夢十夜 他二篇 (岩波文庫 緑 11-9)

著者 :
  • 岩波書店
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  • Amazon.co.jp ・本 (180ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784003101193

感想・レビュー・書評

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  • 稀代の文豪・漱石の、信じられないほど豊富な語彙に支えられた的確な情景描写と絶妙な色彩感覚が織り成す繊細で美しい日本語を、気軽に、そして、無心に堪能できる小品集。「夢十夜」、「文鳥」、「永日小品」を収録。

    表題作「夢十夜」では、一人の男が見た、奇怪でとりとめがないのに不思議な吸引力のある十の夢が淡々と綴られています。
    たとえば。
    目の前で死んだ女との約束を守り、女の墓の前で太陽の浮き沈みを数えながら百年もの間再会の時を待ち続けた第一夜。
    鎌倉時代の名仏師・運慶がなぜか明治時代に現れ、ただの木材から一体の仏像を掘り出していくのを見つめた第六夜…。

    しっとりと水気を含んだ射干玉のような艶やかな暗闇を連想させる雰囲気を持つ、小さな幻想の世界に浸ることができます。

    同時収録の「文鳥」にも共通しますが、鋭い色彩感覚に裏打ちされた、楚々としながらも蠱惑的な女性描写は本当に秀逸で、清艶と言う他ない。

    漱石って、「三四郎」や「草枕」なんかもそうなんですけど、実は、男を振り回す「清楚系小悪魔美女」のキャラ設定や描写がすごく秀逸なんですよね。
    谷崎潤一郎的な「魔性の女」、「運命の女」とはまた全然違う魅力があって。川端康成の「清涼な少女趣味」とも違うし。

    「こころ」などに代表される漱石生涯の主題と言われた、深い心理描写によるエゴイズムの追求はこの作品群では影を潜めているので、長くて堅苦しいと漱石を敬遠している人にこそお勧めしたいです。
    何も考えずに、ただただ無心に、美しい日本語を堪能できるので。

  • 32冊目『夢十夜 他二篇』(夏目漱石 著、1986年3月、岩波書店)
    「小品」と称される、漱石の短編作品を集めた文庫本。表題作の他、「文鳥」と「永日小品」という作品が収録されている。表題作は、10本の短い短編からなる連作である。胸を締め付けるほどロマンチックな「第一夜」、背筋も凍るほど恐ろしい「第三夜」、コメディとトラジェディが見事に同居している「第十夜」など、バラエティに富んだ短編が揃っている。夢と現の境目がわからなくなるような、独特の読後感に痺れる。漱石ビギナーにも易しい一冊。
    「こんな夢を見た。」

  • こんな夢を見た・・・というフレーズで始まる不思議な話し。全体的にホラー要素が強かったように思える。夢というのはあいまいで、だからこそ面白く。その無軌道な進行が物語に奥行きを持たせ、さらに不思議な迷宮の中をさ迷うような感覚を再現するのだ。特に、3夜の子供を背負う父親の話しが好みだった。後半、いきなり百年前に盲人を殺した話しになるのが怖い。7夜の行先不明の船旅行の話しは、明治時代の人たちの時代背景をよく表していると思った。

  • 夢十夜:1908年(明治41年)。
    こんな夢を見た、で始まるシュールで幻想的な十の物語。ソウセキなんて難しいと思っていたけど、こういうのは好きかも…と、学生時代に思った。

  • 「こんな夢を見たんだ」と話を切り出すことがある長男から借りた「小品」と呼ばれる短編集。気軽に読めるが内容は濃く、漱石の人となりを感じる。『夢十夜』はちょっと不気味。特に「第七夜」はホントの夢に出てきそう。一転、『文鳥』は微笑ましく展開するが、最後はちょと複雑。『永日小品』はブログ的なのりで漱石を味わえる。長男の“切り出し”は『夢十夜』の影響なのかな。

