高野聖・眉かくしの霊 (岩波文庫)

著者 :
  • 岩波書店
3.72
  • (74)
  • (94)
  • (137)
  • (10)
  • (2)
本棚登録 : 975
感想 : 105
本ページはアフィリエイトプログラムによる収益を得ています
  • Amazon.co.jp ・本 (153ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784003102718

作品紹介・あらすじ

北陸敦賀の旅の夜、道連れの高野の旅僧が語りだしたのは、飛騨深山中で僧が経験した怪異陰惨な物語だった。自由奔放な幻想の中に唯美ロマンの極致をみごとに描きだした鏡花の最高傑作『高野聖』に、怪談的詩境を織りこんだ名品『眉かくしの霊』をそえておくる。

感想・レビュー・書評

並び替え
表示形式
表示件数
絞り込み
  • 高野聖:1900年(明治33年)。
    前置きなく始まる語りで、のっけから物語に引き込まれる。蛭で生理的嫌悪感を煽られた後、謎めいた美女が登場し、あやしの世界に誘うかと思いきや、意外にも美しい展開に陶然とさせられる。最後は型どおり美女の正体が暴かれるのだが、これが恐怖というより、どこか猥雑でユーモラス。これらの場面転換が少しも不自然でなく、リズミカルな文体と相まって、独自の世界を生み出している。

  • 高野聖

    ヘビや蛭の生々しさ、おどろおどろしくも、人間が踏み入れることのない幻想的な世界を感じる。

    水浴びのシーンがなんとも艶やか。
    水の源となっている滝の存在も神秘的。

    2021年8月18日

  • 素晴らしい。語り部を通した口述式の物語から、理解や整理の存在しない、鼓動する生の空間がありありと感じられる。そしてそれが、山深い世界の空間体験になんともピッタリなのだ。山道の長さが、体調や心境とごたまぜになった一つの困難としてしか測れないその感じなんか、もう大好物だ。こういう視点でなきゃ、蛭の群れに死を覚悟するようなリアリティはなかなか得られないだろう。

    そして、ひとり孤独に命からがらの旅をした後に女と出会う。その美しさ、この死と性のバランスは、もはや黄金律に乗っている(女性読者にはどうなんだろ)。

    女との関わりといい、怪異譚といってもリアリティとの境界ギリギリの綱渡りで、近代の作品としてそのさじ加減がうまい。美、欲望、恐怖、全てはドロドロと揺らめいて、一夜の夢のように去る。

    そうして最後、煩悩の誘惑を逃れた僧が、白を背景に昇っていくシーンの凛とした爽やかさが締める。完璧な絵画のようだ。美しいとしかいいようがない。

    • clloudthickさん
      >紅茶さん
      そうですか、それはホッとします。実は、紅茶さんのレビューを読んで興味を持ちました。いやー、よかったです。ありがとうございました。
      >紅茶さん
      そうですか、それはホッとします。実は、紅茶さんのレビューを読んで興味を持ちました。いやー、よかったです。ありがとうございました。
      2012/07/14
    • 佐藤史緒さん
      こちらこそありがとうございますm(_ _)m 私もclloudthickさんのレヴューはよく参考にさせてもらってます(特に日本思想系)。
      ...
      こちらこそありがとうございますm(_ _)m 私もclloudthickさんのレヴューはよく参考にさせてもらってます(特に日本思想系)。
      鏡花に話を戻すと、私は歌行灯や春昼も好きです。気分が乗ったらお試し下さい。
      2012/07/15
    • clloudthickさん
      紅茶さん
      お恥ずかしいですが、ありがとうございます。

       >歌行灯や春昼
       ありがとうございます、覚えておきます。
       遅かれ早かれ手に取るこ...
      紅茶さん
      お恥ずかしいですが、ありがとうございます。

       >歌行灯や春昼
       ありがとうございます、覚えておきます。
       遅かれ早かれ手に取ることになりそうです(笑
      2012/07/15
  • 高野聖ってこんなに怪しく美しい話だったか…

