雨月物語 (岩波文庫 黄220-3)

Kindle版

β運用中です。
もし違うアイテムのリンクの場合はヘルプセンターへお問い合わせください

  • 岩波書店 (2018年2月19日発売)
3.90
  • (5)
  • (9)
  • (5)
  • (1)
  • (0)
本棚登録 : 350
感想 : 20
サイトに貼り付ける

本ページはアフィリエイトプログラムによる収益を得ています

Amazon.co.jp ・本 (272ページ) / ISBN・EAN: 9784003022030

みんなの感想まとめ

物語の魅力は、古典文学の深遠なテーマと現代的な視点が融合している点にあります。豊富な脚注が各ページに配置されているため、原文の和漢混淆文も無理なく読み進められ、初めての文語体でもスムーズな読書体験が得...

感想・レビュー・書評

並び替え
表示形式
表示件数
絞り込み
  • だいぶ昔だが、溝口健二『雨月物語』を見て甚く感動したのを覚えている。艶かしくねっとりとしたカメラワーク、男女の愛の美しさと卑しさを捉えた構成に衝撃を受け、小津安二郎と溝口健二の映画を交互に見る生活をしばらく続けた。授業でも習ったはずなのに、この映画に原作があることを完全に忘れたままで。

    映像化された作品を先に見てしまうともう読んだ気になってしまい、あえて原作を探して読もうとしなくなってしまう。コーマック・マッカッシー『No Country For Old Men』なんかも、コーエン兄弟の映画を先に鑑賞し、原作を読んだのはその一年後のことだった。ちゃんと原作も読まなきゃダメだよなぁなんて思いながら、ずぼらな性格で後回しにしてしまうのである。『雨月物語』なんて一年後どころか数年後の今になってようやく手をつけた。まあでも、読まないで終わるよりマシだろう、と言い訳をして根本的な問題と向き合うことから逃げた。

    ようやく読んでみて思ったが、溝口バージョンと原作ではかなり空気が違う。溝口健二の場合、原作のうち二話のストーリーを混ぜ合わせた上で外文の要素を注入し、溝口流に仕上げた脚本になっているので、彼のオリジナル作品と言ってよいかもしれない。好きな監督を三人言ってみて、と聞かれたら「ミゾグチ、ミゾグチ、ミゾグチ」と答えるほどには溝口健二が好きなので、原作改変についてとやかく言うつもりはまったくないし、むしろ原作のうち、女性の神秘的な強さを抽出して映像化した点はさすがだなぁと、改めて彼のセンスの良さに驚かされた。

    さて、ここからは原作に立ち返って論じていこうと思う。九つの物語からなる『雨月物語』は、校注者や溝口が着目した「女の強さ」が主題となっているとは言い難い。むしろ漢籍に見られるような「義」と「 中道」の精神が全話において貫かれていると言える。義と中道といえば、やはり儒教的精神だが、「菊花の約」のような理想的な儒者的価値観が貫かれている話もあれば、「貧富論」のように実利に目を向けた話も含まれており、一概に儒者による作品と決めつけることはできない。司馬遷『史記』の根底に流れる精神を意識したかのようにも見えるが、「夢応の鯉魚」のような神秘的な情景を描いた箇所も随所に見られる。漢籍だけに依っているかと思えば、「蛇性の淫」にて「よきひとの よしとよく見て よしと言ひし 吉野よく見よ よき人よく」という『万葉集』の歌に言及している場面もあり、日本的な美の価値観も盛り込まれていることがわかる。つまり、国学の知識をふんだんに用いて練り上げた雅な世界観を、神秘的な描写で豊かに彩り、根底に漢籍由来の骨太な思想をおいて支えたのが『雨月物語』という作品なのだ。同時代の浮世草子や読本、後の時代の滑稽物などと比べてみると、如何に本作が飛び抜けて秀でているかがよくわかると思う。まさに唯一無二の作品と言ってよい。歴史を超えて多くの作家に愛される理由がよくわかる。独特の感性とそれを裏打ちする確かな教養がなければ、時の洗礼を乗り越えることはできない。上田秋成は、恐ろしいことにその二つを持ち合わせていたのである。

    これだけの傑作、あまたの人々が評価してきた作品をいちいち細かく一話ずつ解説していくのもヤボな気がするので、物語に関する批評はこれくらいにしておこうと思う。それよりも、「岩波文庫版『雨月物語』」がどうだったかを伝える方が、一素人読者の感想としては重要だと思う。

