不如帰 (岩波文庫)

著者 :
  • 岩波書店
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レビュー : 42
  • Amazon.co.jp ・本 (320ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784003101513

感想・レビュー・書評

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  • ●幸にして純粋な愛情を分かち合った武男と浪子。武男の母親や従兄弟らが勝手に膨らました嫉妬や私利私欲が、時の家族制度と世間体、仕事や戦争などに乗っかり、二人の間は意思とは反対に引き裂かれてしまう。武男は結核を理由に浪子との離縁を推し進めた母親に異議を唱えるも、その行動自体は、親と仕事への忠義を、妻への愛より優先させたことになる。外界なる家・親・仕事と、個人の意思とのパワーバランスが、この小説ではテーマの一つなのだろう。時代は令和となり、明治より多少は個人を優先できる世の中になってきているようだが、まだまだ滅私他者優先が盤石な時代であることは否めない。否、意思を主張する自由と術とは別もので、相変わらず後者を持たぬ持たせぬ本質的な奴隷制度から抜け出せないことへのねじれ歪みは、また別の問題を引き起こし、マグマ塊のようにいびつなモノに姿を変えた自己表現がエスケープ先を求めている。抜けたい、抜け出せないジレンマを認知しつつも、旧態依然を続ける優柔不断で無気力な時代へのアンチテーゼである。
    ●文語体の文章を久しぶりに読んだが、滋養高き十穀米のように歯応えがあり、読後に残る質感がいい。

  • 大学の講義のために購入。
    実は最近、初めて恋をして、失恋しちゃったんですよね。そんなセンチメンタルな私が浪子と武男の夫婦生活を見ててると、自由な恋愛を求めることができないことに心苦しさを感じましたね。
    「不如帰」の時代は明治。新たな文化が欧米から入ってくる。それは思想も同じ。自由に恋愛して結婚できることなんて新しい価値観だった。当時は結婚は本人同士だけで決められるものじゃなかった。離婚もそう。こうした新しい価値観と古くからある日本の価値観とのズレが2人の仲を引き裂いてしまった。そして、女性の地位が低かった当時だからこそ最期の浪子の叫びは多くの女性の心を掴んだのではないだろうか。愛に飢えていた浪子はほんのひとときだけでも武男と愛しあえて幸せだったのかな。
    こうして考えると今の恋愛結婚は幸せなのかもしれない。
    「不如帰」って当時は暗く、悲しいイメージがもたれてました。悲しい愛の物語。そんな一冊。

    恋愛って幸せだけじゃないんですね…。

  • あとがき:徳冨愛子

  • 記録。だいぶ前に読んだから忘れた笑

  •  嫁姑・結核・戦争・父系社会・その他旧弊など、古い価値観や理不尽な環境で引き離される悲恋譚。かなりの胸糞展開と聞いていたため、感情移入し過ぎるのが怖くて一歩引いた視点で読んでしまったので、少し後悔している。

     新聞連載の開始は1898年、これは現行法である民法が定められた時期(1~3編:1896年、4・5編:1898年)と重なる。明治維新に伴うハード・ソフト両面の西洋化に伴い、新旧の価値観が激突する時代だったことが想像できる。この小説の中でも、今では考えにくいような価値観が随所にみられる。そもそも物語の根幹部分である、結核になった嫁さんを家に帰すとか、姑の執拗ないびりであるとか(これは不幸な家庭では今でも散々行われているのかもしれないが)、嫁への愛なんかより家を大事にしろとか。

     とりわけ、妻か家かの二者択一なら家を取れと母が息子に迫る箇所は、理屈では分かっていても衝撃的だった。
     現代のように福祉制度が確立していない時代では、結婚して子どもをつくることは自分の老後を支えることでもあり、子どもができなければ野垂れ死ぬだけだった。石女(うまずめ)なんて今じゃ炎上待ったなしの言葉も、それが言葉として酷いものであったにせよ、子どもを産まねば共同体が滅びるという危機意識が根底にあった。というか、今だって子どもを産まなければ……。

     だから、母親が子と嫁の離縁を迫ったときに、息子がモラル面で反撃するも、家庭という概念に負けてしまったところは、当時の価値観に照らせば母親に理があったのかもしれない。理はあるけれどそれは絶対間違っているよという作者の強い意志が、母親をここまで醜悪な悪者に仕立て上げたのだろうか。読者の溜飲を下げるためか、悪役である千々石はあっけなく死ぬが、母親は自分の価値観を曲げることなく最後まで嫁を非難する。まるで、著者が母親に同情する読者を一人残らず消そうとするかのように。

     非常に社会派な小説だと、私には感じられた。

  • はからずも涙してしまった

  • 明治期最大のベストセラー小説。
    時代に翻弄させれる波子。
    文章がすごく良いです。
    「鳴いて血を吐くホトトギス」なのでしょうか。
    「ああつらい! つらい! もう女なんぞに生まれはしませんよ」など、会話文が素晴らしいです。

