舞姫・うたかたの記―他3篇 (岩波文庫 緑 6-0)

著者 :
  • 岩波書店
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本棚登録 : 699
感想 : 55
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  • Amazon.co.jp ・本 (176ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784003100608

感想・レビュー・書評

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  • 最初の数ページは文語体に慣れるのに苦労した
    しばらく日々飽きもせず同じページばかりを眺めていると不思議なことに理解できるようになってくる
    解釈が完全に正しくないかもしれないが、それなりにじわじわ情景が見えるようになってくる
    とりあえず、間違っていてもいいから現代文のカンニングだけはやめてとりあえず最後まで行ってみよう!の精神で(笑)

    「舞姫」他4篇



    【注)ネタバレを含みます(特に「舞姫」)】





    「舞姫」
    あらすじを乱暴にまとめてしまうと…
    主人公太田豊太郎がドイツ留学をして、そこで出会った貧しい踊り子エリスと恋に落ちる
    結局当時の時代背景と豊太郎の心の弱さにより、エリスを捨てて帰国するのだが…

    主人公豊太郎
    父が早くに亡くなり、母が厳しくしつけ、またそれに応えることが親孝行であり当たり前の人生だと優等生として狭い日本で模範生のように生きてきたのだろう
    恐らく気心の知れる友人もあまりいなさそうである
    決まった道を歩むことはきちんとこなせるが、自分で考えて道を開くということはとても苦手そうだ
    自分の人生に前例のない大事な決断が一人でできなく、メンタルが非常に弱い
    せっかくの華やかなヨーロッパの地でさえも遊ぶ勇気もなく、人付き合いも悪く、なまじ優秀なため仲間内で嫉みを買う
    しかしながら、さすがの豊太郎もヨーロッパの自由な思想に影響を受けた模様
    本ばかり読んでいたような豊太郎はエリスと出会い、心を揺さぶられ交際を重ねていくことに…

    エリス
    16〜17歳
    どうやらとても美しいらしい
    舞姫の身の上
    薄給で厳しく使われても耐えていた「おとなしき性質」らしい
    最初はいじらしい娘だと思っていた
    しかし、豊太郎の裏切りを知ると…
    〜「我豊太郎ぬし、かくまでに我をば欺き玉ひしか」と叫び、その場にたおれぬ。………
    ………我名を呼びていたく罵り、髪をむしり、蒲団を噛みなどをし、また遽に心づきたる様にて物を探り討めたり。…〜
    心労のため、精神病を患うのだが、この豹変ぶりがなかなか怖い
    もはや般若である(ドイツ女性を般若ってのもおかしいが…)
    この恐ろしさは現代語では表すと、半減する気がする…「豊太郎どの、よくも裏切ったわね!きぃぃぃぃ!」って言うより、上記のが断然怖い
    どちらかというと「豊太郎どの、よくも我を裏切り給う…この恨み現世では晴らせまい…ああ、恨めしい恨めしい…末代まで祟るぞよ」くらいかなぁ
    妄想が好きに拍車がかかって遊んでしまったが、それはともかく貧しく、頼る相手もいない上、異国の男の子を宿して裏切られる…それはもう発狂したくもなる!
    現代と違い、生きる方法を探す術もない時代であろう

    友人・相沢
    出世欲のある極めてエリートらしい考え方をもった男である
    豊太郎に仕事を紹介し、エリスと別れ帰国を進める
    悪気などない、ただの価値観の違い

    豊太郎が大臣に付いて帰国を決意するのを、エリスに打ち明けられず、ぐずぐずした結果、相沢がエリスに話すことになる
    豊太郎も心労で動けない時、豊太郎の帰国の際など生計に困らないようにエリスに支援をしている
    豊太郎は相沢は我々の恩人としながらも、エリスを精神的に殺したという
    残念ながら豊太郎はこのように悪いことは全て人のせいにするのだ(もちろん豊太郎だってかなり精神的には参ってしまうのだが…)
    明治時代の日本男子は恐らく、世界を見ることができる一握りになれることがどれほどの名誉なことであっただろうかと察する
    輝かしい日本を自分が背負って立つんだ!という気負いが溢れていたはずだ
    そのため相沢は必死で豊太郎をエリートコースに乗せてやりたかったのだろう
    優秀で語学が堪能なため、そんな理由でさえも同僚の嫉みを買うのもわかる気がする
    ではドイツ女子はどんな時代背景があったのだろうか…⁇
    貧しい踊り子に、どんな人生が待ち受けていたのだろうか
    この時代のヨーロッパや、日本の背景なども興味深く、様々な観点から深読みできて面白い

