夜明け前 第二部(上) (岩波文庫 緑 24-4)

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  • Amazon.co.jp ・本 (369ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784003102442

感想・レビュー・書評

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  • 第1部(上)(下)、第2部(上)(下)と、文庫本で4冊。久しぶりに長編を読み切った。幕末から明治維新にかけて、まだ夜が明ける前の暗い山深い木曽谷から見たこの国の変遷と憂慮を、馬籠宿本陣の青山半蔵と共にした。平田篤胤らの国学にのめり込み、古の世の再来を夢見るものの、街道の没落と明治新政府への失望から発狂。菩提寺に放火して座敷牢に閉じこめられ死に至る。そんな半蔵の生涯に立ち会った文庫本4冊分の数週間。後半は、正直つらかった。私には「父」と「片思い」の物語として読めた。「父」と「片思い」という、ふつうなら結びつきそうもない言葉が、違和感なくそこにある。「父」とは言うまでもなく、島崎藤村の父である主人公青山半蔵のことだが、それだけでなく、代々馬籠宿を守り続けた父祖たちのことでもあり、彼らの暮らしを治める領主や藩主であり、国父である天皇や将軍のことでもある。半蔵にとっては、国学の始祖・本居宣長、平田篤胤も父だったに違いない。家父長制度の下の父たちは、絶対的権威だ。イコール思想だ。そして、この時代は多くの若者が何ものかに恋焦がれた。何か大きなもの、強いもの、明るいものに。それが「父」と重なることがあっても不思議ではなかった。しかもその恋は報われない。一方的な「片思い」なのだ。この時代、そんなふうな大きなものに恋焦がれて狂っていった者は少なからずいたことだろうと思う。「発狂」という言葉は現代では使われないが、この時の半蔵の状態は、今で言えばどう表現される状態なのだろう。読了後、島崎藤村やその父島崎正樹について少し調べてみた。『夜明け前』で描かれている馬籠本陣の人の話はかなり事実に近いらしい。そして『夜明け前』の続編ともいえる『家』という小説があるらしいことも知った。『夜明け前』も旧家が没落していく暗い話だが、『家』は正樹の死後の、藤村も含めた息子娘たちの旧家の重圧に押し潰されるさらに悲惨な物語らしい。とても読む気にならない。旧家の旧弊に、見えない縄で身を縛られて、もがいている人が、今も身近にいる。島崎藤村については、自分のやった近親相姦事件を題材に小説を書いている人であるということがわかった。当時の自然主義文学では、小説の内容は事実そのままが理想であるという認識があり、作家の身の回りや体験を赤裸々に描く傾向があったということだ。また、近親相姦なども容認される時代背景もあったかもしれない。しかしこれを現代の視点で、特にフェミニズムの視点で読み直したら、藤村文学の評価はどのようにとらえられるものなのだろうか。ありのままに描く自然主義文学の性格上、後世の私たちにしてみれば記録文学の意味合いも持つ。それはそれでとても興味深いものがある。江戸や京都、土佐や長州といった歴史の表舞台となった土地ではなく、山の中の無名の人びとの歴史だ。馬籠、妻籠の街道宿は、以前訪れたことはあるが、本書を読んだ後なら、また見えるものが違ってくるだろう。

  • 島崎藤村の後年の長編小説・夜明け前二部作の第二部 上巻です。
    第一部ラストで大政奉還、王政復古が成り、これからの時代の到来に物思うところからの続きで、引き続き半蔵を中心に国家動乱のドラマが描き出される内容となっています。

    第一部は幕末から明治維新までがつらつらと書かれた、ほとんど歴史の教科書になっていました。
    所々で半蔵の生き方、半蔵の周囲の出来事も書かれるのですが、半蔵は歴史の表舞台で活躍した人物ではないです。
    書かれた文章のうち、体感では、というところもあるのですが、大部分はその時歴史はこう動いたという内容だったように思います。
    史実に基づいているため、激動の時代で活躍した実在の人物ももちろん登場するのですが、彼らが主役の小説という書き口にはなっていないです。
    歴史的事実を読むことで知る楽しみを得ることはできるのですが、小説としての楽しみには乏しかったように思えます。

    第二部に入った本作では、いよいよ王政復古し、半蔵が動き出すのか、と思いきや、第一部と変わらず歴史の記載に多くを割いていたのは残念に思いました。
    第二部 上巻は、黒船に乗って日本にやってきた外国人たちはどういった人々かという説明で始まり、その後、主に戊辰戦争に関連するあれこれが起こります。
    過去作同様、この頃の出来事について調べながら読み進めていたので、興味深い部分はありましたが、正直なところ眠気を誘われます。

