其面影 (岩波文庫 緑 7-4)

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  • 岩波書店
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レビュー : 6
  • Amazon.co.jp ・本 (237ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784003100745

作品紹介・あらすじ

中年の大学講師と義妹との恋愛をテーマとして、知識人の自己分裂の悲劇を清新な文体で描いた長篇小説。

感想・レビュー・書評

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  • 二葉亭四迷『其面影』
     朝日新聞の連載小説、発表は明治39年(1906年)である。内容はなかなか痛切である。
     主人公は小野哲也という法学士で、大学でつまらない経済学を教えている。かれは婿養子である。こう言えば聞こえはいいが、先代が自分の死後に娘とその母を養わせるために「公債のかわり」に学費をだしたのである。というわけで、派手好きで浪費家で怠け者の妻時子や、その母である「隠居」とはそりがあわない。そこへ時子の異母妹、小夜子が夫に死別してもどってくる。小夜子は哲也にとって「深切」な人で、小夜子によって哲也ははじめて家庭の温かみを知る。小夜子が奉公人を片っ端から手込めにする家に家庭教師にだされるので、哲也が同情していると、妻が嫉妬しだして、そうこうするうちに哲也は小夜子を愛するようになり、家出して数日所帯をもつが、小夜子が哲也と別れてでていく。このことで哲也は酒びたりになり、なしくずしに時子のもとへ帰る。校長のすすめで支那の学校に赴任し出世するが、小夜子の面影を忘れられず、中国で仕事をやめ、ルンペンのような生活に落ちぶれ、満州に失踪したところでおしまいである。
     全編、妻と隠居のいびりや罵倒、お為ごかしや、小夜子にたいする嫉妬や復讐で、絡みつくような「家」と、そのなかで決断できずズルズルと生きていく哲也の無気力(優しさ)が表現されている。女たちはそれぞれ強かである。同窓だった葉村という脂ぎった実業家もでてきて、哲也を「死んでいる」だの「古本の精にとりつかれている」だの、「理想なんてすてて欲望を肯定して活躍しろ」だのいうが、哲也にはそれができない。
     二葉亭自身は葉村のような男が好きだと言っているらしいが、それなら葉村の出世話でも書けばいいだろう。哲也のような生き方はきらいだけど、同情もあったんじゃないかと思う。「知識人の弱さ」を暴露したと評価されるものの、べつに「知識人」だけの特殊現象とは思えない。現代でも家庭で現金引出装置のように扱われている夫のことは話題になっていると思う。
     言葉は漢語や中国語の影響が見えて面白い。「為不知」(知らざると為す)に「しらばっくれる」と仮名があったりする。

  • 兄と妹の禁断の恋愛、不義のアウトローな略奪愛!という眼で読んだが、古典文学のなせる技なのかどこか上品で気取っているのかな。
    血縁ではないが優柔不断で不遇な二人はいつの間にか愛し合う関係になる。結末は…
    言葉遣いや文字の使い方に明治時代の雰囲気を漂わせている。

  • 語りのリズムといい、メロドラマ的な内容といい、100年以上前の作品とは思えないほど非常に読みすい。

    小夜子と哲也の恋愛ものとして読んでも、もちろんこれはこれで十分面白いのだが、これだけだと今では恥ずかしくなるような陳腐な(言いかえれば、余りにも「王道の」)やりとりが目に付くかもしれない。
    一世代前の、やたらと瞳が大きく輝く「少女漫画」的なコソバユサが満載!
    今時ここまでのものも少ないから、ある意味では新鮮ともいえる。
    つい電車で顔がにやけてしまう類のもの。

    ただ、『其面影』はこのような典型的ヒロイン・小夜子と、それに惚れるいまいち頼りがいのない哲也の話というよりも、小夜子はもちろん、哲也の妻・時子といった女たちの、したたかにして、あざとくも逞しい姿を見ていく方がずっと面白く読めるのではないだろうか。

    どこまでも、女って!

  •  「君はよく僕の事を中途半端だといって攻撃しましたな。なるほど僕には昔から何だか中心点が二つあって、始終その二点の間を彷徨しているような気がしたです。だから事に当たって何時も狐疑逡巡する、決着した所がない。」誰からも嫌われたくない、と思うと、誰も嫌いたくないと思う。これが存外難しい。


    (宮崎大学 学部生)

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