    当時のヨーロッパの石畳、街灯、様々な像、街のカフェや、華やかな紳士淑女の装い…
    馬車の通る音や、高い空の色、色彩豊かな街並み…
    これは視覚的感覚等、想像力を駆使してなかなか面白い体験ができる
    残念ながら共感部分は皆無であったが、登場人物も少なく、ストーリーも短めかつ複雑でもないので文語体の手慣らしに良い
    シンプルなストーリーなのでひたすら妄想が膨らみ、楽しめる


    「うたかたの記」
    これはなかなかストーリー展開が激しく、ドラマティックで激動感のある内容
    当時ハマった女子が結構居そうな気がするのだが…
    日本人美術男子巨勢(こせ)とドイツ女子マリイ
    マリイの今までの人生が波乱万丈に展開する様を巨勢に語る
    そして二人の行動(マリイに付いていくだけの巨勢だが)により、すべてのことが過去と繋がり、最後は現在で完結する
    その一周する構成も凝っており、面白い
    なかなか小説として読み応えがある
    巨勢がマリイの人生のガイドのような役目に感じるほど、圧倒的なマリイの存在感が光る


    「文づかひ」
    ドイツの王宮や舞踊会など、上流階級の住まいや華やかな生活をうかがい知ることができ、所々ストーリーそっちのけになってないかい?というほど執拗に描写されている部分もある
    鷗外の意図であろうか…

    主人公である日本人大尉が、初めて入るドイツ貴族の城に胸が高まる
    そこには6人の姫がおり、その中でも大尉が気になるのは前に見かけたことのあるミステリアスなイイダ姫だ
    イイダ姫は下記のように表現されている
    ~イイダといふ姫は丈高く痩肉にて、五人の若き貴婦人のうち、この君のみ髪黒し。かの善くものいふ目をよそにしては、外の姫たちに立ちこえて美しとおもふところもなく、眉の間にはいつも皺少しあり。面のいろの蒼う見ゆるは、黒き衣のためにや~
    他の姫君たちは各々華やかな装いで美しいが、イイダ姫だけは上下黒の衣装姿、また他の姫たちのようにおしゃべりな女性でもなさそうである
    普通の姫とはちょっと違うのだ
    そんな綺麗じゃないけど凛としており、口数少なく、しかし心の奥は深そう…そんな印象だ
    そのイイダ姫の奏でるピアノの音がどうやら凄そうである
    凄そうというのはただ繊細で美しいだけではなく、「物くるほしきイイダが当座の曲」とある
    (詳細は省くがここでのピアノがどんな演奏であったか…この表現の描写が素晴らしい
    どれほど聞くものを美しくも恐ろしくもあり、虜にしたか…見事に表現されている
    ここは原文を読む醍醐味部分だ)
    大尉は心を奪われ、眠ることもできない
    そして、このピアノに合わせるかのような外から聞こえてくる笛の音…
    これは一体!?
    そしてイイダ姫は一緒に城に宿泊した中尉のフィアンセらしいのである…
    うーんまるでミステリーのような先の気になる展開に
    しかしながら、やはり自力ではわからない部分が出てきたため、最後は現代語訳のカンニングを頼ることに
    解決しきれない詳細が気になって…(要は詳細をしっかり知りたいほど面白かったということなのだが…)
    他にも読みどころはたくさんある
    各人の心の内だけでもなかなか興味深いのだが、時代背景、宗教的事情、女性の生き方…
    そして「文づかひ」のタイトルの意味
    ああ、この話の後、彼らは一体どうなったのだろうか
    そしてイイダ姫の取った大胆な行動は当時どのような反響であっただろうか…
    自由を勝ち取った勇姿?はたまた自分の我を通しただけの我儘娘?
    賛否両論が飛び交ったのではないか?
    最後はそんな思いを馳せて終わることに…


