万葉集 3 (岩波文庫 黄5-3)

  • 岩波書店 (2014年1月16日発売)
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Amazon.co.jp ・本 (416ページ) / ISBN・EAN: 9784003000564

みんなの感想まとめ

多様な感情や風習が詠まれた歌が集まるこの作品は、特に七夕に関する歌が豊富で、奈良時代の人々の思いを伝えています。七夕の歌は、時代を超えて、さまざまな視点から詠まれており、古代の神話や風習が反映されてい...

感想・レビュー・書評

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  • 最初に見かけた時に全巻買っておかなくてあとで後悔する、ということはよくあると思う。私の場合、岩波文庫『万葉集』がそれで、とあるブックオフで見かけた時に金を惜しむことなく全て手に入れていればよかったものを、1巻だけ買ってしまったために以後探すのが困難になった。都内の規模の大きいブックオフであればあるかなーと思い探してみたものの、あったのは既に持っている1巻と3巻のみ。佐々木信綱『新訓 万葉集』を持っているし、別に飛ばして読んだところで内容がわからなくなるような書籍でもないから気にする必要なんてないのだが、なんとなく収まりが悪い。岩波文庫の黄帯なんてどこにでも売っているものだと思っていたのだが、どうも意外と貴重みたいなので、次見かけた時は出し惜しみすることなく購入したいと思う。

    さて、3巻は『万葉集』でいうところの巻9から巻12の和歌を収録している。
    巻9は皇子達による御製歌、柿本人麻呂や高橋虫麻呂など宮廷歌人による傑作、筑波など各地方や伝承についての和歌を収録する。中でも歌垣など東の風習を詠んだ歌や、浦島太郎の物語のプロトタイプといえる長歌(1740)が有名であろう。今に伝わる浦島太郎といえば、虐められていた亀を助け、そのお礼として竜宮城に行くという設定になっており、『日本書紀』でも亀の存在が確認できるが、こちらの歌には亀は登場せず、プロットもより幻想的なものになっている。竜宮城伝説の成立の過程を見ているようで非常に興味深い。
    東国についての和歌もまた興味深く、歌垣という、男女が野外で和歌を詠みあい、そのまま行為に及ぶ風習が生々しく描写されている。「妻よ、今日だけは咎めるな」と歌うところがあるため、契りを交わした相手とは別の相手と寝ていたことがわかって面白い。畿内はどうかわからないが、東ではかなり性に関して奔放だったのかもしれない。
    性といえば、1738の歌にて「胸別の広き我妹」に、通りがかる人は皆吸い寄せられて(いろんな意味で)しまうと詠んでいるのもまた滑稽で面白い。「胸別の広い」とはいわゆる胸の大きな女性のことで、千年以上経っても男というものの本質は変わらないのだなぁと呆れつつも驚かされた。

    巻10は四季に応じた和歌が多数収録されている。「秋の雑歌」の部はもはや七夕歌集と言ってよいほどで、一年しか会うことのできない織姫と彦星に思いを馳せて詠んだ歌群は、通り一辺倒のものでなく、情趣や技法にそれぞれ個性が表れていて興味深い。「橋を渡しておくから早くきてください」と急かす歌、「1年のうち1度しか会えないのに、もう夜があけてしまったのか」と逢瀬の後の虚しさを嘆く歌など様々あるが、私は「これだけ長く待ってようやく逢えると思って来たのに、辿り着けぬ間に夜が明けてしまった」と詠む一群の歌に心惹かれた。会って思いを遂げるならまだしも、逢えもせず終わるとは、なんとも虚しい。自らの体験を元にこう詠んだのかもしれないが、織姫と彦星の関係にそれを仮託するとは、残酷なやり方もあったものだ。

    巻11〜12はあまたある歌を、寄物陳思(モノに喩えた歌、譬喩歌に近いか)、正述心緒(感情をありのままに表現したもの)、旋頭歌、譬喩歌、羇旅歌、悲別歌などの各項目に分類して収録したものになっている。未詳の和歌の倉庫と言ってもよいかもしれない。収録数も膨大で、内容や技巧的に似ているものも多いため一首一首読んで品評するのが困難だ。しかし見ていると「熟田津の〜」で有名な額田王の歌を模したものがあったり、後の『古今和歌集』、『拾遺和歌集』などに見られる作品に構成や技巧、情趣の感じ方において似通っているものがあったりと、流し見するには惜しい歌も混じっているので適当に飛ばし読みできない。また、注目はされていないが「お、これは面白いな!」と思える秀作もしっかりあるのでなかなか侮れないのだ。以下に、私が個人的に良いと思った三首を引きたい。


    「確かなる使ひをなみと心をそ使ひに遣りし夢に見えきや」(2874)

    「嬰児のためこそ乳母は求むといへ乳飲めや君が乳母求むらむ」(2925)

    「我妹子に恋ひすべながり胸を熱み朝戸開くれば見ゆる霧かも」(3034)


