寺田寅彦随筆集 1 (岩波文庫 緑 37-1)

著者 :
制作 : 小宮 豊隆 
  • 岩波書店
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感想 : 45
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  • Amazon.co.jp ・本 (306ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784003103715

感想・レビュー・書評

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  • ほんっとに、ほんっとに、いろんな人におすすめしたい作品です!!!!!111
    特に、理系で文学好きの諸君のために。理系のメガネで文学世界をのぞいてみましょう★

    作者・寺田寅彦は、戦前の日本の物理学者、随筆家、俳人であり、かの夏目漱石先生の門下生でもあります。つまり、寺田寅彦は、趣味:文系 / 仕事:理系、文理両道の作家です。

    そういった背景を持つ寺田虎彦の、この随筆集の他作品と一線を画する要素とは…“理系人の視点からなる『世界』を理学的に、また文学的に分析している”ところです。これに尽きると思う。

    まぁ、しのごの言わずに読んでみてください。理系人ならとても共感できるところが多くあると思います。
    寅彦先生は、科学と文学(芸術)を“対をなすもの”としてではなく、“似て非なるもの”あるいは“同じ要素を持つもの”としてとらえ、2世界を融合しようとした作家なのです。それは本書中の『科学者と芸術家』や『物理学と感覚』などからも読み取れます。

  • 『寺田寅彦随筆集 第一巻』(小宮豊隆編,岩波文庫 1947年2月第1刷,1963年10月第28刷改版,2016年2月第104刷)を読んだ感想。
    寺田寅彦がどのような人かよく知らずに読み始めた。我ながらよくまあいきなり5冊セットで買ったものだと思わなくもない。切っ掛けとなったのは『日本近代随筆選』(岩波文庫)で寺田寅彦の『子猫』を読んだことだった。その本には猫随筆が並んでいる部立てがあるが、寺田のものが最も強く私を打った(『子猫』は寺田寅彦随筆集では第二巻に収録されているのでいづれ再読したい)。寺田の随筆全般について言えると思うが、冷静な観察に基づき、この人ならではと思わせる独特の視点で現実に当たり秩序を築いていく認識の行き方が面白く、抑制された詩情、時にあまり見え過ぎる者の悲哀なども感じられ、読んでいて興味が尽きない。
    第一巻で最も印象に残ったのは『春寒』だった。床の中でスカンジナヴィアの物語"Heimskringla"の英訳版を読んでいたとき、長女のピアノの練習が聞こえていた、ということが書かれてある。英訳版について「いろいろな対話が簡潔な含蓄ある筆で写されていたり」と寺田は書いているが、寺田が日本語で再話する部分がまさに簡潔な・含蓄ある文で、この様な翻訳があったら読んでみたいと思うたりした。
    以下に一部引用する。

     オラーフ・トリーグヴェスソンが武運つたなく最後を遂げる船戦の条は、なんとなく屋島や壇の浦の戦に似通っていた。王の御座船「長蛇《ちょうだ》」のまわりには敵の小船が蝗のごとく群がって、投げ槍や矢が飛びちがい、青い刃がひらめいた。盾に鳴る鋼の音は叫喊の声に和して、傷ついた人は底知れぬ海に落ちて行った。……王の射手エーナール・タンバルスケルヴェはエリック伯をねらって矢を送ると、伯の頭上をかすめて舵柄にぐざと立つ。伯はかたわらのフィンを呼んで「あの帆柱のそばの背の高いやつを射よ」と命ずる。フィンの射た矢は、まさに放たんとするエーナールの弓のただ中にあたって弓は両断する。オラーフが「すさまじい音をして折れ落ちたのは何か」と聞くと、エーナールが「王様、あなたの手からノルウェーが」と答えた。王が代わりに自分の弓を与えたのを引き絞ってみて「弱い弱い、大王の弓にはあまり弱い」と言って弓を投げ捨て、剣と盾とを取って勇ましく戦った。――私は那須与一や義経の弓の話を思い出したりした。

