夜明け前 第二部(下) (岩波文庫 緑 24-5)

著者 :
  • 岩波書店
3.49
  • (8)
  • (6)
  • (18)
  • (1)
  • (2)
本棚登録 : 142
感想 : 16
本ページはアフィリエイトプログラムによる収益を得ています
  • Amazon.co.jp ・本 (433ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784003102459

感想・レビュー・書評

並び替え
表示形式
表示件数
絞り込み
  • 全4冊、読みました。すごかった。ボリュームもだけど、人の世の悲しみとか理不尽さとか、その中で見つかるささやかな幸せと美しさが全部凝縮されていて感動。難解な箇所もあるので、じっくりと腰を落ち着けて読むべき。

  • 島崎藤村による長編小説・夜明け前。
    岩波文庫版では二部作の本作をそれぞれ上下巻に分けた全4冊で出しています。
    本書はその第二部下巻で、夜明け前の最終巻となります。

    第一部全編、二部上巻と、鎖国状態だった日本の浦賀にペリーが来航したことから始まる動乱の時代を描いてきました。
    馬籠宿本陣の十七代目当主・青山半蔵は、学問を好み、平田門人として国学に浸透してきたため、一部のラストで明治維新、王政復古と成ったころで、半蔵の期待もいやが上にも高まりだす。
    だが、急速に西洋化を目指す政府の方針により、生活が翻弄されてゆく中で、彼の思い描いていた王政復古とは異なるものを感じます。
    そんな半蔵の思いとは別に、時代は刻一刻と進んでいきます。
    半蔵の生活と、彼の生きる時代でおきた一大事件は密接に関連していますが、半蔵はその時代に生きる一庄屋の旦那に過ぎず、彼にとって明治維新とは不可変な大きな出来事です。
    半蔵は確かに、この小説の中心人物として書かれていますが、二部上巻の前半までにおいては、歴史的背景の記載に多くのページが割かれていて、小説というよりも歴史の教科書のような内容となっていました。
    詳しくは、一部上下巻、二部上巻の感想に書いたのですが、正直なところ読んでいて眠気を覚えました。

    ただ、二部上巻の中頃からようやく半蔵の物語にシフトしてきます。
    特に二部下巻の本作は、完全に半蔵が主役の小説で、ここにきてやっと面白くなってきたと思いました。
    ここに至るまでの出来事があってこその本書の内容となるのですが、これまでの内容は二部下巻のためにあったという感じすら受けました。
    それほど本書、二部下巻は小説として面白く、二部上巻までは読書に義務感じみたものを感じていたのですが、二部下巻からは楽しんで読むことができました。

    二部下巻では、それまであった歴史的背景の説明が少なく、半蔵を中心に書かれています。
    本陣問屋が廃止となったことで、逆に家族と一緒の時を過ごすことのできた半蔵は、周囲の人々のため国有化されていた山林を開放するよう訴えを起こす。
    いわゆる"山林事件"と呼ばれるその活動により、半蔵は戸長を罷免されてしまう。
    その後、半蔵は、学んできた国学を活かすべく教部省に出仕するも、半年ほどで辞職してしまう。
    そして半蔵は、憂国の和歌を書き記した扇を明治天皇の行幸に投げ入れ、その場で取り押さえられてしまう。

    旧家に生まれ学問を好み、家族にも周囲の人々からも慕われた彼が、発狂して獄中死することとなったのはなぜか、明治維新前後の日本にどういった思いを抱いていたのか、全ての考えが書かれているわけではなく推し測るところもあるのですが、本書を通して半蔵が思い描いた日本が伝わってきました。
    日本の近代文学の代表として掲げられるべき大作だと思います。

  • 読み切った!
    前半の幕末〜維新の激動の時代を超え,後半の明治時代に入ると半蔵の物語は徐々に失速してゆく.
    ピュアな半蔵の平田学派への傾倒が4冊を一貫して描かれているが,維新後数年が経過して平田学派が政府内での立場を徐々に失うと,幕末,維新を疾走してきた平蔵も迷走を始め,ついには悲劇的な結末に至る.
    タイトルが「夜明け前」というのは意味深だ.つまりタイトルは明らかに「維新の前」を指す.半蔵は維新に寄せた期待があまりに大きすぎ,現実と折り合いが付けられずに発狂してしまったのだ.

