政大地震の頃幼少だった「ボー鱈先生」という地域の古老、あるいは車屋のカツさんのような真っ当な意見が生まれて、いたるところで「暴走」を回避していたのかもしれない。至る所、ということは、回避したところもあれば更に暴走したところも至る所にあったということなのだろう。

    2008年、中央防災会議という専門家の調査会がまとめた報告書によれば、殺傷事件による犠牲者は「震災による死者数の1-数%」との見解を示したらしい。関東大震災の死者数は約10万5千人、1%は約1050人に相当し、その数倍に及ぶ可能性があると言うことだ。つまりそれだけの「殺人」が行われたわけだ。最近「福田村事件」という映画を見たところ、刑罰に服した者は極めて少ないし、その2年後の昭和天皇の誕生で、多くは恩赦に預かったらしい。

    そんなこんな含めて、東京都知事は「事件」については一言も語らない。

    • 傍らに珈琲を。さん
      こんばんは~!
      水島爾保布、谷崎の「人魚の嘆き/魔術師」の装丁でしか知りませんでした。
      それでもビアズリーのサロメのような画風が印象的だった...
      こんばんは~!
      水島爾保布、谷崎の「人魚の嘆き/魔術師」の装丁でしか知りませんでした。
      それでもビアズリーのサロメのような画風が印象的だったなぁ。。。

      歴史に埋もれたお話って、故意に埋めたお話も多そうですよね。
      本書とは関係がなくて申し訳ないのですが、歴史に埋もれたというところで、NHKのバタフライエフェクトという番組が好きです。
      同局のアナザーストーリーズも。
      2023/10/26
    • kuma0504さん
      傍らに珈琲を。さん、こんにちは♪
      水島爾保布を知っているなんて、それだけで凄いです「人魚の嘆き/魔術師」の絵は本書にも載っています。
      編者に...
      傍らに珈琲を。さん、こんにちは♪
      水島爾保布を知っているなんて、それだけで凄いです「人魚の嘆き/魔術師」の絵は本書にも載っています。
      編者によれば、いわば「多才さが裏目に出た」人で、なんでもできたからあまり有名にならなかった人のようで、それこそ「埋もれた」人でした。彼の震災絵画は何枚かこの本に載っていますが、ちょっとスタイリッシュな作風で、貧困とか苦しみとかは省いていますが、震災特有の雲の造形とかはプロの画家だな、という感じがします。

      「埋もれた(埋めた)記録」は山のようにあったと思います。心ある警官や市民の文章はあったに違いない。けれどもその後の27年間にわたる戦中暗黒時代や、大空襲、そして終戦時の公文書焼却で、全て焼けた可能性がある。この検閲本が残っていたのが奇跡的(多分疎開していた)なのだと思います。

      バタフライエフェクト、アナザーストーリー、時々見ます。いろいろ考えなくちゃいけないことがいつもてんこ盛りで、むしろ見ないようにしています。
      2023/10/27
    • 傍らに珈琲を。さん
      kumaさん、こんばんは!
      ホント装丁で…というだけなので、恐縮です。
      パッと見素敵だなぁ、どこかで見掛けたなぁ、そんな風に思って水島爾保布...
      kumaさん、こんばんは!
      ホント装丁で…というだけなので、恐縮です。
      パッと見素敵だなぁ、どこかで見掛けたなぁ、そんな風に思って水島爾保布を知ったのです。
      でも、どこかで見掛けたのはきっと、ビアズリーだったのでしょうね。
      多才だったので有名にならなかったとのお言葉に、再度ネット検索しました。
      日本画家であり、漫画家であり、小説家であり…。
      さらに『関東大震災と流言』のPDFを発見!
      サラッと挿し絵しか見ませんでしたが、爾保布の「地震雲」は、まるでキュビズムの画家のような作風。
      スタイリッシュと仰る意味が分かりました。
      「阿修羅のをどり」もまた違った作風で、別人のよう!
      サロメ風の作風だと思い込んでいたのでビックリです。

