雁 (岩波文庫 緑 5-5)

著者 :
  • 岩波書店
3.33
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本棚登録 : 224
レビュー : 36
  • Amazon.co.jp ・本 (178ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784003100554

作品紹介・あらすじ

生まれてすぐに母を亡くし、貧困の中で父親に育てられたお玉は、高利貸末造の妾となり、上野不忍池にほど近い無縁坂にひっそりと住んでいる。やがて、散歩の道すがら家の前を通る医学生岡田と会釈を交すようになり…。鴎外の哀感溢れる中篇。

感想・レビュー・書評

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  • 鴎外は『舞姫』を現代文の教科書で読んだことがある。それっきり。

    そもそも、国語の授業を通しての作家との出会いっていうのは、私の場合たいてい上手くいかない。太宰との出会いが『走れメロス』だったせいで、彼の他の小説を読み始めるのは三年遅れた。芥川の『羅生門』を最初に読んだせいで、長らくその晩年の作品に目を向けることをしなかった。漱石『こころ』のラストだけ抜粋(!)という恥知らずなネタバレは、今でも恨んでいる。

    そして、中でも最も失敗したのが、初めての鴎外が『舞姫』だったということではないだろうか。これがもう、私を決定的に鴎外から遠ざけた。正直に言う。全然、ぜんっぜん、面白くなかった。文体が難しいとか、そういう問題ではない。何より、登場人物の誰にも共感できなかった。豊太郎もエリスも相沢も、みんな人形みたいに思えた。話の筋だってちっとも良いと思わなかった。読み終わった後「あ、そう、ふうん」以外の感想が思いつかない小説があるなんて。自分でもおこがましいとは思う。が、とにかく、当時の私には合わなかったのだ。

    それから数年。
    今回『雁』を読んでみて、まず文章の美しいのに驚いた。淡々としていて、ほんとうにすっと入ってくる。一つ一つの言葉があるべきところにばちっ、ばちっと嵌っているからだ。それでいて「巧妙さ」を感じさせない。(これは褒めている)あくまでさらりとこういう文章が書けるとは。鴎外の「文豪」たる所以がようやく垣間見えた気がした。
    一方で物語としてはどうかというと、これがあまりしっくりこなかった。心に迫ってくるものがあまりなくて、遠くの空に浮かんだ雲を日がな一日眺めているような感じ。瞬間瞬間のはっとするような美しい描写はあるのだが、物語全体としては力が足りないように思う。そういうのがスタイルなのだろうか。
    あとは、語り手の存在の必要性が最後まで疑問だった。特に幕引きの取って付けたようなぎこちなさには少々興ざめしてしまった。直前まで鴎外の筆力にすっかり惹きこまれていただけに、あの終わり方だけはなんだか裏切られたように感じた。かなしい。

    何はともあれ、決して悪くはなかった。鴎外をもうちょっと本腰を入れて読んでみようかと思うきっかけにはなったかな。

    • 佐藤史緒さん
      >漱石『こころ』のラストだけ抜粋(!)という恥知らずなネタバレは、今でも恨んでいる。

      激しく同意します。
      >漱石『こころ』のラストだけ抜粋(!)という恥知らずなネタバレは、今でも恨んでいる。

      激しく同意します。
      2012/10/30
    • ratsさん
      あれはもう、本当に酷いですよね。今もって、人生における結構な損失だったと思っています。
      まさか少女漫画ではなく現代文の教科書で「これまでのあ...
      あれはもう、本当に酷いですよね。今もって、人生における結構な損失だったと思っています。
      まさか少女漫画ではなく現代文の教科書で「これまでのあらすじ」を目にすることになるとは。そこまでして、本来は長編である『こころ』を載せたいのでしょうか・・・・・・。

      2012/11/01
  • じれったい、じれったい、恋の話。
    帽子をとって会釈をしてくれる相手の姿を見るだけでドキドキしているお玉さんが、本当に初々しくてかわいらしい。
    一方の岡田君が、超ストイック。
    こんな人が実在したら、お玉さんじゃなくても惚れると思う。
    どうやら現代の恋愛小説より、このくらいの時代のちょっと古臭い話の方が自分には合うらしい。

    上野に行くときはいつも博物館や動物園が目当てで、あまり周辺を歩いたことがないので、この話の舞台になっているあたりをいつか散策してみたい。
    現在はどんな街並になっているんだろう。

  • 1911年から1913年、足掛け3年の年月をかけて完成した森鴎外の小説。
    とはいえ、その間、長期連載をし続けていたわけではなく、掲載誌「スバル」の休刊から、引き継がれる予定だった「我等」も休刊し、長い休載期間を経て、最終的には描き下ろしで完結した経緯があり、内容的には130ページほどで中短編程度の長さとなっています。

    森鷗外としてはなかりわかりやすい作品です。
    私、過去のレビューでも書いている通り、森鷗外の文学は苦手で、「舞姫」の印象が第一にあるためなのですが、これまで読んできた鷗外文学を振り返るとやはりとっつきやすい作者とはいえないと感じています。
    本作にして、ようやく頭を悩ませることなく、普通に読める小説がでてきたなと感じました。
    鷗外作品は往々にしてなかなかページが進まないまま内容をさっぱり忘れてしまい、読了に難儀するのですが、本作はページが進むんですね。
    小説として、かなり面白い内容だと思います。

