明暗 (岩波文庫)

著者 :
  • 岩波書店
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本棚登録 : 173
レビュー : 24
  • Amazon.co.jp ・本 (607ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784003101148

作品紹介・あらすじ

晩年の漱石は人間のエゴイズムを扱った作品を多く書いた。彼はこれを克服しようとする境地を"則天去私"と名づけているが、『明暗』はその実践といわれる。虚栄心の強いエゴイストの津田、お延の夫婦生活を通し、その暗さから明るさへの転換を描こうとして絶筆となった。漱石の思想的到達点を示す作品。

感想・レビュー・書評

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  • 最長にして未完の絶筆。これはとてつもなく強烈。登場人物それぞれがそれぞれに感情移入できない不愉快さだし、そんな彼らの展開する会話劇がまたぐいぐいひりひり気分悪い。中途半端なところで終わっているものの、それがどうしたというくらいすごく面白い。それに比べて、いかに「こころ」が生ぬるいことか。最後の最後でこんなのを書いてしまうのだから漱石はすごい。

  • 資料ID:C0030598
    配架場所:2F文庫書架

  • 日常の中で、登場人物それぞれが、それぞれのプライド、自尊心をはからずも覗かせてしまう。主人公が自身のプライドを固持するように取り繕うも瓦解していく様子が滑稽に思えつつ、自分を思い返すとどきっとする一作。

  • (2016.07.29読了)(2016.07.25借入)
    水村美苗著『続明暗』が発表されたとき、読んでみたいと思ったのですが、漱石の『明暗』を読んだのは、だいぶ前のことだったので、内容を覚えていません。
    『続明暗』を読む前に、『明暗』を読まないといけないということで、なかなか読み始めることができませんでした。
    今回ブクログの談話室の、「名作長編小説をいっしょに読もうの会」で思いがけず、一緒に読みましょうということになって、読み始めました。

    主人公は、津田由雄30歳の会社員です。半年前に結婚したばかりです。もう一人の主人公は、妻のお延(延子)23歳です。
    早い話が、津田夫妻を中心とした小説です。夫の視点で書かれたり、妻の視点で書かれたり、という感じです。
    津田夫妻は、東京に住んでいるのですが、それぞれの両親は、京都に住んでいて、二人は、京都で知り合っています。
    津田由雄と延子は、それぞれ京都の実家に帰っているときに、延子が父に頼まれて、由雄の父から借りた本を返しに行った際に由雄が応対したので、知り合った。
    その際、延子は、別の本を借りてくるように言われてきたのですが、あいにく、由雄の父親は不在で、本のありかがわからず、あとで、由雄が延子の家にその本を父親の代わりに届けに行っています。
    延子のほうが、由雄を好きになって結婚に至ったようですが、結婚するにあたって、由雄は父親に生活費の援助をお願いしたようです。
    ただし、月々借りた分は、ボーナスで返すという約束だったようです。その際に、由雄の妹の旦那さんも立ち会って、ちゃんと約束を守るという保証人になったようです。
    ところが、由雄は、月々借りたお金を、ボーナスで返すという約束を守らなかったために父親からの送金がストップしてしまいました。
    収入以上の生活をしているうえに、由雄は、痔の手術をすることになって、お金が足りません。父親に何とか送金をお願いするか、親戚の誰かからお金を借りないといけません。
    小説の前半は、そのあたりの話が、あれこれと書かれています。
    由雄の境遇と延子の境遇は、似ているらしく、由雄は、藤井の叔父の家で育てられています。父親が転勤族で、子供を連れての転勤は、かわいそうということで預けたようです。
    延子のほうは、岡本の叔母のところで育ったようです。父母は、京都にいます。
    お金の工面ができないまま、由雄は手術のために入院します。
    由雄が入院の間に、由雄の悪友の小林が延子のいる自宅を訪ねて古いマントを貰うことになっているので、貰いにきたといって上がり込み、あれこれとしゃべって帰ります。
    由雄の結婚前に何かあったらしいと思った延子は、由雄の妹のお秀を訪ねて、なにかを知っているようなことをほのめかしながら、聞き出そうとしたのですがうまくいきませんでした。
    由雄は、一週間ほど入院して退院後は、温泉で療養することになるのですが、懇意にしている吉川夫人がやってきて、清子さんが療養に行っている温泉を教えて、是非そこに行くように勧めます。(清子さんは流産したそうです。)
    清子さんというのは、由雄と以前に付き合っていて、結婚するはずだったのが、別の男性と結婚してしまったという女性のようです。
    いったい二人の間に何があったのでしょう。それに、二人とも別の相手と結婚しているのに、今さらあって何をしようというのでしょうか。
    139節、412頁に「あっといって後ろを向いたら、もう結婚していたんです」と由雄が言っているので、別れた原因は、由雄にはわからないようです。
    172節、523頁に「彼女に会うのは何のためだろう。永く記憶するため? 彼女を忘れるため?」などと書いてあるので、由雄は、何のために会うのかわかっていないけど、とにかく会ってみたいと思っているようです。
    173節、528頁には「彼には最初から三つの途があった。そうして三つより外に彼の途はなかった。第一は何時までも煮え切らない代わりに、今の自由を失わない事、第二は馬鹿になっても構わないで進んで行く事、第三即ち彼の目指すところは、馬鹿にならないで自分の満足のゆくような解決を得る事。この三ヵ条のうち彼はただ第三だけを目的にして東京を立った。」と書いているので、清子とやり直したいと思っているようです。
    由雄と清子があったところで、絶筆となっています。
    結構ハラハラドキドキの心理劇という感じなのですが、こんなところで、終わられては、読者としては、困ってしまいます。
    結末を予想してみましょう。清子とはよりを戻せず、延子とは、別れてしまう、というのはどうでしょうか。もちろん、父親からはあきれられて、断絶を言い渡されるでしょう。
    解説は、大江健三郎氏が書いているのですが、誤読があるようです。吉岡夫人というのが出てくるのですが、吉川夫人の間違いのようです。もう一つ、津田さんの結婚は、一年前としているのですが、半年前だったと思います。
    編集担当者は、『明暗』を読んでいないんでしょうね。