    「舞姫」、「うたかたの記」、「文づかひ」の三作品を独逸(ドイツ)三部作あるいは浪漫(ロマン)三部作と呼ばれている
    個人的には「文づかひ」が一番好みであった(続いては「舞姫」…ではなく「うたかたの記」(笑))
    先の展開が気になり、イイダ姫の心をのぞいてみたくなった
    そうイイダ姫にやられます(笑)
    そして、この三作品に共通して思うのは、各女性の圧倒的存在感の強さだ
    「舞姫」エリスは典型的な貧しい悲劇の美しいヒロイン、「うたかたの記」マリイは華やかで美しく激しいドラマティックな女性、「文づかひ」のイイダ姫は内に秘めたツンデレタイプの独立心旺盛な姫君
    そこに添えられたかのような男性はまるで進行役かガイド役か…という立ち位置にすら感じてしまう
    (鴎外は女性を主体に何か訴えたかったのか…)
    それぞれの女性に個性があり、幸福かどうかは別として、見事に話の中で彼女たちがそれぞれ一番際立ってくる




    「そめちがへ」
    なかなか難しかった
    最初のつまずきが、主人公「兼吉(かねきち)」を名前的に男性かと思い、なんだかおかしいなぁと思いながら読み進め、途中で「あら、嫌だ女性だわ!」と慌てて読み返す
    兼吉さんは茶屋の芸者さんのようだ
    なにやらご不満があったようで、ビールにお酒を混ぜてぐい飲みし、二日酔いのご様子(あらあら)
    そこへお得意さんが来て、「おや、兼吉つあん、何やらご機嫌麗しくないようだなぁ、そんな時は遊んじまうに限るぜ!
    で、誰を呼んで遊びたいかい?」ってなノリで展開する
    そこで兼吉さんが選んだのは自分のお友達と「出来た仲」の清さんという男性…(あらあら)
    さてはてどうなることやら…
    どうも評価が低いようだが、いったいどういう展開になるのか、と好奇心をそそられてまぁまぁ面白く読めた
    江戸っぽさと、落語の小咄のような雰囲気が悪くない
    「さすがは兼吉つあんだ」てな感じ(笑)
    「そめちがへ」のタイトルは「染め違え」であり、最後にこの意味も…なるほど

     
    「ふた夜」
    どうやらこちらはハックレンデルというドイツ作家の小説の翻訳
    どうりでなんか違うと思った
    田舎ののどかな雰囲気から、たった1日のドラマティックな男女の出会い、そして戦争、最後は…
    なかなか悲しい運命の切ない話であった
    これは現代語訳で読みたいかなぁ…もともとドイツ人作家の話しなんだし
    結構胸キュンのメロドラマである




    しかしなぜこの5作品が一冊にまとまったのだろうか
    ページ数の関係とかあるのであろうか?
    うーん…どうでもいいことが気になる


    ドイツ留学や軍医の経験をしている森鴎外自身の人生背景を知っておくとまた読み方が変わるだろう
    読むのにかなりの時間を要したが、それでなくては意味がないような気もした
    文語体ならではの味があり、たまにはこんな読書も悪くない
    秋だしね♪











  •  千年読書会・第2回の課題本でした。

     森鴎外の自伝的な小説とも言われている一編となります。実際には、身近な友人と自身の経験をない交ぜにしたもののようで、「うたかたの記」「文づかひ」ともあわせて三部作的な位置付けとも言われてるのでしょうか。

     相変わらずに美しく流れる文体も堪能しましたが、内容も当時の状況を敷衍しているかのようで何気に興味深く。“誰”に感情移入するかで、読み解き方は変わるのかなと感じました。

     さて、主な登場人物はこちらの3人。

     主人公:太田豊太郎
     踊り子:エリス
     友人:相沢謙吉

     政府の公費でドイツに留学した秀才肌の主人公・太田豊太郎、彼が留学先で踊り子・エリスと恋に落ちたところの回想から、物語は始まります。その恋に“ハマった”豊太郎、仲間の心無い讒言などもあり、結局は政府から罷免されて、エリスと暮らしながら現地の新聞記者として糊口をしのいでいました。

     そこに、友人・相沢謙吉からの再チャレンジの誘いがあり、記者として培った知見や語学力で政府関係者から評価され、祖国に復職することが夢でなくなっていくのが大筋となります。

