武蔵野 (岩波文庫)

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  • Amazon.co.jp ・本 (278ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784003101919

作品紹介・あらすじ

初期の作品一八篇を収めた国木田独歩(一八七一‐一九〇八)自選の短篇集。ワーズワースに心酔した若き独歩が、郊外の落葉林や田畑をめぐる小道を散策して、その情景や出会った人々を描いた表題作「武蔵野」は、近代日本の自然文学の白眉である作者の代表作。

感想・レビュー・書評

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  • 国木田独歩の作品18作が収録されています。
    短編だらけで、長くても20ページ強、短いと2ページで終わるものもあります。
    国木田独歩というと自然主義文学の先駆者ですが、それは後年の作品からで、本書に収録されている作品は時期的に自然主義文学として書かれたものでは無いと思われます。
    とはいえ、情景描写で完結する作品も多く、描写力、表現力だけで勝負しているものが多数あり、その辺り、国木田独歩らしさを感じられる作品集と思います。
    本書収録作では、代表作である武蔵野と忘れえぬ人々、処女作である源叔父が有名作。各作品の短評としては以下の通りです。

    ・武蔵野 …
    氏の代表作の一つ。
    本作は小説ではなく、東京の郊外に広がる武蔵野と呼ばれる場所について書きまくった作品です。
    著者の考える武蔵野の定義、武蔵野の美しさ、個性、良さについて、とにかく推した内容になっています。
    氏の代表作評されるだけあり描写が優美です。今の武蔵野というと開発の限りが尽くされており面影を探すことすら難しいわけですが、かつてはこんな幻想的な場所があったのだと思いを当時に飛ばすことができます。
    国木田独歩はよほど武蔵野が好きだったんだなというのが正直な感想。
    当時の武蔵野の情景が伝わってくる作品でした。

    ・郊外 …
    郊外に住む人々の小話を認めた物。本書収録の作品群中では大変読みやすく、面白いです。
    基本的に落ちがなく、人々の会話を抜き出したように書かれているのですが、掛け合いが愉快で引き込まれます。
    個人的に、国木田独歩の隠れた名作と感じました。

    ・わかれ …
    文語で書かれた作品。
    読みづらかったですが、プロットはシンプルなため、理解しやすかったです。
    田舎から己が都合のため遠くへ行く青年と、彼と相愛の少女の話。

    ・置土産 …
    こちらも文語体です。
    わかりやすいし読みやすいのですが、短編過ぎてあっけない気がしました。
    登場人物が互いにどう想っているかが伝わりづらくて、結局どういう話だったのかが分かり兼ねました。

    ・源叔父 …
    小説としては氏の処女作。
    やはり文語体なため慣れないと読み辛いと思いますが、とても面白かったです。
    源叔父という川渡しを生業にしている翁と、乞食の少年の交流を描いた作品。
    17ページほどの短編ですが、源叔父の悲しみと少年の不可解ながらもどこか筋の通った行動によるすれ違いから生まれる虚しさを十二分に感じさせられました。

    ・星 …
    ページ数で言うと3ページほどの作品。
    小説というか、童話?端的にいうとよくわからない作品。
    詩人と星から来た謎の乙女が登場するのですが、最初期の作品の一つなためか、まとまっていない感があります。

    ・たき火 …
    4ページの文語作品。
    子どもたちが遊びで燻らせた火に、年老いた旅人が暖を取る話。まさにそれだけの話。
    本作に限らないのですが、この短い文章で著者が伝えたい事はあると思うのですが、読者にお任せしている感じがします。
    登場人物の考えなどは記述せず、ひたすら情景描写のみを提示する、本作のような作品が、国木田独歩らしいと思っています。

    ・おとずれ …
    文語作品、若干長くて20ページほどです。読みづらくて苦戦しました。
    話の筋も掴みづらく、結論として何が伝えたいのかもよくわからなかったというのが正直なところです。
    本作も長編というわけではないのですが、国木田独歩は数ページほどの作品のほうがいい作品が多い気がします。

    ・詩想 …
    2ページくらいの超短編で、さらに数行の話4作で構成されています。
    だからどうなの?という話しだらけで感想に困ります。故事や諺の成り立ちのような話なのですが、教訓も無く。

    ・忘れえぬ人々 …
    国木田独歩の代表作の一つ。本作が久々の口語でホッとしました。
    旅で出会った何故か心に止まった人々を上げてゆき、彼らに共通すると思うところを発表するという、まぁそんな話。
    筋だけ言ってしまうとつまらなそうですが、国木田独歩らしい文体で書かれると最もらしく読めます。
    でも、1行で説明できちゃう内容なんだよなー。面白いかというと、微妙です。

    ・まぼろし …
    本作も口語ですが、妙にわかりづらい作品でした。
    「絶望」と「かれ」という2作に分かれていて、それぞれ独立していますが、人がまぼろしのように消えるという同じテーマを取っています。
    ひょっとして本作で完結しておらず、何かしらの裏事情や、もしくは暗号めいた意味があるのではと勘ぐるほどに、筆者の思いが読み取れませんでした。
    個人的に本書中で2番めに苦手な作品です。

    ・鹿狩り …
    幼少期に行った鹿狩りの体験を綴ったもので、珍しく見せ場や落ちがあります。
    読みやすさもあり、楽しんで読めました。

    ・河霧 …
    他の自然主義、写実主義的な文学作品とは違い、如実な心理描写が見られる作品。
    救いの無さっぷりが酷いです。面白いのですが、もう少し長ければいいのにと思います。