    【登場人物】
    津田由雄 30歳、会社員、半年前に結婚
    お延 23歳、由雄の妻
    岡本家 お延の叔母、この家で育った、
    継子、百合子、一 岡本家の子供、お延のいとこ
    時 津田家の女中
    津田の父母 京都在住
    お延の父母 京都在住
    神田の妹(お秀) 堀さん、由雄の妹、子供二人
    吉川夫妻 津田の会社の上司で、津田の父親の知人
    藤井の叔父 津田の父の弟、津田の育ての親
    叔母(お朝) 40歳
    真事 叔父の子ども、小学二年生
    お金 叔父の家の女中
    小林 お金の兄
    関清子 津田由雄の以前の交際相手

    ●読書家(18頁)
    彼は平生から世間へ出る多くの人が、出るとすぐ書物に遠ざかってしまうのを、さも下らない愚物のように細君の前で罵っていた。それを夫の口癖として聴かされた細君はまた彼を本当の勉強家として認めなければならないほど比較的多くの時間が二階で費やされた。
    ●年寄(23頁)
    年寄はね、何でも自分の若いときの生計を覚えていて、同年配の今の若い者も、万事自分のして来た通りにしなければならないように考えてるんだからね。
    ●家計膨張(41頁)
    彼が結婚後家計膨張という名義の下に、毎月の不足を、京都にいる父から填補してもらうことになった一面には、盆暮れの賞与で、その何分かを返済するという条件があった。
    ●時を買いに(43頁)
    「時をちょいと買わせに遣りましょうか」
    (お時さんという名の女中さんということを知らずに、時間を買いに行くのだと・・・)
    ●歩く(57頁)
    みんな歩いたところで、一時間と掛からない近距離なので、たまさかの散歩がてら
    ●自分たちの事(317頁)
    (お秀)「あなた方お二人はご自分たちの事より外に何も考えていらっしゃらない方だという事だけなんです。自分たちさえよければ、いくら他が困ろうが迷惑しようが、まるでよそを向いて取り合わずにいられる方だというだけなんです」
    この断案を津田はむしろ冷静に受ける事が出来た。彼はそれを自分の特色と認める上に、一般人間の特色とも認めて疑わなかったのだから。
    ●若旦那(329頁)
    普通の人のように富を誇りとしたがる津田は、その点において、自分をなるべく高くお延から評価させるために、父の財産を実際より遥か余計な額に見積もったところを、吹聴した。彼の弱点はもう一歩先へ乗り越す事を忘れなかった。彼のお延に匂わせた自分は、今より大変楽な身分にいる若旦那であった。必要な場合には、いくらでも父から補助を仰ぐ事が出来た。たとい仰がなくても、月々の支出に憂いは決してなかった。

