千載和歌集 (岩波文庫 黄 132-1)

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  • Amazon.co.jp ・本 (368ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784003013212

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  • 古今から新古今に至るまでの過渡期にあつて、ものをみて感じ、表現する人間たちの精神の形が彩られてゐる。古今では、長らく忘れられてゐた大和歌の復活と、三十一文字の可能性を提示する先駆けとなつた。この千載和歌集では、そこから深化し、ことばと共に再度歩み出した人間たちの軌跡が聞こえる。
    流転と変化の中に生まれてしまつた自分への気づき。それは寂しさや悲しさでは決してなく、散る花木や起かれた露、ゆく鳥といった自分たちとともに生きる存在そのものであつた。
    編者に対する批判はそれなりにあつたやうであるが、俊成といふ人間の選び方といふものは、この道の感覚に拠つてゐる。それは武士の台頭と政権の目まぐるしい変遷と無関係なものでは決してない。逆に、俊成がかうした歌を数多く集められたといふこと自体、死に行くもの、生まれ来るもの、繰り返す季節、いつも変わらぬ月の光に、ひとの世の流転に思ひ巡らせ始めた人間の心があるのだと思ふ。俊成が選べるだけ、さうした人間たちが古来より存在し続けてきたのだ。
    当時の歌枕はどれほど彼らがかつてみた姿で残されてゐるだらうか。あれから何度鳥はわたり、花は散つていつただらうか。世界はその形を変へてゆく。
    折に触れてこのやうに感じる心をもち、鳴り止まぬ廻つては通り過ぎる現象に対して、叫ぶのではなく無力ではかないことばに託し、力なく慰める姿、言霊幸ふことを信じてやまないひとの形が生きてゐる。そしてさうしたことばをまだ分かちあへることが、現在を生きる自分に許されてゐる。

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著者プロフィール

1933(昭和8)年、東京生れ。東京大学文学部卒業、同大学院人文科学研究科博士課程満期退学。文学博士(東京大学)。東京大学教授、白百合女子大学教授を経て、東京大学名誉教授。日本学士院会員。専門は、中世文学、和歌文学、日本文学史。主な著書、『新古今歌人の研究』(東京大学出版会、1973)、『新古今和歌集全注釈 全六巻』(角川学芸出版、2011~2012)、『久保田淳著作選集 全三巻』(岩波書店、2004)、『花のもの言う』(新潮選書、1984。岩波現代文庫、2012)、『隅田川の文学』(岩波新書、1996)、『富士山の文学』(文春新書、2004。角川ソフィア文庫、2013)、『ことば、ことば、ことば』(翰林書房、2006)、『藤原俊成 中世和歌の先導者』(吉川弘文館、2020)など。
1997年より、『和歌文学大系 全八十巻』(明治書院)の監修者として、現在まで五十四巻を刊行。残る二十六巻も進行中。

「2020年 『「うたのことば」に耳をすます』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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