     ただ、相沢からの提示されたのは「エリス」とは袂を分かつべきとの一つの“提案”がなされたところから、悲劇の歯車をも回りはじめます。

     恋をとるか仕事(出世)をとるか、現代の視点で観れば“エリスを連れて帰る”との選択肢もあったのでしょうが、政府役人との立場ではそれも難しかったのかな、といった当時の世相を、まずは読みとることができました(今でも治安や外交などの重要事案に携わる役人さんには制限事項があるみたいですが)。

     結末から遡れば、酷薄で不義理であるとの断罪にもなりますが、これは当時も同じであったようで、自身でも「ニル・アドミラリイ」とのフレーズを文中で使っているのが印象的です。

     確かに、この“悲劇”は豊太郎の優柔不断さに起因しているのと思いますが、同時に、明治時代の“優秀かつ野心的な若者”であれば、誰しもが持っていた“立身出世”への強い想いもまた、読みとることができるかな、と。

     ここにはそんな“エリート”の煩悶が籠められているのかと、感じます。

     鴎外自身の経験を投影しているとも言われていますが、当時はこれに類する話は周囲にもいろいろとあったのでしょう。そういった意味では“よい小説は時代を映す”ということを感じることができ、長く読み継がれているのもなるほどなぁ、と。

     豊太郎の境遇を慮ればこそ「エリス」を切り捨てよとの言葉を発した、相沢。豊太郎を愛すればこその、不安と絶望を押し隠しながらも堪えきれずに狂気に行きついた、エリス。そして、それらのすべてを実感していながらも決断しきれずに煩悶とし続けた、豊太郎。

     “相沢謙吉が如き良友は世にまた得がたかるべし。
      されど我脳裡に一点の彼を憎むこころ、今日までも残れりけり。”

     恐らく豊太郎は、この先も一生涯、相沢にこの“屈託”を見せることは無かったと思います。

     三者三様の想いがちょっとしたボタンの掛け違いで、取り返しのつかない悲劇に至ってしまう、この物語の大枠だけ見れば、意外と今でも転がってそうな設定で。人の行為はそうそう変わることが無いのかなぁ、との普遍性を感じてみたりも。

     コレが仮に「自分だけが最優先な」いまどきの優秀な人間(エリートに非ず)であれば、なんのてらいもなく、生活のためにエリスを切り捨てたか、もしくは友人の真摯な誘いであっても一顧だにしなかったのかも、とも。

     明治であれば福沢諭吉翁、昭和であれば出光佐三氏、現代であれば青山繁治さんのような。彼らの共通するのは「国を支えて国を頼らず」との気概と思います。ふと感じたのは、今の日本に足りないのは、こうした気概を持った“エリート”かなとも、考えてみたりしています。

     初めて読んだのは確か高校生くらいの頃、その時は豊太郎の不甲斐なさや不義理さに、違和感と反発しか残りませんでした。今回、久々の再読で俯瞰して見ると、その心の動きはなんとなく理解できる気がします。それはどこか、息子なり甥っ子なりといった眼で豊太郎を見ているからなのかもしれません。

     そして自分が、相沢と同じ立場になったら、、「切り捨てよ」と言わない自信は正直、持てません。親しい間柄であればそれだけ“近くにいてほしい”と思うでしょうから、、と、そんな風に感じた一編です。

     もう一つ興味深かったのは、どこの国でも、どの時代でも、“芸妓”が、性サービスと密接にかかわりがあるとの視座でした。確か、同時代のドガが「舞台の踊り子」でも舞台裏にいるパトロンの様子を描いていたと思います。

     それを踏まえて、現在の日本の芸能界はどうなのだろうと、最近では“ミスインターナショナル・吉松育美さん”の事件などから垣間見える“現代日本の芸能界の闇”も思い出しながら、そんな風に感じたことを付け加えておきます。

    • アセロラさん
      こんにちは(^-^*)/

      舞姫懐かしいです。わたしも高校時代に教科書で読みました。
      当時の国語便覧にあった鴎外の年表によると、実際のエリス...
      こんにちは(^-^*)/

