- Amazon.co.jp ・本 (141ページ)
- / ISBN・EAN: 9784003103661
感想・レビュー・書評
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『小さき者へ』と『生まれいずる悩み』の2編。どちらも作者の語りであり、登場人物はみな実在する。『小さき者へ』では亡くなった妻のこと、そして幼くして母をなくした子供たちのことが描かれる。母・父・妻・夫・子供のどの視点に立っていても感情移入しやすく、どのライフステージの人でも関心を持って読み進めることができる。『生まれいずる悩み』は作者の出会った漁師(画家)の生活と葛藤について描かれる。読書中にまるで小説の世界に入り込んでしまった感覚に陥るほどの描写力。風景が広がり、音が聴こえ、においが漂い、そして風を感じる。漁師(画家)の人間性は素晴らしく、力強さと繊細さが心惹かれる。あまりに感動し思わず読了後にすぐ再読してしまった。
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有島武郎は初めて読みましたが、かなり好きな文体です。1923年に彼が女と心中することを踏まえると、また違った読み方ができる作品ではないでしょうか。『小さき者へ』は彼なりの子供たちへの思いがよく描写されていて、思わず泣いてしまいました。いつか『或る女』なども読んでみたいです。
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妻の死から一年半、有島武郎が一気に書き上げた短編。母を失った子らへ、父からの激励の手記です。「私はお前たちを愛した。そして永遠に愛する」。
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中1で面白くなかったこの作品は今、わかる!
「小さき者へ」だけ読んで有島は暗いと決めつけていたけど、そうじゃなく真摯で誠実な思いで物を描いていたのだなぁと思った。
メルヴィルの海洋小説を読みかけて、動かない陸への憧憬がピンと来ないところへの「生まれ出ずる悩み」で同じように陸や山への想いが描かれなるほどなぁと思った。
北海道の民-高い能力を発揮できず生活と言う名のウスノロにやられざる負えない貧しい生活を強いられている者たちへの洞察がスゴイと思う。海難の情景など想像だけでは描けないと思うのに、自然派の作家たちに酷評され、恋愛の果ての自殺に死んでなお否定されたとは悲しい。
結果的に現在も読まれ、評価が高いのは有島文学の方に私には思われて、皮肉だなぁ、当時の文壇のただの嫉妬かなぁなんて思う。 -
久々に、もしかしたら初めて夏目漱石の文章に接したとき以来の、文章の上手さを見せつけられたように思う。
これ程の作家を今まで知らずにきたことが悔やまれるほど。
作品の素晴らしさほどは、評価が高くないように思うのは私だけだろうか。
気品に溢れた、密度の濃い、圧倒的な文章力。その言葉で語られる内容は力強く、鋭く、優しい。
(2012.1) -
こんな素直できらきらした文章が書けたら!
祈りのような、賛歌のような。世界は明るい。 -
我が子を「不幸な者たち」としながらも、人を強く生かす言葉。
親の、子への教育。伝えられること。
○私は自分の弱さに力を感じ始めた。…言葉を換えていえば、私は鋭敏に自分の魯鈍を見ぬき、大胆に自分の小心を認め、労役して自分の無能力を体験した。私はこの力をもっておのれを鞭うち他を生きる事ができるように思う。(18頁)
○いずれの場合にしろ、お前たちの助けなければならないものは私ではない。(19頁)
○私の一生がいかに失敗であろうとも、…お前たちは私の足跡に不純な何ものをも見いだし得ないだけの事はする。きっとする。(20頁) -
『小さき者へ』の最後の部分がお気に入り。
次に何を残せるか。 -
ついに武郎デビュー(?)の一冊。「小さき者へ」は父親から息子たちへの手紙。「生まれ出づる悩み」は友人との手紙をもとに描かれた「生きるとは」的純文学。どちらも人生の針路に迷う学生時代に読むといいと思う。親の無償の愛や自分らしい生き方って若者が共通して見つめ直す課題だと思うし。とにかく私には励ましになりました。また有島読みたいなー