  • 半蔵さんって変な人だなぁ、とずっと思ってきたんです。読み始めから終わりまで、どうして藤村はこんなよくわからない人を主人公に小説を書いたのかなぁと。なんだか突拍子のないことが突然起こるし、しかもその理由が結局わからずじまいだったりとか小説らしくない部分もあり、「???」の連続ではあったがなんとか読み切った。そして解説を読み、納得。あんたの親父さんだったのかい。そりゃあ理解不能な部分があるわけだわ。晩年、徐々に気が狂っていく様子はとてもリアル。純粋な人だったんだと思う。
    全体的には歴史小説と私小説のあいのこのような、どこに視点を据えたらいいのかよくわからない読みにくい小説だった。でも木曽路には行ってみたい。新幹線や高速道路は便利だけど、山に穴をあけた直線移動はやはり味気ないと思うのだ。自分がのんびり屋だからかもしれないけど、徒歩のテンポが一番心地いい。街道を歩く旅、してみたいなぁ。

  • とにかく長いです。
    明治時代の歴史の流れを汲みつつ物語は展開する。半蔵はお酒を飲まないとついには寝れなくなってしまう。ついには生涯を終えてしまう。

  • 明治維新とは何だったのか考えさせられる

  • 王政復古とは、従来の封建制、身分制を否定するために、古にその範を求めようとしたもの。
    つまり、士農工商の身分制を否定し、天皇の下に平等であるとした。それは、まさに武士が生まれる前、中世前の日本の姿。
    廃仏運動についても然り、当時の体制否定。
    幸い、日本には古来のあるべき姿を学問として確立していた。

    しかし、実際は、古に戻るものではなく、近代化・西欧化に向けて、新たな価値観を生み出すためのエネルギーでしかなかった。
    歴史の流れを冷静に振り返ると、このような考察となるわけだが、実際にその世に生きていた個々人レベルの生き方に目を向けると、半蔵のように純で一途な人間にとっては、時代の急激な変化についていけず、もがき苦しんでいたのだろう。
    必ずしも半蔵だけでなく、多くの素直な人々が。

    また、本書は、このようなことが現代社会でも繰り返し起こっていることを思い知らせてくれた。

  • 湯河原などを舞台とした作品です。

  • そうなるのか。
    結局うーん、純粋なんだろうね半蔵さん。ただ残念ながら私にそんな純粋さがないからか理解も共感もできないけど。その純粋さを免罪符に中途半端な事ばっかりして家族に迷惑かけ通して最後には家族を恋しがると。都合よすぎじゃないか。
    事実に基づいてるから仕方ないんだろうけど、やっぱり物語としてはやることなすことものすごく中途半端。フラストレーションが溜まる。

    明治天皇は諸国御巡幸してたのかー。だから日野宿本陣にも泊まってたんだなるほどな。やっぱり山鉄さんが走り回ってるし。
    うん、歴史資料として読む分には面白かった。小説だからどこまで正確なのかは知らないけどね。

全16件中 1 - 10件を表示

著者プロフィール

1872年3月25日、筑摩県馬籠村(現岐阜県中津川市馬籠)に生まれる。本名島崎春樹(しまざきはるき)。生家は江戸時代、本陣、庄屋、問屋をかねた旧家。明治学院普通科卒業。卒業後「女学雑誌」に翻訳・エッセイを寄稿しはじめ、明治25年、北村透谷の評論「厭世詩家と女性」に感動し、翌年1月、雑誌「文学界」の創刊に参加。明治女学校、東北学院で教鞭をとるかたわら「文学界」で北村透谷らとともに浪漫派詩人として活躍。明治30年には第一詩集『若菜集』を刊行し、近代日本浪漫主義の代表詩人としてその文学的第一歩を踏み出した。『一葉舟』『夏草』と続刊。第四詩集『落梅集』を刊行。『千曲川旅情のうた』『椰子の実』『惜別のうた』などは一世紀を越えた今も歌い継がれている。詩人として出発した藤村は、徐々に散文に移行。明治38年に上京、翌年『破戒』を自費出版、筆一本の小説家に転身した。日本の自然主義文学を代表する作家となる。

「2023年 『女声合唱とピアノのための 銀の笛 みどりの月影』 で使われていた紹介文から引用しています。」

島崎藤村の作品

この本を読んでいる人は、こんな本も本棚に登録しています。

  • 話題の本に出会えて、蔵書管理を手軽にできる!ブクログのアプリ AppStoreからダウンロード GooglePlayで手に入れよう
ツイートする
×