    ただ、中盤、江戸開城がおきたあたりから徐々に半蔵の物語にシフトしてきたように感じました。
    参勤交代の廃止から、本陣問屋が廃止し、本陣も廃止となって、半蔵達一家は困惑します。
    そして文明開化で急速に西洋化を目指す政府の方針により、生活に根付いた暦を改められ、半蔵は彼の思い描いた王政復古と違うものとを感じます。
    二部上巻の終盤からは、それまでと違い"半蔵の"物語となっていて、ようやく小説として楽しめる作品になってきました。

    全体の4分の3まで読みましたが、ここから面白くなるところではと思いました。
    引き続き下巻も読んでいこうと思います。

  • 冒頭の1/4ほどは,外国公使たちが明治天皇に拝謁するまでを描く.戊辰戦争を経て,新政府により諸事が改定され,半蔵の家も本陣,庄屋を返上することとなる.半蔵は平田派の友人たちの奔走を羨ましく眺めるが,彼の純粋な気持ちは徐々に空回りして行っているように見える.この巻では半蔵の存在感が薄い.

  • 「なんか半蔵さんってズレてるんだよな~。」と思いながら読んでいたら、その認識はあながち間違っていなかったようで、この巻では彼の思い描く理想の新時代と民衆のリアルな反応とのギャップが書かれていた。まぁ、そうでしょうね。
    ということは、藤村はある程度半蔵を突き放して見ている?国学万歳人間の山宿の坊ちゃんを主人公にする意味がまだよくつかめない。藤村はこの作品で何を言いたいんだろう。

  • 王政復古と文明開化。時代背景を事細かに説明してくれて面白いが、小説の主人公はあまり登場しない。第二部の下巻に期待されるかな。

  • 維新期の地方の実情がよくわかる

  • 舞台はいよいよ御一新に。
    主人公の半蔵は、王政復古の趣旨を理解できない百姓達の行動へもどかしさを感じる一方、自らも急激な社会改革に戸惑う気持ちを隠せない。
    当時の人々は、「復古」と「文明開化」、この相反する概念をどのように捉えていったのか。旧習に囚われないことを「復古」で実現する、と定めたことが、日本独自の改革を実現できたひとつの理由ではないかと思った。

    物語の背景となる歴史上の出来事や、その考察についても紙面を多く割いており、新たな発見もある。

  • 湯河原などを舞台とした作品です。

  • 焦らしますね。
    その時代の様子が細かく書かれているので資料として読む分にはそれなりに楽しいけど小説として面白いかといわれると…いやところどころは面白いんですが…なんだか藤村の力入れてる抜いてるの波状グラフを見ているようだ。特にこの第二部上は時代背景の説明ばかりに追われているような。
    結局主人公が維新に関わる当時者じゃないから緊迫感とかもイマイチね。本人が自分も関わりたいって思っているだけで結局蚊帳の外だしなぁ。

    ここまで焦らしておいて最後までコイツ動かなかったらどうしてくれようかというところです。

  • 結局これは半蔵の一生とその時代ってことか? ところで昭和44年版を読んでいるのだが最後の頁の岩波文庫紹介欄の各書に謎の★がつけられている。評価かな? 二部下は四つでそれ以外は三つだったのと吉左衛門が死んで馬籠の枷もなくなったので下巻にやっぱり期待して読んでみる。

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著者プロフィール

1872年3月25日、筑摩県馬籠村(現岐阜県中津川市馬籠)に生まれる。本名島崎春樹(しまざきはるき)。生家は江戸時代、本陣、庄屋、問屋をかねた旧家。明治学院普通科卒業。卒業後「女学雑誌」に翻訳・エッセイを寄稿しはじめ、明治25年、北村透谷の評論「厭世詩家と女性」に感動し、翌年1月、雑誌「文学界」の創刊に参加。明治女学校、東北学院で教鞭をとるかたわら「文学界」で北村透谷らとともに浪漫派詩人として活躍。明治30年には第一詩集『若菜集』を刊行し、近代日本浪漫主義の代表詩人としてその文学的第一歩を踏み出した。『一葉舟』『夏草』と続刊。第四詩集『落梅集』を刊行。『千曲川旅情のうた』『椰子の実』『惜別のうた』などは一世紀を越えた今も歌い継がれている。詩人として出発した藤村は、徐々に散文に移行。明治38年に上京、翌年『破戒』を自費出版、筆一本の小説家に転身した。日本の自然主義文学を代表する作家となる。

「2023年 『女声合唱とピアノのための 銀の笛 みどりの月影』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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