漱石文芸論集 (岩波文庫)

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  • Amazon.co.jp ・本 (391ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784003101001

感想・レビュー・書評

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  • 『漱石文明論集』が非常に面白くて、続いて読んだ文芸論集は、いつか投げだしてしまったままだった。

    改めて読み終えて、登録するにあたって、文明論集とのレビュー数の差にちょっと笑ってしまった。

    必要があって読み返したのだが、漱石が明らかにしたいと意気込んだ「文学論」のほんの端っこを齧っただけでも、面白い。

    小説家には学問がいる。
    実際的な問題を、人を描こうと思ったら、単に表現がうまければ良いというものではない。
    思想が必要で、でもそれをちゃんと真として書き得ないといけない。
    真ならば真で、なんでもあるがままを描写すれば良いというわけでもない。
    人の心に残ること、人の心を動かすこととは何かに触れていなければならない。
    一般を語るようで、でも誰かのために書くのではなく、誰かの評価を得るために書くのでもない。

  • 天才の頭の中を覗いてみたいと常々思っていて、そんな願いが叶う本な気がする。漱石がどのような態度や理論で小説を書いているのかが(全ては理解できないにしても)読めるのはありがたかった。芸術に対する考えは深く頷けるものだった。

  • 漱石の作品が本書に述べられているように理論的に著されていると思うと感慨もひとしおだ。しかしまた、東大での英文学の講義が理に走り過ぎて最初は不評だったことも頷ける。西洋文明に対する批判的態度も、実際に彼が英国留学を経験したうえでのことで、当時の多くの日本人や現在の自分などが想像しえない境地にいるからだと思える。講演録もユーモア溢れるものだったが、「道楽と職業」が最も楽しめた。

  • 漱石の文芸論。
    小説を書く際のスタイル、芸術家や著作家に必要な心構え、漱石の愛読書や文学談などを論じた内容。
    漱石の小説が理論と洞察に基づいて書かれていることがわかる。興味深い論考もあった。


    一番惹かれたのが「文展と芸術」。と「文芸は男子一生の事業とするに足らざる乎」。

    「文展と芸術」。
    ’芸術は自己の表現に始って、自己の表現に終るものである。‘と命題を掲げ、文展の形骸化や形式を批判しつつ、芸術や芸術家のありかたを論じている。


    漱石先生曰く、絵であれ小説であれ、他人のために書いたり塗ったりしているわけでない。自分の気分のために表現しているのであって他人がどう思うかは関係ない。見る人読む人がどう思うかと気を揉むのは芸術家の堕落である。徹頭徹尾、自己に終始し得ない芸術は空虚である。

    では、自己の表現である芸術に他人の批評は必要ないかというとそうではない、と漱石はいう。
    熱中して作ったときは自分=作品である。でも造り終えると作品は作品として自己とはっきり別れる。つまり作品を客観視できる。自分が作ったものに対して評価・批判が起こる。ならば他人が批評してもいいだろう。なにより贔屓目で作品をみてしまう自分より他人の批判に晒されるほうが公平な評価を得やすい。それに見る読む他人は自己とは遠く、気質の違う人ほどいい。制作者が刺激を受けるから良いのだ。

    だから堕落と知りつつ見る者読む者の批判を信頼する芸術家の気持ちを認める。ゆえに文展はあっていい。(だとさ)


    「文芸は男子一生の事業とするに足らざる乎」。
    結論からいうと文芸は男子一生の事業とするに足る。
    他の職業と比較しても文芸は劣るものでない。別に勝っているわけでないが。そもそも基準が違えば優劣の結果は違ってくる。手段として生活の糧を得るという基準からいえば全ての職業は同じで優劣はない。食っていかれないならそれは職業として存在し得ない。
    文学者を男子一生の事業とするに足るというならば、大工も豆腐屋も下駄の歯入れ屋も男子一生の事業とするに足ると言ってもいい。
    文芸・芸術の特権意識を排した上で自分の職業の信頼を語る。この姿勢が気に入った。

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著者プロフィール

1867(慶応3)年、江戸牛込馬場下(現在の新宿区喜久井町)にて誕生。帝国大学英文科卒。松山中学、五高等で英語を教え、英国に留学。帰国後、一高、東大で教鞭をとる。1905(明治38)年、『吾輩は猫である』を発表。翌年、『坊っちゃん』『草枕』など次々と話題作を発表。1907年、新聞社に入社して創作に専念。『三四郎』『それから』『行人』『こころ』等、日本文学史に輝く数々の傑作を著した。最後の大作『明暗』執筆中に胃潰瘍が悪化し永眠。享年50。

「2021年 『夏目漱石大活字本シリーズ』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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