    読んだことがなかったので、硬くてつまらん話かと思っていた…

    全体にまとわりつく雰囲気が素敵。

    ただ、この時代の文章を読み慣れていないので慣れるのに少し時間がかかった。

  • 美文ってだけで読める本がこの世にはあるんですよ奥さん。

    列車で一緒になったお坊さんが若いころの怪奇体験を語る話。話自体はそんなにでもないんだけど文章の節々からにじみ出る「美しい日本語エッセンス」的な何かに圧倒されるというか、読んでるうちに泉鏡花文体中毒患者になっていくというかそんな感じ。

    あと眉隠し霊もそうだが泉鏡花の書く女幽霊はたおやかで艶っぽくてたまらん。俺は萌えているのか。

  • 初めて読んだ鏡花文学。大学の授業でこれを買うように指示されたから、という理由で読むことになったけれど、すばらしかった。「高野聖」、「眉かくしの霊」、どっちも不思議な感じがする。読んでみなくては分からない感じ。私の文学の先生が、鏡花は人間じゃなくて、妖精か何かじゃないか、と半ば本気で言っていた。

  • 高野聖は二回目、眉かくしの霊は初めての読了。
    真夏の暑いときにおすすめ。
    少し背がゾッとするような、それでいて美しいという。

  • 泉鏡花の代表作である高野聖を読みたくて購入。
    尾崎紅葉の門下らしく、読みやすくて分かりやすく、引き込まれる文章でした。
    このころの文学に慣れていないと難しく感じるかもしれませんが、本作以前に出版された作家の代表作と比較するとかなり読みやすい方だと思います。

    本書収録の作品は2作とも怪異を題材とした、泉鏡花らしい作品です。
    特に高野聖は泉鏡花を知るに相応しい、まさに代表作と呼ばれるに値する作品で、氏の作品の入り口にはとても良いと思います。

    泉鏡花は尾崎紅葉の門下の一人、神経質で潔癖症な作家で、中国の怪奇物や上田秋成に影響を受けて、怪異小説を多く書きました。
    高野聖にはそんな泉鏡花らしさが詰め込まれており、尾崎紅葉の洒脱した文章、蛇やヒルなどに対する恐怖、美女の妖怪が登場し、想像力の掻き立てられる、読んでいて

    世界に没頭できる作品となっています。蒸し暑い夏の夜にはおすすめです。

    本書収録作は下記の2編。

    ・高野聖 …
    泉鏡花の代表作。
    若狭への帰省中、ひょんな縁から同行することになった高野山の僧が、宿で就寝前に語ってくれた怪奇譚で、宗朝というその僧が語り部となって物語が綴られる形となっています。
    宗朝の若い頃、松本へ向かう飛騨の峠で、先を追い越した富山の薬売りが危険な道に行ったことを知り、後を追ってその道を進む。
    様々な恐ろしい目に会いながら、道を往くと、馬の嘶きが聞こえる。
    その方向へ向かうと、妖しい美女と亭主だという白痴の少年が住む家にたどり着く、という話。
    山道の怖ろしさ、気味の悪さと、美女の艶めかしさの描写が秀逸で、夢中になって読みました。おすすめです。

    ・眉かくしの霊 …
    タイトルの通り、懐紙で眉を隠した霊が出てくる話。
    作中に出てくる鶫料理がとても美味しそうで、一度食べてみたいと思いましたが、今は禁鳥となっていて食べられないそうです。残念。
    ユーモラスな導入と中盤以降の不気味さ、過去に起きた悲しい事件の対比が素敵な作品です。
    ただ、読み終わってからも、結局、眉かくしの霊とは何だったのか、正体や目的が明かされているようでわからないです。
    本書の巻末の解説には、“「眉かくしの霊」は勿論独立した作品だが、筋の上では「彩色人情本」の続篇”と書いてあるので、「彩色人情本」をそのうち読みたいと思いました。

