破戒 (岩波文庫)

著者 : 島崎藤村
  • 岩波書店 (2002年10月16日発売)
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  • Amazon.co.jp ・本 (440ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784003102329

作品紹介

新しい思想を持ち、人間主義の教育によって不合理な社会を変えて行こうとする被差別部落出身の小学校教師瀬川丑松は、ついに父の戒めを破って自らの出自を告白する。丑松の烈しい苦悩を通して、藤村は四民平等は名目だけの明治文明に鋭く迫る。

破戒 (岩波文庫)の感想・レビュー・書評

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  • 被差別部落を出自に持つ瀬川丑松は、「たとえいかなる目を見ようと、決してそれは打ち明けるな」「隠せ」という父の戒を守り、師範校を卒業し小学教員となったが、同じく被差別部落出身の思想家猪子蓮太郎との出会い、厳格だった父の死、同僚の猜疑などから、ついに戒を破るという話。
    被差別部落、いわゆる穢多非人を題材とした話ですが、単純な「差別はいけない」という内容ではないです。
    社会問題を題材としていますが、作中にそのアンサーはなく、丑松はラストで自身が卑しい穢多であることを詫び、教師を辞職します。

    私自身出身が大阪のミナミ出身なため部落は大変身近な存在だったのですが、本作中の部落の人々の振舞には違和感を覚えました。
    それもそのはずで、調べたところ本作中の穢多は、仏教や神道を信奉してきた日本において忌み嫌われてきた鳥獣の血肉に携わる仕事、革製品であったり屠殺であったりを古くから生業としてきた人々で、限定された技術から保護されていた時代もあったが、いつの頃からか差別を受けてきたそうで、私の知る部落とは微妙にポジションが異なる様子です。
    もっとアウトローな話かと思ったのですが、そういうわけではなく、出自による謂れのない差別を受けている部落民の話でした。
    ただ、主人公は被差別部落の出身ですが、学問を立て、身分を隠しながらも教師という職について月給をいただいている身のため、作中に差別を受けながら生きる姿は無く、ただ戒を守りひた隠しに隠す話となっています。

    本作は日本の自然主義文学の走りというべき作品です。
    ある状況下に主人公を行動させてみてそれを写実する。自然科学的な考えから人間の思想が普遍的であるという証明を本作によって成そうとしたのですが、本作においては実はそれは失敗だったというのが、巻末解説の野間宏の言葉。
    本作が自然主義文学としてどうかという部分はさておき、本書の結末については人間のリアリティーを追求した結果として相違ないと私は思います。要するに、「人間は本質的に、周りが皆差別すると差別が当然と考える」と。
    不勉強ながらゾラもルソーも読んだことがないのですが、私的には自然主義文学としては本作のラストはまさに理にかなっているのではないかと思いました。

    文語体ではなくため、大変読みやすかったです。
    散々文語体を読んでいたので、言論一致体がこれほど読みやすいとはと感動しました。
    有名な作品なので、改版していくうちに修正が行われた結果ということもあるのでしょうが、今まで格闘してきた文語体の作品に比べると読みやすさは段違いでした。
    中学生くらいでも十分に読める内容だと思います。
    また、とても面白かったです。結構、長い作品なのですが、あっという間に読んでしまいました。
    単純に面白い小説が読みたいという人にもおすすめです。

  • 野間宏の解説にも書かれていたけれど、この作品は「差別」を淘汰しきれていない。煮え切らない怒りが残る作品。

  • 明治になっても差別は残っていた。
    長野の雪深い土地が舞台です。穢多であった主人公が素性を隠して生きてきたがひょんなことから噂が立ちました。でも、教えてきた教え子たちにはそんな事は関係ない。主人公は人柄が良い人だったのでしょう。

  • 穢多非人に対する日本内での人種差別の物語。日本には人種差別はもはや存在しないと考えたが、滅相もない。空気読むなど、周りの反応に合わせる日本人は実際見た目、内面が異なる人間を精神的に迫害することが今でも行われてるじゃないか!とハッと気付かされた。