      舞姫懐かしいです。わたしも高校時代に教科書で読みました。
      当時の国語便覧にあった鴎外の年表によると、実際のエリスは日本まで追いかけて来たそうです。

      結果的にエリスを捨てて出世を選んだ豊太郎ですが、
      エリスと幸せに暮らしていた頃の描写がやはり好きです。

      幸せとは何か…も考えさせられますね。
      2014/01/17
    • ohsuiさん
      アセロラさん

      私も初めて読んだのは高校の教科書だった覚えがあります。
      実際には追いかけてきたのですね、ふむふむ。

      何気ない日常...
      アセロラさん

      私も初めて読んだのは高校の教科書だった覚えがあります。
      実際には追いかけてきたのですね、ふむふむ。

      何気ない日常を重ねるのもまた、幸せですよね。
      豊太郎自身が後悔を残しているだけに、いろいろと考えさせられる物語だと、思います。
      2014/01/19
  • 文語で書かれたことによって、『舞姫』の全体は浪漫的なトーンで覆われることになった。物語は、ベルリンからの帰途、セイゴン(サイゴン)の港で「石炭をば早や積み果てつ」の印象的な一文で語り始められる。この物語の主人公であり、語り手である豊太郎は、この時日本を目前にしていた。すなわちこれは、すべてが終わったところから始まる「喪失」の物語なのだ。愛していたエリスも、そして自身の青春も、前途への夢も、すべてを時間と空間の向こう側に置いてきてしまった物語。そして遥かな彼方には、世紀末ベルリンの煌びやかな光芒があった。

  • 高校生のときに舞姫に出会い、その時受けた講義のおかげで主人公の状況、時代背景、そして顛末が意図するところなどの読み方を学びました。

    本を購入し、一番に感銘を受けたのは「染めちがへ」でした。お話の情感豊かな表現と最後の落としどころとなる文章が素晴らしく、ふとした折に音読しては良さを味わっています。

  • ドイツ三部作が読みたくて購入。

    森鴎外の著作は高校生のときに結構読んでいたのですが、あらためて舞姫を繙いてみて、想像以上の読み難さに驚きました。
    鴎外の著作は擬古体で書かれており、あえて読みにくい、古い文章で書かれており、そのため、同年代の作家と比較しても飛び抜けて難しく感じます。
    ドイツが舞台のハイカラな内容を擬古体で表現するところに鴎外の楽しみ方があるのだと思うのですが、個人的にはただただ読み難いとしか思えなかったのが残念です。
    ただ、一般的には、文章の美しさに定評があるため、そこをうまく感じ取れる方には良いのかと思います。

    本書では、三部作の他、そめちがへ、ふた夜の合計5作が収録されています。
    雁、高瀬舟、阿部一族など、比較的読みやすい作品は収録されていないので、とにかく舞姫が読みたい、舞姫を読むなら三部作すべて読みたいという方にはおすすめですが、鴎外の入り口としては、個人的には舞姫はおすすめできません。

    各小節の感想は下記の通り。
    単純な面白さで言うと、ふた夜は良かったですが、あとは今ひとつでした。

    ・舞姫 …
    とにかく豊太郎サイテー。
    中盤までの穏やかな日々からの終盤の落ちようが酷い作品です。
    擬古体で書かれた、ドイツ人と日本人の恋物語というセンセーショナルな内容に新鮮味があった当時ならともかく、現代の我々が読んでも感銘の受ける内容ではないと思います。
    あまりにも有名な作品なので、コモンセンスとして読む分には良いかと。

    ・うたかたの記 …
    読み難い文章が通読の邪魔をしますが、3部作の中では比較的内容を拾いやすく、物語として成り立っていると感じました。
    舞姫よりは主人公は一途で、ロマンチックな話でした。

    ・文づかひ …
    びっくりするほど何書いてるのか分かりませんでした。
    幸いにも、親切なサイト様で公開されている現代語訳を読んで、ようやく内容を知ることができましたが、単純な内容に過度な装飾を施しただけの作品に思える。
    尾崎紅葉なら長い会話文も楽しく読めるのですが、本作は特に冗長にしよう、装飾しようという思いがある気がして、好きになりませんでした。

    ・そめちがへ …
    一旦文筆を置いた鴎外がブランクの後、執筆した作品です。
    異国を舞台としている他の作品とは違い、本作は明治の花柳小説であり、これまで読んできた、逍遥や四迷、紅葉に近い雰囲気を持っています。
    あとがき曰くには、斎藤緑雨が失敗作と揶揄したとのことですが、確かに、当時流行していた小説の真似てみたが、面白みのない状況説明で終わった感じがします。
    珍しい作品ですが、鴎外の著書の一部である、というところで読んでみるのもいいかもしれません。
    肝心の内容が面白いかというと。。。

