岡本綺堂随筆集 (岩波文庫)

著者 :
制作 : 千葉 俊二 
  • 岩波書店
4.08
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本棚登録 : 65
レビュー : 7
  • Amazon.co.jp ・本 (387ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784003102633

作品紹介・あらすじ

『半七捕物帳』の岡本綺堂(1872‐1939)は、明治5年に東京・芝高輪に生まれた。父は元御家人で母は武家奉公をした町娘。時代は明治から大正。江戸の風情の残る東京の町と庶民の日常生活、旅の先々で出会った人々、自作の裏話-穏やかな人柄と豊かな学殖を思わせる、情感あふれる随筆集。著者はいい時代に生まれたらしい。

感想・レビュー・書評

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  • 大きく世の中のルールが変わってしまった激動の時代、幕末から明治にかけての世の中がとても気になるこの頃。

    明治5年生まれの著者は「半七捕物帳」で知られるけれども、もともとが徳川家の御家人の家の出であり、その端境期の記憶を持っているのでは?という期待もあり、随筆集を読んでみる。

    明治30年代以降の随筆が集められ、期待(?)していたような混乱や大きな戸惑いもない(そりゃそうか、30年もたっているんだものな)
    けれども、そこかしこに江戸時代の名残、暗がりが描写されています。関東大震災の体験も書かれておりますが、さばさばとして、あまり悲壮感をもって描かれていないところを見ると、これはかなりマスクされている、もしくは動じない肝を持っているんだなと思ってしまいます。「5分間」という作品で株式仲介店の描写にも現れていてます。慌しい仲介店内を見て満州従軍時を回想するシーンがあります。同じ混乱と混雑の中にあっても、戦場では皆死を覚悟しているため規律と冷静さがあるのに対して、この町の人々には規律もなく生きるための動揺があるのみで、それは戦場をも上回っていると感想を漏らすのです。やはり肝が違うのかもしれない。

    そんな胆力ばかりではなく、やはり最大の魅力は言葉の選び方にあるのではないでしょうか。いままで触れたことのない感触の表現を使って描写される、明治中期以降の日本の姿は、地続きではあるけれども異次元の世界のようです。

    静かな温泉場で読みたい一冊。

  • 温泉旅行に持っていき、読み終わらなかった分は毎晩寝る前に読んだ。そういう場面にとてもよい本。気持ちが落ち着いてやさしくなる。河出文庫の『江戸っ子の身の上』『江戸の思い出』と内容が重複するけれど、重なって収録されている随筆はもちろん代表的なものなので、二度目も楽しく読んだ。

    岩波文庫が河出文庫と違うのは、江戸・明治の世の中や、それに対する綺堂の心情より、綺堂本人の人物が伝わってくる感じがするところ。古い時代に関心があって綺堂を読みたい人には、河出文庫を先にお勧めしたい。

  • 『半七捕物帳』の岡本綺堂(1872-1939)は,明治5年に東京芝高輪に生まれた.父は元御家人,母は武家奉公をした町娘.時代は明治から大正.東京の町の風景と庶民の日常生活,旅の先々で会った人々,自作の裏話──穏やかな人柄と豊かな知識を思わせる情感溢れる随筆集.著者は幸せな時代に生まれたようだ.

  • 「半七捕物帳」の作者、岡本綺堂(1872-1939)が、明治34年(1901年)~昭和13年(1938年)に綴った随筆です。

    明治後期は、江戸時代を知る人と知らない人が入り混じる時代、町並みも徐々に江戸情緒が失われつつあったようです。
    そして、大正末期(12年=1923年)には関東大震災という未曾有の体験をしました。
    明治後期~大正~昭和初期の東京の生活感を知ることができます。

    「温泉雑記」では、江戸時代には往復1週間ほどかけていた箱根行きが、東海道線ができ、小田原電鉄ができ、登山電車ができ、大正半ば以降は日帰りも可能となってせわしくなったと嘆いています。
    往復に1週間かけて1泊、なんて旅は、ばからしいですから。

    懐かしいなんて感覚すら持っていない、未体験の昔の生活感を垣間見ることができます。

  • 『今日もまた無数の小猫の毛を吹いたような細かい雨が、磯部の若葉を音もなしに湿らしている。家々の湯の烟も低く迷っている。疲れた人のような五月の空は、時々に薄く目をあいて夏らしい光を微かに洩らすかと思うとまたすぐに睡むそうにどんよりと暗くなる。』

    言葉の選び方、文章の切り方、感じの使い方、どこをとっても完璧な文章で、すっきりしてるのに柔らかくて温かい。気持ちを乾かさないためにも、こういう美文を読まないと!本は内容も大切だけれど、文体や装丁も大事。ときにはそれが内容を上回ることだってあるのさ♪

  • 「半七捕物帳」を読みながら、この人はエッセイが面白いのでは?と思ったらどんぴしゃり。繰り返し読み返したい随筆集。買おう。

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著者プロフィール

一八七二年(明治五)東京生まれ。本名は敬二。元御家人で英国公使館書記の息子として育ち、「東京日日新聞」の見習記者となる。その後さまざまな新聞の劇評を書き、戯曲を執筆。大正時代に入り劇作と著作に専念するようになり、名実ともに新歌舞伎の作者として認められるようになる。一九一七年(大正六)より「文藝倶楽部」に連載を開始した「半七捕物帳」が、江戸情緒あふれる探偵物として大衆の人気を博した。代表作に戯曲『修禅寺物語』『鳥辺山心中』『番町皿屋敷』、小説『三浦老人昔話』『青蛙堂鬼談』『半七捕物帳』など多数。一九三九年(昭和十四)逝去。

「2018年 『異妖新篇 岡本綺堂読物集六』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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