  • 島崎藤村の『破戒』は明治39年(1906)刊行。

    士農工商の封建社会の身分制度が、「解放令」(1871)によって崩壊するかに見えた時代に書かれた作品で、自然主義文学の先駆と呼ばれる。しかし、この法令によってそれまでの身分社会が急速に変わることはなく、主人公の丑松をはじめとした苦しむ人々が登場する。結局、人の中に刷り込まれた差別意識は簡単に変わらない。
    自信が穢多であることを床に顔をつけて告白する丑松。彼が穢多であることと、彼自身の人物性との間に穢多であることがどう関係するというのか。事実、彼は学校では生徒から絶大な人望を寄せられている。銀之助、お志保など、彼の素性を知ってなお彼を支えようとする素晴らしい仲間に恵まれている。どこの生まれであるか、それだけで人物評価を下す、あまりに残酷な世の中にはぞっとさせられる。
    今日の社会はグローバル化を迎えた。どこの国の出身か、そのようなことで人を区別し判断する社会であっては、本当の自由で平等は社会の発展は望めない。

  • 全体を通して非常に肌寒い、どこかホラー小説のようなぞっとする寒さがあった。それは舞台が長野という豪雪地帯のせいもあるかもしれないが、丑松の心の寒さ、むなしさからくるように思えた。父からの戒めを守れば難なく生きていけるであろう。しかし、果たしてそれは本当に生きていると言えるのだろうか。この小説を一言であらわすなら葛藤であると思う。葛藤から解放されたとき、そこにあるのは地獄か天国か。はたまた別の葛藤か。

  • 旧字で書かれた古い文庫版で読みました。文章の美しさはさすが。内容も思ったよりずっと読みやすく、好きな西洋文学を読んでいる感覚でした。終盤の展開は、私はもっと悪い事態を予想していたので、救いのある展開にいくらか安堵しました。とはいえ、悲惨な話であることにかわりはありませんが…。

    この作品には、「差別の問題を取り上げているようでいて実は藤村自身の内面を描いているに過ぎない」という批判がある、という解説を読みましたが、「夜明け前」にも似たような批判があったような…。こうした批判の当否はともかく、社会の抱えた闇に切り込んでいこうとする藤村の姿勢には好感が持てました。

    差別の問題って根が深いですね。
    今も、この時代のようなあからさまな差別は減っているとは思いますが、無くなってはいないし、特定の出自の人間を差別する代わりに、いじめだったり、パワハラだったり、家庭内暴力だったり…。
    どうも人間は自分の属する社会において「自分より上の人間」「自分と同じ程度の人間」「自分より下の人間」を決めたがる傾向があるらしい。
    人間という社会的動物の闇の部分をまざまざと見せつけられたような気がして、何ともいえない気分になりました。
    一度は読んでおきたい名作だと思います。

  • これからは四民平等の時代ですよ、と言われても、差別が急になくなるわけじゃない。
    車が急に止まれないのと一緒で、世の中の人の考え方も急には変われないのだな、と感じた作品。
    主人公の心の葛藤と話の終盤にやりきれない気持ちになった。

  • 破戒 のように、タイトルから何がおこるのかが分かっていて、それに向かって今か今かと思いながら進む話は、独特に好きです。
    (タイトルからではないけれど、「春琴抄」や「金閣寺」のように何がおこるのかが有名で既に知っているものとか。)
    あとは松本清張「砂の器」を連想しました。(読んだことがある人には分かるとおもう)

    主題がとても興味深い。"破戒"の直前の気迫に満ちた雰囲気なども、とても良かったのですが、結末はすこし物足りなく感じた。
    島崎藤村、文章や雰囲気は嫌いじゃないのでまた他のものを読んでみたいです。

  • 自然主義文学の代表作。人間一人一人の言動がよく書けている。

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