    ・ふた夜 …
    鴎外の翻訳作品です。
    現代の翻訳家が改めて書き起こすともっと面白いのであろうところが残念です。
    だって、擬古体なんだもの。
    原作準拠なのでしょうが、士官の一時の邂逅と悲しい結末が大変印象深く、心に残る作品でした。
    鴎外はもう少し老成してから再読しようかと思います。

  • 豊太郎のだめっぷりが久しぶりに読みたくなったので、「舞姫」を高校の教科書ぶりに読んでみた。
    エリートコースを歩む豊太郎が、法律から歴史や哲学に興味を移し、母親や上司の言いなりの受動的な人間から、自ら決断する能動的な人間になろうと藻掻く。
    そして舞姫のエリスと出会い、貧しいながらも幸せに暮らし始める。

    が、帰国してエリートに戻りたいと思う気持ちとエリスへの愛情との間で心揺らぐ。
    結局は自ら決断できず、自分が倒れている間に友人がエリスに告げ口したことにより、"仕方なく"帰国せざるを得なかった、と自分が悪いわけではないようなところがあいかわらずダメ男だと思った。
    けど、しょうがないよなー、とも思う。
    悩んでも悩んでも、きっと豊太郎には決断できなかったんだよなー。

  • 国語の授業で舞姫を初めて読んだときには、豊太郎は何てひどい男なのだろうくらいにしか思いませんでした。

    それから数年経って読みかえしてみたら、豊太郎の苦悩や弱さが他人事とは思えなくて、はたしてどれだけの人が彼を責められるだろうかと考えてしまいました。

    120年以上前のベルリンが舞台の小説ですが、彼の「エリスとの愛」と「栄達を求める心」との間の葛藤は、現代にも通じる部分が多くあると思います。

     うたかたの記・文づかひ・ふた夜といった他の収録作品も、舞姫同様に浪漫味あふれる素敵な作品です。文体のせいで敷居が高く感じるかもしれませんが、ぜひ手にとって読んでみてください。

  • 留学経験の影響が色濃い『ドイツ三部作』と他二編を収録。ロマン主義の初期作が多く、文語文を用いた人物・情景の描写がとても美しい。

    儚く物悲しいストーリーは読者の哀愁を誘って止まない。そして各話に登場する少女たちの可愛いらしさも相まり、これがまた我々の同情を一層募らせる。

    高校ではかつて『舞姫』を音読した。5年ほどの歳月の後に再読すると、改めて文体の美しさに驚かされるとともに当時とは異なる視点から物語を追うことができた。

    これだから読書は面白い。
    果たして5年、10年後の私はどう読み解くのだろうか。

  • 惨敗

  • 教科書にも載っている有名作品とその他による短篇小説集です。
    まず擬古文が手強い。現代口語訳みたいなのが欲しいところです。
    それにしても、心情の描写や嵐の描写など目を見張るものがあります。
    解説者は舞姫を犠牲者としていますが、本当にそうなのかな?男を手玉に取った女優という見方もありだと思うな。
    イタリア統一運動の描写があるけど、当時の戦争ってのんびりしたもんなんですねぇ。

    舞姫(1890)
    うたかたの記(1890)
    文づかひ(1891)
    そめちがへ(1897)
    ふた夜-Friedrich Wilhelm Hacklaender(1890)

    著者:森鷗外(1862-1922、島根県津和野町、小説家)
    解説:稲垣達郎(1901-1986、敦賀市、日本文学)

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著者プロフィール

森鷗外(1862~1922)
小説家、評論家、翻訳家、陸軍軍医。本名は森林太郎。明治中期から大正期にかけて活躍し、近代日本文学において、夏目漱石とともに双璧を成す。代表作は『舞姫』『雁』『阿部一族』など。『高瀬舟』は今も教科書で親しまれている後期の傑作で、そのテーマ性は現在に通じている。『最後の一句』『山椒大夫』も歴史に取材しながら、近代小説の相貌を持つ。

「2022年 『大活字本 高瀬舟』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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