    結論としていえば、大変読みやすかった。注釈の入れ方が的確で、学校教育で習う文法や単語知識さえあれば読めるようになっている。無駄や抜けがほとんどない。さらに本編導入にて全話の要約を載せてくれているので、本編に入ってからも話を追うのに苦労することがない。安心して文語の美しさを堪能しながら物語世界に入っていけるようになっている。そもそも江戸中期に入って書かれた作品なので読解にさほど困難はないが、やはりここまで手を尽くしてくれているのはありがたい。これさえあればわざわざ現代語訳を読まなくても良いと言っても過言ではないだろう。作品の随所に漢籍に関しての素養が必要とされる部分も多くあるが、そこもしっかり解説を入れてくれているので、読むだけでどんどん教養が身についていく仕掛けになっている。まさに私のような無学無教養の人間にぴったりの本だ。

    江戸文学に興味がある方、どこかで『雨月物語』に興味を持った方、怪異や歴史に興味のある方、是非岩波文庫版の『雨月物語』を手に取って欲しい。これほど原文で読んでもらうために手を尽くしてくれている本も珍しいだろう。有難いものは、しっかり利用していかなければならないなと思った。



  • 平安時代から戦国時代まで様々な物語が書かれており、どれも面白く感じました。特に、「浅茅が宿」、「夢応の鯉魚」は興味をそそられました。心情、背景描写にとても惹かれたのです。ただ、物語の裏に何かあるのではないかと勘ぐってしまいたくなる箇所があり、読めば読む程に止まらなくなりそうだったのでグッと抑えながら読みました。特に「浅茅が宿」については、夜のうちに別の場所へと運ばれたのでは等、無粋なことを色々と考えてしまったのです。

    ー------
    九話の物語集。
    ・白峰
    ・菊花の約
    ・浅茅が宿
    ・夢応の鯉魚
    ・仏法僧
    ・吉備津の釜
    ・蛇性の淫
    ・青頭巾
    ・貧富論

    ー------
    メモ
    ・保元物語
    ・撰集抄
    ・応神紀
    ・重編応仁記
    ・太閤記

  • 現代語訳はついていないが、脚注が豊富でわかりやすく各ページ下部に配置してあること、原文自体が和漢混淆文でそもそもそこまで難解ではないことから、無理なく読み進められる。

    古典文学を現代語訳を使わずに通読したのははじめて。「夢応の鯉魚」の説話っぽさや。「蛇姓の婬」の執拗な感じが好み。
    解説を読むと、上田秋成が今まで書いていた浮世草子から読本にスタイルを移行させて『雨月物語』を著したとあり、両者は形式こそ異なるが、視点は共有するとあった(女性キャラクターの造形などに)。
    おもえば現代でも作り物感の強いホラー映画って、コメディを見ているように笑えてきちゃったりもするもんな、と俗物的な現代人的発想でなっとくしたり。

  • 大好き上田秋成って、粋な男ですな!
    イソラ、菊花の契りが大好きだな

  • 古典版「世にも奇妙な物語」です。

  • この本を読んだ人の少なさにびっくりしちゃった。

    いちからこんな話をたくさんつくれるなんてすごいなあ〜ってやんわり思っていたら、わりかし原本があるみたいで「あ、そなの」ってなってしまった。ただ、逆に教養に溢れていると捉えればポジティブに生きられる。

    初の文語、古文の文章で大挫折するかと思ったら、意外とするする読めた。

    『夢応の鯉魚』がいちばんオシャレ。ラストの絵の中の鯉は湖に泳ぎ出してしまったから残っていないんだ、みたいな部分に「あひゃ〜〜」となってしまった。良すぎる。

    基本的に男と女の云々だっただけに、『夢応の鯉魚』がひときわ目立っていた。

  • 人が鬼や蛇に変じるのは古来から枚挙に暇がないほどよくあること…なのか。
    いっそのこと鬼や蛇になれたならと思うことはありますね。
    でもそう簡単にはなれないのです。
    それはまだまだ堕ちかたが足りないということなのでしょうかね。
    それにしても女性が報われないね。
    そういう時代。

  • 「なんか国語の授業で知っているような...
    うんうん、オチとかも含め
    古典あるあるだよね...」
    と思っていたら

    ▪️ 吉備津の釜
    ▪️ 青頭巾

    のこの2話が特にゾワーーッ。
    「恐ろしいもの」が眼前に迫るのではなく
    心理的にじわじわと恐怖が迫ってくる
    ジャパニーズホラーの原点。

  • 怪奇譚という知識だけを持ち合わせていたが,実際拝読すると描かれる9編の短編がそれぞれ時代,登場人物,そして内容いずれも多様であり,現在に脈々と流れる本分野の源流を感じる.何よりも雨月,という文言に,時代を超えても全く色褪せず,これから起きるであろう不吉な予感を色濃くひしひしと感じ,内容に負けず劣らず大変気に入っている.

