- Amazon.co.jp ・本 (222ページ)
- / ISBN・EAN: 9784003102244
感想・レビュー・書評
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自然主義文学の第一人者として島崎藤村、田山花袋に並び称される徳田秋声の代表的な私小説作品「黴」が収録されています。
本作「黴」は徳田秋声が夏目漱石に推挙されて東京朝日新聞に連載し、その後注目されて文壇で成功をおさめる、徳田秋声の出世作と呼べる作品です。
私小説は露悪趣味の化身のようなもので、人がひた隠しに隠したい性癖、過ち、思想を赤裸々に表現し、真実の姿を描くことを目的としており、作家という氏素性の知れた方がよくもまぁ恥ずかしげもなくおっぴろげられるものだと読んでいて感心する内容となっていることが多いです。
本作もまさにそういった類の作品で、徳田秋声の権化である主人公は客観的に見て最低の人物として描かれています。
主人公は笹村という小説家の男です。
家事を頼んでいたお婆さんの孫「お銀」が出戻りし、なんとなしに笹村と関係する。
子供ができて籍を入れるも、笹村はお銀に理不尽な暴言を吐き、幾度も別れを口にするが、だらだらと流されるまま一緒にいるという話。
恩師が逝去し、二人目の子供ができ、お銀が体調を崩し、引っ越しを繰り返し、一人目の子供が重い病気になり、それなりに事件と呼べる出来事はあるのですが、どこか当事者である笹村は客観的で、淡々とした静かな作風となっています。
主人公は冷淡で、何事にも当事者意識の希薄な人間に描かれており、読んでいてお銀が可愛そうになることもあるのですが、一方で笹村が自分の中にもいるように感じます。
果たして手放しで批判できるのか、批判する資格があるのか、問われるような気がしました。
大事な人に関する出来事に対し、どこかで面倒臭さを覚える自分も確かにいる、本作はそこにスポットをあて強調して書かれた感じはあるのですが、自分の真の姿を見つめ直す上で、本作は自然主義文学として、私小説として成功した作品だと感じました。
笹村は好きになれない主人公ですが、憎むこともできなかったです。
なお、本作は口語で書かれていて、旧字体ですが読むのが難解というレベルではないです。
ただし、頻繁に場面が移り変わり、また淡々とした作品のためか、非常に読みにくく、何度も読み進めては挫折しを繰り返して、ようやく読み終えました。
これから繙く方はちょっと長期戦を覚悟したほうがいいと思います。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
場面があっちへこっちへ移るから、また旧字体で読みにくい。秋声らしい地味な作風が伝わってくる。
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話自体は、たいしたことはない。
なんとなくくっついて子をもうけたものの、それを世間になるべく隠そうとしながら喧嘩ばかりを繰り返し、しかし別れるまでには至らない引越しをよくする貧乏な夫婦についての、あれやこれやが書かれている。
もっとも気になったのは、徳田秋声の使うオノマトペが特徴的なこと。ちょっとあれは尋常じゃない。 -
7/3