柿の種 (岩波文庫 緑 37-7)

著者 :
  • 岩波書店
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  • Amazon.co.jp ・本 (304ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784003103777

作品紹介・あらすじ

日常の中の不思議を研究した物理学者で随筆の名手としても知られる寺田寅彦の短文集。「なるべく心の忙しくない、ゆっくりした余裕のある時に、一節ずつ間をおいて読んでもらいたい」という願いのこめられた、味わいの深い一七六篇。

感想・レビュー・書評

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  • 2021年7月初旬の新聞記事によると、上皇ご夫妻はこのところ朝の習慣として、この短文を音読されているのだという。美智子さまの選書なのかな?と想像すると仲睦まじいお2人が目に浮かんでくる。
    寺田寅彦氏の日記のような散文、デパートの食堂で隣り合った親子のやりとり、関東大震災の後の風景、観劇の余韻…観察の目が鋭くて、なかなか味わい深かった。

  • 物理学者にして文学者、さらには音楽家だったという寺田寅彦のマルチな才能を垣間見ることができた。
    自然現象や、動物の生態、人の行動特性とか、身の回りで生じていることへの観察眼が多角的で冴えている。
    師匠の夏目漱石同様、猫が好きだったみたいで、可愛らしい側面も垣間見える。
    晩年は、日々病に蝕まれるなかで、人間の身体について淡々と描き続けていた様子が分かった。
    当時は、自由に海外旅行へ行ったり、インターネットで情報収集したりできない時代だったが、寺田氏は視野が広くて自由な発想を持ち、時には婉曲的に、ソフトに社会を批判していたのだろう。
    他の随筆集も読んでみたい。

  • 科学者・寺田寅彦の随筆集。
    身近な出来事や発見を綴った文章は、2行のものから長いものでも3ページくらいで、気軽に読めました。
    特に猫についての発見を書いたものが微笑ましくて好きです。

    寺田寅彦の物理学者としての視線も芸術家としての視線も味わえます。
    日常の中にもまだまだ不思議があふれている。
    その不思議を1つ1つ発掘していく科学の原点を見せてくれました。
    科学は決して特別なものではなく、誰にとっても身近なものであることに改めて気付かされました。

    面白くてついついページをめくる手が止まりませんでした。
    自序には「この書の読者への著者の願いは、なるべく心の忙しくない、ゆっくりとした余裕のある時に、一節ずつ間をおいて読んでもらいたいという事である」…と書かれていましたが、残念ながら今回の私の読書は寺田寅彦の願いに合った読み方ではなかったですね…。
    次回は1日1篇ずつ噛みしめつつ読もう。

    • kwosaさん
      すずめさん

      本棚に花丸(これいいね! になった今でもついつい言ってしまいます)ありがとうございます。
      僕もこれ、いま読んでいます。
      ...
      すずめさん

      本棚に花丸(これいいね! になった今でもついつい言ってしまいます)ありがとうございます。
      僕もこれ、いま読んでいます。
      岩波文庫フェアのブックカバー欲しさに、坂口安吾、ボルへスとあわせて買ったのですが、なかなか読み進まずちびちびと読んでいます。
      一気に読むのがもったいなくて、いいウイスキーを舐めるようにゆっくりと。

      理系の脳みそを持っていて文才がある人の文章は面白いですよね。
      日常の些細なことにも、違った見方が提示されていて、はっとさせられます。
      いかに自分が日々を何となく過ごしているのかにも気づかされ、少々気落ちしたりもして。
      2014/09/08
    • すずめさん
      kwosaさん、コメントありがとうございます!

      >一気に読むのがもったいなくて、いいウイスキーを舐めるようにゆっくりと。

      まさに...
      kwosaさん、コメントありがとうございます!