  • 「夢十夜」。
    黒澤明監督「夢」の元となった、「こんな夢を見た」で始まる(実際には前半のお話だけだけど)不思議な十篇の物語。

    「文鳥」。
    細部にわたる情景や心情などのうつろいの描写に感嘆した。ひょっとしたら初めて夏目漱石の偉大さにふれたかもしれない。

    「永日小品」。
    随筆とも短編ともつかない、落語の小噺のようで、それでいて漱石の身の回りを語ったものもあり、お話が詰まったショートショート。漱石の才能に振り回される。

    ページ数は少ないが、声に出してみるようにゆっくり読むのがおすすめ。

    正直、教科書から出ることなくなじめなかった漱石のイメージが、変わった。

  • 夢十夜、読んだことないと思っていたが、第一夜に覚えがある。これは、多分、学生時代に教科書で出会った気がする。

    第一夜が一番好き。美しい。亡くなる女性の願いは、真珠貝で墓を掘り、星の欠片で墓標を作ること。そして、さらに控え目に申し出たのが百年待ってほしい。そして、墓の傍で待つ男の下に、ゆりが花を手向けてきた。そして気づく。百年目だということに。
    この日本文学の繊細さ、美しさ。
    百年待ってほしいというのをためらう女性の奥ゆかしさ。
    どこに忘れ去ってしまったのでしょうか。

    解説本は多くあって、例えば、ゆりが何を象徴しているのかなどネットでも議論されているけど、ただ純粋に言葉や情景の美しさを楽しむだけではだめなのかと最近思ってきた。

    後は第七夜が好き。
    行方も、いつ接岸するのかも分からない船にいるより、死ぬことを選ぶ主人公。その瞬間、命がある方がよかったと悟る。深い。。。

    実際の夢を文字に起こしたのか、夢と言う設定の物語を創作したのか分からないが、うまい。これだけの短いページでどれも起承転結で綺麗に完結している。

    そして、どの主人公も結構孤独やら寂寥感がある。解説にあるように、「荒涼たる孤独に生きた漱石」を感じる。

    文鳥については、引用した個所が漱石の繊細さを現していて好ましい。

  • 夏目漱石の短編集。なんというかファンタジーチックな感じです。
    全てではないですが「こんな夢をみた」から始まるところも幻想的な導入っぽい感じです。

    久々に文学に触れたいけど、でもそこまで暗くもなりたくない場合、この夢十夜は最適かもしれません(笑)
    とは言いつつも、やはり昔の文豪ですので、そこまで明るい話ではありませんが。

    私のイメージですと夏目漱石は他の文豪と比べそこまでフワフワしているイメージはないのですが(これは昔の文豪に大変失礼な物言いなのですが、個人的な感想なのでご容赦を)、いい意味でこれは夏目漱石を裏切ってくれる作品だと思います。

    何度読んでもそこまで暗くはなりません(でもある程度は暗くなる。)

    虫食い感想としては・・・
    第一夜は純愛と思うべきか、こえーと思うべきか悩む。
    第七夜は無常というか人間の身勝手さを感じる。
    第十夜はそらみたことか!と思える。(苦笑)

    Wikiに要約がのっています(笑)
    <http://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%A4%A2%E5%8D%81%E5%A4%9C>

  • 夢十夜はお気に入り。
    初めて読んだ時はなんかもう殴られたような衝撃が…
    夏目漱石の作品の中で一番好き。

  • 「夢十夜」は名の通り夢みたいな不思議な世界、「永日小品」はユーモアがあって読みやすい作品が多い。

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著者プロフィール

1867(慶応3)年、江戸牛込馬場下(現在の新宿区喜久井町)にて誕生。帝国大学英文科卒。松山中学、五高等で英語を教え、英国に留学。帰国後、一高、東大で教鞭をとる。1905(明治38)年、『吾輩は猫である』を発表。翌年、『坊っちゃん』『草枕』など次々と話題作を発表。1907年、新聞社に入社して創作に専念。『三四郎』『それから』『行人』『こころ』等、日本文学史に輝く数々の傑作を著した。最後の大作『明暗』執筆中に胃潰瘍が悪化し永眠。享年50。

「2021年 『夏目漱石大活字本シリーズ』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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