      "いろいろ考えなくちゃ……むしろ見ないように"←何も存じ上げないのに、何故か、流石kumaさんですっ!と思ってしまいました 笑
      2023/10/27
  • 100年前の「関東大震災」 知っておきたい3つの教訓とは?|水害から命と暮らしを守る|NHK動画|事前の備えと早めの避難を(2023年8月22日)
    https://www3.nhk.or.jp/news/special/suigai/articles/16302/

    【災害列島~関東大震災100年】命脅かす「災害デマ」 真偽不明、うのみにせず - 産経ニュース(2023/8/20)
    https://www.sankei.com/article/20230820-JHEMFDNEOVMV5KQ35CGZD6M5RI/

    「流言飛語への対応を過去に学ぶ」 朝鮮人虐殺問題で国家公安委員長:朝日新聞デジタル(2023年5月23日)
    https://www.asahi.com/articles/ASR5R5KP0R5RUTIL01R.html

    【101冊の挿絵のある本(85)…水島 爾保布:画、鈴木三重吉『湖水の女』(春陽堂、大正5年)の挿絵16点を紹介します。】 - 装丁家・大貫伸樹の装丁挿絵探検隊
    https://shinju-oonuki.hatenadiary.org/entry/2021/06/10/091313

    関東大震災と流言 - 岩波書店
    https://www.iwanami.co.jp/book/b629846.html

  • 関東大震災後数日の様子を描いた作品は多数ありますが、流言の端緒と思われる様子の記載のほか、下町の様子を生々しく描いており、まさにドキュメンタリーです。発禁になっただけのことはあります。流言に関して言えば近時もこれからも地震災害では同じことが起こることを予感させます。

  • 100年前、関東大震災が起きた当時、水島爾保布という人がいた。絵を描いたりものを書いたりする人。この本は、その水島さんが当時経験した関東大震災の直後の様子を人びととの会話を描写する形で著した一節を解説付きで紹介したもの。古い文体をそのまま、漢字のみ新字体に改めたものを収録し、前後と各章末に編著者の解説を載せる。
    悲惨さを描いたというよりは、経験した者たちが織りなす日常のユーモラスな会話を通じて震災みる、といった読み物。登場人物がほとんど江戸のべらんめぇ調であまり悲惨な感じはしない。
    なぜ、今この本かというと、この本、発禁になっており世には出ていなかったから。発禁箇所を除いた改訂版は出ていたものの、それには震災の描写がなかった。発禁本は国会図書館に所蔵されており、それを著者が発掘、本にしたのがこれ。
    震災の流言といえば、朝鮮人に関するものがよく知られているが、それがどのようなものだったか、どうしてそんな流言が信じられたのか、が庶民的な経験から素朴に描写されていて、興味深かった。古い文体で読みづらいものの、それをさっ引いてもおもしろかった。

    —-以下、ツイッタ、リンクは2023/10/07

    読了本。前田恭二「関東大震災と流言 水島爾保布 発禁版体験記を読む (岩波ブックレット)」  https://amzn.to/4520Now 戦前に発売禁止になった本を、現代に紹介した本。時代背景と筆者の水島のことを紹介後、彼の本を漢字などを一部直して掲載。当時の空気感がわかっておもしろい #hrp #book #2023b

  • すごくよかったです。これを発掘して本にした編者の目は素晴らしい。とんでもなく切れ味鋭い批判が混じっていて、虐殺を引き起こした過剰な恐怖の根底に日頃虐げていた自覚があったことや、有事には物の価値だけでなく人間の価値も不定になることなど、大変に身につまされました。

  • 【請求記号:210.6 マ】

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著者プロフィール

1964年山口県生まれ。東京大学文学部卒業後、読売新聞社入社。文化部で主に美術記事を担当。著書に「やさしく読み解く日本絵画 雪舟から広重まで」。

「2014年 『絵のように 明治文学と絵画』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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