俳諧大要 (岩波文庫 緑 13-7)

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  • 岩波書店
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  • Amazon.co.jp ・本 (272ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784003101377

感想・レビュー・書評

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  • 子規の俳論集。

    印象に残ったのは、初心者の質問に答える形で子規が俳句の好悪を論じる一節。
    ここで子規は、学生時代に俳句を始めてからの嗜好の変化(彼はそれを「発達」と呼ぶわけだが)を率直に語っている。始めの頃はいわゆる理屈的の句や気の利いた句を好んでいたというが、句作を続けるうちにそれらが表層的なものであることに気づいたという。逆に率直な感動を写しとること、素直に写生に徹することの良さを悟ったと。

    今まで私には、彼の称揚する写実の句の良さがぴんときていなかった。なんというか……そのまんまやん、と物足りなく感じてしまうのだ。いや、写実なのだからそのまんまなのは当然なのだけれど。私って俳句に向いてないのかしら。なんて思っていたのだが。
    そんな中、本書を読んで一つ発見があった。子規が素人時代に気に入っていたという(彼に言わせると理屈的の)句は素直にいいと思えたのだ。これにはびっくりした。畢竟、どうしても「巧い」句を目標としてしまうのが素人ということだろうか。なんだか俳句「道」の香りがする考えだなぁ。
    とにもかくにも、あの子規も同じ道を通っていたのかと思うと少しほっとしたような心持ちである。続けていくうちに感じ方が変わるということも当然あるわけで、皆が褒める句を無理に良いと思わなくてもいいのだ。そんな当たり前のことを再認識した。

    自分の感性に嘘をつくことなく、楽しく気長にやりますか。

  • 長野県知事 阿部守一氏
    職業倫理に基づき行動を
    2021/2/20付日本経済新聞 朝刊
    体格がしっかりしていて、一見すると押しが強い印象を受けるが内向的な性格だったという。

    仕事柄、いろいろな方とお会いし、話をしますが、昔から人付き合いは苦手です。小中学校の友人の多くは「なんであいつが知事をやっているのか」と感じていると思う。自分の殻にこもって一人で本を読むのが好きだったし、本屋に行くのが趣味でした。

    だからこそ、人がどういう時にどう行動するのか、何に影響されるのかなどといったことに関心がある。例えば、今はコロナで高齢者などに外出を控えてくださいとお願いする。丁寧に呼びかけるのですが、人の行動に制約を課すわけで、重い責任がある。

    そういう時に、本棚から引っ張り出してめくるのが『権力に翻弄されないための48の法則』です。過去の歴史を踏まえた人間くさい物語のなかで「必要以上に多くを語るな」など、様々な教訓を示してくれる。しかも、その教訓を守らずに失敗した事例が多く出てくる。本当に参考になるのは、なぜ失敗したのかということですから。

    『人を動かす』も同じような内容ですが、これは人からプレゼントされた本です。自治省(今の総務省)に入って3カ月がたち、私が初めて赴任したのは山口県庁になります。新幹線の小郡駅(現在の新山口駅)に降り立った時、県庁の上司が迎えに来てくれていて、その上司からいただいたのです。

    その方は直接的には何も言いませんでしたが、自治省から若い職員が来たわけですので、人の心をちゃんと理解しながら仕事をしろよというメッセージがあったのだと思います。以来、持ち歩いて折に触れて読んでいます。

    仕事をするうえで影響を受けたのが『社会的共通資本』であり、著者の宇沢弘文氏だった。

    宇沢先生とは私が長野県の副知事をしていた時に初めて直接お話ししました。当時の田中康夫知事が県の新しいビジョンを策定する方針を打ち出し、その専門委員会の座長を宇沢先生がなされた。先生の軽井沢にある別荘でみんなで合宿し、これからの長野県について話し合ったりしました。

    社会的共通資本のひとつに医療や教育などの制度資本があるのですが、そうしたものは職業的専門家による職業的規律で運営されるべきだと宇沢先生は力説されていました。医療ならば医療関係者の倫理がある。それに基づいて行動しなければいけないし、行動できる社会をつくることが大事です。

    長野県は総合計画の柱として「学びの県づくり」を掲げていますが、学校教育も教員のみなさんの職業的倫理に基づいて学校の自立を高めることが大切です。中央集権的、官僚的な統制ではなく、現場に近いところで判断する。まさに地方自治の考え方につながる概念だと思います。

    『水素エコノミー』は今の化石燃料をもとにした社会が巨大な石油資本のもとでブラックボックス化している姿を描いています。単にエネルギーだけの問題ではなく、社会のあり方が問われているという文明論、社会論です。長野県は一昨年12月に全国の都道府県で初めて「気候非常事態宣言」を出しました。水素はどこにでもあるエネルギー源なので、自律分散型の社会をつくることが、実は持続可能な社会に直結するわけです。

    テレビで有名な俳人、夏井いつきさんを「師匠」と呼ぶ。

    30歳代後半に愛媛県庁にいた時に、友人に誘われて夏井さんの家で何人かと一緒に句会をしていました。松山市は俳句文化が色濃く残る土地柄ですから。その時、師匠である夏井さんが私につけた俳号が「ガバナー」だった。そうしたら本当に知事になってしまったわけです。『俳諧大要』はその後、購入した本です。

    私は劣等生でしたが、俳句をやって良かったなと思うのは物の見え方が変わったことです。俳句心をもって山を眺めると、木の生え方、葉の形、色合いまで意識する。研ぎ澄まされる部分があるのだと思います。

    今は俳句を作ることはまったくありませんが、もう少し暇になったらまた作ってみたいですね。

    (聞き手は編集委員 谷隆徳)

    【私の読書遍歴】

    《座右の書》

    『権力に翻弄されないための48の法則』(上・下、ロバート・グリーン、ユースト・エルファーズ著、鈴木主税訳、角川文庫)

    『社会的共通資本』(宇沢弘文著、岩波新書)

    《その他愛読書など》

    (1)『人を動かす』(D・カーネギー著、山口博訳、創元社)
    (2)『役人学三則』(末弘厳太郎著、岩波現代文庫)。「役人たらんとする者は縄張り根性の涵養(かんよう)に努むることを要す」などと、逆説的な役人論が書かれている。職員研修の時などに引用することがある。
    (3)『ローマ人の物語 ユリウス・カエサル ルビコン以前』(全3巻、塩野七生著、新潮文庫)
    (4)『日本の論点』(大前研一著、プレジデント社)。年末年始に日本や世界の1年間を振り返るために毎年読んでいる。
    (5)『水素エコノミー』(ジェレミー・リフキン著、柴田裕之訳、NHK出版)
    (6)『俳諧大要』(正岡子規著、岩波文庫)
    あべ・しゅいち 1960年生まれ。84年東大法卒、自治省(現在の総務省)入省。長野県副知事、総務省過疎対策室長などを経て2010年9月から現職。

  • 漢文調の淋漓な文章で綴られる子規の俳句革新。その後の高浜虚子による俳句の座の文学への押し戻しを考えると、おれが時代を変えてやるという子規の思いが滲み出ているようだ。かえって病身だからこそできたことではなかろか。

  • 「俳句のために邪念を忘れたるは善し、ゆめ本職を忘るべからず」

  • 「俳句を作ってみよう」と思い立ったときから、
    この本をバイブルにしようと決めた。
    「俳人蕪村」は、今でも新鮮に読める俳論だと確信します。

  • 子規の代表的な俳句論文を集めた文庫。獺祭書屋俳話の抄録などもあったらいいのになとは思うけども、いまので多すぎず少なすぎずかなとも。

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