腕くらべ 新版 (岩波文庫)

  • 岩波書店 (1987年2月16日発売)
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Amazon.co.jp ・本 (224ページ) / ISBN・EAN: 9784003104125

みんなの感想まとめ

遊女を題材にした花柳小説は、時代の移り変わりを背景に、登場人物たちの人間模様を繊細に描き出しています。美しい情景が浮かぶ一方で、遊女たちのはかなさや侘しさが心に残ります。著者の文章は端正で知的であり、...

感想・レビュー・書評

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  • 芸者(遊女)を題材にした花柳小説。
    あまり好きなジャンルじゃないので、気にはなってたが、長いこと読まなかった作品(作家)。

    あまり、どういう作家か知らないので、悲しい結末だったらどうしようとヒヤヒヤした。

    文章は端正で知的で良い。
    結末も、人情噺みたいで、悪くはない。
    ただ、やっぱり、遊女という身のはかなさが、読んでいて悲しい。侘しい。

  • この作品は正直、現代人には解説を読まないと理解できないと思う。人情や粋を大事にする江戸文化と、金銭を最優先にする現金な資本主義時代の対比がそこにはあるそうで、主人公の駒代はその時代の狭間で揺れ動き、結局新時代の人間にはなりきれず、新時代派の新しい芸者に敗れてしまうが、それがまさに江戸文化と資本主義時代との橋渡しになっていて、且つその駒代が敗れることが新時代への批判になっているらしい。
    駒代と争って勝つ側の芸者には、粋も人情も関係なくただ身体を売ることにしか興味のない菊千代がいて、この人は駒代にふられた吉岡とのちに一緒になるが、吉岡も花柳界通を自負しながらも実は人情にも粋にも通じていない俗人。駒代が吉岡を捨てて惚れ込んだ瀬川もやはり人情には通じていない人間で、持参金つきの芸者・君龍と一緒になり、駒代のプライドを傷つけるが、この君龍をかわいがり、駒代を疎んじた瀬川の母が京都人という設定で、計算高い人物として描かれている。
    フランスから帰朝した作者は江戸文学に浸ったそうで、新しい日本が資本主義を旗印に古きよきものを価値のないもののように捨て去っていくのをみて憤ったというか、悲しんだというか、とにかくに馴染めなかったらしい。それで、廃れゆく運命にあると悟ったその江戸文化を文章にとどめ、ようと思ったかどうかは知らんが、とにかくにそれと新時代を対比して、守銭奴の幅を利かす資本主義時代を批判するために本作を書いたらしい。『ふらんす物語』ですでに当時の政府を批判する内容を書いて発禁となり、本作でもこりずに政府の方針と社会の変貌を批判する永井おじさんの儚い抵抗に心打たれる。
    心打たれるとかいいつつも、解説よむまでは退屈でしかなかった。吉岡も瀬川も菊千代もそのほか色々とでてくる人物もなぜか粒ぞろいに小憎たらしいやつばかりで、駒代は駒代で器量よしの負けん気がつよい人物ながらどこか頼りなく情けないところが多い。結局はそれが永井おじさんの狙いだったわけだが、知らずに、というか気づけずに読んでいたので、安っぽい筋書きとしか思えなかった。
    p.138に「南巣は紅葉眉山ら硯友社の一派にもさしたる関係なく、……新文学も知らず、逍遙不倒ら前期の早稲田派とも全く交遊する機会なく、……」なんて書かれているのは自分自身を言ったのではなかろうか。何にしても、新時代と旧時代の対立を描くことが主眼なので、物語として読んでワクワク、ドキドキするような代物ではそもそもなかったのだと解説読んではじめて気づいた。
    伊藤整が、小説を読むことは時代を知ること、みたいなことを書いていたが、筋を辿ってドキドキしようとしていた、それも明治・大正の文学にそれを期待していた自分が浅はかだったと気づき、反省させられた。

  • 今はなき時代の情景が美しく浮かぶ。
    それでもその中では時が流れている。新しいものと古いもの、新時代にのって行く者ととどまる者。
    様々なキャラクターが出てくる。自分は呉山老人

  • 図書館で借りた。
    永井荷風の小説。岩波文庫としては緑色で”現代文学”だが、既に100年以上前の作品だ。
    「君はウイスキイだったね」「いや、ビイルにする。おい、ボオイさん…」この語感だけでも頭の中に浮かぶ色合いが変わってくる。
    花柳界を舞台とした人間模様が描かれ、近代日本の”どらま”を楽しめる作品だ。
    朝の通勤電車で読むには濃い内容だったが(笑)、個人的には苦手な小説モノの中でも読み込めたと思う。