    ・小春 …
    本書中一番苦手な作品です。日記に近い内容で、そこかしこで外国の詩歌から引用した洒落た文章が混じります。
    国木田独歩の研究者などであれば分かるのでしょうが、ただのブッキッシュでは作者の自己満足にしか映らず、20ページもないのですが、ページが進みませんでした。

    ・遺言 …
    戦時下に兵隊に届いたある手紙についての話。何とも言えない雰囲気の作品です。本作も4ページ強ほどしかないです。
    重い内容なのにベルトコンベア的にサクッと読み飛ばせてしまう文章量なのが残念に思いました。

    ・初孫 …
    子供が生まれて幸せな一家から届いた手紙の内容が書かれたもの。
    内容は単純に喜ばしい旨の内容が記述されているだけで、国木田独歩の情景描写の匠を読むものになります。

    ・初恋 …
    タイトルと内容が噛み合ってないように感じましたが、本作は自叙伝的であり、明確にモデルが実在する話だそうです。
    主人公と、近所の嫌われ者のジジイの話なので、ジジイに初恋する話かと勘違いしましたが、数行出てきた孫娘が恋愛相手だそうで、ただ、本書中にそんな甘酸っぱい記述は無かったように思われるので、裏話ありきの作品な気がします。
    恋愛要素は無い方が面白いと思ったのですが、どうでしょうか。

    ・糸くず …
    本作がラスト。まさに自然主義文学の巨匠モーパッサンの作品を国木田独歩が訳したものになります。
    自然主義的な内容でしたが、とても良かったです。他の作品と違い、きちんとプロットを立てて書かれている感じがしました。
    国木田独歩の翻訳も相俟ってのことではありますが、この時代の欧米文学のレベルの高さが感じられる内容でした。

  • 永井荷風が東京の散人ならば、
    国木田独歩は武蔵野の散人。

  • 正直、一番有名な表題作は単調で面白みに欠けた。文語体は読みづらいが、それが砕けてからの独歩の文章はとてもいい。「置土産」「源叔父」「鹿狩」が良かった。特に「小春」の、ワーズワースへの憧れは恋文を読むような心酔でわくわくした。

  • こういう関心、主題の持ち方があるのか!と、驚きと共感の混じった気持ちで読んだ。

    小説の主題となる人間の出来事や感情の動きは、ごくありふれたささやかなものが好んで選び取られている。その代わりのように、季節の移ろい、太陽や月、山や川、風や光や雨、音や匂いなどが主役のように精緻に書き取られ、人の営みや心情と密接に絡み合い、交響的な一つの詩の風景を成す。

    人でもなく自然でもなく、それらの出会うところに、本当の妙があるー表題作のエッセイ「武蔵野」にもそのような記述があるが、独歩の視距離にそれがよく表れていると思った。

    「武蔵野」の最後の3ページは、この気持ちが見事に凝縮された、すばらしい文章。誰かに勧めるならまずはここだけでも読んでみてもらいたい。ゾクゾクした。

  • 美しい文章と言うのでしょうかね。
    私には、言葉遣いのせいなのか、余裕が無いいなのか、文章を追うだけで一苦労でした。
    「忘れえぬ人々」からは俄然読みやすくなるのですが。
    十年後に再読しますかね。

  • ツルゲーネフっぽい。

  • 武蔵野という自然の魅力を、これでもか、これでもか、とぶつけてくる。自然に対する何やら尋常ではない愛着心を感じる。「そこまで言うなら、じゃあちょっと行ってみる?」って気持ちになっちゃうよね。行かないけど。

  • 18の短編には滑らかに読めないものもあったけれど、いつもの読書よりじっくりと咀嚼して味わったら、とても満ち足りた気分になった。口から入る食べ物と同じで、美しい言葉は心の栄養になるのかもしれない。

    『武蔵野』は、秋が深まりつつある今の時季に読むにはぴったりだった。きれいな風景に出会ったとき、デジカメで写すことに夢中になってしまいがちだ。自分の五感でしっかり捉え、脳裏に焼き付けるのを忘れていたのではないだろうか。この作品を読み、少なからず反省した。

    いくつかの悲しい恋の話の中で、印象に残ったのは『置土産』。自分の思いを伝えられないまま戦地に赴く男が、八幡宮の賽銭箱の上に置土産を残す。彼の不器用さが何とも愛おしく感じられた。

    今回、この本を手に取るきっかけだったのが『星』。燦めく詩情の内側に、入れ子のようにバーンズの詩集があって、詩人の枕元で女星と男星がそれを読むという構図が独特で、心底微笑ましかった。

  • 作者の名前と代表作の名前は知ってるけど内容は知らない作品のひとつ。表題作は独歩の目を通して移り行く武蔵野の自然美が描かれる。「まぼろし」が結構好き。春の陽射しの中で、公園のベンチに座ってゆっくりとページを捲りたい作品。2012/277

  • 明治30年頃の武蔵野といえば、今から100年前になります。東京近郊の自然にあふれた土地として描くその文章の美しさ、リズムの良さにうっとりとします。日本のワーズワースと言われる所以が納得です。最近ではなくなった文章です。今は調布市神代植物公園の近くに住んでおりますので、その自然と町の調和に素晴らしいと思うのですが、たった100年で失ったものの大きさに愕然とする想いです。『詩想』から:大空に漂う白雲の一つあり。童、丘にのぼり松の小かげに横たわりて、ひたすらこれをながめいたりしが、そのまま寝入りぬ。夢は楽しかりき。雲、童をのせて限りなき蒼空をかなたこなたに漂う意んののどけさ、童はしみじみうれしく思いぬ。童はいつしか地の上のことを忘れはてたり。めさめしときは秋の日西に傾きて丘の紅葉火のごとく輝き・・・

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