山椒大夫・高瀬舟 他四編 (岩波文庫 緑 5-7)

著者 :
  • 岩波書店
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  • Amazon.co.jp ・本 (180ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784003100578

作品紹介・あらすじ

「安寿恋しや、ほうやれほ。厨子王恋しや、ほうやれほ」の『山椒大夫』、弟殺しの罪に処せられた男の心情を綴り安楽死の問題に触れる『高瀬舟』のほか、「お上の事には間違いはございますまいから」という少女の一言『最後の一句』など、烈しい感情を秘めつつ淡々とした文体で描いた鴎外晩年の名品6篇。

感想・レビュー・書評

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  • 山椒大夫を読みたくて手に取ってみたものの他にも衝撃的な作品が多くものすごく考えさせられます。
    「最後の一句」
    これは、まさにいちの最後の一言につきる作品。心に突き刺さります。今現在の多くの政治家に読んでほしい一編。人が人を信じるということはこれほどにも重く心に響くことであろう。
    「高瀬舟」
    こちらも今時な・・・
    安楽死は罪か?個人的には罪には問いたくない犯罪であると思っています。安楽死への原動力は優しさであることが多々あると感じる。一概に全てとは言わないけれど、医療用が全てを救えない今の段階では一考の余地があるのではないかとかんがえます。
    そして、貧困。これも今の特殊な社会状況下においてはこの物語に匹敵するような経済状況に置かれているだろう人がいるだろうということ。喜助のような清貧な心を持つひとならばよいが、それだけではすまないはず。
    色々併せ考えると、喜助の出来た人格か浮かび上がる。

  • 表題2作が読みたくて。どちらも短い作品ながら深く考えさせられるテーマを背負っています。多くを語っていないぶん読み手によって様々な捉え方や考え方ができるので、読後に他の方の意見を聞いてみたくなりました。
    数年後に再読したらその時々で異なる登場人物に心を寄せている気がします。
    好きとは違う、心の奥に根付くような名作。

    『山椒大夫』
    私の父は「『山椒大夫』=『安寿と厨子王』じゃないか!」と読後に膝を打っていたので、世代によっては後者のタイトルの方が童話などで馴染み深いのかもしれません。
    人買いによって悲運を辿る幼い子供たち――現代の日本では考えにくい描写が多々あります。しかし姉と弟、早々に離れ離れになった母親、三者どの立場を想像しても心苦しく、それぞれの胸の内が痛いほど伝わってきます。一つ一つの行動が自分より家族を想ったものばかり。さまざまな覚悟のかたちを見出だせます。

    『高瀬舟』
    罪人を舟に乗せ護送する役を務める者たちのなかでも、特に嫌われていた高瀬舟の担当。その役に就いている庄兵衛はある日、まるで「遊山船にでも乗つたやうな顔」で高瀬舟に乗り込んだ罪人の喜助を護送することになる。
    大きなテーマは「知足」と「安楽死」。
    特に後者については喜助と同じ状況になった場合、頭ではこうだと思っていても実際の状況ではもっと感情的になるだろうと思うと他人事とは思えません。「君はどう思う」という問いが反芻しました。

  • どれも教科書に載ってもおかしくないような筋書き (実際、どこかの国語の教科書に載っているかも)。その意味では、やはり『高瀬舟』が深い。TikTokばかり眺めていないでその時間で一冊でも本読んでほしい。

    文芸としてため息がでたのは『最後の一句』。長女の最後の一句の鋭さにもひやっとしたが、それ以上に本当に子供を殺して親を放免した奉行のやりかたにもっとヒヤッとした。これで親子共々釈放していたら、胸はすっきりするが、正直それでは何ものこらない。覚悟と覚悟が正面からぶつかった感じにため息がでた。色んな意味で。

    『魚玄機』『寒山拾得』は中国が舞台、というか中国の文献を元にした半フィクション。『魚玄機』はすこし難しかった。なにより時代背景とか知らないことが多すぎて……
    魚玄機は「易求無價寶,難得有情郎」という一句が有名らしく、それだけ覚えていたが、『甄嬛傳』38話にでてきたので思わず反応してしまった。

  • 鷗外の後期作品、「山椒大夫」から「寒山拾得」までの5篇が収録されています。

    ・山椒大夫 …
    原作は古浄瑠璃の「さんせう大夫」、絵本で「安寿と厨子王丸」というタイトルでおなじみの説話です。
    元の話から鷗外が改変を施した内容となっており、安寿が拷問の末殺された描写や山椒大夫へ厨子王丸がその復讐をする話など改変されており、より一般向けの話になっています。
    森鷗外も後期の作品というだけあって、舞姫等と比べるとかなり文章がこなれていて、読みやすく面白かったです。
    歴史小説というよりも、日本昔ばなしを読んでいるような気軽さが感じられました。

    ・魚玄機 …
    魚玄機という実在した唐の末期の女流詩人の生涯を綴った話。
    容姿に優れ、幼少期から詩文の才に優れ、女道士となった魚玄機が、なぜ女を殺し獄に下ったのか、その経緯が述べられています。
    魚玄機の逸話に興味を持ったのであろう鷗外が著した歴史物で、文末に鷗外が本作を書くに参考にした文献が記載されています。それも含め非常に興味深い作品です。

    文章がやや難しく、中国が舞台のため登場人物名は当然漢字です。
    また、場面の形容などで見慣れない表現が多いために人物名と場面表現の漢字がごっちゃになり、中盤よくわからなくなって読み返すことがありました。
    ただ、内容が紐解けないほど難解というわけではなく、難しい言葉が多いですが読みやすいと思います。
    ラストについて、明言はなかったですが結局は勘違いだったということでしょうか、であれば、悲しい物語だと思います。

