自然と人生 (岩波文庫)

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レビュー : 4
  • Amazon.co.jp ・本 (255ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784003101520

感想・レビュー・書評

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  • 「題して自然と人生と云ふも、他人の関係を科学的に論ずるにあらず、畢竟著者が眼に見耳に聞き心に感じ手に従って直写したる自然及び人生の写生帖の其幾葉を公にしたるものゝみ。」

    徳富蘆花自身がそう記したとおり、この本は、「自然」と「人生」についての“写生帖”です。
    1898年の元旦から大みそかまで1日も欠かさず、日々の自然を観察し、その見聞を書き続けた、その動機は国木田独歩が「自然の日記を書き続けたら面白いだろう」と勧めたから、らしい(そういや独歩の『武蔵野』もそういう趣の本だったなーとか思いつつ)、

    個人的感想
    すごく良かった…!!蘆花の本は『みみずのたはごと』も大好きなんだけどこの本はそれ以上に良かった。ところどころ漢文調で少し読みにくいところがあるかもしれないけれど、季節の微妙な移ろいや、一瞬にして変化してゆく雲・空・海・山・せせらぎ・大気・花の色等等・・・その描写を見事に、端的に、スマートに、描写している。
    漢文調のくどくなく、あっさりとした読み心地の中にも、著者の人間性人格がと顕れていて、ほのぼのさせるものがあった。

    この本を読んでいると、ささいであっても日々の自然の風景に、眼がゆくようになる。夏の涼を感じ冬の暖かさを感じるようになる。
    じつに『瑣夏の読料には尤も妙ならん』という表現が適切であろう。

  • 美しい島並に臨む不知火の海。徳冨蘆花の写生文学
    徳冨蘆花の代表作です。1990年8月に民友社から刊行されました。
    同年1月に同じく民友社から出版された「不如帰」に続くベストセラーです。
    僕が読んだのは岩波文庫版。1933年発行。巻末の「「自然と人生」岩波文庫版について」によると、
    原本は徳富家所蔵の初版本、同第三版。
    以後の版には全然據らなかった。全集版にも全然關わらなかった。
    俗字、略字、變體假名等も初版通りとした。
    と言うことです。

    灰燼 ~小説  
    西南戦争で旧薩摩藩士族側に加わった青年と、その一家の物語です。
    感想は「身内の仲が悪いのはよくないよね。」です。
    小説として比較的読みやすく、読み慣れることで、この後の散文に進むことができる工夫として親切だと思いました。

    自然に對する五分時 ~風景描写二九篇  
    本書を特徴付ける散文調の二九篇です。
    主に、蘆花が居を構えた神奈川県逗子からの相模灘、富士山や伊豆、箱根、大山を眺めた風景描写に加え、旅した群馬県の山道などを描写しています。
    冒頭の「一、此頃の富士の曙」で、夜明けと共に日光が富士の頂きに当たり始め、徐々に明るくなる色の移り変わりの描写に圧倒されます。
    趣が少し異なるのですが、僕は「一六、山百合」に感銘を受けました。
    人知れぬ山中に生い出でゝは獨り見る人もなき榮枯をなして憾みなく、山にありては山に咲き、園に移されては園に薫り、咲きて誇らず散りて恨まず、清く世を過ぎて永遠の春に入る。 思わず「僕もかくありたい。」と共鳴する美文です。

    寫生帖 ~日常生活にも視野を広げた描写十一篇  
    人の営みにも目を向けています。
    鉄道駅(プラットフォーム)の雑踏で兄弟喧嘩を始めた、いい歳をした二人を描写した「五、兄弟」は、ほほえましく読みました。
    本書で唯一蘆花の故郷(熊本県水俣)の描写がある「一〇、夏の輿」は、夏の暑い盛りが気持ちよく感じられました。島が点在する不知火の海をたらいで渡る地元の人、川を泳ぎながら割ったスイカを食べる子どもたち。集合住宅が建ち並ぶベットタウンで過ごすのとは異なる、いわゆる「田舎の夏休み」を思い起こす懐かしい一遍です。

    湘南雑筆 ~正月から大晦日まで、逗子での生活風景描写四十七篇  
    歳時記と言えば良いのでしょうか。
    「三二、海と合戦」は、台風に伴う大潮で、川を遡上し、押し寄せる波と、村人と一緒に防災対応する蘆花の活躍がたくましく感じられました。自らをワーテルローの戦いにおける英蘭軍のウェリントン元帥に見立てて、攻め寄せるナポレオン軍(押し寄せる大潮の海)、諦めかけた時に到着したプロイセン軍(満潮まで堪えきれないと諦めた時に一瞬晴れ間がのぞき蝉が鳴き出した)など、生々しい西南戦争ではなく、遠い外国の大規模戦闘に見立てているところが穏やか。

    風景畫家‥コロオ ~ジャン=パティスト・アミーユ・コローの伝記と、作品評価  
    リスペクトする芸術家をどのように描写すれば良いのか。お手本のような文章です。
    長年サラリーマンをしていると、学生の頃に思い描いた「活躍するには、能力」ではなく「性分の合うところ」で働くのが、生き生き、のびのびと活躍する秘訣だ、と思います。しかして、コローは如何にその豊かな能力を得て、風景画の新境地を見いだしたのか。後進に尊敬され、先生とあがめられたのか。
    僕は彼のようには生きられませんが、心持ちとしては、恒に意識し、見倣いたいと思いました。

    僕は合唱曲「みなまた」に引用された原作として、本書にたどり着きました。
    柴田南雄によるこの合唱曲は、徳冨蘆花の故郷熊本県の県民文化祭から委託されて作曲されたものです。
    「本来は、美しい海の風景が愛されているところ。」
    と、僕がこの合唱を聴いた時に指揮者が説明したように記憶しています。
    故郷の人たちの困難の救いになることができるなんて、作家冥利につきますよね。
    作曲を委託した当時の水俣は、とっくに除染が完了し、再び海や山の幸で全国の食卓を潤し、相変わらずの美しい風景を誇っていたので、困難な時期は過ぎていたわけですが、定着した公害のイメージから風評被害を受け続けていました。東日本大震災に伴う原発事故では、公害を克服したお手本として、たびたび水俣の取り組みが取り上げられましたが、そのみなもととなったのは、美しい自然と、その自然に育まれた人々の力強さだったのではないか。
    蘆花の目を通して力強く、美しく語られる自然と人の営みは、そんなたくましさと美しさを、自分の周囲にも再認識させる一冊でした。

  • 蘆花の美しさは異常。異界。夜に月がうつった井戸の水を「月光をのむ」というところ。

  • (1966.10.01読了)(1966.08.31購入)

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