- Amazon.co.jp ・本 (119ページ)
- / ISBN・EAN: 9784003100561
感想・レビュー・書評
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久方ぶりの鴎外。但し舞姫は除く。
月並みだけど、やっぱり鴎外面白い。
特に阿部一族。殉死にまつわる心理描写をこんな精緻に書けるのって、鴎外か漱石くらいなのでは。
あと、鴎外の文章って暗示的なのに、まわりくどくなく簡潔なのが凄いと思った。
個人的には物騒だけど佐橋甚五郎での甘利の最期の描写がすき。
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著者:森鷗外(1862-1922、島根県津和野町、小説家)
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森鷗外の歴史小説三作品「興津弥五右衛門の遺書」、「阿部一族」、「佐橋甚五郎」が収録されています。
目的は「阿部一族」でしたが、この三作は鷗外の初期の歴史小説として代表的な作品で、三作まとめて単行本『意地』に収録されていたものとなります。
いわゆる「鷗外歴史もの」として書かれた三作であり、セットで語られることも多いため、鷗外を知るには丁度いい文庫だと思います。
・興津弥五右衛門の遺書 …
興津弥五右衛門という老人が細川三斎公の十三回忌にて、切腹をします。
その切腹は殉死であり、本作は殉死した興津弥五右衛門の遺書という体となっています。
文章は口語ではなく当時の文体で書かれているため、不慣れであれば非常に読みにくいです。
ただ、展開はわかりやすく、舞姫や青年に比較すると読みやすい作品だと思います。
「興津弥五右衛門の遺書」は鷗外が歴史小説を書くきっかけとなった作品です。
1912年乃木大将が明治天皇に殉死するという出来事があったのですが、乃木大将と親交のあった鷗外はこれに衝撃を受けて、本作を執筆したと言われています。
本作では殉死とその経緯が述べられたものとなっており、殉死に対する信念、殉死は武士にとって当然あるべき行為であることを、鷗外流に示したものと感じました。
・阿部一族 …
こちらは口語で読みやすい作品。
江戸時代初期、現熊本県の肥後藩の藩主・細川忠利の危篤に際して、老臣だった阿部弥一右衛門の殉死が許されなかったことに端を発して起きた阿部一族の討死の顛末を題材とした書物「阿部茶事談」を、鷗外が若干の脚色を加えて現代語訳した小説です。
歴史小説であり、鷗外のオリジナルではないといえども読みやすく、一作の読み物として面白い作品になっています。
「興津弥五右衛門の遺書」同様、殉死を扱った歴史ものですが事情が異なっていて、「興津弥五右衛門の遺書」の殉死には晴れ晴れしさのようなものを感じますが、「阿部一族」で描かれる殉死は、主君の後を追う立派な殉死ではありますが、どこか自棄の念が含まれているように感じます。
同じ作者の歴史ものとはいえ、書かれている情景、感情は異なるもので、本作終盤の阿部一族の女性が自害するシーンや討手と死闘をするシーンなどは情景豊かに迫力がある場面が展開されます。
個人的には、雁や舞姫よりも、森鷗外は本作から入った方が良いのではと思います。
・佐橋甚五郎 …
徳川家康と元家臣の佐橋甚五郎との因縁、甚五郎の半生を描いた短編です。
12ページほどの短い作品ですが、三作の中では本作が一番読みづらかったです。
朝鮮から来た使者の説明と歴史的背景の説明から入るのですが、ここが長くなかなか佐橋甚五郎にたどり着きません。
気がつけば家康の 「あれは佐橋甚五郎じゃぞ」 というセリフが入るのですが、そこに至る2ページ強を繰り返し読むも頭に入らず、ただ見返すとこの序文は場面説明であり、それほど重要なところではないことに後で気づきました。
内容は不思議な物語という感じを受けました。
佐橋甚五郎は仲間との賭けに勝って、約束の品として武士の大小を要求したのですが相手がそれに応じず、諍いとなり相手を斬り殺してしまいます。
家康は甚五郎に手柄を立てさせ、甚五郎を助命するのですが、家康が甚五郎を警戒していることを知り逐電します。
物語の開始はその20数年後となっており、家康が朝鮮人の使者の一人を甚五郎ではないかと疑うというストーリーとなっています。
誰何した旨のくだりはないので実際どうだったのかは本作中では語られず、佐橋甚五郎も実在したらしいのですが、同名異人が多くいたそうです。
佐橋甚五郎に関する研究書などがあれば読んでみたいです。 -
20190419
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「意地」三篇。引き込まれる。
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歴史小説で、殉死をテーマにしている。
おそらく乃木大将の殉死が時代背景にあったからであろうか?なかなか重い内容でしたね。 -
再読。鴎外の歴史もの3作。「阿部一族」と「興津弥五右衛門の遺書」は殉死がテーマだけど、鴎外自身は淡々と出来事を述べるだけで、それを美談とも、悪習とも論じてはいない。「阿部一族」はしかしひたすら気の毒。「佐橋甚五郎」は、なんだか独特のユーモアがあって楽しかったな。佐橋甚五郎という人物が、何をしでかすかわからない面白さがあって好きだった。
※収録作品
「阿部一族」「興津弥五右衛門の遺書」「佐橋甚五郎」