- Amazon.co.jp ・本 (250ページ)
- / ISBN・EAN: 9784003102121
感想・レビュー・書評
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解説:前田晁
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自然派文学作家としての地位を確固たるものとした氏の代表作の一つ「田舎教師」が収録されています。
私小説として有名な「蒲団」と比べると、「田舎教師」は自然派文学作品の意味するところである実験農場的な側面が強く、人間らしい理想を持ちながらもそれを成すことができぬまま終わるある田舎の教師の生き様を描いた作品になっています。
文章は読みやすいです。また、内容的には大人になったしまった方よりも、若い世代が読むべきと感じました。
夢は叶えるもの、だが叶わないときもある。結局、何も成し得ないまま終わる場合もある。
本作はそれを直視させてくれるとともに、若さに向けて語りかけてくる内容だと思います。
主人公は文士を目指しているが貧困のため進学できず、已む無く村の小学校の教師として赴任する青年です。
彼は友人たちが進学していく中で、焦りを感じながらも、いつかこの生活から抜け出すことを考えており、仲間と共に同人誌を出版し、その縁で小学校に近い寺の一室に下宿します。
同僚の教師なども斜に見ていたのですが、やがて友人とも疎遠になり、同人誌も四号で廃刊。文学への熱意も冷めてゆきます。
やがて自暴自棄になり、女遊びに明け暮れ、借金がかさんでゆく。
ラストは悲劇で終わりますが、惨めなままとはならないと思います。このあたりは読む人によって評価が変わるところかと思いますが、ただのバッドエンドではなく、借金がかさんだ後が本作のメインだと思います。
ネタバレになるので詳しく書きませんが、序盤の血気盛んな青年が、終盤ではまるでひとつの寂物のように描写されているようで、その変わり様にまた感慨深いものを感じました。
教師として奉職する場面はあり、キーワードではあるのですが、基本的には食うに困った若者が田舎に赴任して夢に敗れるさまを描いた、どちらかというとエグい作品です。
新潮文庫など、タイトルのイメージから教師の絵を表紙に描いていますが、二十四の瞳的なものをイメージするとギャップに驚くと思います。その点のみ留意が必要と思います。 -
文章がきれいなので読後感はいいのだけど、内容はかなりしょうもない話(笑)。それでも多くの人に今日まで支持されるのは、平凡な日本人の青年の心を、繊細に、愛情を込めて描いていて、それが現代の青年の心にも訴えるからなのでしょう。個人的には島崎藤村の作品の方が好き。
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なんともいえない結末…最初の希望に満ちていたときは情景描写などが色鮮やかにされていたが、清三が病気にかかってからは、なんだか色みが無く、灰色な感じがする、
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変えられない現実の中で平凡に暮らすことの難しさ。
この小説には何も救いがない。 -
9/3
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明治34年の春、文学青年の林清三は名声や成功に憧れを抱きながらも、鄙びた村の小学校教師となる。
ままならない現実の辛さに、やがて清三は真面目に生きる気力を無くしていく。
自然美の鮮やかさの中で、境遇への反発と従順に悶え苦しむ清三の心情が切々と描かれている。