  • ついに鏡花を読む、その名も高き高野聖を。なぜか肌に合わぬと思い込み、食わず嫌いでいたことが悔やまれる。古めかしい文体に戸惑うも束の間、すぐにあやかしの桃源郷に迷い込み囚われの身に。異形のものがわらわらとはためく深山中に忽然とあらわるる艶めく美女。残忍さと慈愛とが入り交じり、鬼女にも聖母にも変化するエロティシズムは鏡花の紡ぎ出す日本語の美しさと交感し、忘我の境地へと導く。旅僧が全てを捨ててでも女のもとに戻りたいと思うのも無理はない。俗世的なユーモアもあり、なんとオチも用意されている。これは嵌りそう。参った。

  • 愛嬌と人情味にあふれる坊さんが若かりし頃に遭遇した不思議な体験「高野聖」、膝栗毛にちなみ気まぐれで泊まった旅籠屋での怪現象を描いた「眉かくしの霊」の2篇。

    文の区切り方が特徴的なので読みづらかったが、畳みかけるような描写力が鮮やかに魔境を浮かび上がらせていて、没頭してしまった。

    冒頭「やあ、人参と干瓢ばかりだ」と叫ぶ坊さんのおかげで、意外に面白い話なのかもしれないとにこにこしながら読み始め、蛭が降ってくる森のあたりでぐったりさせられる素敵な読書体験。
    通俗的な描写を挿みつつもじわじわ霊妙な雰囲気を感じさせてくる 。

    「高野聖」について。
    疫病のおそれを気にかけて水を飲むのを躊躇する臆病さ、気に食わない男だからこそ見捨てたら後味がわるいという情け深さ等、坊さんの姿はとことん「憎めない人」として主観的に描かれている…という解説に成程なあと思った。
    一転、白痴の男の描写は薄気味悪く、清らかで朗らかな女のあわれな美しさを引き立てている。
    最終的にその美しさの裏の魔性が明らかになるわけだけど、それが決して彼女の格を落とさないところがまた耽美だなと思う。

    「眉かくしの霊」について。
    「…似合ひますか。」の恐怖がとにかく記憶に残る。しばらくお風呂に入るのが嫌になりそうだ。馥郁とした香りが漂ってきたりしたら要注意である。
    料理番がなにやら怪しいな、などと思いながら読んでいたのに、見当違いだった。脇についていく提灯の灯りのことを、後で思い返してみても恐すぎる。
    ”桔梗の池”の妙なる女が何物だったのか明かにされなかったのも不気味。
    彼女に近づこうとした結果、お艶さんは鬼に見間違われるという皮肉な顛末を迎えたわけだけど、ある意味”桔梗の池”の話を聞いた時点で彼女は魔に魅入られていたのかもしれないとも思える。
    唇から糸のように血を垂らした女の「凄さ」は、読んでいてゾクッとくる。

全105件中 1 - 10件を表示

著者プロフィール

1873(明治6)年〜1939(昭和14)年)、小説家。石川県金沢市下新町出身。
15歳のとき、尾崎紅葉『二人比丘尼色懺悔』に衝撃を受け、17歳で師事。
1893年、京都日出新聞にてデビュー作『冠弥左衛門』を連載。
1894年、父が逝去したことで経済的援助がなくなり、文筆一本で生計を立てる決意をし、『予備兵』『義血侠血』などを執筆。1895年に『夜行巡査』と『外科室』を発表。
脚気を患いながらも精力的に執筆を続け、小説『高野聖』(1900年)、『草迷宮』(1908年)、『由縁の女』(1919年)や戯曲『夜叉ヶ池』(1913年)、『天守物語』(1917年)など、数々の名作を残す。1939年9月、癌性肺腫瘍のため逝去。

「2023年 『処方秘箋  泉 鏡花 幻妖美譚傑作集』 で使われていた紹介文から引用しています。」

泉鏡花の作品

  • 話題の本に出会えて、蔵書管理を手軽にできる!ブクログのアプリ AppStoreからダウンロード GooglePlayで手に入れよう
ツイートする
×