小さき者へ・生れ出ずる悩み (岩波文庫)

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  • Amazon.co.jp ・本 (141ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784003103661

感想・レビュー・書評

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  • 表題となっている短編2作を収録。

    ◆小さき者へ
    母親を喪った3人の息子たちへの書簡。
    妻を失った悲嘆と子を思う慈愛が混在する力強さと儚さは、吐露に近い。
    書簡の体裁は取っているものの、彼自身が文章にすることで、
    妻の死、ひいては妻の死を受け止めきれない自分を、形象化しようと試みている。

    ◆生まれ出ずる悩み
    芸術の才を持ちながらも、北海道の貧しい漁夫という宿命との
    狭間で揺れ動く様を描く。

    とにかく文章が圧倒的に美しい。
    文章の発する意味はもとよりも、読むときのスピード、リズム、呼吸
    漢字1文字助詞1文字が暗黙的に表現する風情に至るまで、
    微細にわたって考え抜かれていると感じた。

    これは編集者や読者、物語の世界観などを勘案したレベルではない。
    2作品とも、身を削り、自己との対峙を自らに課した人間の文章。

    久しぶりの「文学」に触れた気がします。

  •  理想と現実という二項対立が鮮やかな短篇2篇。人は現実の世界で生きざるを得ず、理想をあくまで非現実のものとして嘲るか、理想をファンタジーとして楽しむか、互いを接近させて落としどころを見付けるか、理想に向けて現実を変えようと努力するか・・・色々対処するものだ。
     著者は、その理想と現実の大きすぎる狭間に真面目過ぎるが故に対処しきれず、隙だらけの自己肯定にも耐えきれず破滅してしまったのかもしれないな、と思った。著者が白樺派の作家だという知識が作ってしまった先入観という可能性もあるけれど。

    <小さき者へ>
     理想を叶えようとしても、それが自分では100%に限りなく近い確率で不可能なこともある。その対処法としてあるのが、次の世代に託すというもの。俺の屍を超えてゆけ!的な。そして自分の不甲斐なさを曝け出したのが本書だろうか。
     母の愛に心打たれる短篇ではあるのだけれど、書き手の懺悔臭さがあるとか、我儘と無理解が罰せられるのはいいとして何で斃れるのが母なんだよとか、結構解せないなと感じることもある。でも、それは文豪だろうとブルジョワだろうと、自分にできることなど大してないのだという戒めと読めなくもない。

    <生れ出ずる悩み>
     画家に憧れつつも貧困で漁夫の仕事に追われてしまい、苦悩する青年。を妄想する語り手(≒著者?)の話。語り手の想像という形式が採られている理由は良く分からないが、自分の生き方を貫こうと決心すべく、その道中の困難を一つのフィクションとして書き出したように感じられる。

  • 2018.04.05

  • 中1で面白くなかったこの作品は今、わかる!
    「小さき者へ」だけ読んで有島は暗いと決めつけていたけど、そうじゃなく真摯で誠実な思いで物を描いていたのだなぁと思った。

    メルヴィルの海洋小説を読みかけて、動かない陸への憧憬がピンと来ないところへの「生まれ出ずる悩み」で同じように陸や山への想いが描かれなるほどなぁと思った。

    北海道の民-高い能力を発揮できず生活と言う名のウスノロにやられざる負えない貧しい生活を強いられている者たちへの洞察がスゴイと思う。海難の情景など想像だけでは描けないと思うのに、自然派の作家たちに酷評され、恋愛の果ての自殺に死んでなお否定されたとは悲しい。

    結果的に現在も読まれ、評価が高いのは有島文学の方に私には思われて、皮肉だなぁ、当時の文壇のただの嫉妬かなぁなんて思う。

  • 小さき者へ
    父の子供達への想いを綴った短篇。私は子供がいる身ではないけれど、今まで何度と感じてきた両親からの愛が思い出されて泣きそうになってしまった…。親の死後にこんなの読んだら絶対泣く。

    生まれいずる悩み
    芸術に傾く心と現実生活の狭間で思い悩む青年の物語。
    家族を思う心優しさがあるからこその苦しみなのだと思う。
    彼の芸術の才を見いだしながらも全面的に彼に芸術の道を進むことを勧めることができないという苦悩することは、欲望と現実の限界を見るようだった。

  • 16/03

  • とてもとても美しい文章。大正時代のものとは思えない。力強く、人間愛に基づき確固たる呼びかけをする内容と、ほんとうに、美しく流れるようにしなやかで、でも女の人っぽいのとは違う、端正でしゃんとした文章。

  • 【要約・感想】
    「小さき者へ」
    母を亡くした子らに向けて、慈愛に満ちた言葉を書き遺す父。
    作家である前に父であり、父である前に人間であった有島武郎の率直な想いが綴られている。


    「生まれいずる悩み」
    生きて呼吸している地球から絶えず生まれ出ようとするもの、それを一つの作品たらしめるのは芸術家のほかにない。
    しかし、生活苦より漁師として暮らす以外に途がない「君」は、芸術への未練を断ちがたく、さりとて家族を遺棄するに忍びない煩悶の日々を送る。
    北海道・岩内の画家、木田金次郎をモデルにして書かれた本作は、漁師の厳しい生活、その生活から自らの進みたい方向へ一歩も進まれない苦悩、家族とのささやかな幸せ、その幸せに忍び寄る底の知れない不安などを描いている。
    理想と現実とにすり潰され、日常に埋没するような虚無を味わったことがあれば、共感するところが大きい小説である。

  • うーん。小さき者へ、はなんかよかった。

    生まれ出ずる悩みは…
    自分に被るところもあり、途中まで共感を得ましたが、

    最後のほうは、「ん?妄想?」みたいに思えてしまうような書き方で、少し入り込みづらかった。

    あと、わたしは、引き裂かれそうな苦悩を、
    自殺という形で解決させる心持が好きではないので、
    どんなに凄惨な苦悩であれ、なんらかの「生きる」という選択の上で成り立つ生き方を、提示してほしいと、図々しく思ってしまったり。

    ただ、「春は来る」というあのエールには、勇気づけられました。

  • 人生初の有島武郎作品。小説ではなく他者に宛てた手紙のような文章は、まるで自分ただ一人に対して語られているかのように感じられた。

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