夜叉ケ池・天守物語 (岩波文庫 緑 27-3)

著者 :
  • 岩波書店
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  • Amazon.co.jp ・本 (140ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784003102732

作品紹介・あらすじ

その昔竜神が封じこめられた夜叉ケ池。萩原はただ一人、その言伝えを守り日に三度の鐘撞きを続けるが…。幻想と現実が巧みに溶けあわされた『夜叉ケ池』。播州姫路城の天守にすむという妖精夫人富姫の伝説に取材して卓抜なイメージを展開させた『天守物語』。近年新たな脚光をあびる鏡花(1873‐1939)の傑作戯曲2篇。

感想・レビュー・書評

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  • 「夜叉ヶ池」は、諸国の物語を聞こうと北国に行った男が、とある理由でその里を離れられなくなり、ミイラ取りがミイラになるように、物語の一部になってしまう話。
    「天守物語」は姫路城の五重塔の最上階に住みつく魔物たちのもとへ、人間の男がひょっこりやってきてしまう話。

    泉鏡花は、醜い人間界と美しい妖怪界を対比させるように描く。人間の中でも、選ばれた心の清い人間だけが、妖怪と心を通じ合わせることができる。

    魑魅魍魎がうごめく世界というのは、どこかに、確かにあるのだろう。そこはわたしたちが想像するようなおどろおどろしい世界ではなく、むしろ心が清らかなゆえに俗世では生きづらい者たちの、溜まり場として存在するのではないかと思わせるような描かれ方だった。

  • 天守物語は、姫路の白鷺城天守閣に住む妖精富姫様と鷹匠の道ならぬ恋ですが、なかなか面白かったです。今の姫路城にも獅子頭が展示してある理由もわかりました。
    夜叉ケ池も天守物語も戯曲で短編でしたので、界に入り込めないとイメージがつかみにくく、なれるまで少しずつかかりますかね。

  • 泉鏡花の作品に触れるのは初めてでした。
    現代の文章に慣れてしまい、古い作品ならではの文章に難しさを感じながらも、幻想的な世界観に浸ることができました。
    夜叉ヶ池は、ほとんどが登場人物達のセリフで話が進んでいくところが斬新でした。
    人間世界と、この世ならぬ者の関わりを描いている過程には、湖や池などの水辺が異世界への入口になっていることが多く、現代でもタイムスリップ物などは作中で水が関係していることが多いので、古くから人の中に受け継がれる表現なのではないかと考えさせられました。

  • 泉鏡花の戯曲は読んだことがなかったのですが、うん、読んで良かった。今は亡き澁澤龍彦の解説もいい。

  • 『夜叉ヶ池』雪なす羅、水色の地に紅の焔を染めたる襲衣、黒漆に銀泥、鱗の帯、下締なし、裳をすらりと、黒髪長く、丈に余る。銀の靴をはき、帯腰に玉のごとく光輝く鉄杖をはさみ持てり。両手にひろげし玉章を颯と繰落して、地摺に取る。
    文体の美しさもさることながら、人間の浅ましさを描くこの作品は泉鏡花の有体でない才能を感じさせる。
    白雪の心理描写は、恋が清濁併せ持つことを具現しているように思った。
    残忍さすらも彼が描けば美しい悲劇として映し出される不思議。

    旧い人はどのようにして戯曲を読み、舞台を見て、作品を感じたのだろう。同じ場面で息をのみ、焦がれたのか。そうとまで考えさせる、妖しく艶やかに心に残る作品。

  • 夜叉ヶ池;1903年(大正2年)、天守物語;1916年(大正15年)。
    貞操を守るため魔性に変じた女達の、愛する者への一途さに心惹かれる。人界で虐げられた者達が、魔界でカタルシスを得るパラドックス。巻末の解説(渋澤龍彦氏による)で詳しく分析されている。

