山椒大夫・高瀬舟 他四編 (岩波文庫 緑 5-7)

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  • 岩波書店
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レビュー : 63
  • Amazon.co.jp ・本 (174ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784003100578

作品紹介・あらすじ

「安寿恋しや、ほうやれほ。厨子王恋しや、ほうやれほ」の『山椒大夫』、弟殺しの罪に処せられた男の心情を綴り安楽死の問題に触れる『高瀬舟』のほか、「お上の事には間違いはございますまいから」という少女の一言『最後の一句』など、烈しい感情を秘めつつ淡々とした文体で描いた鴎外晩年の名品6篇。

感想・レビュー・書評

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  • 表題2作が読みたくて。どちらも短い作品ながら深く考えさせられるテーマを背負っています。多くを語っていないぶん読み手によって様々な捉え方や考え方ができるので、読後に他の方の意見を聞いてみたくなりました。
    数年後に再読したらその時々で異なる登場人物に心を寄せている気がします。
    好きとは違う、心の奥に根付くような名作。

    『山椒大夫』
    私の父は「『山椒大夫』=『安寿と厨子王』じゃないか!」と読後に膝を打っていたので、世代によっては後者のタイトルの方が童話などで馴染み深いのかもしれません。
    人買いによって悲運を辿る幼い子供たち――現代の日本では考えにくい描写が多々あります。しかし姉と弟、早々に離れ離れになった母親、三者どの立場を想像しても心苦しく、それぞれの胸の内が痛いほど伝わってきます。一つ一つの行動が自分より家族を想ったものばかり。さまざまな覚悟のかたちを見出だせます。

    『高瀬舟』
    罪人を舟に乗せ護送する役を務める者たちのなかでも、特に嫌われていた高瀬舟の担当。その役に就いている庄兵衛はある日、まるで「遊山船にでも乗つたやうな顔」で高瀬舟に乗り込んだ罪人の喜助を護送することになる。
    大きなテーマは「知足」と「安楽死」。
    特に後者については喜助と同じ状況になった場合、頭ではこうだと思っていても実際の状況ではもっと感情的になるだろうと思うと他人事とは思えません。「君はどう思う」という問いが反芻しました。

  • 鷗外の後期作品、「山椒大夫」から「寒山拾得」までの5篇が収録されています。

    ・山椒大夫 …
    原作は古浄瑠璃の「さんせう大夫」、絵本で「安寿と厨子王丸」というタイトルでおなじみの説話です。
    元の話から鷗外が改変を施した内容となっており、安寿が拷問の末殺された描写や山椒大夫へ厨子王丸がその復讐をする話など改変されており、より一般向けの話になっています。
    森鷗外も後期の作品というだけあって、舞姫等と比べるとかなり文章がこなれていて、読みやすく面白かったです。
    歴史小説というよりも、日本昔ばなしを読んでいるような気軽さが感じられました。

    ・魚玄機 …
    魚玄機という実在した唐の末期の女流詩人の生涯を綴った話。
    容姿に優れ、幼少期から詩文の才に優れ、女道士となった魚玄機が、なぜ女を殺し獄に下ったのか、その経緯が述べられています。
    魚玄機の逸話に興味を持ったのであろう鷗外が著した歴史物で、文末に鷗外が本作を書くに参考にした文献が記載されています。それも含め非常に興味深い作品です。

    文章がやや難しく、中国が舞台のため登場人物名は当然漢字です。
    また、場面の形容などで見慣れない表現が多いために人物名と場面表現の漢字がごっちゃになり、中盤よくわからなくなって読み返すことがありました。
    ただ、内容が紐解けないほど難解というわけではなく、難しい言葉が多いですが読みやすいと思います。
    ラストについて、明言はなかったですが結局は勘違いだったということでしょうか、であれば、悲しい物語だと思います。

