宣言 (岩波文庫)

  • 岩波書店 (1934年7月30日発売)
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Amazon.co.jp ・本 / ISBN・EAN: 9784003103630

感想・レビュー・書評

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  • 読後、満足の中に釈然としないものが混じる。

    書簡形式で物語を作るのは、大変なことだと思うし、それぞれの手紙の長さや往来の不平均な所もリアリティもあり、中でも心理描写は最も優れている。言葉の底に沈む真実を、時間の経過とともに浮揚させる技量は卓越している。

    しかし、巧みであるが故に展開が読めてしまう。そして、タイトルでもあるその「宣言」が人間としての叫びのレベルに感じられなかった。

    時代が違うといえばそれまでだが、この時代だからこその咆哮があるだろうとやはり思う。
    だから、Yの告白とBの宣言に「やっぱその展開かぁ」と食傷するのである。

  • 白樺派同人による書簡体小説としての特徴が如実に出ている作品。現代人の感覚で言えば、AやBほど高潔な人がどれだけいるだろう、また、y子ほどの正直さがどれほど評価されるだろう。しかしそれを良しと宣言する力強さが胸を熱くさせるものでもある。

  • 有島武郎著『宣言 改版(岩波文庫)』(岩波書店)
    1934.7発行
    1968.7改版発行

    2020.9.26読了
     青年Aも青年Bも将来を嘱望されたエリート学生。しかし、青年Aは父の死去をきっかけに学業を続けられなくなり、仙台の実家に都落ちする。青年Bも肺結核を患い、学業を離れて久しい。時々青年Aに金を無心している有様だ。青年Aは青年Bに恋の悩みについて相談していたところ、その思い人が実は青年Bの知り合いだったことが判明し、いわば青年Bが恋のキューピット役を演じて、青年Aとその思い人Y子は婚約を交わす。しかし、その頃すでに青年Aの父は病床に臥せっていたため、わずか一週間の結婚生活で二人は別離を余儀なくされる。Y子は東京の実家に帰ることになるが、鄙陋な継母の支配下に置かれることを心配した青年Aが、その監視役として青年BをY子の実家に寄宿させる。青年Bも金に困っていたから、青年Aの提案に乗る。こうして青年Aの妻Y子(結婚式を済ましているのだから妻という呼び名がふさわしいだろう)と媒酌人の青年Bが同じ屋根の下で暮らすことになる。
     この辺りの展開は、特に青年BがY子と面識があるというのは、いかにもご都合主義くさい。しかも、親友を妻の家に寄寓させるというのは、狼の前に兎を置いて「待て」をするようなものだろう。それとも、明治大正の常識ではあながち非常識なことではなかったのだろうか。
     親友同士で一人の女性を取り合うというテーマは夏目漱石著「こころ」を髣髴とさせるが、「宣言」は性交渉はないとは言え結婚式を済ました女性を巡る対立だ。この意味で近代エゴイズムは明治時代よりもさらに進展したと言える。結果としては、結婚という形よりもロマンティック・ラブという実が勝利することになるが、肺結核を病んだ青年BとY子の将来は暗いと言わざるを得ない。世間から後ろ指を指されるだろう。裸なる真実の前では三人は等しく殉教者に違いない(p127)。
     この小説の大きなポイントは、三人ともキリスト信者だという点だろう。青年Aが最も信仰歴に浅いが、最も信仰心に厚い。例えば青年Aは「僕は教会を脱するなら、同じ理由で家族の一員たることも、国家の一員たることもやめなければならない」などと発言している。青年Bは教会を脱したが、その理由は人妻に恋を得たからだろう(p55)。Y子にしても同様だ(p123)。Y子は青年Bに恋心を抱くようになって、自分の性欲に変な後ろめたさを抱かなくなったと青年Aに手紙で告白している(!)。何とも青年Aが可哀相になってくるが、Y子の言葉を信じるならば、青年Aはコキュではない(p125)。実際、この小説のテーマからして、青年BとY子は情交には至っていないだろう。青年BとY子は幼少時に共通したトラウマを経験しており、どうもそれが二人を惹き付けたように思える(p63)。その内容は書かれていないが、恐らく性的虐待に近いトラウマで、このことが二人をして恋や性欲に罪悪感を抱かせた元凶だと考えられる。Y子は青年Bによって「覚醒」(p126)した。そして、妻から夫に三行半を突き付けるのだ。この辺りの展開は「こころ」と違って女性に積極性があり、さすが大正時代という感がある。
     何度も言うが、三人共々その将来は暗い。青年Aの生来の公明さはY子だけを摑んで満足することができなかった。青年BとY子はややもすれば死の恐怖と貧困と世間の目から今にも斃れそうだ。青年Aにできることは忍んで待つこと以外にない(p129)。時計のゼンマイが巻かれる日は来るのだろうか。青年Aの清貧な生き方が報われる日が来ることを願う。と共に青年BとY子がどこまでも個人を追求して生きる姿に羨望のまなざしを送る。

    https://ndlsearch.ndl.go.jp/books/R100000002-I000001111274

  • この作品自体は優れたものとは思えないが、有島武郎自身の辿った道を考えると、作品が訴えてくるメッセージが非常に強く感じられる。

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著者プロフィール

1878年、東京生まれ。札幌農学校卒業。アメリカ留学を経て、東北帝国大学農科大学(札幌)で教鞭をとるほか、勤労青少年への教育など社会活動にも取り組む。この時期、雑誌『白樺』同人となり、小説や美術評論などを発表。
大学退職後、東京を拠点に執筆活動に専念。1917年、北海道ニセコを舞台とした小説『カインの末裔』が出世作となる。以降、『生れ出づる悩み』『或る女』などで大正期の文壇において人気作家となる。
1922年、現在のニセコに所有した農場を「相互扶助」の精神に基づき無償解放。1923年、軽井沢で自ら命を絶つ。

「2024年 『一房の葡萄』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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