    一首目は、「使いの者がいないため言伝できませんので、私の心を使者として遣わせました、夢にみえたでしょうか?」と詠んだ作品だが、あまり身分が高くないために使者を控えさせていないことを逆手にとって機知を相手に見せた技ありの歌といえる。相手を思っていると、相手の夢の中に自分が現れるという当時の迷信についてもよくわかる作品。

    二首目は、「幼児のために乳母は必要とされるのです。あなたは乳が飲みたくて私を必要としているのですか」と詠んでいる。求婚してきた若い男を幼児に見立て、誘いを一蹴してみせた面白い歌だ。女性の堂々として才気に満ちた歌いっぷりか感じられる良作である。

    三首目は「あなたにどうしようもなく恋焦がれて胸が熱くなり、堪らず戸を開けたら、朝の寒さに胸が冷やされ霧となって出て行きました」と解釈できる。なんの古典作品か失念してしまったが、恋焦がれる女性が胸が熱くなり、水に当てて冷やしていた、という作品が平安期にあったと思う。その先駆けとも言えるだろうか。朝霧からこんなことを連想して見せる奈良時代の貴族達の趣深さは底が知れないな、とつくづく思い知らされた。しかしまあ、現代語にして説明するとこれだけの文字数を要する内容を、五七五七七の中に収めることのできるやまと言葉の利便性の高さといったら、他に比べようがない。もはや詩文特化で作られたのではないかとも思えてくる。

    以上、ざっと3巻を振り返ってみた。本書も素晴らしかった。時間はかかるが、これほど豊かな旅路はないだろうと思う。古代人の精神世界を巡る旅は、どこを見ようとも鮮やかな感動に満ちているのだ。
    残り3冊、先は長けれども楽しい旅路だ。焦ることなくゆっくりと一つ一つの歌を吟味しつつ、万葉の道を歩いて行きたいと思う。

  • 『万葉集』の七夕の歌から『新古今和歌集』の七夕の歌を読むとギャップが面白い。

    我が待ちし秋は来たりぬ妹と我れと何事あれそ紐解かずあらむ
    (私の待っていた秋はきた。妻と私とは、何があればとて着物の紐を解かないことがあろうか)

    しばしばも相見ぬ君を天の川舟出はやせよ夜のふけぬ間に
    (たびたびは逢えないあなたなのに。天の川に早く舟出をなさい。夜が更けないうちに)

    天の川棚橋渡せ織女のい渡らさむに棚橋渡せ
    (天の川に棚橋渡せ!織姫が渡るための棚橋だ!)

    『新古今』入選歌
    ながむれば衣手涼し久方の天の河原の秋の夕暮れ 式子内親王
    星合の夕べ涼しき天の川もみぢの橋を渡る秋風 権中納言公経
    七夕の天の羽衣うち重ね寝る夜涼しき秋風ぞ吹く 高遠

    400年の時を経て滅茶苦茶繊細になってる七夕の歌

    というか『万葉集』巻の第十の秋雑歌の七夕歌はかなり量が多い。奈良時代における漢籍からの七夕神話受容の有り方を示す重要な資料らしい(巻頭の概説)。となると、七夕は和歌の題材として好まれ、その後七夕が国家的行事にまで組み込まれたことも鑑みるに、七夕は日本人にかなりうけたと言えるのではないでしょうか。

  •  高橋虫麻呂 (生没年未詳) は奈良初期から中期の歌人で、伝説を詠じた点に特色がある。下級官吏として常陸国 (茨城県、福島県に一部) に赴任、「常陸国風土記」の撰にもあずかったと伝えられている。
     『万葉集』(759年以後) は、虫麻呂の歌として、筑波山にかつて次のような群婚の習俗があったことを伝えている。

    鷲の住む 筑波の山の 裳羽服津(もはきつ)の その津の上に 率(あとも)ひて 未通女(をとめ)壮士(をとこ)の 往(ゆ)き集ひ かがふ嬥歌(かがひ)に 他妻(ひとづま)に 吾も交(まじ)らむ 我が妻に 他(ひと)も言問(ことど)へ この山を領(うしは)く神の昔より 禁(いさ)めぬ行事(わざ)ぞ 今日のみは めぐしもな見そ 言も咎(とが)むな

    鷲の住む筑波山の裳羽服津(もはきつ)の津に、若い男女が行き集まって楽しむ嬥歌(かがい)で、人の妻と私も交わるつもりだ、他の人も私の妻に言い寄ればよい。この山を治める神が、古来禁じてはいない行事である。今日だけは、見ないことにして咎めだてをすることはない。

  • 巻第九◆巻第十◆巻第十一◆巻第十二

    校注:佐竹昭広(1927-2008、東京都、国文学者)、山田英雄(1920-2001、東京、国史学者)、工藤力男(1938-、秋田市、国語学者)、大谷雅夫(1951-、大阪府、国文学者) 、山崎福之(国文学者)

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著者プロフィール

佐竹昭広

「1999年 『人生の階段 いまは昔 むかしは今5』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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