    その他で好ましかったものを思いつくままに挙げる。
    『旅日記から』と『先生への通信』は海外旅行記であるが、個人的な記録であると同時に時代の記録でもあり面白い。旅行にしても目の付け所は寺田らしいところがあり飽きない。
    『丸善と三越』の中のエスカレーターからの連想の部分で「~一度入学さえすればとにかく無事にせり上がって行くのが通例である」と、(エスカレーター式)という言葉こそ出てこないものの殆ど同じ意味の事が述べられているのが興味深い。
    しまいまで読んでから巻頭の『どんぐり』を再読した。年譜を見てから読むと実に分かりやすく、良くも悪くも日本的情緒の風土とおそろしく相性が好いと感じられる。解説に「寅彦の書くものの中の、峻厳な批評的精神が、科学的精神がとかく見落とされ勝ち」「寅彦の書くものは、いわば筋金の通った柔らかな手といった感じを持っている」が「寅彦の真骨頂はむしろその筋金にある」と強調されている理由も解る気がする。
    言い忘れましたが、寺田寅彦(1878-1935)の作品はパブリックドメインになっているのでWebで見つければ読めますよ。興味を持った方は是非実際に読んでみて下さい。

  • 寺田寅彦さんの作品の中で1番好きなエッセイは「どんぐり」です。不治の病を患っている奥さんとの最後の思い出を淡々と書いている、情緒的で切ない感じの話です。押しつけがましくないのに伝わってくるところがあります。

    【紙の本】金城学院大学図書館の検索はこちら↓
    https://opc.kinjo-u.ac.jp/

  • いろいろなことを考えるヒントになった。
    物理学者であり俳人であることの源が自然の観察への誠実さにある。感性で注目したものを淡々と語る文体は心地よい。ところどころ、「なぜならば」がないのが気になるけれど、それも余韻になって想像や考察を駆り立てる。

  • 小宮豊隆編。小宮豊隆って夏目漱石を崇拝してた研究者だよね?まぁそれはいいとして、寺田寅彦の随筆は自然についてのものが多い。でも田舎の壮大な大自然じゃなくて都内で触れられる手の届く範囲の自然。入院している時に見舞いにもらった花について、庭の芝、蓑虫。小さいころよく想像してた虫の視点を思い出す。自分が飛蝗だったらこの雑草もものすごく大きな建造物に見えるんじゃないかとか、生理は地球に寄り添っていてもきっと光源の概念がわからないからすごく狭く唐突な世界であたふたしてるうちに死んじゃうんだろうなとか。最近串田孫一の『山のパンセ』を読んだけど、あちらは雪山などの厳しい大自然を愛した人、寺田寅彦は身近な自然を愛した人。私はもともと自然に対しては恐怖心のほうが強いから寺田寅彦の文章のほうが読んでいて情景を想像しやすい。

  • 寺田寅彦のエッセイは珠玉という言葉がぴったりだ。特に、何気ない日常の風景を扱ったものには目を見張る。淡々とした描写のなかに、科学者の透徹した目と、情感豊かな感性の美しい溶け合いがある。この人の静かな視線は、少しクリシュナムルティに似ているような気さえする。けれど、クリシュナムルティの日記には俗人の視点からはかけ離れてしまった人の淋しさがある(あくまで凡俗人の僕が読んだ時に、である。氏自身への理解としてはあまりの矮小化に怒られてしまう)のに対し、寺田氏の描写にはあくまで俗世の温かさを基調としたごくごく普通の安らぎがあり、できるならこの人の心身のあり方を真似たいものだと、つくづく思わされたのである。

    この中のいくつかは、折に触れて読み返そうと思う。

  • 科学者であり芸術家でもある寺田寅彦の随筆集。
    著者のものの見方、考え方、感じ方が何ともいえず鋭くて素敵。
    身の回りの風景や心象の美しさを見事に切り取ってコレクションしたような作品群である。
    科学的視点と文学的視点が決してぶつかり合わず、むしろ調和しているのが凄いところだ。
    理系でなおかつ文学好きの私にはとても共感できた。
    大事に本棚に並べておいて、ふと思い出したときに読みたくなる。そんな本。