  • 明治の大ベストセラー作品。
    徳富蘆花というと、明治の文豪というよりも不如帰の執筆者としてしか寡聞にして知らないです。少なくとも本作は言うまでもない有名作です。
    作品自体は国語の教科書で知っていたのですが、私が最も本を読んでいた時期に図書館になかったこともあり、いい大人になった今、初めて読んでみることにしました。
    本書収録作は表題の不如帰のみとなっています。

    主人公は海軍少尉の川島武夫と、その妻、お浪で、二人は普通に幸せな結婚生活を営んでいたのですが、周りには敵がいっぱいです。
    まず、武夫が幼いころから一緒に暮らしていた千々石、彼は世間の表通りを通ることを厭い、上に取り入って出世をするという周囲の鼻つまみ者で、何かと武夫を目の敵にしていました。彼はお浪を狙っていて、こっそり恋文を渡したのですが、お浪は彼の留守中に籍を入れてしまい逆恨みをしています。
    また、武夫の父がお世話をしていた山木兵造という男は、川島の財産を狙っていて、なんとか娘のお豊と武夫を添わせようと画策します。
    さらに、お浪の継母は大人しいお浪を嫌い、お浪に冷たくあたり、姑にあたる武夫の母は根は悪くなのですが、お浪よりも武夫を、家のことを念頭に考えています。
    そんなおり、お浪が結核で血を吐いてしまいます。
    当時の結核といえば不治の病で、更には伝染るという迷信が真のように人口に膾炙していましたので、それをチャンスとばかりに人々は二人を引き裂きにかかる、という話です。

    文語体で書かれていて、読み慣れていない人には抵抗を感じるかと思いますが、難解な文章というわけではないためちょっと本を読んでいる方なら普通に読めると思います。

    前編、中編、後編と3つの編に別れていて、前編は二人の置かれている立場の描写、中編でお浪の病、人々の謀略とその結果、そして後編でその後が書かれています。
    前編は割りと退屈で、パラパラとめくっていたのですが、中編の中頃辺りから一気に面白くなります。
    そのあたりから場面が急に進んで、面白がるような展開ではないのですが、心無き者の謀略と引き裂かれる二人、その二人の心情を思うと、心動かされるものがあります。
    ラストは大団円とは言えないですが、少なくとも奸計を巡らせていた人たちの思い通りのラストとはならなかったので、良かったかなと感じました。

  • 表現が、候が多く、最初読みにくかったが、中盤以降、速やかに読めた。

  • 徳富蘆花―不如帰
    学校で習うような小説なんて、説教くさいのかと思いきや、これ、完全に昼ドラマです。

    夫婦仲は、当時としてはびっくりするほどよい。
    ところが、彼ら二人の周囲には敵がたくさんいるのです。

    意地悪なお姑さん、冷たい義理の母ーこれが浪子サイド。
    育ててもらった恩も忘れて逆恨みする従兄弟、娘可愛さに浪子と別れさせようと画策する出入りの商人山木ーこれが武男サイド。
    従兄弟と山木はあくどい商売で繋がってもいる。
    そして、従兄弟の千々岩は浪子に横恋慕してるのざます。

    浪子の父は心から浪子のことを慈しんでいるけれども、しょせん父親。
    しかも戦時中の軍人。
    肝心な時にはいない。
    それは武男も同じ。
    肝心な時、そばにいない。
    浪子のなくなった母の姉も浪子の味方ではあるが、やはりいつもそばにいるというわけにはいかない。

    きっかけは風邪だった。
    こじらせて肺結核に。
    当時の肺結核は、死に至る病であり、しかも伝染病。
    夫婦は愛し合っているのに、さまざまな思惑にからめ捕られ、武男が戦地に行っている間に離縁ということになってしまう。

    短い小説ですが、どろどろした情念あり、清らかな愛情あり。
    そして、何も悪いことをしていない夫婦二人は、幸せの絶頂から不幸のどん底に突き落とされるのです。
    これは、人気出るでしょう。

    離縁させられた絶望から戦地で無茶を重ねる武男の姿などは、かなりくどく感じますが(なくてもいい部分と思われ)、当時はどう受け止められていたのでしょう?

    「ああつらい!つらい!もう―もう婦人(おんな)なんぞに―生まれはしませんよ。―あああ!」
    死の間際の浪子のセリフは有名ですが、男だって決して自由ではなかった。
    武男だって浪子と別れるのは嫌だったけど、親に逆らうことは親不孝であり、別れた妻に会いに行くことは世間体の悪いことであり、それらの障害を武男は越えることができなかった。

    人生はままならない。
    だからこういう小説は時代を超えて読まれるのだろう。
    しかし最後の一文。これは、要りますか?

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