    ☆夏目漱石さんの本(既読)
    「三四郎」夏目漱石著、新潮文庫、1948.10.25
    「それから」夏目漱石著、新潮文庫、1948.11.30
    「門」夏目漱石著、新潮文庫、1948.11.25
    「坊ちゃん」夏目漱石著、新潮文庫、1950.01.31
    「明暗(上)」夏目漱石著、新潮文庫、1950.05.15
    「明暗(下)」夏目漱石著、新潮文庫、1950.05.20
    「虞美人草」夏目漱石著、新潮文庫、1951.10.25
    「道草」夏目漱石著、新潮文庫、1951.11.28
    「こころ」夏目漱石著、新潮文庫、1952.02.29
    「倫敦塔・幻影の盾」夏目漱石著、新潮文庫、1952.07.10
    「行人」夏目漱石著、新潮文庫、1952..
    「坑夫」夏目漱石著、角川文庫、1954.05.30
    「草枕・二百十日」夏目漱石著、角川文庫、1955.08.10
    「吾輩は猫である」夏目漱石著、旺文社文庫、1965.07.10
    「彼岸過迄」夏目漱石著、岩波文庫、1939.11.29
    「漱石先生の手紙」出久根達郎著、NHK人間講座、2000.04.01
    「夏目漱石『こころ』」姜尚中著、NHK出版、2013.04.01
    (2016年8月3日・記)
    (「BOOK」データベースより)amazon
    晩年の漱石は人間のエゴイズムを扱った作品を多く書いた。彼はこれを克服しようとする境地を“則天去私”と名づけているが、『明暗』はその実践といわれる。虚栄心の強いエゴイストの津田、お延の夫婦生活を通し、その暗さから明るさへの転換を描こうとして絶筆となった。漱石の思想的到達点を示す作品。

  • なぜこんなに漠然とした感想しか持てないんだ?

  • 夏目漱石未完の遺作。
    津田とその妻お延を中心に展開される物語。登場人物それぞれの心理描写が本当に素晴らしい。夫婦間の心理戦とも言える裏のかき合いや、親戚たちや小林というダーティーな友人との心理戦などは、読んでいてハラハラドキドキして物語にどっぷり引き込まれる。さらに、津田が結婚する前に思いを寄せていた清子が登場し、いよいよ佳境!ってところで物語が終わっている。気になって仕方がない!
    個人的にはお延に幸せになってほしい。解説で大江健三郎が書いていたみたいに最後には津田とお延が顔を見合わせて微笑してほしいと願う。

  • 死ぬな漱石。続編の「続明暗」は買ったが死んでいる。

  • 夏目漱石未完の遺作。有名な本を今更読むと言うのが恥ずかしながら一度はやはり読んでおきたく。第一印象から文章や言葉選びが綺麗で、日常の言葉なのにあまりにクリアに伝わってくるのでどきっとしたりする事がしばしば。さすがでした。他の名著でもしばしば、読みながら何をぐだぐだしているんだろうこの本有名だけど面白いかなぁどうかなぁとか思いながら読み進めて行くのだけれど、後から思い返せばとても深遠で壮大で何日も、ずっと思い返してたりする。本の1つだった。未完なので結末ばかり気にされるけれど、良い物は個々の要素がどの全体とも綺麗に呼応する様に出来ているので、どこで切っても関係ないと思うんだよね。と言うのも良く言われる話ですが

  • 漱石の作品は謎めいた女性が頻繁に登場するが、「明暗」においては女性の心理描写が最もリアルに描かれていると思う。どの人物も一面的でなく、とてもリアルで、みんな心の奥に裏があるのに体面を保つため素直に伝えたいことを伝えないでいる姿がひどくもどかしいが、現実世界でこのようなことが繰り広げられているのかと思うと、恐ろしくなった。
    弁証法的文章のお手本のような感じがする。未完の作品なのだが、続きが気になって仕方が無い。

  • 「彼岸過迄」「行人」「こころ」の後期三部作や、それがさらに私小説的にドグマった「道草」より全然暗くない。複数の視点に立って、ありもしない「本当の自分探し」から進化したと言えば、言葉が軽すぎでしょうか?

    結末の予想に関しては、おおむね日本文学畑の人は全てが未解決のまま終わり、海外文学系の人はドラマチックな結末を迎える、というような傾向に分かれるというようなことが書かれた研究書を読んだ記憶がありますが、「なるほど」という感じもします。日本文学派の中には、「明暗」の次には「猫」に戻ったような作品を書いていただろうという予測もあり、またまた「なるほど」と。「続明暗」がまさに、筆者が外国系だから、まさにそういった予測を体現しているのかもしれません。

    個人的には、社会主義者的人物の小林の存在が好きです。

    追い込まれた時、読みます

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著者プロフィール

明治、大正時代の小説家、英文学者。1867年、江戸(東京都)に生まれる。愛媛県松山で教師をしたのち、イギリスに留学。帰国後、執筆活動を始める。『吾輩は猫である』『三四郎』『こころ』など作品多数。

「2017年 『坊っちゃん』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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