    ・じいさんばあさん …
    全2作に比較すると比較的読みづらい作品だと思います。
    主人公は「美濃部伊織」というじいさんと、「伊藤るん」というばあさんで、二人が隠居所で一緒に住むまでの経緯、紆余曲折を描いた内容となります。
    他の鷗外歴史ものもそうなのですが、情景描写あるいは起きていることを淡々と述べている描写が文章の殆どを締めており、本作はそこが顕著故に物語を追うのが少し難解に感じるのかと思いました。
    12ページほどの短い作品ですが、読むのに体力が必要でした。

    ラストはいい話で終わります。
    描写は淡々としていて短いので、あまり終盤にかけての盛り上がりというのも感じられる展開ではないですが、短いのに時間の流れを感じさせてくれるストーリーです。

    ・最後の一句 …
    鷗外の作品としてそれほど有名ではない作品ですが、"最後の一句"の意味については現在まで議論が続いています。
    原作は太田蜀山人の随筆で、大阪の船乗り業の「太郎兵衛」という男が、知人と共に犯してしまった罪を被る形で死罪を言い渡されるが、父の無罪を信じる長女「いち」が奉行所に嘆願書を認め、父の命と引換えに子供ら兄弟を死罪にするよう申立をするというストーリー。
    役人の詰問に対し、いちは思いついたように「お上の事には間違はございますまいから」という言葉を述べ、それが役人の顔に驚愕の表情を浮かべさえ、見事、太郎兵衛は死罪を逃れるのですが、この「お上の~」の一句の意味するところというのが、長年議論の的となっています。
    なお、この言葉は原作にはない鷗外の創作で、当時の鷗外の状況から痛切な役人批判だとか言われています。
    物語としては、正直、凡作かなと。

    ・高瀬舟 …
    鷗外の代表作として著名な作品。本作を目的に本書を購入しました。
    原作は江戸時代の随筆集「翁草」の中の一節「高瀬舟縁起」で、それを読んだ鷗外が興味を持ち、著したものとなります。
    本文庫にはそういった経緯が書かれた"附高瀬舟縁起"が、高瀬舟の後に続きます。

    本作は教科書などで有名で、いわゆるユータナジーを題材としたものとなり、当時も、現代においても非常に考えさせられる内容です。
    ただ、それを疑問に感じたのは高瀬舟の船頭であり、手を下した本人は晴れやかな顔で罪を受け入れている様子なので、後味の悪い内容となっておらず、中高生向けの内容と感じました。
    流刑ではなく打首で、死の直前まで自分の行いの正当性を叫び続ける高瀬舟だったら、全然違う印象になったでしょう。
    鷗外作品で中高生向けというのも珍しい。

    ・寒山拾得 …
    寒山と拾得の伝承を書いた作品。
    その風貌や乞食同然の生活ぶりなど、伝承通りで、豊干も登場します。
    ただ、正直内容は非常によくわからない内容で、納得ができかねる内容となっています。
    閭という官司 (これもいるのやらいないのやらわからないと記載があります) が豊干に頭痛を癒やしてもらい、その後、豊干が所属していたという寒山寺に訪れ、寒山と拾得に出会うところまでは、まぁわかるのですが、それ以降はもう何がなんだか。
    寒山拾得というと禅林美術の水墨画などで描かれる奇妙なコンビですが、そのイメージには則しているものの、支離滅裂な展開についていけなかったです。
    付属の"附寒山拾得縁起"を読むと、わからない人が無闇矢鱈に興味を持たないよう、わざとそうしている感じがあり、「どうせわからないだろうなぁ」みたいな追記があるので、思惑通りということでこれで良かったのだろうか。

  • 著者:森鷗外(1862-1922、島根県津和野町、小説家)

  • 「題名がなぜ『山椒大夫』なのか。安寿と厨子王の物語なのに」
    作家の平野啓一郎さんの言葉(読売新聞11面2019年6月30日)が気になって読んでみた。哀しく感動的な物語。奴婢解放後も栄えた「山椒大夫」。勧善懲悪ではない。読み終えて、なぜかしら今日板門店で金正恩委員長と再会したトランプ大統領と「山椒大夫」に共通点があるように思えた。トランプ氏は「悪」でなく「not bad」かもしれないが。