    末造、お玉、岡田という3人の人物が中心となる展開で、語り手の「僕」は聞いた話を語っているという形になっています。
    末造という男は貧乏な小間使いをしていたのですが、人に金を貸すようになり利子で儲けて、やがて裕福になります。
    口うるさく所帯窶れがしている妻に嫌気が差してきた末造は、ある日、大学へ行く途上で、三味線の稽古をしているお玉という娘を見かけます。
    その美しさに惹かれた末造は、お玉を妾にしようとします。
    お玉は、両親が老いてから初めて授かった娘で母は産後に亡くなったこともあり、父の寵愛を受けていました。
    また、巡回中の巡査に見初められ、入婿の形で入り込んでこようとしたが、実は巡査には国に妻子がおり、それを恥じて引っ越した経歴があるため、お玉の父は末造の話に懐疑的でしたが、父に楽をさせるため、お玉は末造の話を進んで受けます。
    一方で、語り手の「僕」のひとつ下の学生「岡田」は、いつもの散歩の帰り道に謎めいた印象の女性・お玉に出会い、また、一方で、お玉も家の前を通る学生に想いを寄せていく。

    基本的にはお玉、岡田を中心とした恋慕の話なのですが、ラストはぷっつりと終わった印象を持ちました。
    長い休載の後の、最後の22,23,24章が書き下ろし部分なのですが、そこでストーリーは急展開を迎え、末造の悩み、お玉の募る想いには終着点をつけられずに、良く言えば余韻を残して終わりとなります。
    個人的には、もう少し丁寧な終わり方にして欲しかったところですが、掲載誌の休刊から引き継ぎ先も覚束ないまま、他の多数の作品を執筆しており、そんな中、ちゃんと完結してくれただけで御の字かなと思いました。

    大変面白い作品でした。
    ただ、私の思っている鷗外作品としては異質な感じがあります。
    鷗外を理解するために最初に取る書としてはおすすめできないかなと思います。

  • 登場人物である岡田は東大ボート部で活躍し、対人関係もバランスが取れているハンサムな男。
    お玉は、高利貸しで成り上がり者の末造の立場の弱い妾であり、密かに岡田に慕情を抱く。
    お玉の妾の立場から、末造を疎ましく思う気持ちが交錯しつつ、岡田に思いを伝えられないまま、そのまま岡田は洋行へ。
    所々に散りばめられているフランス語が読みにくいが、普通に単語が出てくるあたり、この当時の文豪の博識には脱帽である。

  • 初めて森鴎外を読む。小さな偶然によって人と人とが出会う、という筋書きはよくあれど、出会わない、ということを、情感を持った物語に仕立て上げることのできる森鴎外に脱帽。

    *****
    お伽話ではない非情な現実を描きながら、とても情緒があるという不思議。

    例えば、安易な物語であれば悪役である末造の心理描写に多くの文字数が割かれていて、案外悪い人間でないように感じられる。

    ただ同時に、紅雀を巡る一件や雁に石が当たる場面にはおとぎ話ちっくなところがあって、東京下町の情景と合わさって、とても小説的なのである。

  • 貧苦から高利貸末造の囲者となった 「お玉」。
    お玉の住まう無縁坂を往き過ぎる内に恋慕を寄せられるようになった「岡田」。
    彼らの関係を客観視する立場の「僕」。
    三人が抱く人情の機微を軸にして物語が織られる。

    この小説にさまざま伏在せられた主題は、
    ① 境遇。すなわち不幸にも必ず潜むべき幸と、幸に忍び寄る不幸とのグラデーション。
    ② 縁。"無縁坂"という舞台が示すように、(男女の出逢いという意味での)縁を結ぶのが唯の一瞥をきっかけにしていること。あるいは永久の惜別を決定づけるのが男の優柔なる態度と女のいじらしい思慕にすぎないこと。
    ③ 女心。次第に末造から見え透かれることなく岡田を想うようになった、お玉の心の内にある虚実と、岡田と結ばれんがためには多少の無謀も厭わぬ果敢さ。
    などと思う。

  • 最後の最後で「雁」が出てきた。
    主人公は何も始まらずに終わる。

  • 再読。歴史もの以外の鴎外作品の中では一番小説らしい小説。語り手の立ち位置が不自然でちょっと気になるけど、舞姫ほど悲愴すぎず、私小説ぽさもなく、わりとライトな後味なのがいい。

    高利貸し末造に囲われているお玉が、通りすがりの学生・岡田に恋をするも、ちょっとした運命のいたずら(っていうと大げさだけど、一種のバタフライエフェクトかもしれない)で結局擦れ違ったまま終わる。その原因が「サバの味噌煮」と「雁」だったという皮肉。ある意味この小説のタイトル「サバの味噌煮」でもおかしくない(笑)

    これで岡田とお玉が本格的に恋におちたけど別れさせられた、となると悲恋だけど、何も始まっていないので悲壮感がないのが救い。

  • 2015/10/28読了
    p51
    時々ドキッとする描写。今も昔も変わらないのね。

  • 視点が揺れ動くのが気になって、あまり入り込めなかった。
    最後の最後で題名の雁が出てきて、あっさりと物語は終わる。少し寂しい余韻が残る。

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著者プロフィール

1862-1922年。小説家、評論家、翻訳家。本名は森林太郎。陸軍軍医として最高位を極める一方で、旺盛な文筆活動を展開し、晩年は歴史小説、さらに史伝に転じた。1917年から没するまで帝室博物館総長兼宮内省図書頭を務め、歴代天皇の諡号(おくりな)の出典を考証した『帝謚考』(1921年)を刊行。主な著作に『舞姫』(1890年)、『高瀬舟』(1916年)など。

「2019年 『元号通覧』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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