小さき者へ,生れ出ずる悩み 改版 (岩波文庫 緑 36-6)

  • 岩波書店
3.67
  • (35)
  • (29)
  • (69)
  • (3)
  • (2)
本棚登録 : 410
感想 : 45
本ページはアフィリエイトプログラムによる収益を得ています
  • Amazon.co.jp ・本 (141ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784003103661

作品紹介・あらすじ

「小さき者よ。不幸なそして同時に幸福なお前たちの父と母との祝福を胸にしめて人の世の旅に登れ」-妻の死から一年半足らず、有島武郎(1878‐1923)が一気に書き上げた短篇。一方、芸術か生活か青年の懊悩を描いた中篇は、北海道の自然の絵画的描写と海洋小説の趣でも知られる。傑作二篇。

感想・レビュー・書評

並び替え
表示形式
表示件数
絞り込み
  • 小さき者へ。妻の死後、自らの子らにむけた短編。愛を、父と母の愛を強く描き、力強く生きていけと激励する。何度も読みたい。

  • 表題となっている短編2作を収録。

    ◆小さき者へ
    母親を喪った3人の息子たちへの書簡。
    妻を失った悲嘆と子を思う慈愛が混在する力強さと儚さは、吐露に近い。
    書簡の体裁は取っているものの、彼自身が文章にすることで、
    妻の死、ひいては妻の死を受け止めきれない自分を、形象化しようと試みている。

    ◆生まれ出ずる悩み
    芸術の才を持ちながらも、北海道の貧しい漁夫という宿命との
    狭間で揺れ動く様を描く。

    とにかく文章が圧倒的に美しい。
    文章の発する意味はもとよりも、読むときのスピード、リズム、呼吸
    漢字1文字助詞1文字が暗黙的に表現する風情に至るまで、
    微細にわたって考え抜かれていると感じた。

    これは編集者や読者、物語の世界観などを勘案したレベルではない。
    2作品とも、身を削り、自己との対峙を自らに課した人間の文章。

    久しぶりの「文学」に触れた気がします。

  • 『小さき者へ』と『生まれいずる悩み』の2編。どちらも作者の語りであり、登場人物はみな実在する。『小さき者へ』では亡くなった妻のこと、そして幼くして母をなくした子供たちのことが描かれる。母・父・妻・夫・子供のどの視点に立っていても感情移入しやすく、どのライフステージの人でも関心を持って読み進めることができる。『生まれいずる悩み』は作者の出会った漁師(画家)の生活と葛藤について描かれる。読書中にまるで小説の世界に入り込んでしまった感覚に陥るほどの描写力。風景が広がり、音が聴こえ、においが漂い、そして風を感じる。漁師(画家)の人間性は素晴らしく、力強さと繊細さが心惹かれる。あまりに感動し思わず読了後にすぐ再読してしまった。

  • 小さき者へ これは読んでいて胸がつぶされそうになってくる。自らの子どもたちに宛てたこの手紙は、妻を亡くした著者の魂の叫びである。子の幸せを切願し強く生きろと激励する、読んでいてヒリヒリするような強い想いが封じ込められている。非常に短い文章だが、精神的に充実している時でないと苦しくなってくる。深い深い親の愛。
    生まれ出ずる悩み 画家になることを夢見るが家族と生活のため過酷な労働に明け暮れ閉塞感に苛まれる様子は現代にも通じるものを感じる。先の「小さき者へ」と同じように、この純朴で繊細な男への切なるエールが込められており、自身の見えない未来とそれでもなんとか奮い立たせようとする想いを吐露するような、これまたヒリヒリする感覚。

  • 有島武郎は初めて読みましたが、かなり好きな文体です。1923年に彼が女と心中することを踏まえると、また違った読み方ができる作品ではないでしょうか。『小さき者へ』は彼なりの子供たちへの思いがよく描写されていて、思わず泣いてしまいました。いつか『或る女』なども読んでみたいです。

  • 何度も読んだ作品。
    初めて呼んだのは留学中、1人で暗い部屋で。
    高校生の時に亡くなった祖父のことを思いながら読んだことは忘れられない。

    この本を勧めてくれた方がいて、実際にお会いしたことはないけれど、私の心を間違えなく救った方だ。

  • 妻の死から一年半、有島武郎が一気に書き上げた短編。母を失った子らへ、父からの激励の手記です。「私はお前たちを愛した。そして永遠に愛する」。

  • 息子たちへ向けた手紙という感じだった。

  • 2016.05.01 千年読書会課題図書
    2016.05.08 読書開始
    2016.06.24 読了

  •  理想と現実という二項対立が鮮やかな短篇2篇。人は現実の世界で生きざるを得ず、理想をあくまで非現実のものとして嘲るか、理想をファンタジーとして楽しむか、互いを接近させて落としどころを見付けるか、理想に向けて現実を変えようと努力するか・・・色々対処するものだ。
     著者は、その理想と現実の大きすぎる狭間に真面目過ぎるが故に対処しきれず、隙だらけの自己肯定にも耐えきれず破滅してしまったのかもしれないな、と思った。著者が白樺派の作家だという知識が作ってしまった先入観という可能性もあるけれど。

    <小さき者へ>
     理想を叶えようとしても、それが自分では100%に限りなく近い確率で不可能なこともある。その対処法としてあるのが、次の世代に託すというもの。俺の屍を超えてゆけ!的な。そして自分の不甲斐なさを曝け出したのが本書だろうか。
     母の愛に心打たれる短篇ではあるのだけれど、書き手の懺悔臭さがあるとか、我儘と無理解が罰せられるのはいいとして何で斃れるのが母なんだよとか、結構解せないなと感じることもある。でも、それは文豪だろうとブルジョワだろうと、自分にできることなど大してないのだという戒めと読めなくもない。

    <生れ出ずる悩み>
     画家に憧れつつも貧困で漁夫の仕事に追われてしまい、苦悩する青年。を妄想する語り手(≒著者?)の話。語り手の想像という形式が採られている理由は良く分からないが、自分の生き方を貫こうと決心すべく、その道中の困難を一つのフィクションとして書き出したように感じられる。

全45件中 1 - 10件を表示

著者プロフィール

1878年、東京生まれ。札幌農学校卒業。アメリカ留学を経て、東北帝国大学農科大学(札幌)で教鞭をとるほか、勤労青少年への教育など社会活動にも取り組む。この時期、雑誌『白樺』同人となり、小説や美術評論などを発表。
大学退職後、東京を拠点に執筆活動に専念。1917年、北海道ニセコを舞台とした小説『カインの末裔』が出世作となる。以降、『生れ出づる悩み』『或る女』などで大正期の文壇において人気作家となる。
1922年、現在のニセコに所有した農場を「相互扶助」の精神に基づき無償解放。1923年、軽井沢で自ら命を絶つ。

「2024年 『一房の葡萄』 で使われていた紹介文から引用しています。」

有島武郎の作品

  • 話題の本に出会えて、蔵書管理を手軽にできる!ブクログのアプリ AppStoreからダウンロード GooglePlayで手に入れよう
ツイートする
×