    • 猫丸(nyancomaru)さん
      鏡花と言えば、私の中では、この2作かな、、、
      4月には「新版 天守物語」舞台上演がありますが、、、お金が無いのでパス。。。
      鏡花と言えば、私の中では、この2作かな、、、
      4月には「新版 天守物語」舞台上演がありますが、、、お金が無いのでパス。。。
      2014/03/27
    • 佐藤史緒さん
      私は春昼や歌行灯が好きなんですが、これも凄く好きです。
      舞台あるんですね、いいなぁ。私もお金ないからダメですが(´・_・`)
      私は春昼や歌行灯が好きなんですが、これも凄く好きです。
      舞台あるんですね、いいなぁ。私もお金ないからダメですが(´・_・`)
      2014/03/28
  • 先日観に行った舞台が「夜叉ヶ池」を下敷きにつくられたということで初めて泉鏡花作品を手に取りました。
    なるほど確かに大筋はこれだなと。

    人外・ファンタジー系統が好きなのでどちらの作品もサクサク読み進められました。
    泉鏡花の文体に慣れればより深く理解できそうです。

  • 私にとって初めての泉鏡花作品だったが、その世界観に引き込まれざるを得なかった。

    本書は戯曲集で、かつ古文めいた文体(時代的に仕方ないが)なので、現代人には読みにくい文章だ。しかし、それがなんとも心地よい。知らない単語や言い回しを都度調べ、空想を巡らせながら読む至福の時間だった。

    物語の妖怪と人間の対立という幻想的な内容と相まって、この本の妖惑に感服させられた。

    恒川光太郎の世界観が好きな方には強く薦めたい。

  • 幻想的な、とか幽艷と評されることが多い泉鏡花の戯作。確かにそのとおり。主人公は双方とも女性のモノノケだが、モノノケというには美しすぎる女性たちが、愛する者のために思い悩む物語。そのストーリーがまた美しい。昔から日本人は、見えない不思議なものに対して良い意味での幻想的なイメージを持っていると思うが、まさにそういったイメージを描ききっているような。読み終わったときに、何となく現実世界に戻りたくなくなる、そんな感覚になる作品。現実を忘れたいときは、ぜひ。

  • ネームバリューだけで選んだ私が悪いんだけど、戯曲だと知らなくて吃驚。つい最近オンディーヌで戯曲デビューしたばかりだったので、日本の戯曲、、、大丈夫か、、、?と戦々恐々しながら読み進めたが、日本らしい粋な言葉遣いと、色彩豊かで能動的な場面々々に大いに楽しませてもらった。

    特に天守物語は秀逸。舞台場面として天守の第五層を固定しつつ、登場人物の仕草や目線で下層空間を想像させる仕掛けは見事、面白いと思う。なにより、冒頭にて侍女たちが、白露を餌に五色の絹糸で秋草を釣る場面、想像するだに艶やかで美しく、まるで絵巻物を見ているよう。素晴らしい、これが泉鏡花らしさなのかと思わされる一場面だった。

    ストーリー的には特に目新しいものは感じなかったが、あれだけ超常的に描かれている白雪や天守夫人が、元は人間達の欲や我が身可愛さによって、不幸に身をやつし死んでいった人間の女である、という設定に悲哀を感じた。醜い人間社会から外れた、もしくは選ばれた、純真で無垢な人間が、"人間を辞めなければ"幸せにはなれない構造にも同じような悲哀を感じる。

    夏目漱石で身に沁みた筈なのに、「全集」じゃなくて文庫本を選んだものだから、注釈が全くなくて読むのに苦労した、、、(こんなに短いのに!)。本とスマホを行き来するのは辛いから次は絶対に全集にしろ、ということを未来の自分への戒めとしてここに。

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著者プロフィール

1873(明治6)年〜1939(昭和14)年)、小説家。石川県金沢市下新町出身。
15歳のとき、尾崎紅葉『二人比丘尼色懺悔』に衝撃を受け、17歳で師事。
1893年、京都日出新聞にてデビュー作『冠弥左衛門』を連載。
1894年、父が逝去したことで経済的援助がなくなり、文筆一本で生計を立てる決意をし、『予備兵』『義血侠血』などを執筆。1895年に『夜行巡査』と『外科室』を発表。
脚気を患いながらも精力的に執筆を続け、小説『高野聖』(1900年)、『草迷宮』(1908年)、『由縁の女』(1919年)や戯曲『夜叉ヶ池』(1913年)、『天守物語』(1917年)など、数々の名作を残す。1939年9月、癌性肺腫瘍のため逝去。

「2023年 『処方秘箋  泉 鏡花 幻妖美譚傑作集』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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