  • 第14回毎週ビブリオバトル

  • 読了。これまで読んできたなかで、日本文学が一番、電車のなかで読んでいて恥ずかしい気持ちになるものでした。わたしの知る山椒大夫は、54年溝口健二による映画のそれ、61年東宝アニメのそれです。森鴎外によるそれは15年。原作は中世の説教節であり、1650年頃と推測されます。これら3つは、それぞれ相当にアレンジを加えられているので、比較することで時代の流れらしきものが良く見えます。今回始めて読んだ森鴎外による山椒大夫はわたしにとっては、もっともそれらしい山椒大夫でした。素晴らしく良かったです。溝口健二の映画では、元来姉と弟の関係である安寿と厨子王は、兄と妹に置き換えられています。これは相当の違和感を放つものなのですが、50年先を見据えた先見の目という意味では、正解かも知れません。つまり、糞みたいな役立たずの兄、強気で健気な妹という構図なので、おもむろに今っぽい。対し、7年後のアニメでは元の構図に戻ります。これはまだ、アニメという分野が未成熟で、強いアレンジに耐えうるものでなかったためだと推測されます。特にディズニーコンプレックス丸出しで自立は出来ていない頃合いでした。中世の説教節では、姉安寿は拷問死します。拷問の描写が続くため、美女と言われる女性がひどい目に合って死ぬという聴衆が大好きなネタと、後に飛躍していく厨子王の姉コンプレックスの克服というネタが物語に世俗的な強さをもたらします。姉が強いのは古事記に見られるような日本元来の趣かも知れません。時代は姉を排除し、妹コンプレックスに向かっているため、溝口に先見の目があると言ったのはそのためです。ある意味、その強い姉像たる安寿が、森版では入水自殺しますが、当時の風潮というものなのか、美徳的に感じられはしますが、姉という概念の強さが男権に潰される最後の瞬間のようにも思えました。さて、山椒大夫の他、数点の作品が掲載されていましたが、どれもこれに劣らず素晴らしかった。元より推敲しまくる森の珍しい一発書きである寒山拾得だけはひどかったけど。

  • 鴎外の無駄を削ぎ落としたエリート軍人らしい文体がすきです。「最後の一句」がよい。

  • 表題、山椒大夫も高瀬舟も、とても有名な話。
    高瀬舟は、確か学生の頃に教科書か何かで読んだ気がする。
    けれど、どちらも、こんなに短い話だったろうか。
    記憶にある限りでは、もっと長かったような気がしたのだけれど。
    読み終えた時にはそう思ったのだけれど、少し間があいて、また読み直してみたら、同じ印象を抱く。
    こんなに、短い話だったろうか。
    言葉を尽くして説明されているわけではなく、むしろ読者に判断をゆだねるかのように完結に記された部分も多いのに、なぜか、心には長く残る。
    いつか、どこかで、「本当にそれで伝わるなら、言葉など一言で事足りる」というような話を聞いた記憶があるが(夏目先生だったろうか?)、森鴎外の小説は、それなのかもしれない。

  • 青空文庫で、「高瀬舟」を読んだ。
    罪とは何か、人の幸せとは何か。
    それは、心の持ちようにあるのか。

  • 山椒大夫戯曲。
    すべては夢なのかもしれない。
    身を裂くような悲しみも、残虐な現実も。
    目が覚めれば、すべてがもとに戻るのかもしれない。

    人は他人が苦しむ様を見るために、芝居をみるのかも。

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著者プロフィール

1862-1922年。小説家、評論家、翻訳家。本名は森林太郎。陸軍軍医として最高位を極める一方で、旺盛な文筆活動を展開し、晩年は歴史小説、さらに史伝に転じた。1917年から没するまで帝室博物館総長兼宮内省図書頭を務め、歴代天皇の諡号(おくりな)の出典を考証した『帝謚考』(1921年)を刊行。主な著作に『舞姫』(1890年)、『高瀬舟』(1916年)など。

「2019年 『元号通覧』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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