    ・じいさんばあさん …
    全2作に比較すると比較的読みづらい作品だと思います。
    主人公は「美濃部伊織」というじいさんと、「伊藤るん」というばあさんで、二人が隠居所で一緒に住むまでの経緯、紆余曲折を描いた内容となります。
    他の鷗外歴史ものもそうなのですが、情景描写あるいは起きていることを淡々と述べている描写が文章の殆どを締めており、本作はそこが顕著故に物語を追うのが少し難解に感じるのかと思いました。
    12ページほどの短い作品ですが、読むのに体力が必要でした。

    ラストはいい話で終わります。
    描写は淡々としていて短いので、あまり終盤にかけての盛り上がりというのも感じられる展開ではないですが、短いのに時間の流れを感じさせてくれるストーリーです。

    ・最後の一句 …
    鷗外の作品としてそれほど有名ではない作品ですが、"最後の一句"の意味については現在まで議論が続いています。
    原作は太田蜀山人の随筆で、大阪の船乗り業の「太郎兵衛」という男が、知人と共に犯してしまった罪を被る形で死罪を言い渡されるが、父の無罪を信じる長女「いち」が奉行所に嘆願書を認め、父の命と引換えに子供ら兄弟を死罪にするよう申立をするというストーリー。
    役人の詰問に対し、いちは思いついたように「お上の事には間違はございますまいから」という言葉を述べ、それが役人の顔に驚愕の表情を浮かべさえ、見事、太郎兵衛は死罪を逃れるのですが、この「お上の~」の一句の意味するところというのが、長年議論の的となっています。
    なお、この言葉は原作にはない鷗外の創作で、当時の鷗外の状況から痛切な役人批判だとか言われています。
    物語としては、正直、凡作かなと。

    ・高瀬舟 …
    鷗外の代表作として著名な作品。本作を目的に本書を購入しました。
    原作は江戸時代の随筆集「翁草」の中の一節「高瀬舟縁起」で、それを読んだ鷗外が興味を持ち、著したものとなります。
    本文庫にはそういった経緯が書かれた"附高瀬舟縁起"が、高瀬舟の後に続きます。

    本作は教科書などで有名で、いわゆるユータナジーを題材としたものとなり、当時も、現代においても非常に考えさせられる内容です。
    ただ、それを疑問に感じたのは高瀬舟の船頭であり、手を下した本人は晴れやかな顔で罪を受け入れている様子なので、後味の悪い内容となっておらず、中高生向けの内容と感じました。
    流刑ではなく打首で、死の直前まで自分の行いの正当性を叫び続ける高瀬舟だったら、全然違う印象になったでしょう。
    鷗外作品で中高生向けというのも珍しい。

    ・寒山拾得 …
    寒山と拾得の伝承を書いた作品。
    その風貌や乞食同然の生活ぶりなど、伝承通りで、豊干も登場します。
    ただ、正直内容は非常によくわからない内容で、納得ができかねる内容となっています。
    閭という官司 (これもいるのやらいないのやらわからないと記載があります) が豊干に頭痛を癒やしてもらい、その後、豊干が所属していたという寒山寺に訪れ、寒山と拾得に出会うところまでは、まぁわかるのですが、それ以降はもう何がなんだか。
    寒山拾得というと禅林美術の水墨画などで描かれる奇妙なコンビですが、そのイメージには則しているものの、支離滅裂な展開についていけなかったです。
    付属の"附寒山拾得縁起"を読むと、わからない人が無闇矢鱈に興味を持たないよう、わざとそうしている感じがあり、「どうせわからないだろうなぁ」みたいな追記があるので、思惑通りということでこれで良かったのだろうか。

  • 一つ一つ読み応えがある。全てに感想を書くと長くなる。大人になってわかった、「最後の一句」の鋭さ。今の世にもなお、いや今の世だからこそ改めて読み直されてほしい。

  • 読了 20240211

  • 山椒太夫:安寿がけなげで胸を打たれる
    高瀬舟:今の時代の話なんじゃないかと思うような話。どれだけお金を持っていても足りないという気持ちに対しての人間に対する問い、安楽死は是が非かという話。時代は変わっても哲学的な問題は変わらずにあるのだなぁ。
    寒山拾得:よく分からなかった。

  • とても有名な話ではあるが、読んだ記憶も曖昧なので岩波のキャンペーンに釣られて購入。
    安寿と厨子王の童話との差は諸解説を読んで学んだが、改変の仕方も含めて興味深い。
    高瀬舟はストレートな話だが、短いながら読み解くのに苦労する作品もあり、短編集になっているからこそ出会えた作品もあってなにより。
    寒山拾得は著名な絵にもなっているようであり、どこかで見るまでこの話を記憶できるだろうか、、、

  • 山椒大夫は感動。悲劇なんだけど、最後はハッピーエンドのような気もする。

  • ■一橋大学所在情報(HERMES-catalogへのリンク)
    【書籍】
    https://opac.lib.hit-u.ac.jp/opac/opac_link/bibid/0000212545

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著者プロフィール

森鷗外(1862~1922)
小説家、評論家、翻訳家、陸軍軍医。本名は森林太郎。明治中期から大正期にかけて活躍し、近代日本文学において、夏目漱石とともに双璧を成す。代表作は『舞姫』『雁』『阿部一族』など。『高瀬舟』は今も教科書で親しまれている後期の傑作で、そのテーマ性は現在に通じている。『最後の一句』『山椒大夫』も歴史に取材しながら、近代小説の相貌を持つ。

「2022年 『大活字本 高瀬舟』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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