      >一気に読むのがもったいなくて、いいウイスキーを舐めるようにゆっくりと。

      まさに寺田寅彦が望んだような読み方だと思います(^^)

      個人的に歌人と科学者の目から見える世界に憧れを感じます。
      寺田寅彦は両方の目を兼ね備えた人だったので、余計に憧れます。

      普段の生活にたくさんの気付きや発見があることを思い出させてくれた随筆集でした。
      うれしくなったり、驚いたり…小さな発見がもたらしてくれる心の動きを大切に日々を重ねていけたらいいな、と思っています。
      2014/09/08
  • 古本で購入。

    「天災は忘れた頃にやってくる」
    と言った(と言われている)物理学者、寺田寅彦の短いエッセイを集めた本。
    「なるべく心の忙しくない、ゆっくりした余裕のある時に、一節ずつ間をおいて読んでもらいたい」
    という著者の願いを無下にした一読者ではあるけれども、夜ごと数編を読んで眠りにつけば、きっとゆったりした心持ちになれるだろう。

    寺田寅彦の「気付き」の鋭さおもしろさに唸らされる。
    いっこうに花の咲かないコスモスに、ある日アリが数匹いた。よく見ると蕾らしいのが少し見える。コスモスの高さはアリの身長の数百倍、人間にとっての数千尺にあたる。そんな高さにある小さな蕾を、アリはどうして嗅ぎつけるのだろう―
    言われてみれば何てことのないような、だけど誰も気にもとめないようなことに、「あぁ、確かに」と思わされてしまう。

    また、俳人でもある彼の目を通して見る東京の日常は、詩情豊かで味がある。
    永代橋のたもとに電車の監督と思しき四十恰好の男がいて、右手に持った板片を振って電車に合図している。左手は1匹のカニを大事そうにつまんでいる。そうして何となくにこやかな顔をしている。この男には6つ7つの男の子がいそうな気がした。その家はそう遠くない所にありそうな気がした―
    読んでいて知らず微笑んでしまうようでいて、どこかせつない感じのエピソードがいくつもある。

    日々の生活に、そうした光景はきっといくつも通り過ぎていくのかもしれない。
    僕の生には詩が足りない。

  • 物理学者・兼・随筆家として知られる寺田寅彦の、大正末期~昭和初期にかけての随筆集。震災後再び注目を集めているとのことで読んでみた。ガラスのひびの観察の話などがあり、この時代に複雑系科学を先取りしていたことが伺える。小学校の教科書に震災のメカニズムや備えを盛り込むべきだという説には、ただただ納得。

  • 物理学者とは思えない情緒豊かな作者の100年前の日常。随筆というのか散文というのか、短い文章の中に当時の思索や出来ごとが簡潔に描かれていて、そこに去来する感情に共感するところが多く、とても身近に感じた。
    大正から昭和の始めにかけての「今」がここにある。

  • 短文の随筆がまとめられた本。
    数行〜2ページ程の短文たちは、まるでSNSの呟きを読んでいるような心地になる。
    寺田氏の視点から紡がれる日常や自然は独特で新鮮でもあり、それと同時に現代の私から見ても共感する部分があった。
    街をぶらぶら歩きながら、ぼんやりと考え事をしたくなるような本だった。

  • 物理学者である寺田寅彦の随筆集。短いものは1ページちょい、長い者でも10ページに満たない様々な文章が収められており、どれを読んでも楽しめます。
    物理学者であるにも関わらず、文学者のような視点も備えた著者が見た大正と昭和の時代の移り変わり、そして関東大震災後の復興の様子もここから読み取れます。

    体の弱かったらしい著者の、「泥坊のできる泥坊の健康がうらやましく、大臣になって刑務所へはいるほどの勢力がうらやましく、富豪になって首を釣るほどの活力がうらやましい。」という文章には、シニカルで滋味深い著者の力量が感じられます。折りを見てゆっくりと読み返したい本です。

  • のんびりまったり、お茶でも飲みながら読みたい一冊。
    科学者の詩情、風流心、そして諧謔が楽しめる。

    寺田寅彦を最初に読んだときは、「科学者なのに」こんなに文学的な作品が書けるのかと感心したものだけれど、考えてみれば科学と文学って別に対立するものでもないな。この人の場合、むしろ「科学者だからこそ」の視点がよりいっそう文章に趣きを加えているように感じられる。

  • 大正とか昭和の頃の話なんだけど、現代と変わらんなぁ。とてもしっくりくる

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著者プロフィール

1878–1935
東京に生まれ、高知県にて育つ。
東京帝国大学物理学科卒業。同大学教授を務め、理化学研究所の研究員としても活躍する。
「どんぐり」に登場する夏子と1897年に結婚。
物理学の研究者でありながら、随筆や俳句に秀でた文学者でもあり、「枯れ菊の影」「ラジオ雑感」など多くの名筆を残している。

「2021年 『どんぐり』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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