  •  1917(大正6)年、荷風38歳。中期の傑作とされる小説。
     西洋近代小説的な結構を持ち、ゾラやモーパッサンの影響が窺え、特に荷風自身が翻訳したこともあるゾラの『ナナ』を連想させる。ナナに該当する新橋の芸者駒代を軸に、徐々に多くの登場人物があらわれて、さまざまな人間関係の変遷を経て主人公が不幸に陥っていく。が、ゾラほど激烈な破滅に進むのではない。
     驚いたことに、本作には濃厚なセックスシーンが描写されており、江戸の春本みたいになる箇所がある。これは大正時代の青年たちを刺激したことだろう。
     文体は明解だが、ときどき江戸時代の読み物の文体に近くなるのが面白い。句読点などで区切らない名詞の並列が、どこで区切れるのかと瞬間的に考えさせられる。
     最初の方で、駒代が吉岡なる男に身請けを誘われて何となくその気になれず返事をしないが、離れるでもなくこの関係を維持しつつ、役者をやっている瀬川を突然誘惑し、こちらに惚れ込んでいく成り行きを読むと、この女性の浮気っぽさに男としてはちょっと気に入らないところではある。しかし、そのように不安定なところがありしばしば打算に揺れるものの、総じて駒代は魅力的に描かれている。裏切られた吉岡や、かつて駒代に吉岡を奪われた別の芸妓などが、復讐を図り結局駒代は情人瀬川にも捨てられて没落する。
     浮薄だったり金権主義的だったり打算的だったりする俗物たちを多く描いており風刺的な小説だ。それでいて、随所が味わい深い文学性が見られ、美しさに溢れた作品である。さまざまな要素で立体的に構成された奥深さを持つし、この時代の東京の芸妓のシステムもよく分かって興味深かった。良い本を読んだ。

  • 登場人物は多いけど、ストーリー自体は’’嬢王’’みたいで100年経っても面白いのはさすが永井荷風。主人公は腕くらべに1度のみならず2度負けるんですけど、勝利の理由がほんの些細なことである意味切ない
     当時はエロ小説だったのですが(発禁処分くらってます)、その部分を取り除いても、売れっ子だったことは文章力が半端ない一流作家であったためということはわかります。

  • 失われゆくものへの愛惜。

  • 4003104129 244p 2007・7・5 13刷

  • 「小夜時雨」の章が白眉。

  • 2012/11/29
    大正7年の私家版を国会図書館のサイトからダウンロードして読了。この後、岩波文庫新版(完全版)を読む。当局に憚って私家版では掲載を割愛した描写その他の異同について読み比べしてみるつもり。

    2014/3/19
    岩波文庫新版を読了。閨房描写の異同に興味を惹かれて読み始めたが、そこはむしろ些細なもので、絶妙かつ繊細なバランスの研ぎ澄まされ方にディレクターズカット(ノーカット?)ならではの深みがあった。ハイレベルな大人の小説。

  • 季節の移り変わりの風景描写や、芸者の衣服の描写がとても美しかった。登場人物にはそれぞれに自分の意思があり、人間味があった。

  • 荷風ファンなのに、これをどうして今まで読んでいなかったのかという感じ。風俗描写と文明批評と季節感と閨房描写(ポルノ)がほどよくミックスされた傑作。
    閨房描写はかなり露骨なので、これは普通に発禁になるんじゃないか? と思ったけど、解説によれば、この岩波文庫版は、戦後に公表された私家版が底本になってるんですね。戦前にこれはさすがに捕まるでしょう。というか、戦後でも猥褻文書に指定されても不思議ないような・・・。
    また荷風が忌み嫌っていた当時の俗物たちをこれでもかと登場させるのは、「おかめ笹」とも共通します。
    「腕くらべ」がそういった好色小説・滑稽小説にとどまらないのは、「ボク東綺譚」同様、季節の移り変わりを美しくはかなく描写する荷風の筆の見事さにあります。これが書けるのはやはり荷風だけだなあと感心するばかりです。

  • 浮世絵のような様式美の中に、作者の冷めた視線がチクリチクリ。

    単純に、大正期の新橋芸者の生活をのぞけるのも楽しい。

  • 意外な結末だったが、ちょっと救われた感じ。これから才覚を発揮してがんがん活躍してほしいと思った。

  • (再読3回目)

  • 9/2
    新しい文化に対応できないものを愛でる作者。

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著者プロフィール

(ながい・かふう)1879-1959
東京市の現・文京区小石川生まれ。官僚のち実業家の父・久一郎の長男で、早くから江戸・東京の落語、歌舞伎、戯作などに親しむ。文学を志し、広津柳浪に師事して作家活動を始めるが、父の意向で実業を学ぶため1903年からアメリカ、フランスに渡る。帰国後その体験をもとに『あめりか物語』『ふらんす物語』を上梓、注目を集める。実業家となることなく、1910年慶應義塾大学の教授に就任、「三田文学」を創刊。1916年に大学を辞してからは、『濹東綺譚』をはじめとする作品のみならず、実生活も江戸戯作者のごときであった。そのさまは1917年以降の日記『断腸亭日乗』に詳しい。

「2024年 『小説集 蔦屋重三郎の時代』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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