  • 2026年読みたい本の1冊目です。まず、訳がなくても古文をちゃんと読めるかが心配であったが、注がしっかりしていて、杞憂であった。
    序文にあるように、たしかに嘘とわかるのであるが、なかなか興味深い話ばかりであった。決して、嘘だから読むのを止めようとは思わなかった。そこが雨月物語が現代まで読み継がれている所以かも知れない。
    個人的には、秀次や保元物語の話も良かったが、蛇の女の話が面白かった。人それぞれだと思う。ご一読を。

  • 『ウインダリア』の原作は『雨月物語』所収「浅茅が宿」と聞いていたが、実際には映画『雨月物語』が元になっているようだ。主人公が兵士という設定は映画にしかない。
    (映画は「浅茅が宿」「蛇性の婬」のほかにモーパッサン『勲章』が原案になっており、主人公が兵士という設定は『勲章』に由来する)

  • 上田秋成の代表作。

    初読ではないが、今更真面目に、普通の小説として読んでみた。感想。

    ・「白峰」冒頭では旅景色の描写が続くが、旅をしている主体が誰なのか、かなり読むまで示されないのが不思議。「仁安三年の秋(p23)」とあるから秋成でないことは伝わるが、崇徳院が現れて名前を呼んで(p26)初めて、その人が西行だと分かる。
    同じく旅人が死霊に出会うパターンの「仏法僧」では、現れた人々は当初正体不明→呼び合う人名から、前提知識のある読者には察しがつく→旅人の質問に答える形で回答が示される(p112)という構成。本書は注でいきなり貴人の正体を書いてしまっているが、普通に小説として読む視点からはネタバレではある。

    ・「菊花の契」左門が赤穴を待っている間、通り過ぎる旅人の様子と会話がえらく詳しく描写されている。赤穴の運命を示す伏線のようでもあり、単に箸休め的な場面のようでもある。
    また冒頭と末尾にある「軽薄の人」については、論文のネタにもなっているようだが、確かに色々解釈の余地があって面白い。左門アホやろ、という皮肉と受け取ることさえできそう。

    ・再会するために化けて出た系のお話「菊花の契」と「浅茅が宿」が並んでいるのが意味深。

    ・女に祟られる系のお話「吉備津の釜」「蛇性の婬」の対比。「吉備津」では、頼りになりそうな陰陽師が対策を授けてくれるのに当人の油断でやられる。「蛇性」では自信満々に登場してきた高名な法師は瞬殺されるが、当人が妻を守り怪異を退ける決意をすることで血路が開かれる。霊的な力に頼るのではなく己がしっかりせんかい、という感じ。

    ・「蛇性の婬」は全体として怪異譚だが、いったんそれを否定する展開がある。石榴市で豊雄と再会した真女子が、姿を消した際の怪異について一応現実的な説明をして自分は怪しいものではないと主張し、豊雄だけでなく第三者の金忠夫婦も納得する。

    ・「青頭巾」ラストの一喝がカッコいい。「吉備津の釜」の凄惨なラストに匹敵する切れ味。
    そもそもこのお話に登場する快庵は終始カッコいいのだが、前の話「蛇性の婬」で登場する法師のカッコ悪さとの対比は、意図したのかどうか。

    ・「貧福論」金の精は「もと非情の物なれば人と異なる慮(こころ)あり(p207)」、仏教とも儒教とも違う理屈があるという主張。資本主義のことを指すようで面白い。

  • 剪枝畸人ってペンネームが好きです

  • 岩波文庫なのに親切丁寧。手取り足取りの脚注でよく読める。夜に怪事が起きがち。夢枕に立ちがち。

全14件中 1 - 14件を表示

この本が好きな人におすすめの本

著者プロフィール

大阪府生まれ。1734(享保19)年~1809(文化6)年。江戸後期の読本作者。歌人、茶人、俳人、国学者でもある。『雨月物語』は5巻9篇で構成され、1776(安永5)年に出版された。

「2017年 『雨月物語 悲しくて、おそろしいお話』 で使われていた紹介文から引用しています。」

上田秋成の作品

  • 話題の本に出会えて、蔵書管理を手軽にできる!ブクログのアプリ AppStoreからダウンロード GooglePlayで手に入れよう
ツイートする
×