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- Amazon.co.jp ・本 (368ページ)
- / ISBN・EAN: 9784003013212
感想・レビュー・書評
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古今から新古今に至るまでの過渡期にあつて、ものをみて感じ、表現する人間たちの精神の形が彩られてゐる。古今では、長らく忘れられてゐた大和歌の復活と、三十一文字の可能性を提示する先駆けとなつた。この千載和歌集では、そこから深化し、ことばと共に再度歩み出した人間たちの軌跡が聞こえる。
流転と変化の中に生まれてしまつた自分への気づき。それは寂しさや悲しさでは決してなく、散る花木や起かれた露、ゆく鳥といった自分たちとともに生きる存在そのものであつた。
編者に対する批判はそれなりにあつたやうであるが、俊成といふ人間の選び方といふものは、この道の感覚に拠つてゐる。それは武士の台頭と政権の目まぐるしい変遷と無関係なものでは決してない。逆に、俊成がかうした歌を数多く集められたといふこと自体、死に行くもの、生まれ来るもの、繰り返す季節、いつも変わらぬ月の光に、ひとの世の流転に思ひ巡らせ始めた人間の心があるのだと思ふ。俊成が選べるだけ、さうした人間たちが古来より存在し続けてきたのだ。
当時の歌枕はどれほど彼らがかつてみた姿で残されてゐるだらうか。あれから何度鳥はわたり、花は散つていつただらうか。世界はその形を変へてゆく。
折に触れてこのやうに感じる心をもち、鳴り止まぬ廻つては通り過ぎる現象に対して、叫ぶのではなく無力ではかないことばに託し、力なく慰める姿、言霊幸ふことを信じてやまないひとの形が生きてゐる。そしてさうしたことばをまだ分かちあへることが、現在を生きる自分に許されてゐる。詳細をみるコメント0件をすべて表示
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