    ・・・ちなみに寺田寅彦といえば夏目漱石の作中人物のモデルとしても馴染み深い。
    「吾輩は猫である」の寒月くんに、「三四郎」の野々宮さん。(ちなみにどちらもその作品中で私の一番好きな登場人物だったり)
    彼らの人物像と本書の内容を引き比べてみると、なんだか妙に納得。

  • 「どんぐり」はこれまで何度も読みました。読むたびに「ああいいなあ」と思ってしまいます。結婚した頃の奥さんは、とても若かったそうですが、子供っぽさもあり大人っぽさもあり。そんなことも知って読むと、また味わい深いものがあり、ますます好きな随筆になりました。

  •  本書を通読したのは2回目。一度目に引いた赤線がなかなか面白い。
     こうして時間を経て同じ本を読んでみると,自分の興味のありどころの変化(わたしはこれを「琴線の在処」と呼んでいる)が分かって,本の内容も2度楽しめると思う。
     今回は,編集者小宮豊隆の「後語」から,強く同意した文章を引用してみる。

     寅彦の世界は二つのものの美しい調和から成り立ち,寅彦の書くものはすべてその源から流れ出ていないものはないが,しかし情味のほうにむしろ選択の標準を置いていた当初の編集は,改めてその方針を科学的精神に重きを置く事によって補足され平衡が保たれ,人々の心に潤いを与えるとともに人々の頭に条理を与えるものとならなければならない。(本書,302ぺ)

     当初(戦前),だいたい3巻で発行される予定だった岩波版の寺田寅彦随筆集が,戦後発刊されたときに全5巻になったのは,選者である小宮がこれからの日本には「科学的精神に重きを置」かなければならないと考え,さらにそういうタイプのエッセイを選んだからなのです。
     寅彦の随筆は,本当におもしろいです。科学が好きな人と文学が好きな人の橋渡しをしてくれます。
     2度目の読書で,1回目以上に,「そうだよなあ」と思ったものを挙げてみます。

    ・竜舌蘭…わたしがこの植物を実際に見たのは長崎のグラバー邸の傍でした。最初読んだときは,どんな植物なのかも知らなかったので,さらりと読んだ1編でした。
    ・科学者と芸術家…共通点に触れているのがほんとに新鮮です。以前から美術鑑賞も好きなので,そのままでいいよ…とほめてくれているようです。
    ・自画像…この話,あまり覚えていませんでしたが,今読むと,なかなかですね。油絵で自画像を描きながら,「似ている」ってどんなこと?などと考えるところが面白いです。星座の話とつながるとき,寅彦らしさが発揮されています。
    ・芝刈り…芝刈り一つでこれだけかけるのが不思議。さすがです。
    ・案内者…これ,すでに赤線が引かれていた1編です。なんども旅に出たり,何度も新しい学問の世界に出会ったりしてきた,今,以前に増して,「効果的な案内者」の大切さを感じます。

  • 明治から昭和前期に活躍した物理学者寺田寅彦の随筆集。一巻は明治から大正頃まで。科学者としての関心と芸術方面をはじめ感覚や感情を言葉にすることのバランスが良い。昨今ビジネス界隈で適当に語られがちなアート&サイエンスの精神の体現者とはかくあるものかと。

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著者プロフィール

1878–1935
東京に生まれ、高知県にて育つ。
東京帝国大学物理学科卒業。同大学教授を務め、理化学研究所の研究員としても活躍する。
「どんぐり」に登場する夏子と1897年に結婚。
物理学の研究者でありながら、随筆や俳句に秀でた文学者でもあり、「枯れ菊の影」「ラジオ雑感」など多くの名筆を残している。

「2021年 『どんぐり』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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